ヒトがいない
「あはははははは!」
赤と青の光が薄れるなり、アファルの頂にオトの笑い声が響いた。
「なにあれ! 演技へたすぎ!」
「誰のせいだと思っているのです」
ヴァルガスが露骨に眉間へ皺を寄せる。
「『我こそは、この地を護りし龍――』だって!」
「やめていただけますかな」
「しかも最後まで言えてないし!」
「あれを作ったのはあなたでしょう!」
言い返されても、オトの笑いは止まらない。
「だって、弱かったら英雄になれないじゃん」
「限度というものがあります! こちらは本当に死ぬかと思ったのですよ」
「でも本気で戦ったから、ぜんぜんバレなかったでしょ?」
「それを成功扱いするのはどうなのです」
「ちゃんと英雄にもなれたし。大成功じゃん!」
「結果論でしょう、それは」
二人のやり取りを聞いていた龍たちの間にも、ざわめきが広がっていく。
「……あれが英雄龍誕生の瞬間か」
「初めて見たぞ」
「ヴァルガス様、昔はあんな感じだったのか……」
「名乗りも途中で潰されていたな」
「聞こえておりますぞ」
ヴァルガスが低い声を落とすと、龍たちは一斉に口を閉ざした。
それがおかしくて、オトがまた笑う。
けれど、その隣でナナだけは笑っていなかった。
猫の足跡に手を添えたまま、何かを確かめるように静かに目を伏せている。
「ナナ?」
ようやくオトが気づく。
返事はない。
先ほど一つ目の約束を見届けたときとは違う。あのときのナナは、千年を越えて仲間たちの暮らしが続いていることを嬉しそうに眺めていた。
今はただ、アファルが見せた景色をもう一度辿っている。
最初の塔の完成を祝っていた者たち。
畑を耕す者。川へ網を投げる者。アヴァロンから逃げ惑った者。そして、ヴァルガスへ歓声を送った者たち。
角がある。
獣の耳がある。
鱗を持つ者もいる。
龍がいて、魔人がいる。
そこまで確かめたところで、ナナはゆっくりと目を開いた。
「……さっきから、ヒトが見えませんね」
オトの笑い声が止まった。
三人の視線の先には、巨大な魔法都市トーカイシティが広がっていた。




