あなたのための光
夕闇が蒼京志に降り注ぐ頃、葵は静かな通りを歩いていた。琥珀色の街灯が歩道に温かい光を落としている。
京香を訪ねたのは正解だった。なんだか…少し心が軽くなった気がする。ポケットに手を突っ込んだまま、彼女は携帯電話をちらりと見た。
何も来ていない。朝からメッセージは来ていない。まあ…誕生日には何もしてくれないって言っておいたし。
それでも、彼女は携帯電話を握りしめた。胸に微かな痛みが走る。それでも…やっぱり少し痛い。
柔らかなチャイム音が彼女の思考を遮った。
綾音:
「あ、葵!元気?お父さんがみんなで食堂に行こうって言ってるよ。早く来て!冷めちゃうよ!」
葵は静かに息を吐き、口元を少しだけ緩めながら携帯電話をポケットから出した。
「少なくとも…今夜は誕生日ディナーが食べられるわ」彼女は福空マート&ダイナーの方を向いた。
…………
「え?」
彼女はハッと立ち止まった。見慣れた店構えは暗く、静まり返っていた。ドアにはきちんとした看板がかかっている。
閉店
彼女は眉をひそめた。「…まさか。」
彼女は身を乗り出し、ガラスに両手を当てた。中は――影ばかり。
「閉店しているのに、どうして私を呼んだの?」
ドスン。何かが彼女の頭を軽く叩いた。
葵は思わずそれを掴んだ。くしゃくしゃになった紙切れだった。
彼女はそれを広げた。「中に入って。閉まってないよ。」
「…本当に?」彼女はドアの方を向き直し、疑わしげに看板を見つめた。少し間を置いて、彼女は手を伸ばしてドアノブをひねった。
ドアが開いた。
「…え?」
彼女が中に入ると、ベルが静かに鳴り、彼女は後ろ手でドアを閉めた。
「あぁ、暗いな…」
突然、明かりがパッとついた。
「サプライズ!!」
葵は凍りついた。息を呑み、目の前の光景が一気に鮮明になった。
店内は壁に沿って飾られた柔らかなイルミネーションで輝いていた。天井からは折り鶴が吊るされ、色とりどりの手作りの横断幕が部屋中に広がり、見慣れた顔があちこちに溢れていた。クラスメイトのアラタ、コウタ、レイナ…そして、中央付近に温かい笑顔を浮かべるリョウも。二人の間のテーブルにはケーキが置かれ、ろうそくがゆらゆらと揺らめいていた。
ライトは腕を組み、壁にもたれかかり、まるで何事もなかったかのように振る舞っていた。
「葵、誕生日おめでとう!」アヤネが最初に声をかけた。彼女の満面の笑みは、頭上の明かりにも負けないほど輝いていた。
葵の視線は、輝く飾り、ケーキ、そして自分を見つめる見慣れた顔へと移った。そして、視界が揺らぎ、端がぼやけていった。
「準備に時間がかかってしまってごめんね」と、ヒカルは照れくさそうに笑った。
「でも、みんなで協力したんだ」と、隣でカズキが頷きながら付け加えた。
「あなたをお祝いしたかったの」と、メイは優しく、温かい声で言った。
「やめてくれって言われたけど」と、ミツルは頬を掻きながら認めた。
「…だって、君は僕たちの友達だから」と、リクヤは固く拳を握りしめながら言い切った。
「そうだね」と、アラタは温かく微笑んだ。
部屋中に、同意のささやきが広がった。
アヤネは一歩前に出て、決意に満ちた目で言った。「お祝いなんていらないって言うかもしれないけど…今日はあなたの誕生日よ。あなたは…」
どけ。
彼女は固まった。
どけ、どけ。
「えっ…?」アヤネは言葉を詰まらせ、じっと見つめながら、声が途切れた。
葵の頬を伝う涙が、静かに床に落ちた。
「あ、葵?!」さやかは叫んだ。
「えっ、泣いてるの?!」美鶴は慌てた。
「私たち、しくじったの?!」誰かが囁いた。
葵は慌てて袖で目を拭った。頬は熱く、涙は止まらなかった。「ご、ごめんなさい…」彼女は鼻をすすり、声が震えた。「私、そんなつもりじゃ…」彼女は皆を見上げた。瞳は輝き、感情が溢れ出していた。涙はとめどなく流れ続けた。
「こんなことしなくてもよかったのに」彼女はほとんど懇願するように言った。「私…私、そんなこと…」
「したかったんだ」ライトが遮った。
その言葉は、他のどんな言葉よりも重く響いた。
葵は拳を握りしめた。「でも、どうして?」
一瞬、誰も答えなかった。
すると、レイナが前に出て手を差し出した。彼女の手のひらには、細いブレスレットが握られていた。リボンで結ばれた小さな青いチャーム。
「だって、あなたは私たちの一員だから」彼女は言った。「それに、今日はあなたの誕生日よ」
葵はまるでそれが消えてしまうかのようにじっと見つめていた。ゆっくりと、麗奈は手を伸ばし、ブレスレットを葵の手首に結んだ。彼女の指は温かかった。
「だから、忘れないでね」と麗奈は静かに付け加えた。「あなたはここにいるべきなのよ」
何かがパキッと音を立てた。
葵の視界が再びぼやけ、彼女は慌てて視線を逸らし、もう一度袖で目を覆った。「あなたたち…みんな、やりすぎよ」
「うまいこと言うね」誰かが呟き、その場にいた人々から小さな笑い声が漏れた。
葵はゆっくりと首を横に振った。「ううん…本気よ」
「え?」彼女が顔を上げると、皆は凍りついた。頬を伝う涙の筋が静かに流れ落ちる中、彼女は小さく、か弱く微笑んでいた。
「長い間」彼女は静かに言った。「妹に起きたことのせいで、私は誕生日を祝う資格がないと思い込んでいたの」
彼女は視線を落とし、袖をぎゅっと握りしめた。「京香が昏睡状態だった時に生き残ったことへの罰として、誕生日を祝わないのが当然だと自分に言い聞かせていた。もう自分の誕生日なんてどうでもいいと思い込んでいたの」
「葵…」涼が呟いた。
彼女は震える息を吸い込んだ。「でも本当は…」彼女の声は少し震えながら弱々しくなった。「誕生日が大切なものであってほしかった。私自身が大切な存在であってほしかった」
彼女は再び顔を上げ、瞳を輝かせた。「あの時から…私はただ自分の思うままに生きたかった。でも、あなたたちが現れたの。頑固で、うるさくて、優しすぎるくらいに。」
その言葉に、綾音と美鶴はかすかに笑った。
葵の唇に小さな笑みが浮かんだが、瞳は涙で潤んでいた。
「あなたたちのおかげで、もしかしたら私は一人で全てを抱え込まなくてもいいんだって思えた。あの時、あの写真が戻ってきた時、私はまた消えてしまいたかった…でも、あなたたちは私に会いに来てくれた。来ないでって言ったのに。」
彼女の視線は部屋を見渡した。綾音の涙ぐんだ瞳、芽衣の穏やかな微笑み、陸也の温かい笑顔、ライトの揺るぎない視線。
「だから…ありがとう」と彼女は囁いた。「私を見捨てなくてよかった。」
葵が身を乗り出し、麗奈を強く抱きしめると、麗奈の目にも涙が溢れた。
「ありがとう…」彼女は肩に顔をうずめ、声をつまらせながら静かに泣いた。「みんな、ありがとう…」
レイナも同じように強く抱きしめ返し、声を震わせた。「お礼なんて言わなくていいのよ、葵。」
周りからは、すすり泣く声が静かに、そして無防備に聞こえてきた。その場は、感情で満ち溢れていた。
「ま、待って!ちょっと待って!」リョウは突然叫び、大げさに抱きついた。「僕抜きで感動的なグループハグなんてできないよ!」
「リョウ!」コウタが怒鳴った。
「うわ、絶妙なタイミングだね」ライトは真顔で言った。
「えっ!? なんでいつも僕に冷たいんだよ、弟~!?」リョウはまるで殴られたかのように胸を押さえて叫んだ。
緊張は一瞬にして解け、温かく、心からの笑い声がダイナー中に広がった。アオイも涙を流しながら笑った。
「はいはい!」アヤネは明るく言い、アオイの腕をつかんだ。「泣くのは後でいいわよ。今は誕生日ガールはこっちにいるべきよ!」
アオイが抗議する間もなく、アヤネは彼女をテーブルの方へ引っ張り、パーティーハットを頭にかぶせた。
「ちょ、ちょっと!」葵は瞬きをし、ケーキに目を留めると、言葉を失った。バニラとチョコレートのフロスティングが美しく渦巻き、その上には新鮮なイチゴがきちんと並べられている。文字は丁寧に、そして丁寧に書かれている。
「お誕生日おめでとう、葵」
葵は息を呑んだ。
「このケーキ…」と、瞳を輝かせながら呟いた。「どうやって…」
「遊園地で見かけたのよ」と、さやかは誇らしげに言った。「あのクレープ、すごく美味しそうだったでしょ?だから、きっとあなたの好みだろうと思って、ちょっと分けてあげたの」
隣にいた静香が頷いた。「焼き上げは白川さんが担当してくれたの。料理もね」
コウタは照れくさそうに笑いながら首の後ろを掻いた。「迷わずやったよ。君にはこれくらいのお祝いがふさわしいからね。」
アオイは彼を見上げ、優しく誠実な笑顔を浮かべた。「ありがとう。」
「よし!」ヒカルは手を叩いた。「ろうそくを吹き消そう!」
「それで…今日は何歳のお祝いなの?」リクヤが興味津々に尋ねた。
アオイの頬が赤くなった。「す、16歳…」
「16歳?!」カズキは息を呑んだ。
アラタは驚いて言った。「すごい!」
「誕生日みたいなもんだろ!」ミツルが付け加えた。
「もう1本ろうそくが必要だな!」コウタは笑った。
サヤカは突然アオイの肩を掴んだ。「アオイ、16歳の誕生日を祝わないなんてありえないでしょ!これは伝説級のお祝いよ!」
「つまり、あなたは私たちより何ヶ月も年上ってことね」と、あやねはニヤリと笑いながらからかった。「私よりもね」
二人の声が重なり合い、葵は胸に温かいものが広がるのを感じて笑った。
コウタが最後のろうそくを立てて火を灯した。炎がゆらゆらと揺らめき、葵のラベンダー色の瞳に映る。皆が近づき、歌い始めた。
ゆっくりと、葵は身を乗り出し、ろうそくの火を吹き消した。拍手が沸き起こった。小さく、完璧ではないけれど、確かに。
久しぶりに、自分の誕生日が現実のものになったように感じた。
「はい、葵!」あやねは満面の笑みを浮かべ、小さく丁寧に包まれた箱を差し出した。
葵は優しく微笑んでそれを受け取った。「私に?」
あやねは嬉しそうに頷いた。「もちろん!開けてみて!」
葵は紙をはがした。一瞬、彼女の表情はぼんやりとしたものになったが、すぐに手のひらに乗せたものに目を落とした。
「…革手袋?」光が呟いた。
和樹は顔を手で覆った。「あやね…」
あやねは腰に手を当て、何の悪びれも感じさせなかった。「何?前にあげたもの、もうボロボロだったでしょ。新しいのが必要だったんでしょ?」
「うわあ。感傷的だね」とライトは冷や汗をかき、美鶴と陸也は気まずそうに笑った。
しかし、あやねの方を向いた葵の笑顔は和らいだ。「ありがとう。本当に感謝してる」彼女は手袋をそっとはめ、指を曲げた。「大切にするわ」
あやねは瞬きをしてから、にっこりと笑った。「よかった」
次々とプレゼントが出てきた。芽衣からは繊細な銀の簪とネックレス。美鶴からは稲妻のキーホルダー。陸也からの上質なパーカー。
光からの、上品な型押しデザインの手作りノート。和樹からの、ラベンダー色のヘッドホン。さやかからの、メイク用品、ヘアアクセサリー、マニキュア。静香からの、ノートとスケッチブック。涼からの、とんでもなく大きなぬいぐるみ。
葵は、何年もぶりに大笑いした。
ただ一人、前に出てこなかった人がいた。葵は気にせず、テーブルについた他の人たちと合流した。すると、綾音が咳払いをした。
「ねえ、葵」綾音は、丁寧に包まれた大きめの包みを手に、前に差し出した。「これは…私たちみんなからのプレゼントよ」
葵は凍りついた。その形は紛れもないものだった。
「…まさか」葵は息を呑んだ。
包みを開けると、部屋は静まり返った。彼女の指はかすかに震えていた。
ケースが開いた。
「ギター…」葵は呟いた。
彼女はそっとそれを持ち上げた――真夜中のような紺碧のアコースティックギター。ライトの下で銀色の装飾が輝いている。彼女はまるでギターが消えてしまうのを恐れるかのように、弦、ボディ、指板を指でなぞった。
「これ…」彼女の声が震えた。「綺麗ね。どうやって…?」
綾音は微笑み、部屋の隅に目をやった。一人ずつ、他の者たちも彼女の視線を追った。
ライトは腕を組み、体を硬直させた。
「彼のアイデアよ」綾音は簡潔に言った。「彼が提案したの。みんなでお金を出し合ったの」
ライトは顔を赤らめ、顔を背けた。「…大したことじゃない」
葵は彼を見た。
彼はため息をつき、首の後ろをこすった。「初めて君の家に行った時、クローゼットの近くに古いギターがあるのに気づいたんだ。君は何度もそれを見ていた」彼の声は低くなった。「何か意味があると思ったんだ」
葵はギターを握りしめた。 「もしかしたら…何か大切なものだったのかもしれないと思ったんです。途中で失ってしまった何か。」
彼女はゆっくりと頷いた。「母さんのものだったの。」
ライトの目が優しくなった。温かく、重く、真摯な沈黙が漂った。
葵は顔を上げ、涙を浮かべながらも、いたずらっぽい小さな笑みを浮かべた。「ありがとう、ライト。」
彼は驚いたように彼女を見た。「…ああ」と彼は呟いた。「誕生日おめでとう。」
「ライト~!甘ちゃん~!」美鶴が歌うように言った。
「うるさい!」ライトは顔を真っ赤にして言い放った。
「正直に言うと」陸也は眼鏡をかけ直し、くすくす笑いながら付け加えた。「まさか君が提案するとは思わなかったよ。完全に不意を突かれた。」
「大したことじゃない!」ライトは明らかに動揺しながら言い返した。
「はいはい、君が眠れるならそれでいいよ。」和樹はニヤリと笑った。
ダイナーに笑い声が広がった。
「遅れてごめんね~!」入り口から聞き覚えのある声が響いた。
皆が振り向くと、ジンがいつものように満面の笑みを浮かべ、誰かを引っ張って歩いて入ってきた。
「ジン…」美空はため息をつき、すでにこめかみを揉んでいた。
「パトロール中だったんだ」ジンは明るく説明しながら近づいてきた。「そしたらリョウから今日はアオイの誕生日だってメッセージが来て、もちろん寄らなきゃね~!」
「無理やり連れて行かなくてもよかったのに」美空はそう呟き、ジンを横目で睨みつけた。
「アオイ、誕生日おめでとう~!」ジンは明るく言った。
アオイは微笑んだ。「ありがとう」
美空が次に前に出て、表情を少し和らげた。「うん…誕生日おめでとう」
「ありがとう。本当に嬉しい」アオイは微笑み返した。
「それに、プレゼントも持ってきたよ!」ジンは誇らしげにそう言いながら、丁寧に包装された包みを二つアオイに手渡した。急いで選んだようだが、それでも丁寧に包まれていた。
アオイは静かに笑い、胸に温かい気持ちが湧き上がるのを感じながら包みを受け取った。ジンはまるで世界の他のことは何も気にしないかのように、すぐにケーキと食べ物に夢中になった。
「待って…アオイ、音楽が好きなの?」ヒカルが静かに尋ねた。
「う、うん…好きだよ。」
美鶴はニヤリと笑いながら、アヤネの手からギターをそっと持ち上げた。「じゃあ、演奏で皆さんに祝福を!」
誰かが抗議する間もなく、彼はギターをかき鳴らし始めた。テンポも音程も狂い、耳障りなほど大きな音だった。
「あぁ…」アヤネは耳を塞ぎ、うめき声を上げた。
「全然上達してないな」リクヤは冷たく言い放った。
「おい!頑張ってるんだぞ!」美鶴は拗ねたように抗議したが、ダイナー中に笑い声が響き渡った。
しばらくして、彼は大げさにため息をつき、ギターをアオイの方へ押し返した。「ふん!わかったよ。誰かが弾くなら、プロが弾くべきだ。」
「あ、あぁ…」アオイは瞬きをした。
「つまり、君は弾けるってことだろ?!」カズキは満面の笑みを浮かべた。
「えっと…うん。ちょっとだけ…」
「じゃあ、弾いてよ!」サヤカはニヤリと笑った。 「誕生日のルールなのよ。」
葵は慌てて首を横に振った。「ううん、大丈夫…」
「さあ、歌ってよ」麗奈は優しく微笑みながら言った。「歌って聞かせてよ。」
葵は頬を赤らめながら、再びギターを受け取った。「私…人前で歌ったことないんです。」
「大丈夫だよ」涼はにっこり笑って言った。「美鶴も歌ったことないけど、僕たちも大丈夫だったじゃないか。」
葵が弦を見つめ、いくつか音を試してみると、会場はくすくすと笑った。彼女の肩の力が抜け、かすかに微笑んだ。
「これ…母が妹と私によく歌ってくれた歌なんです。」
部屋は静まり返った。全員の視線が葵に注がれた。ライトの視線さえも。
葵は目を閉じ、静かに鼻歌を歌った。彼女が最初の数コードをかき鳴らすと、指が弦の上を軽やかに滑るように動き、部屋は静寂に包まれた。柔らかくメロディアスな旋律が辺り一面に響き渡り、それぞれの音符がダイナーの温かい灯りの中を織りなしていった。
月の銀色の光の中で、愛しい子よ、もう眠る時間だよ
星々は明るく輝き、見守るように見守っている
皆が凍りつき、視線は完全に彼女に注がれた。綾音は畏敬の念に口をわずかに開き、瞳を輝かせながら身を乗り出し、あらゆる音を吸収しようとしていた。光は顎に手を当て、完全に魅了され、和樹のいつもの笑みは感嘆へと変わった。
外の世界は静まり返り、夢のない深い平和に包まれている
でも、私の腕の中では、あなたは安全、愛しい人、穏やかで永遠の眠りにつく
さやかと静香は静かに微笑み合い、まるで稀有で貴重な瞬間を見守っているかのように、穏やかな表情を浮かべていた。
~高くそびえる木々の間をそっと吹き抜ける風のように
私はいつもここにいる、あなたのそばに、どんな時も
普段は元気いっぱいでからかい合う美鶴と陸也でさえ、動きを止め、じっと彼女を見つめていた。
暗闇の中、恐れないで。僕が君の道しるべになるから。
そして君が目覚めたら、夜明けを迎えよう。新しい、輝く光が僕たちを照らしてくれる。
少し離れたところに立っていたライトは、彼女から目を離すことができなかった。いつもの冷静沈着な態度が崩れ、眉間にわずかな皺が寄り、一瞬、抑えきれない感情が胸を締め付けた。彼は、葵がただ演奏するだけでなく、音楽に全身全霊を注ぎ込む様子を見つめていた。その歌には、言葉では言い表せないほどの優しさが込められていた。
~静寂の夜、君を守り抜くよ
僕の愛しい人、僕の心、僕の輝く星、君こそ僕が見つけた人
君の瞳に、僕の心は安らぎを見出す。君の笑顔に、僕は幸せを感じる
だから、目を閉じて、愛しい人。月の柔らかな光に身を委ねて。
彼女の歌声が、優しく澄んだメロディーに加わると、その温かさが、グループ全体を包み込んだ。かすかな音色さえも空気に漂い、確かな繋がりを感じさせた。誰も動かず、荒い息遣いも聞こえなかった。皆、葵がギターをかき鳴らすたびに創り出す世界に完全に没頭し、引き込まれていた。
~おやすみ、愛しい子よ。甘く輝く夢が訪れますように。
月の優しい光が、夜を通してあなたを導きますように。
そして目覚めたら、私たちは共に一日を迎え、その喜びを分かち合いましょう。
永遠に、愛の純粋で輝く光の中で。
最後の音は、柔らかく震えるように空気に漂い、やがて静寂へと消えていった。一瞬、誰も動かず、誰も言葉を発しなかった。部屋全体が息を潜め、まるで葵が創り出した繊細な感情の泡を壊したくないかのように。
そして、ゆっくりと、さざ波がダイナーに広がった。綾音は両手を口元に当て、目に涙を浮かべながら言った。「葵…すっごく…美しかった!」
ヒカルは優しく拍手し、満面の笑みを浮かべた。「あれ…すごかった!葵、才能あるね!」
いつものからかい上手なカズキの態度は、心からの賞賛へと変わった。「あ…あんな風に演奏できるなんて知らなかったよ」彼は感嘆のあまり首を振り、彼女を見つめたままだった。
サヤカとシズカは優しく頷き合い、顔に温かい笑みが浮かんだ。先ほどまで変顔をしていたミツルでさえ、小さく、ためらいがちに拍手をした。その表情はいつもより穏やかだった。リクヤの目は静かな誇りで輝き、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
ライトはしばらくの間、彼女から目を離さずにじっとしていた。何か言おうとするかのように唇がわずかに開いたが、言葉は出てこなかった。胸は規則正しく上下していたが、その視線の強さは雄弁に物語っていた――彼は完全に魅了され、胸は抑えきれないほど高鳴っていた。
ついに、グループ全体が拍手喝采に包まれた。歓声を上げる者、口笛を吹く者、彼女の才能に驚き笑う者もいた。葵の頬は赤らみ、小さく恥ずかしそうな笑みが浮かび、指先は緊張しながらギターの弦を撫でた。
「あぁ…あぁ、すごかったよ!」麗奈はそう言って前に出て、優しく抱きしめた。「あんたにこんな才能があったなんて知らなかった!」
葵は周りのみんなを見渡した。皆の顔は賞賛と温かさに満ち溢れ、彼女の心は温かい気持ちでいっぱいになった。
彼女は視線を落とし、小さく、心からの笑みを浮かべた。「…皆さん、ありがとうございます。」
くすくす笑いが漏れた。
「クラスに隠れた天才がいるみたいだね」誰かがからかった。
「和樹も弾けるんだよ」光が誇らしげな笑みを浮かべながら付け加えた。
「え、マジで?!」
「まさか!すごい!」
和樹は頬を赤らめながら首の後ろを掻いた。「あ、あの…実はラップの方が好きなんです…」
「そんなこと関係ないよ!」美鶴は満面の笑みを浮かべた。「二人とも教えてくれるんだから、言い訳はなし!」
部屋中に笑い声が響いた。
麗奈は二人の様子を優しく微笑みながら見守り、葵の肩に腕を回した。「あの日、私が歌っていた歌を、あなたも歌ったわね」と彼女は優しく言った。「…お母さんたちが教えてくれた歌よ」
葵は麗奈を見つめながら、微笑みを少し和らげた。「うん」と彼女は静かに答えた。




