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ブルーストーム  作者: Fawole Oluwaseyi


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36/58

私たちにとってあなたは今でも葵です

翌朝、葵はすっきりとした気分で目を覚ました。熱はすっかり下がっていた。布団から起き上がり、両腕を頭上に伸ばしてから肩を回し、安堵のため息をついた。


昨日よりずっと体が軽くなった…


シャワーを浴びながら、温かいお湯が全身を伝う。呼吸は穏やかで落ち着いていた。やがて制服に着替え、ジャケットを羽織った。視線は隅にあるクーラーボックスと鍋へと移った。前日、綾音たちが訪れた時の名残だ。


「私たちに頼っていいのよ。私たちは同情しているわけじゃない。ただ、あなたに元気になってほしいだけなの。」


続いて、麗奈の言葉が響いた。


「心の嵐が収まったら…また話しましょう。」


葵は拳を固く握りしめた。鏡に映る自分の姿を見つめ、紫色の瞳に決意の光を宿らせた。



……………


その日の午前中、彼女はサヨナキ高校の中庭に立ち、校舎を見上げていた。手に持った白いバッグをぎゅっと握りしめ、校舎の中へと足を踏み入れた。ロッカーの前でバッグを置き、ゆっくりと深呼吸をしてから教室へと向かった。


彼女はドアの前で立ち止まった。心臓がドキッと跳ねる。大丈夫…私ならできる。


彼女はドアノブに手を伸ばした。


…………..


1年3組の教室の中は、ざわめきで満ちていた。


「えっ!?本当!?葵ちゃん、昨日具合が悪かったの!?」サヤカは目を丸くして息を呑んだ。


「ああ」リクヤは眼鏡を押し上げながら頷いた。「食べ物と薬を持って行ったんだ」


「もう良くなっているはず…だといいんだけど」アヤネは呟いた。


「きっと良くなるよ」担任のアラタは腕を組み、安心させるような笑顔で言った。



「今日来てくれるといいな」とヒカルが付け加えた。「きっと落ち込んでいたんだろうな」


「どんな気持ちだったか想像もつかない」とカズキが静かに言った。「ただ、無事だといいんだけど」


ちょうどその時、ドアがパッと開いた。皆が振り向いた。アオイが戸口に立っていた。ラベンダー色の瞳がキラキラと輝き、皆の視線と交わった。


「あ、来た~!」とミツルがニヤリと笑った。


「アオイ!」アヤネとサヤカが声をかけ、他の生徒たちも続いて駆け寄った。


「もう元気になった?」とクラスメイトの一人が尋ねた。


「また休むのかと思ったけど、来てくれて本当に嬉しい」と別の生徒が温かく言った。


「昨日よりずっと元気そうね。よかった」メイが微笑むと、隣に立っていたシズカも頷いた。


「でも、大喧嘩の後に雨の中をうろうろしたりしないでね?」アラタがからかうと、クラスから軽い笑い声が漏れた。


アオイは視線を落とし、かすかな笑みが唇に浮かんだが、すぐに消えた。


「ん?どうしたの、アオイ?」アヤネが彼女の表情に気づいて尋ねた。


「まだ具合が悪いの?」サヤカが優しく付け加えた。


アオイは深呼吸をし、教室に足を踏み入れた。大丈夫…みんなには全てを知る権利がある。


教室は静まり返った。何十もの視線が彼女に注がれていた。ライトも後ろの方から見守っていたが、表情が和らいでいた。


「アオイ…」リクヤが静かに言った。


「えっと…」彼女は少し震える声で視線を上げた。 「皆さんに…伝えなきゃいけないことがあるんです!」


彼女が続けると、皆の目が大きく見開かれた。「皆さんに伝えたいことがあるんです…というか、たくさんあります。」


彼女が静かに、しかし落ち着いた声で続けると、教室中にざわめきが広がった。


「数日前の写真について、皆さんもきっと疑問に思っていることがあるでしょう。普段はこういうことは話さないのですが…でも、皆さんは真実を知る権利があると思います。」


彼女は言葉を止めた。すると、見覚えのある靴が彼女の前に止まった。葵が顔を上げると、メイが優しく微笑みながら手を差し伸べていた。


「座って聞いてくれる?」メイは優しく言った。


葵の瞳が輝いた。ゆっくりと、彼女はメイの手に自分の手を重ねた。


「…うん」と彼女は囁いた。


メイは微笑み、彼女を教室の前の席へと導いた。


...................


葵はゆっくりと椅子に座り、指を机の端に絡めた。教室は静まり返っていた。おしゃべりもささやき声もなく、ただ静かに期待のざわめきが漂っていた。生徒たちの視線が、重く、しかし忍耐強く彼女に注がれているのを感じた。


彼女の唇はわずかに開いたが、最初は声が出なかった。喉が締め付けられるような感覚だった。


「私…」彼女は静かに話し始め、自分の手を見つめた。「こんな風になるつもりじゃなかったんです。あの写真…ネットで拡散されたあの写真は…新しいものじゃなかったんです。」


数人の生徒が不安げな視線を交わした。


「あれは…何年も前のものなんです」彼女は続けた。「東京に住んでいた頃の写真です。」


彼女の声は震えたが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「私はよく喧嘩をしました。したかったわけではなく、そうせざるを得なかったんです。みんなは私を呪われていると言いました。私が不幸をもたらすとか…私に近づく人は皆、そのせいで苦しむとか。」


さやかの目が大きく見開かれた。綾音は唇を噛んだ。


息を吐き出すと、彼女の手はかすかに震えた。「8歳の頃からずっと…」葵は静かに話し始めた。「母は肺炎で亡くなったと聞いています。でも父は…そうは思っていませんでした。母の死、そしてすべてのことを私のせいにしたんです。」


部屋は静まり返った。皆の目が大きく見開き、不安げな視線を交わす者もいた。


「数ヶ月後、父は再婚しました。彼女にはすでに娘の詩音しおんがいました。噂を流し始めたのは彼女たちだったんです…私が呪われているって。」彼女は言葉を詰まらせ、震える息を吐き出した。「でも、姉の桜庭鏡花きょうかに起きた出来事の後、事態はさらに悪化しました。私は当時10歳でした。」


「姉さん?」美鶴が静かに尋ねると、隣にいた陸也は眼鏡を直し、少し眉をひそめた。




葵は頷いた。「ええ。京香は2歳年上でした。心臓が弱かったので、桜庭の名を継ぐことができなかったんです。その栄誉は義姉に受け継がれました。父は何も言いませんでした。私はまだ幼かったので、二人は私を無視したんです。」


さやかの目が優しくなった。「ああ、そういうことだったんですね…あの頃は」と、アーバン・トーキョーの若いモデルに関する見出しを思い出しながら呟いた。


「継母と義姉は、私たちを、特に私を憎んでいました。母に似すぎているとか…不幸をもたらすとか。二人は父を私たちに敵対させました。父は私たちを養ってくれましたが、父の目は…」彼女は苦笑いを浮かべた。「…父の目は、もう二度と私を以前と同じようには見てくれませんでした。」


彼女は視線を落とした。「京香だけが、ずっと優しくいてくれました。優しくて、彼女なりの強さを持っていました。私を守ってくれて…母のように戦うことを教えてくれました。彼女は私の親友でした。」


彼女の記憶に、柔らかな光景がちらついた。屋敷の庭の芝生に寝そべる二人の少女。澄み切った夏の空の下、笑い声が響き渡る。


「あんなに体が弱かったのに」と葵は囁いた。「いつも私を抱きしめてくれた。何からも守ってくれた。」


彼女の声は震えていた。「あの夜までは。」


回想:


静かな街路に月が明るく輝いていた。星がかすかに瞬く中、葵と京香は公園から家路についた。二人はまだプラスチックのおもちゃを手に持っていた。その時――影が現れた。


二人はチンピラに囲まれた。京香はか弱い体にもかかわらず、一人の胸を蹴り飛ばし、ブランコに叩きつけた。


「あんなに弱った体でも、彼女は戦った」と葵は静かに語った。「でも、私は…何もできなかった。」


幼い頃の彼女は、男たちが迫ってくるのを見て、息を切らしながら膝をついた。男の一人が木の棒を振り上げたその時、京香が現れ、彼を蹴り飛ばした。彼女の長い茶色の髪は絹のように後ろになびいていた。


「アオイ、怪我はしていないの?」彼女は心配そうな目で尋ねた。


葵はかすかに微笑んだ。「大丈夫よ」


京香は頷き、再び戦いに戻った。彼女の動きは鋭かったが、どこか緊張感に満ちており、一撃一撃に力よりも意志の力が込められていた。


別のチンピラが襲いかかってきた――葵は本能的に反応し、蹴り飛ばした。小さな体は疲労で震え、息切れしながら開けた道路へとよろめき出た。


その時、エンジン音が轟いた。車のヘッドライトが閃光を放ち、彼女に向かって猛スピードで突進してきた。


京香は凍りつき、恐怖に目を見開いた。「葵!!」


「えっ…?」葵が振り返る間もなく、京香の手が彼女を突き飛ばした。息を呑み、目を見開いた葵は、京香から手を伸ばしたまま、車が彼女の横に迫る中、京香の手から滑り落ちた。京香の手は、絶望と恐怖に満ちた表情でまだ伸ばされたままだった。


タイヤのスキール音。眩しい光。衝突音。


すべてがぼやけた。葵は地面に叩きつけられ、頭がズキズキと痛んだ。朦朧とした視界の中、目を瞬かせると、人々の叫び声、車のドアが閉まる音が聞こえた。数メートル先に京香が横たわっているのが見えた。ヘッドライトに照らされた京香の姿は、血だまりとなって広がっていた。


「お姉ちゃん…」声が震え、弱々しく京香の方へ這い寄る。震える手が伸びてくる。「お姉ちゃん!!京香!!」


彼女の叫び声が夜空に響き渡った。月は冷たく、地上の悲劇には無関心だった。


…………


部屋は静まり返っていた。普段は冷静な表情を崩さないライトでさえ、静かに動揺しているように見えた。


「あの日以来…」葵は遠くを見つめながら、静かに息を吐いた。「みんなは私を呪い…不幸しか招かない嵐としか見ていないの。」


彼女は視線を上げ、静かな声の奥に、かすかな悲しみを浮かべた。「だから、みんなは私をブルーストームと呼ぶの。」


「ブルー…ストーム…」ミツルは重々しい声でそう繰り返し、目を伏せた。


アオイは苦々しく、か細い笑みを浮かべた。「彼女は病院に運ばれて…それ以来ずっと昏睡状態なの。あの瞬間から、すべてが崩れ去った。継母と義姉は私の人生を地獄に変えた。周りの人たちも例外ではなかった。そして父は…」彼女の声はかすかに震え、「私を捨てたの。」


彼女はショートパンツの裾を握りしめた。「4年間、ずっと耐えてきたの…14歳になるまで。」


ヒカルは拳を握りしめた。「もう耐えられなかったんだね」と、同情を込めて顎をきつく引き締め、囁いた。「…だから逃げ出したんだ。」


「逃げればすべてが変わると思ったの」と彼女は続けた。「でも、どれだけ遠くへ行っても、過去は消えない。影のように、ずっと付きまとうの。」


「でも…」とサヤカが口を開いた。「みんなに送られた写真と、それってどういう関係があるの?」


アオイは震える声でゆっくりと息を吐いた。「あの写真は、私が始めたわけじゃない喧嘩の後で撮られたの。誰かが…つまり、マキノがひどく怪我をして、みんなに責められたの。前の学校を退学になった。それ以来、人を信じられなくなった。本当の私を見てくれる人なんていないって、信じられなくなった。」


「あおい…」芽衣は呟いた。


「さよなき高校に来たのは、友達を作るためでも、目立つためでもなかったの」あおいは声を弱めて告白した。「ただ…やり直せると思って来たの」彼女の唇に、かすかな、悲しげな笑みが浮かんだ。「でも、それも長くは続かなかった…よね?」


部屋の空気が静まり返った。皆の表情が曇り、彼女の言葉の重みが重くのしかかった。


「あおい…」陸也は心配そうに呟いた。


あおいの笑顔が消え、視線を落とし、声が震えた。「全部、あの姉のせい…バカな姉のせい」


「え?」芽衣は驚いて瞬きをした。


「あの夜、姉が私を助けなければ…」あおいは拳を固く握りしめた。 「今、あの病院のベッドに横たわっているべきだったのは私だったのに。彼女はあんなに弱々しかったのに、それでも…」彼女は息を詰まらせ、声が震えた。


「私はただの失敗作…生きる資格すらない人間!私は…呪いそのものよ!」


「あおい…」和樹は呆然として囁いた。


「もしも…」彼女は声をつまらせ、涙が溢れ、声が震えた。「もしも、彼女が私のために命を危険にさらさなかったら!だから私は彼女に腹を立てているの!私にはそんな資格なんてない…私には何も良いことなんてない!」


綾音は息を荒げ、両手を握りしめ、一歩前に踏み出した。瞳は涙で潤んでいた。


「私はただ…私はただの…」


鋭い平手打ちの音が空気を切り裂いた。あおいはよろめき、床に崩れ落ちた。教室中に一斉に息を呑む音が響いた。


「あおい!」陸也が叫んだ。


あおいは大きく見開いた瞳を震わせ、ゆっくりと片手を頬に当てた。視線を上げた瞬間、目の前の部屋がぼやけた。綾音は震えながら立ち尽くし、涙が頬を伝い、唇は固く結ばれ、拳はまだ震えていた。


「綾音…泣いてるのか?」美鶴は呆然として呟いた。


「ええ!」綾音は震える声ながらも激しい口調で葵を睨みつけ、「怒ってるから泣いてるのよ!あの友達がバカみたいなことを言うから怒ってるの!」と叫んだ。


綾音が手の甲で乱暴に涙を拭い、葵の襟首を掴むと、葵は驚いて瞬きをした。


「お姉ちゃんが、あんたに一生自分を憎んでほしいなんて思ってたの?!」綾音の声は震え、拳も震えていた。「お姉ちゃんはあんたを助けることを選んだのよ!あんたを愛してたから!」


葵は口を開いたが、言葉が出てこなかった。


「彼女の犠牲は無意味だったとでも思っているの? 彼女が昏睡状態にあるのは無駄だったとでも?」 綾音は涙を止めどなく流しながら続けた。「もし本当にそう思っているなら… 彼女が大切にしていたもの全てを侮辱していることになるわ!」


部屋は静まり返り、呼吸音さえ遠く感じられた。


「でも…写真が…」葵は小声で呟いた。


「くだらない写真なんか気にすると思うか?」陸也は眉をひそめ、拳を握りしめた。「葵、お前は俺たちの友達だ!それが大事なんだ!」


美鶴は涙を流しながら、にやりと頷いた。「その通りだ。お前の強さ、そして向こう見ずなところも見てきた。だが、お前は俺たちの仲間だ。」


綾音は葵を睨みつけ、声が震えた。「あの夜、お姉ちゃんが助けてくれなかったら…」涙で目が熱くなりながら、彼女は吐き捨てるように言った。「…ここに来てからお前がしてきた良いことは、何も起こらなかった!」


感情がこみ上げ、彼女の拳は震えていた。 「あなたがいなかったら、あの夜、誰が私の父を助けてくれたの?!あの前の燃える家から、あの子供たちと子犬を誰が救ってくれたの?!ナイトクローからあの女の子を誰が助け出してくれたの?!」


彼女はあおいを軽く突き飛ばし、とめどなく涙を流した。「そんな風に考えるなんて、本当に馬鹿ね!」と彼女は泣き叫んだ。「だって、私たちはあなたをそんな風には見ていないわ、あおい!私たちはあなたを愛しているのよ、みんな!あなたは私たちの仲間よ、それは決して変わらない!」


さやかは涙ぐんだ目で微笑んだ。「私たちは、過去に今のあなたを決めさせないわ。」


あやねはもう一歩前に進み、声は柔らかくなり、抑えきれない感情で震えていた。


「彼女はあなたを守ったのは、あなたが罪悪感で自分を傷つけるためじゃない。彼女はあなたに生きてほしい、本当に生きてほしいと願っていたの。あの痛みから解放されて、また笑顔になってほしいと…」


あおいの瞳は輝き、唇は震えていた。


綾音の声が震えた。「だから、幸せになる資格がないなんて言わないで。あなたには資格があるのよ、葵。もう十分苦しんだんだから。」


彼女の言葉は重く、空中に漂った。


葵の肩は震え、静かに涙が頬を伝った。胸の痛みは、もろく、人間らしい感情へと変わっていった。


.......................


長い間…


幼い葵は暗闇の中で膝をつき、小さな体を震わせていた。両手で目を覆い、すすり泣きながら声を絞り出した。


ずっと一人ぼっちだった…彼らの言葉に打ちのめされて。


涙がとめどなく頬を伝う中、影のような人影が彼女のそばを通り過ぎていった。嘲りの表情を浮かべ、冷たい軽蔑の眼差しを湛えた人影たち。


大切な人たち…彼らは私から背を向けた。私はひどく孤独だった。


かすかな光が前方に揺らめいた。


足音が彼女の目の前で止まり、葵の泣き声はゆっくりと消えていった。彼女はためらい、指の間からそっと覗き込んだ。そこに立っていたのは、温かい微笑みを浮かべ、手を差し伸べる綾音だった。


彼女の後ろには、芽衣、美鶴、雷斗、陸也、そして他の仲間たちが立っていた。皆、穏やかな表情で、何年も感じていなかった何か…理解の眼差しを瞳に宿していた。


葵は息を呑んだ。綾音の笑みが明るく、いたずらっぽくなると、葵の大きな瞳もキラキラと輝いた。


葵はしばらくただ見つめていたが、震える指でそっと手を伸ばし、綾音の手に重ねた。


綾音は素早く葵を引っ張り上げ、葵が気づいた時には、二人は光の中を一緒に走り出していた。笑い声が響き、他の仲間たちもすぐ後ろからついてきた。


でも今…もう私は一人じゃない。


...................


現在、葵の頬には熱い涙がとめどなく流れ落ち、震える瞳と震える体でいた。


綾音は葵の前にひざまずき、ぎゅっと抱きしめた。「あなたは呪いなんかじゃない」と、綾音は葵の髪に囁いた。「あなたは、お姉ちゃんの愛がまだ生きている証なのよ」


葵は嗚咽を漏らし、ついには泣き崩れた。震える腕で綾音を強く抱きしめ、涙がとめどなく頬を伝った。


クラスの生徒たちは静かに見守っていた。涙ぐむ者もいれば、目を離せない者もいた。二人は教室の中央で抱き合っていた。


葵は初めて、罪悪感からではなく、解放感から、涙を流した。


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」と、葵は綾音にすがりつきながら泣きじゃくった。


「バカ…」綾音はそう呟き、葵の髪を撫でながら、自分の涙を流した。「謝る必要なんてないわ。」


「葵、これは全部あなたのせいじゃないのよ」芽衣は優しく言い、二人を抱きしめた。


「そうだね!」さやかは涙を浮かべながら微笑み、隣にいる静香と共に二人の抱擁に加わった。「もう一人じゃないよ!」


「あ、ありがとう…みんな、ありがとう!」葵はすすり泣き、声が途切れ途切れになった。


光、和樹、美鶴、陸也は涙を抑えきれず、温かい瞬間に微笑んだ。傍らで、ライトは茶色の前髪の下に視線を隠し、静かに立っていた。拳を握りしめ、顎を固く引き締めている――怒りからではなく、深い共感からくる痛みからだった。


アラタも思わず涙を拭った。初めてクラスメイトと出会った日のことを思い出していた。


…………


教室の外…


アラタはそっと息を吐き、風になびく髪に手を通した。ドアがカチッと閉まる音が聞こえた。教室からは、かすかな話し声と笑い声がまだ残っていた。


彼は一人で微笑んだ。「みんな、元気な連中だ。特にあの子…桜庭葵、だったっけ?」


カバンのストラップを直しながら、琥珀色の瞳が少し優しくなった。「頭の回転が速い、静かな情熱。誰かに似ているな。」


携帯電話を取り出し、時間を確認してから廊下に出た。窓から差し込む午後の日差しが、床に温かい光の筋を描いていた。携帯電話が振動し、見覚えのある名前が画面に表示された。


レイナ


アラタは意味ありげな笑みを浮かべ、脇に寄って電話に出た。



「よう、レイナ。ああ、授業が終わったところだ。」彼は少し間を置いて、静かに笑った。「一年生がこんなに頭がいいとは聞いてなかったな。特に桜庭ちゃんは…あの落ち着いた集中力はすごい。いつも気を張っているのが分かる。」


彼は手すりに寄りかかり、少し声を落とした。「心配するな、彼女のことは見ておく。君が言っていた通り優秀なら、他の生徒たちにもすぐに馴染むだろう。」


しばらく沈黙が続いた後、レイナの微かな笑い声がスピーカーから響いた。


「ああ」と新は静かに答え、窓の外の中庭に目をやった。「でも、不思議な感じがする…教師である俺でさえ、この場所の底に嵐が迫っているのを感じるんだ。」


彼は携帯電話をポケットにしまい、背を向けた。遠くの風が廊下をかすかに吹き抜ける音が聞こえた。


「ブルーストームか…」彼は小声で呟いた。「どうやら俺もその一部になってしまったようだな。」


........................


記憶が薄れ、アラタは静かに微笑みながら、安堵の笑みを浮かべながら涙を拭う葵に視線を向けた。


「葵、本当によかったね」とアラタは心の中で呟き、涙ぐんだ笑顔で目を閉じた。


1年3組の教室の外では、レイナが腕を組み、前髪で目を覆いながら出入り口に立っていた。隣には美空がいて、すべてを聞いてしまった後、黙り込んでいた。


レイナは何も言わずに壁から離れ、廊下を歩き出した。両手をポケットに突っ込み、足音はかすかに響く。


レイナ…美空はそう思い、彼女の後ろ姿を見送りながら、表情を和らげた。





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