私たちの断片
8歳の時に母が亡くなって以来、私の周りの全てが崩れ始めた。
ひび割れた舗道にひざまずいた小さな私は、震える母の腕をぎゅっと抱きしめ、顔の見えない人影が通り過ぎる影に飲み込まれていった。彼らの囁きは、ナイフよりも深く私の心を突き刺した。
「あの子は呪われている」「あの子に近づくな」「あの子は厄介事しか引き起こさない」。言葉は一つ一つ混ざり合い、息遣いはますます荒くなっていった。
それでも…私はかろうじて耐えていた。
「お前が私の娘だなんて信じられない!」父の声が霧の中を轟いた。
「あの子は呪われている」継母が囁いた。
「まったくだ!」義姉の残酷な笑い声が続いた。
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姉の桜庭京香は、酸素マスクを顔に被せられ、病院のベッドで意識を失っていた。かすかに機械の音が響いている。
「京香とどこにも行くなって言っただろう!ほら、こんなことしたじゃないか!」父親の声が部屋中に響き渡った。悲しみと怒りが入り混じった声だった。父親は涙を流しながら葵を殴りつけた。一撃ごとに、その重みは増していった。葵は震えながら両腕を上げ、かろうじて殴打から身を守った。
記憶はぼやけていく。長年にわたる虐待、継母の冷たい言葉、義姉の笑い声が廊下に響き渡る。
毎日、生きていること自体が罰せられているように感じた。何も感じなくなってしまった。
母を亡くした。姉は4年間昏睡状態にある。時々、自分は本当に呪われているのではないかとさえ思った。
幼い頃の葵は、公園のベンチに一人座り、風が前髪をなびかせながら膝を見つめていた。
14歳になった時、私は完全に一人ぼっちだった。
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「あおい!」明るい声が聞こえ、彼女は物思いから引き戻された。振り返ると、13歳のナオミが満面の笑みを浮かべていた。顎まで届く明るい栗色の髪がそよ風に揺れ、目は閉じられ、いつもの明るい笑顔を浮かべていた。
ああ…そうだ。本当に孤独を感じたのは13歳の時だった。
ナオミは公園のベンチに彼女の隣に腰を下ろした。午後の日差しが温かい毛布のように二人を包み込む。あおいも思わず、優しく、そして心からの笑顔を返した。
ナオミとは小学5年生からの知り合いだ。
二人は静かな道を並んで歩いた。ナオミの空色の瞳は喜びで輝き、あおいの唇にはかすかだが真摯な笑みが浮かんでいた。
ナオミは最近、父親の岡野敦弘さんと共に都会の東京に引っ越してきた。彼女は母親を知らない――私には完全には理解できないけれど、なぜか共感もできた。
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ナオミはアオイの手をつかんで走り出した。後ろを振り返ると、笑い声が響いていた。
アツヒロおじさんも私に優しかったけれど…ナオミの温かさは違った。本物だった。
アツヒロの小さなパン屋で、アオイはカウンターに座り、焼きたてのパンを美味しそうに頬張っていた。ナオミはバターの皿をアオイの方へ滑らせた。パンと砂糖の心地よい香りが店内に漂っていた。
ナオミのおかげで、故郷での辛い生活を忘れることができた。本当に幸せだった。
たとえ周りの人たちが私たちを引き離そうとしても――特に従姉妹の牧野小原――ナオミは決して揺るがなかった。
ナオミがアオイの前に立ち、拳を握りしめ、目をギラギラさせた少年たちの集団からアオイを守ろうとするのを見て、アオイは微笑んだ。少年たちはナオミの怒りを知った途端、泣きながら逃げ去った。
ナオミはいつも私を守ってくれた。
彼女の笑顔は消え、暗闇が彼女を包み込んだ。
そして、あの日まで…。
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「お父さん!お父さん、お願い…起きて!」
病院の殺風景な静寂の中、ナオミの必死の声が震えた。彼女は父の力なく垂れ下がった手を握りしめ、膝をベッド脇の冷たい床に押し付けていた。
「行かないで…お願い、行かないで!」彼女はすすり泣きながら父の腕を揺さぶり、白いシーツに涙が飛び散った。「お願い!!」
アオイはドアのところで立ち尽くしていた。かすかな消毒液の匂いと、シャツにまだ残る血の鉄臭い匂いが混じり合っていた。震えるナオミの肩に視線を向け、アオイの手は震えていた。
ゆっくりと、ナオミが振り返った。涙で濡れた顔が歪み、悲しみが怒りへと変わっていった。かつて瞳に宿っていた温かさは消え、冷たく燃え盛る憎悪に取って代わられていた。
アオイは息を呑んだ。喉が締め付けられた。
「だめ…その顔だけは…」
ナオミの鋭い視線に射抜かれ、アオイの心臓は耳元で激しく鼓動した。
やめて…お願いだから、そんな目で私を見ないで…
ナオミは立ち上がり、背後の椅子が軋む音を立てた。震える唇が開き、言葉を発するのではなく、唸り声をあげながらアオイに向かって突進した。
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「奈緒はあんたに会いたくないんだから、さっさと出て行け!」15歳の牧野の鋭い声が廊下に響き渡り、行く手を阻んだ。皆が振り返り、ひそひそ声が聞こえてくる。
「お願い…話させて…」葵の震える声は遮られた。
「耳が聞こえないの?!」牧野は怒鳴りつけ、葵を強く突き飛ばした。「もう十分迷惑をかけたでしょ?あんたのせいで奈緒はもう学校に来られなくなったのよ。だから私も出て行くわ。」
牧野はさらに近づき、床に座り込む葵の小さな体に影を落とした。残酷な笑みが口元に浮かぶ。「認めなさいよ。あんたは奈緒みたいな人にふさわしくない。ただの呪われた負け犬よ。」
葵は震える目で周囲を見回した。生徒たちはひそひそと話し、顔を背け、嫌悪感を露わにしていた。
「やめて…お願いだからやめて…」彼女は頭を抱え、声が震えながら囁いた。
牧野はしゃがみ込み、その息が葵の耳元をかすめた。「ナオが今苦しんでいるのは、あなたのせいよ」と、牧野は低い声で言った。「あなたが彼を殺したの。人殺し!」
葵は凍りついた。そして、視界が赤くぼやけた。紫色の瞳が燃え上がり、気づけば、彼女は絞り出すような叫び声を上げながら牧野に飛びかかっていた。
……………………
あの日以来…私は学校を辞めた。そこから全てが転落していった。
家では、私は格好の標的となった。継母のタカネの残酷な言葉、義姉のシオンの嘲り、そして父の果てしない沈黙。
私は自分が憎かった。
生きていることが憎かった。
自分が存在していること自体が憎かった。
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「ちっ、うっ!!」ナオミの蹴りが刃のように空気を切り裂いたが、アオイは身をかわし、鋭いジャブで反撃した。ナオミはそれをブロックし、ブーツが地面をキーキーと音を立てて滑った。
「あんたって、いつも疫病みたいに厄介なのよ!」ナオミは怒りに燃える目で吐き捨てた。
「え?」アオイは一瞬戸惑い、瞬きをした。
「あんたは自分がみんなより偉いと思ってるの?!」ナオミは怒りで声が震えながら叫んだ。「だからこの街に来たんでしょ?!まるで聖人ぶって、ヒーロー気取りで!」
アオイは腕をX字型に組み、ナオミの次の蹴りをうめき声を上げながら受け止めた。
「あの頃から、あんたはただ自分の実力を証明したかっただけなのよ!」ナオミは体をひねり、パンチを繰り出した。アオイはかろうじてそれを受け流した。「あんたは平凡でいることに耐えられなかったのよ!」
二人の拳は立て続けにぶつかり合い、衝撃のたびに空気が震えた。
「なんで戦うのよ!?」ナオミは叫び、激しく、必死に身をよじった。「あなたは一人ぼっち!ずっと一人ぼっちだったじゃない!」
彼女は後ろにひねり、踵をアオイの肋骨に容赦なく叩きつけ、アオイは地面に倒れ込んだ。アオイは地面に叩きつけられたが、間一髪で立ち上がり、次の攻撃をかわした。
「あなたはいつも一人ぼっちだった!」ナオミは再び叫び、拳を地面に叩きつけた。「でも私は――」もう一発の攻撃。「――私には人がいた!」彼女の声は震え、怒りは苦痛へと変わっていった。「なのに、あなたは彼を私から奪ったのよ!」
彼女は最後の一撃を繰り出そうとしたが、アオイは空中で彼女の手首を掴み、頭を垂れ、震えていた。
「私……」
彼女の拳が突き出され、ナオミの頬に叩きつけられた。ナオミは頭を横に揺らし、体が床を滑るように後ろに倒れた。二人はしばらく言葉を交わさず、ただ荒い息遣いと、息を呑む観衆の微かなこだまだけが響いていた。
「戦わなきゃいけないから!!」アオイはそう言い返し、拳を突き出したが、ナオミは身をかわし、ブーツが地面を擦る音を立てた。
「…だって、私が戦わなかったら、誰が戦ってくれるの?!私が強ければ、もしかしたら…もしかしたら…!!」ナオミの攻撃をかわし、反撃のパンチを繰り出した。
「もう二度と置いていかれたくない!!一人ぼっちだって分かってるけど、それでいいんだって自分に言い聞かせてる…!」踵を返して、ナオミの脇腹に蹴りを入れた。
「…だって、もし他人の目を気にし始めたら…もし心が折れてしまったら…今まで生きてきた全てが無意味になってしまう!だから、私は進み続ける。そうするしかないの!」ナオミは衝撃でよろめいたが、体勢を立て直し、アオイの次の蹴りを前腕で防いだ。その衝撃で数歩後退し、ブーツが地面を擦った。
「それでもね」アオイは叫び、猛然と距離を詰めた。「孤独だったからこそ、今の私がいるのよ!」彼女は飛び上がり、足を振り下ろすと同時に空中で体をひねった。
「だって、そうやって私は自分を見つけたんだもの!望んだわけじゃないけど、それでも生きてきたのよ!」
ナオミは一瞬凍りついた。頭の中には、アオイと父親と過ごした、暖かい日差しの中で笑い合ったあの頃の記憶がよぎった。しかし、アオイの蹴りが腹部に炸裂した瞬間、その記憶は消え去った。ナオミは息を呑み、後ろに吹き飛ばされ、一回転してからしゃがみ込んだ。血を吐き捨て、再び立ち上がった。反抗的な態度で。
アオイはポケットに手を入れ、革手袋を取り出した。ナオミは首を傾げた。
「え?何してるの?」
「ああ、これ?」アオイはニヤリと笑い、手袋をはめた。「気にしないで。誰かからもらったものなの。」
アヤネは席から目を見開き、手袋に見覚えがあった瞬間の記憶が蘇った。
……
「私…これをあなたにあげたいの。」
「手袋?」
「革手袋。強敵と戦う時とか、…気が向いた時にいつでもつけていいわよ。もし、そうしたいならね。」
...............
あの日の葵への言葉が頭の中でこだまする中、一筋の涙が彼女の頬を伝った。「…ただ、もう二度とあなたに怪我をしてほしくないの。」
葵は観客席の方へ顔を向け、驚いた様子の綾音と視線を合わせた。かすかに口元に笑みを浮かべ、再び直美の方を見た。
「それからね」と、彼女はニヤリと笑いながら言った。「昔、約束したでしょ…いつか、あなたが私についていけるくらい強くなったら、本気で勝負しようって」
中野は息を呑み、少し目を見開いた。
…………
数年前、12歳のアオイとナオミは静かな野原に立っていた。風が背の高い草をそよがせていた。
「わあ、すごいね、アオイ!」ナオミは座ったまま笑いながら、アオイが完璧なダブルバックフリップを決め、軽く着地するのを見ていた。
「ありがとう」とアオイは気楽な笑顔で言った。
「私もあなたみたいに強かったらいいのに」ナオミは膝を抱えて口を尖らせた。
アオイはくすっと笑った。「もう十分強いよ」
「言うのは簡単よ。私はパンチを繰り出すことしかできないんだから」ナオミはふくれっ面をした。
「それだって強さって言えるよ」と葵がからかうと、直美は笑った。
それから直美の口調が和らいだ。「ねえ、約束しようよ」
「え?」
「私がもっと強くなったら――今のあなたみたいに――本気でスパーリングしよう」
葵は瞬きをしてから、目を輝かせて微笑んだ。「いいわよ」
直美は満面の笑みを浮かべ、その笑い声が風に溶け込んだ。
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現実に戻ると、ナオミは静かに息を吐き、懐かしそうに微笑んだ。
「ええ」と彼女は呟き、拳を突き上げた。「そうね」
彼女は構えを取り、瞳に決意の光を宿らせた。「だから、今ここで、約束を果たそう」
アオイも彼女に倣い、鋭い笑みを浮かべた。「喜んで」




