過去のこだま
「やあ、ナイチンゲールズ」中野は冷笑しながら言った。「久しぶりね」
ライトは鼻で笑った。「チームを移るのにずいぶん時間がかかったな」
中野は肩をすくめた。「だって、私って行動が早いんだもん」彼女は隣の男の肩に腕を回した。「少なくとも彼氏ができたしね」
葵は眉を上げた。「えっと、何週間も経ってないでしょ?すごいどころか、必死すぎじゃない?」
陸也は眼鏡を直した。「だからさよなきの入学試験を受けたのか…」
「ライトのイケメン目当てで口説いてるのかと思ってた」美鶴がニヤリと笑って付け加えると、ライトは耳を赤くして睨みつけた。
「指摘されたら耐えられないんでしょ?」美空が口を挟み、中野をじっと見つめながら、抑揚のない声で言った。
中野は拳を固く握りしめた。
「おい、サヨナキを追い出したのはあいつかか?」隣にいた少年、天元正樹が眉をひそめて尋ねた。
「ああ」中野は吐き捨てるように言い放ち、目を細めた。「あのバカげた試験、全部満点で合格したのに、それでも私を突き放した。『チームワークが足りない』って。冗談じゃないわ。独善的なバカどもめ。」
美空は腕を組んだ。「それで、黒氷に這いつくばって逃げたの? なかなかやるわね。」
「黙れ!」中野は声を荒げ、一歩前に出た。「あんたが何様のつもりで私にそんな口の利き方をするの? ちょっと命令しただけで、私より偉いとでも思ってるの? 冗談じゃないわ。」彼女の声は毒々しくなった。「あんたは私を辱めた。でも今は、私は金子様の部隊、ナイトクローの一員よ。あんたは?」お前はただの負け犬で、肩書きにしがみついているだけだ。
空気が瞬時に張り詰めた。綾音は一歩前に出て、美空の隣に立ち、少し頭を下げた。彼女が顔を上げると、その瞳はターコイズブルーの怒りに燃え上がっていた。
「ねえ。話しかけてるのは私の姉ちゃんよ」彼女の声は冷静で、それでいて恐ろしい響きを持っていた。「もう一言でも言ったら、私…」
「どうするって?」中野が嘲るように口を挟んだ。「泣く?可愛いね。綾音、そんなに気が強いとは思わなかったよ。まあ…『この姉妹は似た者同士』って言うでしょ?同じ巣から生まれた二人の変わり者」
黒豹たちの間に笑い声が広がった。綾音は震え、拳を握りしめ、指の関節が白くなるほどだった。しかし、美空の手がそっと肩に置かれると、動きは止まった。
「大丈夫」美空は静かに言った。
「でも、お姉ちゃん…!」
「綾音」たった一言――落ち着いた、決定的な言葉だった。綾音は舌打ちをして後ずさりし、中野を睨みつけた。陸也の目はわずかに見開かれた。ほんの数分前まで、綾音は怯えきっていたのに、今は殺意をむき出しにしている。
金子が沈黙を破り、ため息をついた。「もういいわ、中野」と、柔らかな視線を向けながら言った。「集中力を切らさないで」
中野は舌打ちをしたが、一歩下がってニヤリと笑った。金子の視線は再び葵へと向けられた。
「さて」と彼女は滑らかに言った。「私たちの目的はただ一つ。最初に私たちのグループに手を出した人物を捕まえること。そういうことは許さないわ」
葵は肩をすくめて、「わかったわ。何が望み?」と答えた。
金子の笑みがさらに深まった。「決闘よ。あなたと私のナイトクローの一人とね」彼女はまだ腕に包帯を巻いているユリの方を指差した。「怪我をした方は不在だから、代わりを用意するわ」
葵は眉を上げた。「それで、条件は?」
「あなたが勝ったら」金子は鋭い笑みを浮かべながら言った。「黒豹とナイトクローは解散する。永久にね。でも、私たちが勝ったら…」彼女の視線が光った。「代わりにサヨナキが解散するわ」
ナイチンゲールズは凍りついた。
「サヨナキ…解散?」美鶴は聞き返した。
「正気じゃないわ」とメイは呟いた。
「ああ、絶対にそんなことには同意しないよ…」とライトが言いかけた。
「私は承諾する」とアオイが遮り、落ち着いた声で言った。
「えっ!?葵…」美鶴は呆然とした。
「わあ、あっさり承諾してくれたのね!」金子の笑みがさらに深まる。「気に入ったわ。さて、あなたの対戦相手は…」
「金子さん!」群衆の中から声がした。フードを被った二人の人物が前に進み出て、一人が気だるそうに手を上げた。「私たちのこと、忘れてないよね?」彼女はふくれっ面をし、フードが顔に影を落とした。
金子は面白そうに横目で見た。「あ、そうだった。ごめんね。あなたたち二人を外すわけにはいかないでしょ?」
葵はため息をついた。その声、聞き覚えがある。
「だって、あの友達がいつまでも何も知らされないままだったら、いいじゃない?」最初の人物はニヤリと笑い、フードを下ろした。すると、背中の真ん中まで届く、長く艶やかな漆黒の髪が現れた。かすかに紫がかった黒の光沢を帯び、真っ直ぐにカットされた前髪が、紫がかった灰色の瞳を縁取っていた。
「牧野…」葵の声は低く、目に怒りが宿った。麗奈たちは困惑と好奇心に満ちた視線を交わした。
「久しぶりね?」牧野小原は冷ややかに微笑んだ。「こんなに早く再会するとは思わなかったわ。」
「会わないでほしかったわ」葵は言い放った。「ここで何してるの?」
「落ち着いて」牧野は不気味に笑った。「昔の友達にそんなに冷たくしなくてもいいじゃない」
友達?と葵は苦々しく思った。まさか。
「だって」牧野のニヤリとした笑みが深まった。「最後に会ってからたった2年半しか経ってないじゃない」彼女は少し首を傾げた。「…そう思わない?奈緒ちゃん?」
葵は息を呑んだ。な、奈緒ちゃん?まさか…
もう一人の人物はフードを下ろした。すると、銀色のニュアンスがかすかに混じった、ミディアムロングのストレートなアッシュブラウンの髪が現れた。サイドバングが左目を少し覆っていた。
「奈緒美…」葵は囁いた。驚き、痛み、そして切望――様々な感情が顔に浮かんだ。岡野奈緒美はただ葵を見つめていた。くすんだ青緑色の瞳には、何の感情も宿っていなかった。
牧野の笑みがさらに深まった。 「よし、決まりね。桜庭、私たち二人で相手してあげるわ」彼女はユリに目をやり、「仲間を助けてあげた恩だと思ってちょうだい」と言った。
レイナたちは息を呑んだ。
「二人対一人?!ありえない!」陸也が叫んだ。
「全然公平じゃないわ」メイが鋭く言った。
「公平だって?」牧野は挑発した。「誰が公平だなんて言ったの?」彼女はニヤリと笑って葵をちらりと見た。「まあ…相手が降りるなら話は別だけどね。」
葵はナオミをじっと見つめ、顎をきつく引き締めた。「私がやるわ」と彼女は突然言った。
「えっ!?」レイナが叫んだ。
「二人とも私が相手にするわ。」
金子はニヤリと笑い、目を閉じた。「完璧ね。じゃあ決まりね。」
葵の視線が鋭くなった。「それで、どこで戦うの?」
金子は微笑んだ。「あなたたち3人は、常に戦いがきちんと行われる場所…アビスアリーナで戦うのよ。」
美鶴はごくりと唾を飲み込んだ。「そ、そ…」
「…アビスアリーナ!?」陸也は驚愕の声を上げた。「とんでもない!」
葵は彼らに目をやり、「どうして?ここはどんな場所なの?」と尋ねた。
綾音は緊張した声で彼女の方を見た。「あ、あの、アビスアリーナは、ギャング同士が抗争を決着させるために戦う、残忍な地下闘技場です。」
「その通り。」金子は頷いて同意した。「金曜日の午後6時。本当は明日にしようと思っていたんだけど、別のギャングと決着をつけなきゃいけないんだ。どうかな?」
皆が葵の返事を待っていた。葵は無表情でこちらを見つめている直美に目をやった。彼女は唇を噛み締め、それから視線を落とし、拳を固く握りしめたままだった。
「最高です。」彼女はそう答えると、視線を金子に戻した。金子は冷たい笑みを浮かべ、背を向けた。
「よかった!じゃあまたね~」金子は気だるそうに手を振り、黒鱒の残りのメンバーも彼女の後を追った。彼女たちが遠ざかっていくと、ナイチンゲールたちは葵の方を向いた。
「葵…本当にこれでいいのか?」涼は静かに尋ねた。
葵は答えなかった。ただ、拳を握りしめ、人影のない通りを見つめていた。踵を返し、数歩進んだところで立ち止まった。
「ええ。たぶん大丈夫」と呟くと、彼女は歩き去り、薄暗い光の中に姿を消した。
ライトは彼女の後ろ姿を見送った。彼の表情は複雑だった――怒り、心配、そしてもっと深い何か。
上の方、近くの屋上から、影のような人影が葵をニヤリと笑って見つめていた。
「すべて計画通りだ」と囁いた。低く、不気味な笑い声が響いた。
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夜の空気は街灯のざわめきで重く、黒豹たちは薄暗い路地を歩いていた。濡れた舗道にブーツの音が響く。一行の最後尾には、牧野と直美の二人の姿があった。
牧野は両手を頭の後ろに回し、いつものように口元に笑みを浮かべた。「あいつに会ってからずっと黙ってるじゃない。どうしたの、直美? 猫に口を塞がれたの?」
直美は何も言わず、淡い青緑色の瞳を地面に落としていた。足取りは穏やかだったが、どこか重苦しく、まるで一つ一つの動きに記憶が宿っているかのようだった。
牧野は首を傾げ、からかうような声で言った。「ねえ、そんなに黙らないでよ。少し話したって死ぬわけじゃないでしょ?」
それでも直美は沈黙を守った。
先頭を歩いていた金子は、肩越しにちらりと視線を向けた。その声は滑らかだったが、好奇心に満ちていた。 「さっきは二人とも大騒ぎだったわね。いきなりユリの代わりに戦うなんて、大胆ね。」
彼女はニヤリと笑った。「何か事情でもあるの?昔のライバルとか?それとももっと深い何か?」
牧野の笑みが曇った。「前に言った通り、彼女とはまだ決着がついていないの。ボス、すぐに分かるわよ。金曜日は待った甲斐があるわ。」
金子は小さく笑い、顔を背けた。「その言葉、覚えておくわ。」
しばらくの間、壁の間には足音だけが響いていた――やがて、ナオミが静かに、遠くから聞こえるような声で口を開いた。
「何でもないの」と彼女は呟いた。「ただ…思い出が蘇っただけ。」突然の彼女の声に、皆が振り返った。牧野の笑みも少し曇った。
「あら、やっと喋ったわね」と金子はからかうように言い、目に面白みを浮かべた。
ナオミは両手を固く握りしめ、再び視線を落とした。「私、彼女と戦うわ」と静かに言った。
カネコは眉を上げ、頷いた。「ああ。それが作戦だ」
ナオミの前髪の下から、かすかに光る瞳が浮かんだ。「違う。本当に戦うのよ」。彼女の声のトーンは、冷静でありながら冷たく、その場に一瞬、背筋が凍るような感覚をもたらした。
マキノは従姉妹を横目でちらりと見て、唇に小さく危険な笑みを浮かべた。「ふふ。思ったよりずっと前から待ってたみたいね」
ナオミはマキノを横目で見返し、くすんだ青緑色の瞳にかすかな光が宿った。
「でも、私のことも忘れないでね」と、わざとらしく不満そうに付け加えた。「2対1なのよ、覚えてる?」
黒氷のメンバー数人が、小声でくすくす笑った。
「牧野、絶対気取ってるな」と誰かが呟いた。
「ああ」と別の者がニヤリと笑った。「でも、私が警戒すべきは直美の方だ」
金子はポケットに手を入れたまま、二人の間を見ながら軽く笑った。「放っておけばいいわ。あの二人はタイプが違うのよ」
彼女の笑みは以前よりも鋭くなった。「牧野には鋭く自信に満ちた炎がある。笑うだけで血が滲むような炎ね」。彼女の視線は直美へと移った。「でも、彼女の従姉妹は?静かな人ほど、とんでもない一撃を放つものよ」
彼女は暗い道の方を振り返った。「どんなに穏やかな心でも、最も恐ろしい意図を隠していることがあるのよ」
一行は静まり返り、足音は夜の闇へと消えていった。




