ライバル関係の火花
「あんたはただの呪いよ。」
「一体何しに来たの?」
「私たちから離れろ!」
葵は飛び起き、胸を大きく上下させながら目を見開いた。冷や汗が肌に張り付き、静寂の中で荒い息を吐く。部屋を見回し、見慣れた壁に視線を無理やり固定する。ただの夢だ、と自分に言い聞かせ、片手を膝に当て、もう片方の手で濡れた前髪をかき上げた。他の人たちと同じように…終わりがない。
壁に立てかけられた傷だらけの鏡まで這って行き、さよなきのジャケットの袖に腕を通した。鏡に映る自分の姿は、疲れ果て、そして打ちひしがれていた。ゆっくりと息を吐き出し、踵を返してドアから出た。
……
さよなきの街は、人々の話し声と笑い声で賑わっていた。ポケットに両手を突っ込んだ葵の足元に、そのざわめきが響いていた。彼女の視線は通りの向かいにある小さな店に留まった。そこは彼女のお気に入りの場所だった。鼻歌を口ずさみながら、彼女は店へと渡った。ドアを開けると、ドアの上のベルが静かに鳴った。
「おはよう」と彼女はつぶやいた。
「あおい!おはよう!」カウンターの向こうから綾音とコウタが声を揃えて言い、二人とも満面の笑みを浮かべた。
「やあ」葵はカウンターの椅子に腰掛け、綾音の制服の上に重ねられた温かみのある黄土色のエプロンに目を細めた。
「そのエプロン、どうしたの?」と彼女は肘をカウンターに置きながら尋ねた。
綾音はシンクから振り返り、頬をほんのり赤らめた。「今朝はパパの開店を手伝おうと思って。それと…何か作ろうと思って」
コウタは皿を磨きながら、横でくすくす笑った。「君のために作りたかったんじゃないかな」
綾音は明るい笑顔で肩をすくめた。「まあ、確かにそうね。ちょうどいいタイミングだわ」彼女はくるりと振り返り、湯気の立つ皿を葵の前に置いた。
葵は瞬きをし、食べ物を見て目を大きく見開いた。「これは…」
「オムライス!」綾音は得意げに言い放ち、満面の笑みを浮かべた。「たまには味を変えてみたら?」自信満々に腰に手を当てた。葵は綾音を一瞥し、それから再び料理に目を向けた。
「さあ? じっと見てないで、食べてみて。」綾音はそう言って、スプーンを皿の横に置いた。
「え?」葵は瞬きをしながら呟いた。
「感想を聞きたいの。」綾音は腰から手を下ろし、期待に満ちた目で葵を見つめた。葵は眉を上げ、スプーンを手に取り、一口すくって食べた。舌に広がる味に、葵は思わず息を呑んだ。綾音は少し身を乗り出し、期待に満ちた目で葵の表情を伺った。
「…おいしい。すごくおいしい。」葵は飲み込みながらそう認めた。
綾音は安堵のため息をついた。「ふふ! 気に入ってくれると思ってたわ。」
葵がもう一口食べると、綾音の満足そうな笑みはさらに大きくなった。
「そりゃそうだろうね。学校に行く前に君も少し取っておいた方がいいよ」とコウタが言うと、綾音は思わず息を呑んだ。
「そうだね!」彼女はエプロンを脱ぎ捨てながら叫んだ。急いで皿に料理を盛り付け、早口で食べ始めた。
「ゆっくり味わって食べたら?だって自分で作ったんだから」葵は自分の料理をつまみながら言った。
「そうかもしれないけど、遅刻するわけにはいかないわ」綾音は時計を見て言い返した。午前8時30分。すでに食べ終わっていた綾音は水をゴクゴクと飲み干し、カウンターから飛び降りた。
「さあ、行こう!」綾音は葵の腕をつかんで促した。
「ちょ、ちょっと!まだ食べ終わってないよ!」葵は抗議したが、スプーンがガチャガチャと音を立ててドアの方へ引きずられていった。
「学校で良い一日を!」ドアの上のベルがチリンと鳴ると、コウタが二人に声をかけた。彼は入り口を見ながら、温かい笑顔を浮かべた。
................
葵はポケットに手を突っ込み、ぶつぶつと独り言を言いながら、足早に歩いていた。一方、綾音は軽快なスキップで先を進んでいた。
「あなたの独り言、全然静かではないわよ」と、綾音は肩越しに葵をちらりと見てからかった。
「誰のせいよ!」と、葵は鋭い声で言い返した。
綾音はくるりと振り返り、ニヤリと笑いながら後ろ向きに歩き出した。「さあ、初日から遅刻したくないでしょ?」
「せめて朝食くらい食べさせてよ!」と、葵は苛立ちを露わにして怒鳴った。
綾音は笑いながら、くるりと向き直った。「とにかく、急ぎましょう。開会式に間に合わなきゃ!」と、腕を振りながら行進の真似事をした。
「開校式…」葵はぼんやりと呟いたが、突然綾音が隣に現れたことにハッと我に返った。
「そうよ。でもその前に、入学試験の成績でクラス分けされるのよ。」
「分かれるのね…」葵は独り言ちたが、綾音が腕を引っ張ったので思考は中断された。
「さあ、早く!」綾音はそう言って葵の腕を引っ張り、二人は校門に向かって駆け出した。中庭に入ると、綾音は葵の手を離し、笑い声を上げながら先へ飛び出した。葵はポケットに手を突っ込み、茶髪の少女が元気いっぱいに駆け回る様子を眺めていた。コウタの言葉がかすかに頭の中でこだましていた。
綾音は…ちょっと短気で、すぐにカッとなる。だから、どうか彼女がトラブルに巻き込まれないように見守ってあげてください。彼女はたいていちょっと…気まぐれで、神経質なところがあるんです。
あんなに明るい子が、どうしてあんなに激しい一面を持っているんだろう?葵はそう思いながら、額に一筋の汗が伝うのを感じ、眉をひそめた。
綾音は階段をスキップしながら駆け上がり、両手で口元を覆って振り返った。「葵!早く!」
葵はため息をついた。「はいはい、今行くわ」綾音がドアを押し開けて中へ飛び込むと、葵は足を引きずりながら階段を駆け上がった。
綾音は廊下の掲示板を見つけた瞬間、目を輝かせた。「あれよ!」と叫び、小走りで先へ進んだ。
「あれって何?」葵は眉をひそめながら後を追った。
「クラス名簿よ」綾音は書類をざっと見ながら、まるで飛び跳ねるように説明した。「入学試験の結果がもう出てるわ」
「ずいぶん早いわね」葵は綾音の隣に立ち止まり、呟いた。
「いや、いや、いや、やっぱり違う」綾音は名簿を指でなぞった。「いや、いや…違う…絶対違う…あ、そうだ!」彼女の目が輝き、満面の笑みが広がった。葵の方をくるりと振り向き、思わず叫びそうになった。
「見て!私たち、同じクラスよ!」葵は身を乗り出し、名簿をざっと見て、1年3組の名前を見つけた。
「そうみたいね」と彼女はそっけなく答えた。
綾音はすぐに腕を回して彼女を抱き寄せた。「よかった!葵、私と一緒ってわけね!」
「うん」と葵は小声で呟いた。「なんて運が悪いの」
綾音は名簿をもう一度見渡し、眉をひそめた。「あれ…せつなの名前がどこにもない。別のクラスになったのかな」
葵は落ち着いた口調でちらりと視線を向けた。「大丈夫よ。学校で会えるわ」
その言葉で綾音は少し元気を取り戻したようで、葵に優しく微笑みかけた。「そうだね。ありがとう」
葵は一瞬綾音と視線を合わせ、小さく息を吐きながら横を向いた。
「よし!教室を見に行こう!」と綾音はいつもの元気を取り戻し、階段に向かって駆け出した。葵は後ろを自分のペースでついて行った。
「クラスに他に誰がいるかなんて、全然気にしてなかったの。みんなと一緒にいられるだけで嬉しくて、興奮しすぎて」と、あやねは笑いながら言った。
「そんなこと、どうでもいいじゃない。すぐに分かるわよ」と、あおいは視線をまっすぐ前に向けたまま、落ち着いた声で言った。
あやねはあおいの方に顔を向けた。「ねえ、新しい人に会えるって、ちょっとくらいワクワクしてないの?」二人は教室のドアの前で立ち止まった。中からはかすかな話し声が聞こえてくる。
あおいは何も言わず、床に視線を落としたままだった。
新しい人と出会いたくないわけじゃない…彼女は胸が締め付けられるような思いでそう思った。でも、もし誰かに私の正体がバレたら…それこそ避けたい。お願い、ここにいる誰にも私の本当の姿が知られないで。いや、それよりも…あまり人と関わらないようにした方が安全かもしれない。
「葵?…葵?」綾音の声が彼女の思考を遮った。瞬きをして、葵は驚いて綾音の方を向いた。
「大丈夫?」
「大丈夫」彼女は肩の荷を下ろすように息を吐きながら、慌てて答えた。「心配しないで。」
綾音はかすかにうなり声を上げたが、それ以上は何も言わなかった。葵はドアノブに手を伸ばし、一瞬目を閉じてから再び開いた。
「まあ…とにかく、中に入ろう。」静かにドアが開くと、中にあった賑やかな話し声が途切れ、好奇心に満ちた静寂が訪れた。数十の視線が二人に注がれた。
綾音はごくりと唾を飲み込み、ポケットに手を突っ込んだままじっと立っている葵にそっと近づいた。何人かの男女は席をよじって様子を伺い、また何人かは机に座ったまま、さりげない視線で興味を露わにしていた。
窓際で、銀髪の少女の紫色の瞳が、二人の姿を見てわずかに見開かれた。
葵の視線は部屋の向こうへと移り、最前列に座る茶髪の少年が、ヘッドホンを耳にしっかりとつけ、聞こえない音楽のリズムに合わせて頭を揺らしているのが目に入った。彼の隣では、紫色の髪の少女が周囲の様子を全く気にせずスケッチブックに没頭していた。その前にはピンク色の髪の少女が、片手で化粧をしながらもう片方の手でスマホを操作し、自分にしか見えない何かに微笑んでいた。
二人が足を踏み入れた途端、賑やかな話し声は静まり、ひそひそとした囁き声に変わった。
「あれ、彼女だ…」
「昨日のあの子?」
「彼女…本当に私たちのクラスなの?」
視線が向けられるたびに、葵は身動きが取れなくなり、囁き声に警戒心を強めていく。
「一体何が起こっているの?」と彼女は思った。隣に座る綾音は教室を見回し、後方の人影に気づくと、目を見開いた。
葵は眉を上げて彼女の方をちらりと見た。「ねえ、どうしたの?」と彼女は尋ねた。
「あそこにいるわ!メイ・シュエ!まさか私たちのクラスにいるなんて!」綾音は目を輝かせながら息を呑んだ。葵は綾音の視線を追って、窓際の最後列に座る銀髪の少女を見た。紫色の瞳は既に驚きを隠せない様子で彼女を見つめていた。
「まさか…本当に彼女なの?」綾音は悲鳴をこらえようと両手を胸に当てながら呟いた。「でも一番後ろの席に座ってるし…もしかして…ちょ、ちょっと!葵!何してるの?!」
青い髪の少女は既に綾音の横を通り過ぎ、両手をポケットに突っ込み、まっすぐメイの方へ向かっていた。彼女が銀髪の少女の前に立ち止まると、教室は静まり返った。メイは驚いて瞬きをした。
「昨日は手伝ってくれてありがとうって言った方がいいかな」と葵は首の後ろをこすりながら呟いた。メイは目を見開いた。
「ほら、試験の最終段階でセツナを手伝ったこと。同じチームじゃなかったけど。」彼女は少し眉を上げた。
メイの唇に柔らかな笑みが浮かび、静かにくすっと笑った。「大したことじゃないわ。ただ、お役に立てて嬉しかっただけ。」
アオイは不意を突かれて瞬きをし、咳払いをしてから両手をポケットに突っ込んだ。
「ええ、もちろん。」とアオイが呟くと、アヤネがメイに目を輝かせながら、まるで飛び跳ねるように隣にやってきた。
「こんにちは!私は白川アヤネ!メイ・シュエさんですよね?!」と、アヤネはノートとペンを手にしながら、思わず口走った。
「えっと…」とメイは言いかけた。
「まさか本当に私たちのクラスにいるなんて信じられない!昨日はすっぴん、すつなを手伝ってくれてありがとう!2年前に引っ越してきたって聞いたよ!あなたの家族は調和の道の達人だよね?!あなたの得意なことは何?身長は?好きな食べ物は?好きな色は?!」
質問の洪水が止まることなく押し寄せた。メイは何度か瞬きをしてから、かすかな笑いを漏らした。アヤネの頬は赤く染まった。
アオイはただ呆然と、口をぽかんと開けて見つめていた。
「あ!ごめんなさい。質問しすぎたし、詮索しすぎましたね」アヤネはそう呟き、ターコイズブルーの瞳を床に落とした。
「いえ、大丈夫です。ただ、私にそんなに興味を持ってくれる人がいるなんて、ちょっとびっくりしただけです」メイは優しく微笑みながらくすくす笑った。「恥ずかしがる必要はありませんよ」
「あ、そうですね…でも、気を抜かないようにしないと」アヤネは小さく、緊張したように笑いながら後頭部を掻いた。
「本当に」アオイはため息をつき、目を閉じて横を向いた。
アヤネはメイの方を振り返った。「シュエ先生と同じクラスになれて、本当に光栄です。それとも…私…?」
メイはくすくす笑った。「メイって呼んでください。そうしていただけると嬉しいです」
綾音は頷きながら、口元に温かい笑みを浮かべた。
「そろそろ席に着いてくれない?」葵は冷ややかに呟き、芽衣の隣の席に腰を下ろした。
「あ、そうだった!」綾音は慌てて前の席に座り、背もたれに腕を乗せながらニヤリと笑って振り返った。
「新しい授業、結構楽しみにしてるんだね?」
「うるさい!」葵がふくれっ面をすると、二人はくすくす笑った。ドアが開くと、二人のざわめきは静まり、二人の男子生徒に挟まれた人物に全員の視線が集まった。
「まさか…」誰かがささやいた。
「あれ、ライトだよ。」
「すごく可愛い…」と、ある女の子が息を呑んで付け加えた。
葵は、ハッと気づいて眉をひそめた。あの人…彼女はそう思いながら、ポケットに手を突っ込み、目を閉じて颯爽と入ってくる彼を見つめた。周りには小さな人だかりができていた。
綾音は身を乗り出し、驚きの声を上げた。「わあ、彼もここにいる。」
「彼、知ってるの?」葵は彼女をちらりと見て尋ねた。
「ええ、もちろん。知らない人なんていないでしょ?風早ライトよ」綾音はノートを開きながら答えた。「中学の頃から強くて、いつも早川満と岡部陸也と一緒なの。あ、それから、さよなき高校のリーダー、風早涼の弟よ」
葵は目を丸くした。「さよなきのリーダーの弟なの?」
綾音は頷いた。芽衣が静かに付け加えた。「そうよ」
「数回しか会ったことないんだけど」綾音は続けた。「ほとんど話さないの、特に女の子の前では。すごくよそよそしくて、無口なの」
教室のざわめきが耳に届くと、葵は鼻で笑い、目を閉じた。「やっぱりね」
「おやおや、ここが俺たちのクラスになったのか」陸也は眼鏡を鼻の奥に押し上げながら言った。
「ああ。でも、こいつが同じクラスになったのはいい気分だな」美鶴はそう言って、ライトの肩に手を置いた。ライトは触れられた感触に身じろぎ、目を開けた。彼の視線はすぐに教室の奥にいる葵に注がれ、眉をひそめながら彼女の方へ歩み寄った。
「おい、どこ行くんだ?」美鶴は眉をひそめて尋ね、陸也も同じように不思議そうに尋ねた。ライトは答えず、まっすぐ前へ進み、葵の前に立ち止まった。
綾音と芽衣は、彼の沈黙に不安を感じ、顔を見合わせた。
葵は気だるそうに顔を上げ、半ば閉じかけた目で彼と視線を合わせた。「何?」と彼女は鼻で笑った。
沈黙が長く続いた。そして、彼は無感情で冷たく言った。
「立て。お前は俺の席だ。」教室は静まり返り、衝撃がクラス全体に広がった。
「え?」




