勝利の影で
明日香と彼女のチーム――2年生の試験官6人――は、学校の屋上に立っていた。美空と陣は、フェンス近くのベンチにゆったりと腰掛けた麗奈の両脇に立っていた。風が彼らの髪とジャケットを揺らしていた。
「それで」麗奈はいたずらっぽい笑みを浮かべ、両手を床につけて身を乗り出した。「どうだった?」
「すごい!」一人が息を呑み、目に畏敬の念を宿した。
「あんなに根性と行動力のある戦い方をする人、見たことないわ」別の誰かが明るい笑顔で付け加えた。
「本当にすごかった。最初から完全に不意を突かれたわ」
「それに、プロジェクト・ゼロを倒した時のことも忘れちゃいけないわね。最高だった!」別の誰かが胸に拳を当てて歓声を上げた。麗奈は後ろにもたれかかり、片足をもう片方の足の上に組み、膝の上で指を絡めた。彼女の唇に柔らかな笑みが浮かんだ。
「よかった」彼女は呟いた。 「でも、一つだけ理解できないことがあるの」ユラの落ち着いた声がざわめきを遮った。アスカの傍らに立ち、両手を後ろできちんと組んだユラに、皆の視線が集まった。「どうしてあの娘、アオイから目を離さないようにって言ったの?彼女には一体どんな特別なところがあるの?確かに、才能があるのは昨日の試合を見れば明らかだったけど…でも、レイナが誰かにあんなに興味を示すのは珍しいわ」
レイナはかすかに笑い、少し頭を下げた。まつげが瞳を覆い隠す。「まあ…」彼女は視線を上げ、温かい微笑みが唇に浮かんだ後、いたずらっぽい笑みに変わった。「彼女は無視できない存在なの。特別なオーラがあって、意識しなくても人を惹きつける。それに…」彼女の声は鋭くなり、目が細められた。「彼女は、今にも爆発しそうな嵐なのよ」
その言葉は空中に漂い、一行は呆然とした。静寂が彼らを包み込み、その視線には畏敬と好奇心が入り混じっていた。アスカは静かにため息をつき、かすかに意味ありげな笑みを浮かべながら、頭の横を掻いた。
「まあ、レイナの言う通りよ。異論はないわ。大抵は正しいし…大抵はね」彼女は赤い髪の毛を指でくるくると弄びながら、屋上に柔らかな笑い声が響いた。
「プロジェクト・ゼロの起動スイッチの位置が特定できた今、次の行動はどうする?」アスカの左側からシノがクリップボードにメモを取りながら口を挟んだ。
「再構築するわ」レイナは肩をすくめ、腕を組んで答えた。「まだ開発段階だったから、無駄を省いて、もっと安全なものにできるはず」
「彼女の言う通りだ。改良すれば、後々役に立つかもしれない。だが、それまでに完成させなければならない」ミソラが腕を組みながら付け加え、ジンは力強く頷いた。
「そうだ!」全員が声を揃えて言った。
「ところで、ボスはどこだ?見かけないぞ」シノは屋上を見回しながら尋ねた。
「私も。久しぶりだね」と、アスカは彼の視線を真似て周囲を見回しながら付け加えた。
「あ、リョウ?ちょっと用事で出かけてたわ」と、レイナは軽く笑いながら後頭部を掻いた。「明日の歓迎式典には遅れるかもしれないって言ってたわ」
「まさか!」と、ミソラはこめかみの血管がピクピクと浮き出るほど驚いた。
「マジかよ?よりによって明日か?」と、ジンは額をこすりながらうめいた。
「去年やっておいてよかったわ」とユラは小声で呟いた。他のメンバーは意味ありげにニヤリと笑い、頷き合った。アスカはため息をつき、額に汗がにじんだ。
「じゃあ、明日の新入生歓迎会は誰がやるの?」と彼女は尋ねた。
「彼に任せたの。後から来るって。だって、私は副リーダーなんだもの」とレイナはニヤリと笑った。
ミソラは鼻筋をつまみながらうめき声を上げた。「わかったわ。でも明日は、せめて責任感のある態度を見せてよ」
「え?私、いつも責任感あるわよ」とレイナは口を尖らせて反論した。
「あんた、まだ子供じゃない!」とミソラは言い返した。
「わー!ひどい~」とレイナはわざとらしく涙を流し、他のメンバーは笑い出した。
...............
沈みゆく太陽が空をオレンジ、紫、深紅のグラデーションに染める中、中庭はゆっくりと人影を落とし始めた。一年生たちは明るい別れの挨拶を交わし、それぞれの道へと向かった。
「今日は本当にありがとう、葵。すっぴん、すっぴん」と刹那は優しく言った。
「もう、大したことじゃないわ」と葵は呟き、薄れゆく光が二人を優しく包み込む中、頬をほんのり赤らめた。
「葵、謙遜しすぎだよ」と綾音はからかい、友人が低い唸り声を上げるとくすくす笑った。刹那は二人のやり取りを微笑みながら見守っていた。
「じゃあね、刹那!」黒髪の少女が別の道へと曲がっていくと、綾音は声をかけた。
「また明日ね!」刹那は手を振り返し、歩き続けた。綾音は軽くため息をつき、葵と共にそれぞれの道を歩き続けた。
「なんて一日だったの!明日が待ち遠しいわ!すごくワクワクする!」綾音は両腕を頭上に伸ばしてから、バッグのストラップを握りしめた。
「もうヘトヘト。ご飯とベッドが欲しいだけ」葵はポケットに手を突っ込みながら呟いた。
「じゃあ、お父さんのお店でチキンカツカレーライスでも食べに行かない?今日は頑張ったんだから、ご褒美に絶対食べるよ。絶対気に入るから」綾音はにっこり笑った。葵は視線を落とし、湯気の立つカレーを想像した。…悪くないかも。
「よし、じゃあご褒美の時間よ!」綾音は勝ち誇ったような笑顔で宣言した。
「うん、今すぐ食べたい」葵はそう言って、一瞬目を閉じた。
「そうね!冷める前に急ごう!」綾音は葵の腕にしがみつき、走り出した。
「ちょ、ちょっと!スピードを落として!」葵は抗議したが、引っ張られるまま抵抗しなかった。
................
夜が更け、街灯がかすかに灯り、その光が人影のない歩道に広がっていた。中野は足を引きずりながら歩いていた。家に帰るなんてできない――こんな状態では。両腕で体を抱きしめ、恥辱に頭を垂れながら、美空の言葉が残酷なこだまのように頭の中でこだまする。彼女は狭い路地へと足を踏み入れ、歯を食いしばりながら足を止めた。
「あああああ! 不公平だわ! あんな風に私を辱めるなんて、一体何様のつもりなの?! 憎い! 全員憎い!」 中野はレンガの壁に拳を叩きつけ、その痛みが怒りを燃え上がらせ、茶色の瞳が燃えるように光った。「後悔させてやる。必ず報いを受けさせてやる。」
静寂を切り裂く、嘲るような低い笑い声が聞こえた。中野はハッと顔を上げた。路地の奥で、一人の少女が壁にもたれかかっていた。スマホの光が、フードを被った顔を不気味な薄明かりに照らしていた。片足をレンガに無造作に預け、片手をポケットに突っ込み、彼女は微笑んだ――ゆっくりとした、ぞっとするような笑みが、空気を凍りつかせた。
「あらあら…ついに誰かがキレたみたいね」少女のくすくす笑いが、路地の壁に微かにこだました。
「あんた、一体誰なの?」中野は唸り声を上げ、フードを被った人物に視線を向けた。
少女はひるむことなく、スマホをポケットに滑り込ませ、壁から降りた。笑みは消えない。「落ち着いて。喧嘩をしに来たわけじゃないわ。あなたのちょっとした怒りを耳にしたから…自己紹介しようと思っただけよ。」
「ちっ。」中野は顔を背け、腕を組んで防御した。
見知らぬ少女の足音が、ゆっくりと、そしてわざとらしく近づいてくるのを響かせた。「さよなき学園を退学になったんでしょ?試験すら最後まで受けられなかったんでしょ?」彼女の言葉には、わざとらしい同情がにじみ出ており、中野は怒りで目を見開いた。
「どうして知ってるの?!私を尾行してたの?!」中野は怒鳴った。
少女はフードの下で笑った。「尾行?まさか。さよなき学園の入学試験の時期は、総京志の誰もが知ってるわ。ただの学校以上のものなんて、偉そうに振る舞う、自己満足なバカどもよ。」
「どうでもいいわ。あんなくだらない連中には全く興味ない。」中野は腕を組み、軽蔑を込めた声で言った。
「その通りよ。」少女は滑らかな口調で言い、一歩近づいた。「偽物なんかに時間を費やすより、本物の仲間入りをした方がずっといいじゃない。真のギャング――そこでは力がすべてを決めるのよ。」彼女は手を差し出し、誘いのサインを空中に浮かべた。中野は一瞬それを見つめた後、狡猾な笑みを浮かべ、指でその申し出を掴んだ。
...............
福空マート&ダイナーのネオンの光が歩道に柔らかな光を放ち、人々が行き交う様子が街の喧騒と溶け合っていた。
「ただいま!」綾音は葵を引っ張りながらドアから入ってきた。
「おかえり」コウタは顔を上げて微笑んだが、その直後、目を見開いた。「うわっ!」彼は叫び声を上げ、二人の元へ駆け寄った。「どうしたんだ、二人とも!?怪我はしていないのか!?」
「大丈夫よ、お父さん。落ち着いて。入学試験でちょっと擦り傷ができただけ」綾音はそう言って安心させようとした。葵はポケットに手を突っ込み、じっと見つめていた。
コウタは安堵のため息をつき、肩を落とした。そして表情が変わり、瞳に希望の光が宿った。「それで?どうだった?」期待に胸を膨らませ、拳を握りしめた。
綾音は眩しい笑顔を浮かべ、突然葵の首に腕を回し、横から抱きしめた。青い髪の少女はびっくりした。
「入ったよ!」と彼女は叫んだ。コウタの顔はダイナーの明かりよりも明るく輝いた。歓声を上げながら紙吹雪の筒を開け、色とりどりの紙吹雪が二人に降り注いだ。
「やったー!二人とも本当に誇りに思うよ!」とコウタは叫び、二人をぎゅっと抱きしめた。彼の頬には、まるで滑稽なほどに涙が流れ落ちていた。
「あ、あの!」と葵はどもりながら、頬を赤らめて視線をそらした。
「ありがとう、パパ」と綾音は笑いながら、コウタが抱擁を解くと、彼女の頭に手を置いて髪をくしゃくしゃにした。
「パパ!髪が台無しだよ!」と彼女はくすくす笑い、コウタと一緒に笑った。
「あやね、本当に誇りに思うよ。試験合格、よく頑張ったね。ずいぶん大きくなったね」と、彼は優しく語りかけ、葵の方を向いた。葵は彼に背を向けたまま立っていたが、彼の笑顔は和らぎ、あやねにしたようにそっと彼女の頭に手を置いた。突然の触れ合いに、葵は目を見開いた。ゆっくりと振り返り、彼の温かい笑顔を受け止めた。
「葵、君も誇りに思うよ。よく頑張ったね」と、静かな真心を込めて彼は言った。彼の言葉に、葵の頬は赤らみ、瞳にはかすかな輝きが宿った。しかし、それも束の間。彼女は舌打ちをし、目を閉じた。
「もう、いいわ」と、彼女は呟き、彼の手を払いのけた。
「お父さん、これが何を意味するか分かるでしょ」と、あやねがいたずらっぽい笑顔で顔を近づけてきた。彼はニヤリと笑って頷き、二人は完璧なタイミングで拳を合わせた。 「勝利の食事だ!」と二人は声を揃えて叫び、葵はほっそりと汗をかきながらため息をついた。
綾音はチキンカツカレーを味わいながら、嬉しそうに鼻歌を歌っていた。「うーん!おいしい!」と満面の笑みを浮かべる綾音の隣に座る葵は、自分の分が運ばれてくるのを今か今かと待ちわびていた。
「さあ、どうぞ。成功のお祝いに」とコウタは優しく言い、葵の前に同じ料理を置いた。湯気が立ち上り、葵の目はそれを見て輝いた。
「じっと見てるだけじゃお腹に入らないよ」と綾音はニヤリと笑ってからかった。
「熱々のうちに食べた方がいいよ」とコウタは腰に手を当てて付け加えた。
慌てた葵の頬は赤くなった。「わ、食べるよ!急がなくてもいいよ!」と彼女は言い、スプーンですくって口に運ぶと、たちまち喜びで表情が和らいだ。さらに一口食べる葵を見て、父娘は思わず笑みをこぼした。
「ほら、美味しいって言ったでしょ」と綾音はにっこり笑った。
「急ぐなよ、葵。ゆっくりでいいんだ」とコウタは微笑んだ。
「うん!」と葵は頬を膨らませて頷き、コウタは静かに嬉しそうに二人を見守った。
「二人ともよくやった。これで正式にさよなき高校の生徒だ」
「うん!私もだよ、お父さん!」綾音は満面の笑みを浮かべた。「試験は最初はちょっと難しかったけど、なんとか最初の段階を突破できた。体力テストはそんなに大変じゃなかったよ。あ、それから、2回目のテストでは、葵と私でせつなっていう女の子とチームを組んだんだ。彼女、すごくかっこいい!」
「もう友達ができたのか」とコウタはくすくす笑った。
「もちろんよ!」綾音はニヤリと笑った。「最終局面での葵の様子、見てほしかったわ!巨大な機械仕掛けの人形が突っ込んできて、ほとんど全てを破壊しかけたのに、葵はたった一人でそれを倒したのよ!」彼女は興奮のあまり、大げさに空中に向かってパンチやキックを繰り出し、全身を振り回して再現してみせた。葵は、綾音の荒唐無稽な話についていこうと必死だったが、恥ずかしさと信じられない気持ちの間で固まってしまった。
「マジで?」彼女は無表情で呟いた。
「わあ、本当?すごいね、葵!」コウタが褒めると、葵の頬は赤くなった。
「そ、そんな大したことじゃなかったのに…もう、やめてよ」彼女は呟いた。
「大げさに言わないで!」綾音はニヤリと笑い、椅子にどさっと座った。「あいつ、めちゃくちゃ速かったじゃない。どうやってあんなことができたの?」
「えっと…」葵が言いかけたが、綾音は言葉を続けた。
「それに、あんなものを粉々に砕けるほど力持ちだったのね!私、今まで一度も…」
「もう話したくないって言ったでしょ!」葵は思わず声を荒げた。思ったよりも鋭い口調だった。突然の鋭さに、二人は言葉を失った。
「でも、どうして?」綾音は静かに尋ねた。葵は膝の上で拳を固く握りしめ、前髪が目に影を落とした。
「あの…ちょっと…気が進まないんです。話題を変えてもらえませんか?」彼女はうつむきながら呟いた。
綾音は視線をそらし、微笑みを少し曇らせた。「わかったわ」と囁いた。
コウタは居心地悪そうに身じろぎ、時計を見た。「もうこんな時間だぞ。葵、そろそろ行かないと」
「うん」葵は立ち上がり、カウンターから袋を取った。「お料理、ありがとうございました」彼女はドアに向かおうとしたが、綾音が突然立ち上がった。
「葵!」青い髪の少女は立ち止まり、少し振り返った。綾音の温かい瞳が彼女の瞳と交わった。
「また明日ね…ね?」綾音の希望に満ちた微笑みが、彼女の瞳に残っていた。
葵は一瞬固まり、それから小さく頷いた。「…うん。また明日ね」
彼女が店を出ると同時にベルが鳴り、片方の手で袋を持ちながら、もう片方の手をポケットに滑り込ませた。綾音の言葉が、夜の静寂の中で重く響き渡り、彼女の心にこだました。彼女は頬の内側を噛み、視線を下に落とした。
......................
「彼女、荷物が多いんだね?」コウタはアヤネのテーブル片付けを手伝いながら言った。
「うん。試験前からちょっと…よそよそしいの」アヤネは拭きながら静かに答えた。テーブルを見つめながら、かすかに微笑んだ。
コウタは手を伸ばし、アヤネの頭にそっと置いた。「少し時間をあげて。まだ慣れてないんだから。きっと心を開いてくれるよ。そっとさせてあげて」
アヤネは驚いて瞬きをし、それから目を閉じて小さく微笑んだ。「そうだね」
コウタはくすっと笑い、アヤネの髪をくしゃくしゃにした。「さあ、早くしないと、おばあちゃんが心配しちゃうよ」
「あ!危うく忘れるところだった!」アヤネはハッとして、慌ててバッグを取りに行った。コウタは彼女を愛おしそうに見つめ、視線はドアの方へと移り、彼の思いは葵に留まった。




