とんでもない場所に来てしまった
授業の後、クラスのみんなが私を心配して見に来てくれた。
「大丈夫?」
「うん……」
「コーディネート難しいよね」
その一言だけで、胸があたたかくなった。
一人じゃないんだ、と思った。
私は泣き止むと、教室に戻った。
ミヤコさんが、私を見て言った。
「あなた、タレントのスタイリストになりたいんでしょ?」
「はい」
「タレントなんて、もっと厳しいからね。
平気で『こんな服着ない』とか言うんだから。
それでも納得させて、着させなきゃいけないんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だから、頑張りなさい」
「はい」
ミヤコさんの言葉に、当時の私はあまりピンと来ていなかった。
でも、後になって、嫌というほど思い知ることになる。
このときの私は、まだ何も分かっていなかった。
ーー
一から服を作る授業はなかったけど、
古着をリメイクする授業はあった。
型紙なんて使わない。
既製品に、少し手を加えてアレンジする。
この授業では、私は意外と褒められた。
「……いいんじゃない」
ミヤコさんが言った。
もう一度、資料と衣装を見る。
「うん。いいよ」
「……ありがとうございます」
「はい、次の人」
たった一言。
それだけで、私は嬉しかった。
今まで、何をやってもダメだったのに、
初めて、「ここにいていい」と言われた気がした。
ーー
入学して四か月が過ぎた頃、
ついにアシスタントの仕事が、私に回ってきた。
初めてのアシスタント。
初めての現場。
私と、もう一人の学生が呼ばれた。
アシスタント用具を持って、早朝六時。
スタイリストの自宅に向かった。
待ち合わせ時間ぴったりに、マンションの呼び鈴を鳴らす。
ピンポン。
「はい」
「おはようございます。アシスタントの佐藤です」
「上がってきて」
オートロックが解除される。
私と佐藤さんは、顔を見合わせると、
小走りでスタイリストの部屋に向かった。
エレベーターの中で、二人ともほとんど喋らなかった。
何をしたらいいのか分からない。
でも、止まったら邪魔になる気がして、
とにかく体を動かした。
スタイリストの部屋に着くと、
すでにドアが開いていた。
中から、大量の服がかかったラックが、
何台も運び出されてくる。
「これ、下に持って行って。ロケバス来るから、乗せて」
「はい」
佐藤さんと二人で、ラックを運ぶ。
ラックは思ったより重くて、
ハンガーが揺れて、服がぶつかって音を立てる。
エレベーターにラックを押し込み、
一階まで降りる。
マンションの前には、もうロケバスが止まっていた。
「それ、後ろに積んで!」
「はい!」
言われるままに、必死でラックを押す。
ラックで終わりかと思いきや、
スタイリストは黒い大きなバッグを何個も持っていた。
「これも乗せて!」
「はい!」
バッグを運ぶ。
中身も分からないまま、腕にずしりと重さがかかる。
荷物で、荷台はあっという間に山積みになった。
でも、そんなことを考えている間もなく、
「早く乗って!」
「はい!」
私と佐藤さんは、ロケバスに飛び乗った。
ドアが閉まると、すぐにバスが走り出した。
息が上がっているのに、誰も何も言わない。
車の中には、ハンガーの揺れる音と、バッグがぶつかる音だけがしていた。
私は、自分がとんでもない場所に来てしまったんじゃないかと思った。
──でも、もう戻れないとも思った。




