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対等じゃない世界に入った日

ロケバスが走り出して数分。

マンションの前で止まった。


荷台のドアが開く。


荷物がさらに積まれる。

カメラ用具だった。


「おはようございます」


カメラマンとそのアシスタントが乗って来た。


「おはようございます」


私達も挨拶する。

ロケバスはすぐに出発した。


その次にロケバスが止まったのはヘアメイクさんの事務所前。

また更に荷台に荷物が追加される。


広いロケバスも、気づけば席が埋まっていた。


次に編集部、最後にモデルさんを乗せて、私と佐藤さんは座る席がなく、

入り口付近で屈んでいた。


それが当たり前の空気。


同じ人間なのに、対等じゃないんだと実感した瞬間だった。


少し惨めで、

少し肩身が狭かった。


(早く着かないかな)


そればかり考えていた。


でも。


帰りたい、とは思わなかった。


初めての撮影現場にワクワクしていた。


スタジオに着くと、私と佐藤さんはロケバスを飛び出した。

荷台を開けて荷物を取り出す。

スタイリストに指図されるがまま、

荷物を運び続けた。


荷物を運び終わると、黒い大きなバッグを開ける。

中には箱に入った靴が大量に入っていた。


「靴は蓋開けて、ラックの下に並べて」

「はい」


似たような靴が何足も並ぶ。

じっくり見ないと、違いがわからない。


「元通りに返したいから、どの箱に何の靴が入っていたか、覚えておいてね」

「はい」


箱がわからなくならないように、

ノートに必死で書き留めた。


大量の靴を並べ終わると、ラックにかかった洋服に手をつけた。


「ラックの服のビニールは全部外して」

「はい」


「ビニール外し終わったら、アイロンね」

「はい」


次の指示が来る前に、手を止めないようにした。


ビニールは丁寧にひとつひとつ外し、まとめておく。


一通り外し終わると、

私と佐藤さんは、それぞれのバッグから、携帯用の小さなアイロンと、ミトンを取り出した。


立ったまま、衣装にアイロンをかけ始める。


手を止める余裕はなかった。


何十着あるのかもわからない量の服。


(急がないと……)


携帯用のアイロンは小さく、

思うように進まない。


メイク室ではモデルさんが、

すでにメイクを始めている。


待ってはくれない。


終わる気がしなかった。


「この順番で撮る予定だから」

とスタイリストが絵コンテを見せてくれる。


「1番は、プリーツの入ったロングワンピースに白のパンプス」


イラスト付きで、ひと目で分かるようになっていた。


1番、2番と、洋服のハンガーに番号の紙を貼っていく。


間違えられないと思った。


服にもひとつひとつ、タグがついていた。


アイロンをかけながら、タグを外す。


外したタグは元に戻せるように、

どの服のどこについていたのか、

ノートに必死で書き留めていく。


アイロンを当てた瞬間、

生地が一瞬だけ沈んだ気がした。


(まずい)


手を離す。


……何も起きていない。


指先だけが、少し震えていた。

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