怖いのに、来たいと思った
「毎週水曜日がコーディネートの授業だから、また水曜日に来てみなよ。実際に授業見てみたら?」
「は、はいっ」
「じゃ、ゆっくりしてって」
それだけ言うと、ミヤコさんは部屋の奥に入っていった。
「どうぞ」
クロサワさんが、パンフレットを差し出してくれた。
クロサワさんの服装は、全身黒でシンプルだった。
余計なものは何もついていないのに、革のロングブーツだけが少し目を引いた。
派手じゃないのに、なんとなくかっこいい。
この人も、オシャレなんだなぁと思った。
この学校にいる人は、みんな同じ空気をまとっている気がした。
うまく言えないけど、
「オシャレな人」じゃなくて、
「服が分かってる人」という感じがした。
ーー
水曜日。
私は専門学校をズル休みして、ミヤコさんのスクールに向かった。
実際の授業を、見てみたかった。
静かな住宅街を歩く。
二回目に訪れたスタイリストスクール。
その日は、見学者が私以外にももう一人いた。
若い男の人。
この人もスタイリストになりたいんだ。
椅子に座り、食い入るように学生たちを見ていた。
学生たちが、慌ただしくトルソーに衣装を着せている。
ポラロイドカメラで写真を撮る。
ホワイトボードに資料を貼る。
前に通っていた専門学校とは、空気が全然違った。
「はい。じゃあまず〇〇さんから」
スタイリストらしき人が、発表を促す。
「今回の商品に合わせて、桜っぽい服装をイメージしました」
「モデルは?」
「サクトです」
「サクトね」
スタイリストが、用意された衣装とポラロイド写真を見る。
「サクトだったら、もう少しアバンギャルドな方がいいかな。
この人、個性強いでしょ」
「はい」
「カメラ写りはいいから、例えば……」
スタイリストが、少し衣装の着せ方を変える。
「こうやって、シャツのボタンを開けるとか」
「はい」
「インパクトあるネックレス使うとか。
そしたら、パンチあるコーディネートになる」
「そうか……」
「筋はいいよ。頑張って」
「はい」
「じゃあ、次の人」
私は、黙ってそのやり取りを見ていた。
同じ服なのに、
少し着せ方を変えただけで、全然違う服に見えた。
服を作っているんじゃない。
見せ方を作っているんだと思った。
前の学校でやっていたことと、
ここでやっていることは、
同じ「服」なのに、全然違う仕事に見えた。
ここは、学校じゃない。
現場に一番近い場所なんだと思った。
私は、黙ってそれを見ていた。
――本物だ、と思った。
何人か発表をしていると、ミヤコさんも顔を出した。
何も言わず、後ろで腕を組んで授業を見ている。
学生たちの緊張が、こっちにも伝わってきた。
ある学生の発表になったときだった。
「これ、ちゃんと考えてコーディネートした?」
スタイリストの声色が変わった。
「え……」
学生が固まる。
「これはないよ」
ミヤコさんも、静かに言った。
「すみません、時間が足りなくて……」
「時間なくてって、他の人だって同じ時間で用意してるよね?」
容赦なく詰め寄るスタイリスト。
「現場で同じこと言える?
時間なくて用意できませんでしたって」
「言えないです……」
「じゃあ、用意しなきゃ」
「はい……」
教室が、しんと静まり返った。
さっきまでの和やかな空気が、消えていた。
ここは学校だけど、学校じゃないんだと思った。
ここは、仕事を教える場所なんだと思った。
怖いと思った。
でも、ここに来たいと思った。




