ミキは、普通じゃなかった
何がきっかけだったのかは、もう覚えていない。
でも、気がついたら、その子と私は話すようになっていて、
いつの間にか、友達になっていた。
ツンツンしている人なのかと思っていたら、
全然違った。
どちらかというと、子犬みたいに懐いてくる人だった。
「花音ー、帰ろー」
そう言って、教室のドアのところから顔を出す。
最初は少し驚いたけれど、
それがいつの間にか当たり前になった。
二人で一緒に帰って、
学校の帰りにお茶をしたり、
休みの日には一緒に買い物に行ったりもした。
専門学校に入ってから、
初めてできた友達だった。
夜の店で働いていることを、その子は隠さなかった。
「昨日の客がマジクソでさぁ……」
「昨日、芸能人の〇〇が来てたんだけど」
そんな話を、昼間の教室で当然のことみたいに話す。
私には、ありえない世界だった。
夜の街。
お酒。
大人の男の人。
高いお金。
ブランド物。
芸能人。
テレビの中みたいな話を、
その子は現実のこととして話していた。
私は、ただ聞いていた。
自分の知らない世界の話を聞くのが、楽しかった。
夜の店で働いているからか、学校は休みがちだった。
「面倒くさーい」とか言いながら、
来た日はさっさと課題を終わらせてしまう。
私より、全然早い。
しかも、出来上がった服は、ちゃんとオシャレだった。
私は何日もかかって、やっと一着作るのに、
その子は、あっという間に作ってしまう。
なのに、適当に作ったみたいな顔をしている。
すごいな、と思った。
私は、素直に尊敬した。
「センスいいよね」
私はミキに言った。
「別に普通だよ」
ミキは興味なさそうに答えた。
「こんなんで、スタイリストになれるのかな」
気づけば、学校に入ってから半年以上経っていた。
服は少しは作れるようになった。
でも、オシャレになった気はしなかった。
スタイリストになりたいと言いながら、
全然近づいていない気がしていた。
「スタイリストって、別にそんなオシャレじゃなくない?」
「え……」
思わず、ミキの顔を見る。
「大したことないよ」
あまりにもあっさり言うから、
何を言われたのか、最初はよく分からなかった。
「花音ならなれるよ」
ミキは、当たり前みたいに言った。
ミキは夜の店で、いろんな人に会ってきた。
売れている人も、売れていない人も、
カッコいい人も、そうじゃない人も、
たくさん見てきたんだと思う。
だから、簡単にそう言えたんだと思う。
今なら、わかる。
ーー
学校に入って、10か月が過ぎた頃だった。
「私、学校辞めようと思う」
唐突に、ミキが言った。
「そうなの?」
私は、驚いたというより、
ああ、そうか、と思った。
「別にスタイリストになりたいわけでもないし。
洋服は一通り作ったし、もういいかなって」
ミキらしいな、と思った。
やりたいことがあって学校に来たわけじゃない。
必要なことが終わったら、さっさと次に行く。
そういう人だった。
ミキが辞めたら、
私はまた一人になるな、と思った。
私は、この先どうしよう。




