私だけ、浮いていた
入学した専門学校は、業界で一番有名な大きな学校だった。
数々のデザイナーやスタイリストを輩出している学校。
「この学校に入れば間違いない」
そんなふうに言われている学校だった。
駅から学校までの道のり。
オシャレな人が歩いているな、と思って見ていると、同じ校舎に入っていく。
ここには、華やかで、オシャレな人しかいない。
私は最初から、浮いていた。
みんな髪の色が違う。
みんな服の形が違う。
みんな、自分の好きなものをちゃんと分かっている顔をしていた。
私は、とりあえず無難な服を着て、
とりあえず浮かないような髪型をして、
とりあえず普通に見えるようにしていた。
ここでも私は、
「普通」になろうとしていた。
でも、この学校で言う「普通」は、
今まで私が思っていた「普通」とは、全然違っていた。
派手な髪も、個性的な服も、
ここではそれが普通だった。
例えるなら、オシャレの戦場だった。
オシャレでなければ、価値がない。
昨日よりもっとオシャレに。
昨日よりもっと華やかに。
それが楽しくてやっている人。
何となくでオシャレにできてしまう人。
私は、どうしたらオシャレになるんだろうと、
頭で考えるタイプだった。
全然、種類が違っていた。
最初の授業で、先生が言った。
「明日から早速パターン作りに入りますからね」
パターンとは、型紙のこと。
洋服を一から作るには、まず型紙を作る。
「一年で帽子、スカート、シャツ、ジャケット、一通り作るから、どんどん作らないと間に合いませんよ」
私は、背筋が凍った。
オシャレな学校に来たはずだった。
雑誌みたいな服を考えたり、
コーディネートを考えたり、
そういうことをするんだと思っていた。
でも、違った。
最初にやるのは、
布でも、デザインでもなく、
大きな紙に、ひたすら線を引くことだった。
何センチ、何ミリ。
ここからここまで何センチ。
このカーブは何センチ。
オシャレとは、
もっとキラキラしたものだと思っていた。
でも実際は、
地味で、細かくて、
間違えると全部やり直しだった。
教室には、大きな机が並んでいて、
みんな黙って、紙に線を引いていた。
シャッ、シャッ、と、
定規を動かす音だけが聞こえる。
さっきまで廊下で見ていた、
あのオシャレな人たちが、
みんな同じように、下を向いて、線を引いていた。
服を作ること自体は、苦手ではなかった。
細かい作業は好きだったし、
形にできたときは、ちゃんと嬉しかった。
ただ、とにかくペースが速くて、追いつかない。
やっと一着できて、ホッとする。
でも周りの人の服を見ると、全然違う。
同じ課題で、同じ型紙のはずなのに、
仕上がった服は、まるで別のものみたいだった。
私の服は、なんというか、普通だった。
言われた通りに作られた、ただのシャツ。
悪くはないけど、全然オシャレじゃない。
周りの人の服は、ちゃんと「その人の服」になっていた。
同じ形なのに、
丈が少し違ったり、
ボタンが違ったり、
布の選び方が違ったり、
ちょっとした違いなのに、全然違って見えた。
前身頃と後ろ身頃で違う布を使う。
そんなことを、みんな当然のようにやっている。
私には、そんなこと、思いつきもしなかった。
その違いが、
センスというものなんだと思った。




