変わりたかった
どうしたらスタイリストになれるのか。
まず私は、
『スタイリストになるには』
そんなタイトルの本を買った。
スタイリストの講演会にも参加した。
けれど、
「これをすれば絶対なれる」という方法は、どこにも書いていなかった。
ただ、多くの人は
服飾の専門学校に行き、
卒業生の現場を手伝い、
そのままアシスタントになる。
それが、スタイリストになりやすいルートだということは分かった。
運よくスタイリストになれたとしても、
洋服のことを何も知らなければ話にならない。
素材、シルエット、ブランド、歴史、サイズ感。
何も知らないまま「服が好きです」だけでは、仕事にはならない。
私は、服飾の専門学校に行くことにした。
お金はかかる。
時間もかかる。
本当にスタイリストになれるかも分からない。
それでも。
他に、やりたいことがなかった。
なりたい自分も、
なれるかもしれない自分も、
そのときの私には、それしか思いつかなかった。
だから私は、
専門学校の願書を取り寄せた。
願書の「志望動機」の欄を前にして、
しばらくペンが止まった。
――どうしてスタイリストになりたいのか。
芸能人に会いたいから。
好きな人に出会えるかもしれないから。
普通の恋愛ができるかもしれないから。
そんな理由、書けるはずがなかった。
しばらく考えて、私は書いた。
「私は、服が好きです。
服は、人を変えられると思っています。」
書きながら、少しだけ思った。
本当は。
変わりたいのは、
服じゃなくて、
自分の方だった。
専門学校の学費は、祖母が出してくれた。
祖母は、自分がお金で苦労した人だった。
だから、自分の土地にアパートやマンションを建てて、
家賃収入で暮らしていた。
そして、得た収入は子どもや孫に渡していた。
「みんながお金で苦労しないように」
それが祖母の口癖だった。
私は、その言葉に甘えた。
本当は、分かっていた。
専門学校に行ったからといって、
スタイリストになれる保証なんてないこと。
それでも祖母は、何も言わなかった。
「やりたいことがあるなら、やってみな」
ただ、それだけ言った。
反対もされなかったし、
「ちゃんとした仕事にしなさい」とも言われなかった。
今思うと、
あの人はずっと、
私の人生を私に返してくれていたんだと思う。
成功しなさいでもなく、
普通になりなさいでもなく、
「自分で選びなさい」
そう言われていた気がする。
専門学校の入学式の日、
新品のノートとペンを鞄に入れながら、
私は少しだけ思った。
私はこれから、
どこに向かうんだろう。
普通の女の子になりたいと思って選んだ道なのに、
その「普通」が何なのか、
自分でもよく分からないままだった。
それでも。
あのときの私は、確かに思っていた。
――ここから変われるかもしれない。




