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誰かを好きになる前に 〜普通になりたかった私の話〜  作者: Wataru


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17/28

普通の女性になろうと思った

あと一人、同じグループで

まだ話していない子がいた。


私の前の席の子。

剣道をやっているショートカットのリンちゃん。


一人だけ話さないままなのも、

なんとなく気になっていた。


だから、その子にもそっと打ち明けてみた。


「あのね……」


少し声が小さくなる。


リンちゃんの反応は、

他の子と少し違っていた。


「え⁉︎ そうなの⁉︎」


一瞬、固まる。


それから――


「マジかぁ~」


力が抜けたように言った。


「知らなかった……」


少し間があく。


「そっか……」


小さくうなずく。


「そうだったのか……」


リンちゃんも、距離は変わらなかった。


気持ち悪いと言って、

誰も離れていかなかった。


私が想像していた最悪の展開は、

ただの想像のまま終わった。


同性愛を気持ち悪いと思っていたのは、


きっと――

私だけだった。


高校を卒業してからも、

サッチとは何度か会って、お茶をした。


サッチはメイクをして、

髪も少しずつ伸ばしていった。


「この間、彼氏と遊んでさ」


「彼氏がね……」


そんな話をするサッチは、

いつの間にか普通の女の子になっていた。


私がなりたくても、

なれないもの。


眩しくて、

遠い存在だった。


なんとなく――

私は会わなくなっていった。


私は、彼氏はいない。


結衣のあと、

誰かを好きになったこともなかった。


気づけば、

ずいぶん時間が経っていた。


初恋がたまたま、女の子だっただけ。


それなのに、

男の人を好きになれない。


なんとなく、みじめだった。


なんとなく、

他の人より劣っている気がした。


そういう気持ちだけが、

胸の奥に静かに残っていた。


でも、好きな男性アイドルはいた。


だから私は、

芸能関係の仕事に就こうと思った。


自分がやりたい仕事。

芸能人と直接関われる仕事。


ヘアメイク。

スタイリスト。

マネージャー。


色々考えた。


マネージャーは運転ができないといけない。

車の運転やスケジュール管理。

タレントを売り込んだりもする。


マネージャーより、

ヘアメイクの方が楽しそうかな。


ヘアメイクで変えられるのは、

髪とメイクだけ。


スタイリストなら、

衣装やバッグ、アクセサリー。


背景に置く家具なんかも用意できる。


面白そう。


それに、

私は洋服が好きだった。


好きな洋服で、

好きな芸能人の役に立つ。


これだ。


(スタイリストになろう)


そう思った。


男性芸能人なら、

好きになれるかもしれない。


スタイリストと芸能人なら、

恋愛だってあり得る。


わずかな希望。


それでも私は、

そこにしがみつくしかなかった。


普通の家庭を、

手に入れるために。


普通の女性に

なるために。


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