普通の女性になろうと思った
あと一人、同じグループで
まだ話していない子がいた。
私の前の席の子。
剣道をやっているショートカットのリンちゃん。
一人だけ話さないままなのも、
なんとなく気になっていた。
だから、その子にもそっと打ち明けてみた。
「あのね……」
少し声が小さくなる。
リンちゃんの反応は、
他の子と少し違っていた。
「え⁉︎ そうなの⁉︎」
一瞬、固まる。
それから――
「マジかぁ~」
力が抜けたように言った。
「知らなかった……」
少し間があく。
「そっか……」
小さくうなずく。
「そうだったのか……」
リンちゃんも、距離は変わらなかった。
気持ち悪いと言って、
誰も離れていかなかった。
私が想像していた最悪の展開は、
ただの想像のまま終わった。
同性愛を気持ち悪いと思っていたのは、
きっと――
私だけだった。
高校を卒業してからも、
サッチとは何度か会って、お茶をした。
サッチはメイクをして、
髪も少しずつ伸ばしていった。
「この間、彼氏と遊んでさ」
「彼氏がね……」
そんな話をするサッチは、
いつの間にか普通の女の子になっていた。
私がなりたくても、
なれないもの。
眩しくて、
遠い存在だった。
なんとなく――
私は会わなくなっていった。
私は、彼氏はいない。
結衣のあと、
誰かを好きになったこともなかった。
気づけば、
ずいぶん時間が経っていた。
初恋がたまたま、女の子だっただけ。
それなのに、
男の人を好きになれない。
なんとなく、みじめだった。
なんとなく、
他の人より劣っている気がした。
そういう気持ちだけが、
胸の奥に静かに残っていた。
でも、好きな男性アイドルはいた。
だから私は、
芸能関係の仕事に就こうと思った。
自分がやりたい仕事。
芸能人と直接関われる仕事。
ヘアメイク。
スタイリスト。
マネージャー。
色々考えた。
マネージャーは運転ができないといけない。
車の運転やスケジュール管理。
タレントを売り込んだりもする。
マネージャーより、
ヘアメイクの方が楽しそうかな。
ヘアメイクで変えられるのは、
髪とメイクだけ。
スタイリストなら、
衣装やバッグ、アクセサリー。
背景に置く家具なんかも用意できる。
面白そう。
それに、
私は洋服が好きだった。
好きな洋服で、
好きな芸能人の役に立つ。
これだ。
(スタイリストになろう)
そう思った。
男性芸能人なら、
好きになれるかもしれない。
スタイリストと芸能人なら、
恋愛だってあり得る。
わずかな希望。
それでも私は、
そこにしがみつくしかなかった。
普通の家庭を、
手に入れるために。
普通の女性に
なるために。




