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不確かな彼女は暴力で平穏を求めた  作者: 橘ノ立話


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「やめろ!おい!」


「……う、うぅ……!」


タバコに火をつけ、一息つく。

二人はちゃんと抑えているが、警棒役が尻込みしてる。


「どうした?早くやれよ」


「で、でも――」


「はぁ……」


そいつに近づき、腹を軽く殴る。


「うぐっ……」


軽く――のつもりだった。だが、男が腹を抱えて屈み、警棒が手から落ちた。

俺はそれを拾い上げ、おっさんに向ける。


「やっぱ俺がやるしかねえか」


俺には魔導具としては使えないが、鈍器としてなら十分だ。


「……てめえ。俺たちに手を出したら、どうなるかわかってんだろうな……」


「どうなるんだよ?」


「うっ!」


警棒を一振り、頬を薙ぐ。


「俺らの後ろには梟がいる!この国で生きれると思うなよ!」


「フクロウ?」


ケツ持ちの組織名か?

こういう手合いと揉め事を起こすと、どこからともなく沸いてくる。

メンツを潰されて、黙っていることなんてない。


だからこそ、やるなら徹底的に。


「そうだ。今更、後悔しても遅――ぶっ!」


一撃。頬が跳ねた。


「うるせえ」


返しでもう一つ。


「てめえらが勝手に絡んできて」


左。


「勝手に情けなく転がって」


右。


「今度は報復だ?ふざけんなよ」


脳天。

力なく垂れた、おっさんの髪を掴んで頭を上げる。


「うっ……」


「まだ寝んなよ。てめえに聞きてえことがある」


返事はない。

おっさんの目が、怯えて細くなる。

痛みより先に、恐怖が顔を作ってる。


髪を引いたまま、無理やり目を合わせる。


「返事」


ただ、瞳がもう負けを認めている。

逃げる気も、噛みつく気も消えた目だ。


「はい……」


手を離すと、おっさんは再び俯いた。


「まず、その梟ってのは何だ?」


「……梟は、この国で一番有名な裏の連中で……」


思った通りだった。

虎の威を借るなんとやら。


そんな一番有名な組織が、こんな小悪党に肩入れするかって話だ。


「お、俺は……梟の幹部を名乗るやつから声をかけられたんだ。この仕事も――」


「あーその話はもういい。ウソかホントかも、わかんねえし」


「……」


別にこいつを疑ったわけじゃない。

こいつに声をかけたやつがウソをついてるかもしれないってだけ。


もし、本当に繋がってたとしたら面倒臭いことにはなりそうだが……。


「次。俺の財布。盗ったのお前らだろ」


そう言うと今度は驚いた表情を見せた。

周りのやつらも同じ顔。


「何でわかったんだ……?もしかして、あんたも裏の人間……」


「一緒にするな。バカ野郎」


軽く頬を叩く。

こんな屑と、一緒にされてたまるか。


「盗んだのは、あんたの隣にいる男だ」


隣?

あぁ、警棒持たせたやつか。


「いや!ちゃんと返そうと思ってたんだ!ほら、これ!」


出した財布を乱暴に受け取った後、腹にもう一発。


「うぐっ……」


返すつもりなら、さっさと出せよ。

言うタイミング何かいくらでもあっただろ。


「次。店先に出してた、あの商品。どこで手に入れた」


「あの商品……?ガラス細工のことか?」


「違えよ。俺が見てたやつだ。一つだけ黒ずんでたやつがあっただろ」


「……すまん、どの商品かわからん」


思い返せば、《アレ》を見つけたと同時に絡まれたんだっけか。

この世界で《アレ》を、どう言葉表せばいいかわからんし、直接見に行くしかないか。


「だったら、露店まで行くぞ。立て」


無理やり襟元を掴んで引き起こす。


「ちょ、待ってくれ!膝がまだ――」


「知るか。さっさと歩け」


手を離した瞬間、支えを失って前につんのめった。


――べちゃ。

おっさんの顔が、湿った土に突っ込んで倒れる。


「ッチ。おい、誰か肩貸してやれ」


さっさと説明させよう。

そろそろ戻らねえと、エルが心配する。


淀んだ空気を抜けて元の通りへ戻る。

路地が開け、露店の場所に出た。


俺は並べられたガラクタの中から、あの四角い箱を掴む。

おっさんの前に突き出した。


「こいつだ」


おっさんはそれを見るなり、顔をしかめた。


「そこに並べてるのは大体、俺らがゴミ捨て場で拾ってきたか……先生が持ってきた物だ」


「先生?」


「あ、あぁ……梟の幹部だ。俺たちは先生って呼んでる」


「へえ」


「先生が持ってきた物は、指定の値段で売らなきゃならねえ」


頭の悪い連中は、自分より賢いやつをすぐ先生と呼びたがる。

その少ない頭で、もう少し考えればマシな仕事もあるだろうに。


大方、表で捌けねえ物を押し付けて、売れた分だけ吸い上げる――そんな仕組みだろう。

こいつらが、捕まったところで痛くもかゆくもないしな。


「そいつは値段の指定がねえ。だから多分……俺らが拾ってきたやつだと思う」


「何だ。歯切れが悪いな」


「いや……拾ってきたもんなら、大体は覚えてるはずなんだ。

 使えそうなやつを選んで拾ってくるしよ。

 だけど、そいつは何なのかもわからん。拾ってきた覚えもねえ」


「……」


こいつらからは、もう出ねえか。

なら先生に当たるしかない――が、面倒事は御免だ。


気になる。けど放っておいてもいい。

重要なのは、これがエルの役に立つかもしれねえってことだけだ。


俺は箱を指で弾いた。


「じゃあ、これは先生含めてお前らの物じゃねえ。そうだな」


「え?」


「いらねえよな?」


「あ、いや……さすがに、先生のだったらまずいんで――」


――ドス。

腹が沈んで、おっさんの背中がくの字に折れる。


「ふぐっ……!」


「これで勘弁してやるって言ってんだよバカ野郎。

 金も要求しねえ優しい俺に感謝しろよ」


「そ、そんな……」


平和的に話もつけた。あとはこれを土産に持って帰るだけだ。

ヴァレスはともかく、エルにはどう説明する?


――元の世界の話は、まだしてない。

あいつは今の発明も、全部ヴァレスのアイディアだと思ってる。


なら、俺が余計なこと言う必要はねえ。

こいつはヴァレスに渡しておけばいい。


「じゃあ俺は帰る。二度とそのツラ見せんなよ」


「わ、わかった……」


あっさり引き上げる俺に、おっさんたちは露骨に安堵した。

先生とやらに伝わるだろうが、俺たちは今日でこの街を出る。もう関わることもねえ。


――そう思った、そのとき。


「おやおや。どっちが被害者なのか、これじゃわからないね」

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