046
「もう終わりかよ」
残った二人も大したことはなかった。
反撃もまともに来ねえ。腕で顔を隠して固まってやがった。
ずいぶんと根性がねえ。
さて――
「あ?最初に絡んできた、おっさんがいねえじゃねえか」
まさか……逃げたか?
くそが。
「おい」
うずくまってる二人の髪を掴み、顔を無理やり上げる。
「ひっひぃ……!?」
「も、もう勘弁してくれ……!」
「勘弁してくれだあ?」
「ぶへっ!」
一発、顔面を殴って黙らせる。
「余計なこと喋るな。露店のおっさんはどこいった?」
「し、知らない!本当だ……!」
殴られてない方が答える。
そいつの顔面を殴る。
「がっ……!」
「バカかてめえは。なら、行きそうな場所を言え」
「お、俺はここに来たばかりで何も知らねえんだ……。う、後ろのやつなら何か知ってるかも……」
後ろを見ると、一番最初に蹴ったやつがまだ転がっていた。
二人を離し、伸びてるやつに歩み寄る。
「おい……起きろ」
脇腹に一発蹴りを入れてみるが、反応がない。
死んだか?……いや、息はある。
気絶しているやつの上半身を起こして、背中側に回る。
両肩を掴み、膝で身体の芯を支点に固定する。
勘を頼りに位置を調整――確かこの辺だったはず。
「……よっ!」
肩ごと一気に引き、身体の芯へ衝撃を入れた。
「かはっ!」
途端に、死んだみたいに重かった身体がびくっと跳ねる。
「お、一発でうまくいったな」
「へっ!?何だ……って、誰だてめえ!?」
俺の声に反応して、男が肩を跳ねさせて身をよじる。
記憶が混濁してやがる。
気絶明けにはよくあることだが……。
まぁ、やることは同じ。
殴って聞く。
これが一番効率がいい。
「ぐあっ!」
俺は男を蹴って仰向けに倒し、そのまま腹に跨った。
両膝で脇を挟み、体重を落とす。
「一人逃げた。居場所を答えろ」
「な、なに言って……」
「とぼけるな。よく思い出せよ」
「ぐえっ!」
「ま、待ってくれ!何が何だかわからないんだ!」
「余計な発言はするな。言われたことだけ答えろ」
「がはっ!」
反射で出たような言葉はいらねえ。
有益で納得のいく答えが出るまで殴る。
何度でも――
――しばらく殴ってみたが、期待に添える答えは出ず。
しまいには、鼻水まじりに泣き出して会話にならなかった。
「ひっ……ひっひっ…ゆ、ゆるひて……」
「ッチ!」
最後に顔面に拳を叩きこんで黙らす。
くそ、イライラするな。
「おい、そこの二人。出鱈目いってんじゃねえぞ」
鬱憤を抱えて、二人の方へ向き直る。
「ち、違う!俺じゃない!俺は何も言ってない!」
「そうかもしれないって話であって!俺のせいじゃない!」
仲間だというのに何も知らないわけがない。
時間はかかるが、喋りたくなるまで殴るしかないか。
こいつらも、ここに連れ込んだエモノに同じことしてんだろ。
なら、少しぐらいやられる覚悟を持てってんだ。
怯える二人に歩み寄ろうとしたとき、砂利が鳴った。
……一人だな。
「調子に乗ってんなよクソガキが!」
声の方を見ると、いなくなってたおっさんが戻ってきやがった。
路地の奥から、武器らしいもんをぶら下げて。
「探す手間が省けたな。てめえを探してたんだよ」
「あ!?何言ってやがる!」
威勢よく怒鳴ると、警棒みてえなそれが、じんわり赤く光った。
何だありゃ。魔導具か?
……厄介だな。
魔法なんてほとんど知らねえし、どんな攻撃が飛んでくるかわからねえ。
模擬戦のときは何とか対応できたが、相手の手の内が読めないってのはそれだけで不利になる。
「てめえは売りモンなんだよ!下手な口聞いてんじゃねえ!!」
何か飛んでくるのかと身構えてたが、おっさんは一直線に突っ込んできた。
考えてるヒマはねえ。距離を保って、出方を――
俺は足元の砂を低く蹴り上げた。
乾いた粒が跳ねる。
「……ッ!くそガキが!」
おっさんは足を止め、空いてる腕で雑に払う。
そのわずかな隙を見て、近くの小屋に走る――はずだった。
脚が勝手に駆け出していた。
冷静なつもりだった。
何だ、これ。
自分が思った以上に、沸点が低かったのか?
気づいたら、もう懐にいた。
その勢いのまま、体重を乗せた拳を振り抜く。
「な!?」
咄嗟に警棒らしきもので防ごうとしているが、構わねえ。
その警棒ごと、顔面目掛けて叩き込んでやる。
触れた。
痛い。
熱い。
皮膚が一瞬で縮む。
焦げた臭い。
だが、腕を引っ込めるには弱い。
今すぐてめえを殴らねえといけねえ。
殴らせろ。
俺を、スッキリさせろ。
俺の拳は警棒を弾き飛ばし、おっさんの顔面にめり込んだ。
めきめきと鼻骨が砕ける音がした。
「ぐべっ!」
おっさんの頭が跳ねて、情けなく膝から落ちる。
鼻先を押さえようとして、指が空を掻いた。
よろよろと身体を起こそうとしている。
蹴りでそれを阻止。
俺の足は、無防備になった顔面に直撃した。
「ぎゃあああ!」
叫び声が狭い路地に反響する。
おっさんは鼻を押さえて転がり、砂利を噛むみたいにのた打つ。
「や、やめてくれ!それ以上やったら死んじまうよ!」
怯えた声が飛んできた。
振り向くと、おっさんの仲間が祈るように懇願していた。
……はぁ。
冷めるな。
落ちていた警棒を拾い上げ、ゆっくりと三人に近づく。
こいつは、武器じゃない。殺傷能力はさほど高くない。
恐らく、改造した工具。
焦げた皮のカスみてえなもんが、あちこちにこびりついている。
こいつらはこれで、人を黙らせてきたんだろう。
俺には魔力がない。点けられない。
だが、こいつらなら点け方も使い方も知ってるはずだ。
「ひ、ひぃ……!」
そして、そいつらの足元へ転がした。
「なら、お前らがやれ。扱い方は知ってんだろ?」
支配ってのは、暴力だけじゃ完成しねえ。
殴って怯えさせただけじゃ、隙を見て反撃してくる。
だが、命令に従わせれば話は別だ。
やらせる。
拒否できない状況で、選択を迫る。
それに従った瞬間、こいつらは完全に俺の支配下に入る。
「で、できない……」
「俺も……」
「無理です……」
三人とも口をそろえてできないと言う。
「あ?何言ってんだ。いつもやってんだろ?いつも通りやれよ」
沈黙が落ちた。
見合ったまま、誰も動かねえ。
「やらなきゃ、てめえらの番になるだけだ。
役割が決められねえなら、てめえが警棒持て。他二人は抑える役だ」
言われるがまま、立ち上がりようやく動き出す。
「返事ぃ!」
「「「は、はいぃ……!」」」
三人の男が、おっさんを囲む。
二人はおっさんの腕ごと体を抑え、一人は警棒を手に持ち目の前で立つ。
「お、おい……何をする!離せてめえら!クソ!」
その様子を眺めながら、自分の右手に目をやる。
熱々の警棒に触れて、確かに皮膚が焼けたはずだというのに、やけど跡すらなく綺麗な手。
気づけば、魔獣にやられていた傷を包帯の上から触ってもほとんど痛みがなかった。
ヴァンパイアの特性が強くなってたのか?
……まずいな。
タバコ吸っとくか。




