(13)――あの子には、極上の殺意でもっておれを殺してもらうんだ。
【語り部:陜ィ�ィ雎趣ソス陜ィ�ィ陷�スヲ】
それから五年の間、おれは〈裏〉で日銭を稼ぎながら機会を窺った。
風視ちゃんは両親を殺されてからそう日を開けず、のちに特殊警護課課長となる人物の紹介を経て、無事に宇田川社に入社した。
学生として日常を過ごしつつ、両親を殺した男を突き止めて殺す為の鍛錬を一日たりとて怠ることはなかった。宇田川社社員として人を護る術を、そして殺す術を、着実に身につけていく。そんな過酷な日々を送りながらも、月命日の墓参りを一度も欠かすことはなかった。
おれが再び動いたのは、風視ちゃんが特殊警護課〝K〟班の班長を命じられてから一週間が経過した頃だった。
いくら新設されたばかりの、今は雑用が主となる班であっても、班長を任されるだけの実力を認められたのだと思うと、自分のことのように嬉しかった。しかしおれが素直に喜べていたのは、ほんの束の間のことだった。
風視ちゃんは仕事となると、当然のようにあの大鎌を持ち出したのである。
そうして、あの『死神』ほどではないにしろ、大鎌を使いこなして見せた。プロとして未熟な部分が多かろうと、あの大鎌を使うことができるだけで、そのマイナスはプラスに転じた。
ともすれば、『死神』復活の噂が広まるのに時間はかからなかった。果ては、復活した『死神』が年端もいかない少女であることから、今ならあの大鎌を奪うことも不可能ではない――そんな噂まで広がる始末だ。
ふざけるな。あの子には、極上の殺意でもっておれを殺してもらうんだ。
他の奴らなんかに殺されてたまるものか。
それを防ぐ為には、おれが風視ちゃんの命を護る必要があると思った。
とは言うものの、おれはあくまでも『殺されたい』のであって『護りたい』のではない。後者は二次的な欲求であり、優先するほどのものではない。しかし放っておいたら、風視ちゃんは誰とも知らない人間に命を奪われてしまうかもしれないのだ。風視ちゃんは普通の人間だ。殺されたら、蘇らない。
だからおれは、新たに【おれ】を創ることにした。
いつも風視ちゃんの隣に居て、風視ちゃんを護ることを第一とする【おれ】――それが五味空気だった。
五味空気の配置には、少し苦労した。
風視ちゃんを護る役目を与える以上、本人からも周囲からも不自然に思われない程度の距離に配置しなくてはならない。五味空気を宇田川社に入り込ませれば良いという結論に至ったのは、至極当然のことだった。【おれ】達の実力で考えれば、正面から入社を希望したとしても問題はないだろうし、〝K〟班に配属されるよう調整することだって造作もない。
だから宇田川社に入社する前に、風視ちゃんにとっての不穏分子を排除しておこうと思った。今後〝K〟班に回されるだろう仕事を先んじて潰しておくことで、五味空気が入社する際に風視ちゃんが不在であったり、負傷中で顔を合わせることすらできなくなるような事態を防ぐことにしたのである。
その行動がすぐに『業務妨害の殺人鬼』として宇田川社の目に留まり、追われていることには気づいていた。だけど、どうせなら風視ちゃんの手で捕まえられたいと、敢えて宇田川社の追手は放置することにした。殺人鬼による犯行が止まらなければ、雑用係の〝K〟班の手も借りたくなるだろうと踏んだのだ。仮に捕まったところで、おれなら上手く立ち回れる自信があった。
せっせと殺人に勤しむうち、予想通り〝K〟班も殺人鬼確保に駆り出され、風視ちゃんもおれを追う立場となる。せっかくだから一生忘れられない出会いを演出したくて、いつも以上に張り切って生き死にを繰り返した。
殺して回って、おれを殺させ、五味空気になり。風視ちゃんが現れなければ、一旦五味空気を殺させ、おれに戻る。殺して回って殺されての繰り返し。
一番の不穏分子は、天神絶途だった。
彼があのあと〈裏〉から追放されていたと知ってはいたものの、『死神』復活のチャンスをふいにするとは思えなかった。だからおれの寝床として使っていた廃工場近くまでおびき出して殺しておこうと、匿名でガセネタを流したのだが――いやはや全く、慣れないことはするものじゃなかった。所詮は人殺ししか能のないおれが珍しく頭を使おうとなんてするから、ガセネタのはずが本物を差し出す羽目になってしまったじゃないか。その所為で、五味空気まで死んでしまった。
しかしまあ、五味空気は最期の最期で良い仕事をしてくれた。
無意識だっただろうが、この廃工場へ逃げ込んだのは良い判断だった。
さあて、久しぶりの大舞台だ。張り切って行こうじゃないか。
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