(12)――おれは恋に生きると決めた。
【語り部:陜ィ�ィ雎趣ソス陜ィ�ィ陷�スヲ】
次に目を覚ましたとき、おれは恋に生きると決めた。
まずは【おれ】達が持ち得る全てのスキルを駆使して、あの少女の身元を特定した。
少女の名前は、清風風視。誕生日は十二月十一日。AB型、右利き。一人っ子で、郊外の一戸建てに両親と三人で住んでいる――と、そこまで調べ上げたところで、おれは息を飲んだ。
風視ちゃんの両親は、〈裏〉じゃ有名な宇田川社の特殊警護課に所属していた過去があった。父親はあの『死神』。母親のほうも、その右腕として有名な『肉食カラス』ときた。風視ちゃんは、そんな二人の血を引きこの世に生を受けたのである。
このときばかりは、おれも運命というものを実感せざるを得なかった。
死にかけのおれを優しく介抱してくれた少女、風視ちゃん。
彼女には、人を殺す才能が間違いなく備わっている。
あの日に漠然とこみ上げた感情に、自然と名前がつく。
おれは風視ちゃんに殺される為に生まれてきたんだ、と。
心の内に巣食う、優しい熱を伴う感情は、おれなりの生への執着だったのだ。どうでもいい奴に殺されたって、なんの感情も浮かばない。それは互いに互いの生死がどうでもいいからだ。
けれど、風視ちゃんの手にかかって死ねるのなら。
それはおれの人生最大の幸福になり得るのではないだろうか。好きな子に殺されるのなら、いくら死ねないおれだって、幸福な死を手に入れられるかもしれない。そう思った。
しかし残念なことに、風視ちゃんの側には、おれを殺す理由がなかった。
当たり前だ、おれと風視ちゃんは、あの雑木林でほんのひととき言葉を交わしただけの仲である。そんな彼女におれを殺したいと思ってもらうには、仇敵にでもなるしかない。……仇敵? ああなんだ、答えは簡単じゃないか。
おれが風視ちゃんの家族を殺して、仇敵になってしまえば良い。
そうすれば風視ちゃんは、おれに真っ直ぐ純粋な殺意を向けて殺しに来てくれる。あの子にとって家族とは、それくらい価値がありそうな話しぶりだったではないか。
そうと決まれば話は早かった。
おれはすぐさま清風一家の住む家の監視を始め、襲撃の隙を狙った。いくら前線から身を引き、現在は〈表〉での警護業務を主としているとは言っても、〈裏〉で一時代を築き上げた『死神』と『肉食カラス』だ。気を引き締めてかからないと瞬く間に殺されてしまう。
計画を実行に移したのは、雪の降る夜だった。
清風一家は、少なくとも週に一度は家族そろって夕飯を作る習慣があったようなので、そこを狙うことにした。本当のことを言えば、風視ちゃんに危険が及ばないよう、仕事帰りの両親のみを襲撃して殺したかった。けれど彼女の目の前で両親を殺さなければ、この計画は意味を成さない。風視ちゃんの内で憎悪の念を増幅させ、とびきりの殺意でもっておれを殺してもらわなければならないのだ。
結論から言うと、『死神』も『肉食カラス』も思いのほか簡単に殺せてしまえた。
苦戦しなかったと言えば嘘になるが、それでも予想していたよりはるかに短時間で決着はついてしまった。この程度のものが、あの子にとって本当にかけがえのないものだったのだろうか。おれにはわからない。
「――どこにもないじゃんか」
荒れ果てたリビングを見回し、おれはぽつりと呟いた。
愛おしい風視ちゃんがおれを殺しに来る姿が、どこにもない。
両親が殺される現場を目撃したら、すぐさま襲い掛かってきてくれると考えていたのに。わざわざ風視ちゃんの隠れているクローゼットの近くで、見えやすいように両親を殺してあげたのに。
憎悪より恐怖のほうが勝ってしまって、動けずにいるのだろうか。
ああでも、それなら。
それならそれで、風視ちゃんにはおれへの殺意を熟成させる期間を与えてみてはどうだろうか。あれだけ家族を大事にしていた風視ちゃんなら、どんな手段を使ってでもおれを殺してくれるに違いない。衝動的な殺意よりも、そっちのほうがずっと魅力的だ。
風視ちゃんには、たっぷり時間を与えるべきだ。人を殺す術を身に着け、殺意の質を高めてもらわなければならない。それが完成するまでには、一体どれだけの時間がかかるのだろう。おれはいつ、風視ちゃんに殺してもらえるのだろう。
初めて未来のことを考え、初めて楽しみだと思った。
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