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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二十一章

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脱出、でもその前に

それから更に三日がたった。


壁の印も五本目になる。


「おはよう御座います、今日は良い天気ですか?」


コレで何度目かの挑戦だが今日も返事はもらえなかった。


いつものように上から食事が降ろされ、代わりに水差しをそれに載せる。


中身を補充してもらった後、再度それを降ろされ・・・。


「私が言うのもあれですが、こんな事させて本当に申し訳ありません。」


最後に排泄用に使っているツボをくくりつける。


密封されている建物の為、排泄した物がどこかに流れるという事は無い。


最初に用意されたつぼに排泄をして、毎朝処理してもらうのだ。


こんな中年男性の排泄物など処理したくないだろうに、俺の担当になったばかりにこんな事をさせられている彼に同情してしまう。


給料を貰っている以上やらねばならないだろうが、俺なら文句の一つや二つや三つ、言いたくもなる。


「・・・別に、仕事ですから。」


引き上げながらボソッとそんな事を呟く兵士。


おっと、彼じゃなくて彼女だったようだ。


ますます申し訳なくなる。


自分の妻でさえ気が引けるのに、全くの赤の他人に排泄物の処理をさせるなど・・・。


「女性にこんな事をさせて、本当にすみません。」


「むしろこんな状況でよく話しかけられますね、私は敵なんですよ?」


「それは戦争が始まったらの話です。今はまだ始まっていない、だから私はここにいるのでは無いですか?」


まさかこんなに会話が長続きするとは思わなかった。


ずっとフラれ続けていたので半ば諦めていたんだが、世の中続ける事って大切なんだな。


「さぁ、私は何も聞かされていません。ただ、貴方の世話をしろといわれているだけですから。」


「本当にいつも有難う御座います。」


「もういきますね、今日は少し多めにしてますから一杯食べてください。」


ペコリと頭を下げて彼女は去っていった。


ここに来て五日、彼女に何の変化があったのかはわからないが会話が出来たのは良い兆候だろう。


会話しないで一日を終える事だってある。


次の食事が楽しみだな。


そんな事を思いながら少し量の増えた食事に口をつけるのだった。


「随分とご機嫌ですね。」


体感的に昼を過ぎた頃、再びダークスがやってきた。


「そう見えますか?」


「何か変化・・・などあるはずもないか。」


「変化ならありますよ。あまりにも暇で身体を鍛えているんですが、明らかに昨日よりも力が付いているようです。個人的にはもう少し肉の量を増やして欲しいのですが・・・。何なら野菜でも構いません、もう少し何とかなりませんか?」


「幽閉されている身で随分と偉そうだな。」


「捕虜の待遇改善は必要ですよ。今後私を有効に使う予定があるのであればなおさらです。」


反抗的であればあるほど使いにくくなる。


もちろん利用するつもりがないのであれば話しは別だが、今のところそうではない・・・はずだ。


「それは陛下に直訴するんだな。」


「直訴する機会を与えてくれるんですか?」


「不本意ながら陛下がお前と話しをしたいそうだ。」


「つまり助言が欲しいと。」


「いいや、お前の頭を有効に使うだけだ。」


「悔しくないんですか?」


「実際に行動して結果を残すのはこの私だ。お前はただ頭を使い続ければ良い。それが出来ないのであれば殺して捨てるまでのこと。ここを墓場にしたくないのであれば、せいぜい口の聞き方には気をつけることだな。」


それはつまり悔しいって事じゃないだろうか。


それをつっこむと色々と面倒そうなので敢えて反応するのはやめておいた。


また陛下がここに来る。


果たして何をしに来るのか・・・。


ミハエル王子の動きは読まれていないと思うが、ここにいる限りどうなっているかは分からない。


来る理由が分からないって言うのは中々に面倒だな。


「何時来られるんですか?」


「それはあのお方次第だ。」


「出来れば夕食前でお願いしますね。」


そうでないと彼女と話すことが出来なくなってしまう。


そこんとこよろしくおねがいします。


そんな願いが聞き届けられたのかは分からないが、それから少しして陛下がやってきた。


「トーターは外で待っていろ。」


「ですが・・・。」


「中から何かすることなど出来るはずがない、そういう風に作ってある。」


「分かりました。」


一緒に入ろうとしたダークスだったようだが、陛下に止められ戸が閉められる。


この場に陛下と二人きり。


何の喜びもないんだが・・・。


「今日はどうされましたか?」


「そなたの考えた案だが早々に効果が出てきたぞ。」


「それは何よりです。今日はそれを報告に?」


「いいや、それだけではない。」


「といいますと?」


「この五日間、あまりの暇さに腐っているのではないかと危惧していたがそうではないと兵士から報告を受けている。聞けばあの資料をさらに読み解いたそうではないか。他に何か良い案は無いのか?」


「陛下、私が言うのもあれですが外で待つ彼に聞いたほうが喜ぶのではないでしょうか。」


俺が考えた案を実行するだけでは流石にかわいそうだと思うんだけど・・・。


「トーターにはトーターの良さがあるがアイツにない物をお前は持っている。それら二つをどう使うかは私の自由だ、そうだな?」


「私はとらわれの身、陛下の言う事を聞くことしか出来ません。」


「お前の国もお前の知識を有効に使ってきたんだ、私が同じようにして何が悪い。さぁ、思いついた事を洗いざらい話して貰おうか。」


反抗した所で何も得するものは無い。


てっきりミハエル王子の事を聞かれると思っていたんだが肩透かしだったなぁ。


なんていうか、もっと用心深くて疑り深い人なのかと勝手に思い込んでいたんだが、どうやらそうでは無いらしい。


むしろ貪欲で自分のしたい事を実行しないと気がすまない子供のような人だった。


王子とは似ても似つかない。


真逆の存在。


それからしばらくは本人の望むまま聞かれた事に答え続けた。


農地開発、物流改善、魔物対策。


考えられる全ての可能性について応え続ける。


それはまるで千本ノックのようだった。


何時終わるかも分からない質問の嵐。


それに応え続けるのは中々に骨が折れたが、最後の方は満足そうな顔をしていた。


「陛下、そろそろお時間です。」


「む、そんな時間か。」


ダークスが申し訳無さそうに扉を開け中に入ってくる。


本人はまだ聴きたいことがあったようだが、さすがに俺がしんどい。


やれやれ、やっと開放される。


「もうよろしいですか?」


「あぁ、また時間が出来たら話しを聞きに来る。それまでに必要な物があれば用意させるが、なにかあるか?」


「では椅子をお願いします。資料は、まだありますので。」


「椅子だな、用意させよう。」


「陛下そこまでしなくても。」


「トーターは黙っていろ。これは私の決定だ。」


またあの苦虫を噛み潰したような顔をする。


そんな目で俺を見るなよ、決めたのはおたくのボスなんだからさ。


何時までも床に座ってると尻が痛くなるのでとりあえず椅子を用意してもらった。


次はベッドにしようか、それとも毛布にしようか。


長居するつもりは無いがいつ出れるか分からないので居住空間の改善をしていく必要があるだろう。


「・・・失礼しました。」


「我侭ついでですが毛布もいただけますか?」


「用意はするが今回はそれだけだ、分かったな。」


「十分です。」


よし、毛布もゲット!


これで固い床からは完全におさらばだ。


満足そうな顔をした陛下と正反対の顔をしたダークスを見送り、大きく息を吐く。


さすがに疲れた。


どっと押し寄せる疲れからその場にへたり込み、何ならそのまま大の字になる。


「お腹すいたぁぁぁぁぁ!」


そして大声を出した。


自分の声が石塔中に反響して煩いが大声を出さないとやってられない。


居住空間の改善と引換にまたあの千本ノックをさせられると思うと、ぶっちゃけめんどくさい。


あ~、早く外に出たいなぁ。


「随分と大きな声ですね。」


「っと、失礼しました。」


「いえ、気持ちはわかります。一刻も陛下の質問攻めに耐えていたんですから。」


そんなに時間が経っていたのか。


通りで疲れるわけだ。


「ずっと待ってくださってたんですか?」


「イライラしているダークス様の相手は気を使いましたが、それもまた仕事ですので。」


「仕事なら私と会話するなと、言われているのでは?」


「もちろんそうです。でも誰も聞いていませんし、話に聞いていた以上に真面目な人なのは分かります。」


「ちなみになんて言われているんですか?」


「極悪人で頭が回り言いくるめられる可能性がある、気をつけろと。」


言いくるめるって人聞きの悪い。


そんな事したところで逃げられるわけないのに、失礼だなぁ。


「何も悪い事していないんですけどねぇ。」


「そんな顔してます。」


「言うじゃないですか。」


「っと、これ以上は怪しまれるので。」


慌てて口元に人差し指を当てる仕草に思わずドキッとしてしまう。


いやいや、嫁に会えないからってドキッとするんじゃないよ。


その後はお互い無言でいつもの通り食事を貰い、水差しのやり取りをする。


「明日には椅子と毛布が届けられるはずです。」


「ありがとうございました。」


「それと、今回も増量しています。別の物も一緒に。」


「別のもの?」


「それでは。」


答えを言う事もなく彼女は扉の向こうに消えてしまった。


残されたのは今朝よりも更に量のが増えたらしい不自然に盛り上がった包みだ。


中を開けるとパンと干し肉のほか、野菜が少し追加されていた。


トトマもあるぞ、ありがたい。


で、別のものってのはコレかな?


前回同様にパンの下に紙が入っていた。


見た目にはただの敷き紙だが、見ずに濡らすとあら不思議。


文字が浮かび上がってくるわけですよ。


今日は何かな?


『決行は三日後。』


おぉ、いきなりもう決行か。


てっきり準備に時間がかかっているのかと思ったんだけど一足飛びに話しが進んでいるな。


これに父親は気付いているのか、それともいないのか。


俺を逃がしたことで間違いなく王子は目をつけられるだろう。


それを押してでも俺を助けてくれるというんだ、何てお礼を言えば良いんだろうか。


え、自分の父親のやったことだから気にするな?


さすがにそんな事を言う人出は無いか。


ともかく、ここから逃げることが出来る。


それが分かっただけでもこれ以上の喜びは無い。


早く皆に会いたい。


後三日。


三日後に、俺はここから出る。


椅子や毛布を用意してもらってもあんまり意味がなかったかも・・・。


いや、その日の為に体調管理は怠れないぞ。


それなりに身体を鍛えつつ、何時来るかわからない千本ノックに備えなければ。


野菜の美味しさに感動しつつ残りの食事をしっかりと食べる。


そして運動して寝る。


時間はあっという間に過ぎ、千本ノックが来る事もなく迎えた決行当日。


「夕食です。」


「有難う御座います。」


「では。」


随分とそっけなく彼女は部屋を出て行った。


お礼を言いたかったけど流石にそこから計画が漏れるのも困るしなぁ。


手紙もあれだしなぁ。


まぁ縁があればまた会うこともあるだろう。


最後の晩餐はいつもと何も変わらず・・・っていうかむしろ野菜がなくなっていた。


残念。


例の手紙もはいっていない。


出来ればタイミングとか、どういう風に逃げるのか事前に教えてくれるとありがたかったんだけど、怪しまれるから手紙を出せなかったという事にしておこう。


サクッと食事を済ませてその時に備える。


が、待てど暮らせどその時はやってこなかった。


おかしい。


何かあったんだろうか。


そんな不安が俺を支配する。


寝るわけにもいかず、かといって筋トレで体力を使うわけにもいかない。


手持ち無沙汰で資料に目を通すも気が乗らない。


叫ぶわけにもいかず、暴れるわけにもいかず。


ぐぬぬぬ。


となっていたその時だった。


突然石塔内の魔灯が全て消える。


予期していなかった事態に加え突然視界を奪われた事でパニックになってしまった。


慌てた拍子に手配してもらった椅子にぶつかり派手にこけてしまう。


マジで痛い。


こんな時はどうするんだっけ、そうだ目を閉じるんだ。


目を閉じてゆっくり10数える。


それから目を開ければ闇に目が慣れて多少見えるようになるは・・・。


「何者だ!」


「え?」


「くそ、どうしてこんな所に。」


「知るものか、とりあえず寝かせてしまえ!」


「おのれ、誰か!ぐっ・・・。」


頭上で聞き覚えのある声同士が何か揉めている。


ゆっくり数なんて数えている場合じゃない。


とか思ったら、オレンジ色の明かりが瞼の裏から飛び込んできた。


「イナバ様ロープを!」


慌てて目を開けるとオレンジ色の明かりに照らされて一本のロープが揺れていた。


それはいつも俺に食料を下ろしてくれるあのロープだ。


上を見ると彼女がそれを持っていた。


え、なんで彼女が?


「お早く!」


せかされるままロープを掴むと女性とは思えない力で一気に引き上げられた。


落ちないように必死にしがみつく。


何とか上に引き上げてもらうと、彼女の後ろにゴリアさんがいた。


なるほど。


って納得してる場合か。


体勢を立て直しあたりを見渡す。


ゴリアさんの横にはミハエル王子、そしてその奥には・・・。


「なんでここに陛下が・・・。」


ここに一番いてはいけない人が奥で転がされていた。


いよいよ脱出する時が来ました。

でも雲行きがちょっと怪しい。

なぜあの人がその場にいたのは、その目的は?

それを確認する前にまずは脱出です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。


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