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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二十一章

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確実に状況は変わっている

ミハエル王子が来てから二日が経った。


といっても食事の回数と睡眠から逆算しての日数ではあるが、おおよそあっていると思われる。


あれ以降ミハエル王子陣営の人物が来ることは無い。


っていうかダークスですら来なくなってしまった。


石塔に入ってくるのはいつも決まった兵士で朝晩食事を持ってくるだけだ。


来る度に声をかけているけれど、今の所反応は無し。


つい先ほども四度目の挑戦に失敗したところだ。


話題が悪いのだろうか。


それともヘタな事を言わないように強制されているんだろうか。


外との接触も未だ敵わず、二枚の戸が同時に開くことは今の所ない。


融合結晶は冷たいまま俺のポケットに収まっている。


この二日あまりにも暇なので再度資料を読み解いていた。


慣れれば結構わかるもので、人口分布や出生率、魔物の発生状況や被害の資料もあったのでいい暇つぶしになっている。


その中で興味深かったのは魔物関係の資料だ。


東西に長い国土で特に魔物が多いのは西側だ。


特に国境付近、それこそ今回スポットを当てたアミルトン付近ではかなりの魔物が発生している。


ただ、面白いのは発生はしているものの被害が少ないという点だ。


国境に近く冒険者が流入しやすい環境だからなのか、それとも別の要因があるのかはわからないが、魔物の発生率の割に大きな被害は出ていない。


さらにこの近辺は国土の中で唯一といえる穀倉地帯で、収穫もそれなりに行われているおかげか食糧の輸入に頼っているこの国の中ではかなりの食料自給率になっている。


不思議なのは魔物が多く処理されており、かつ国境付近で貿易が行われやすい環境のはずなのにあまり発達していないんだよな。


普通はそれなりに栄えていてもおかしくないんだけど・・・。


これに関しては王都よりも離れているから資料や情報が届いていないという事も考えられるけど、それにしても違和感が強い。


何か理由があって発達してないんだろうか。


わからん。


まぁ、全部の情報を開示されてない可能性もあるし、あくまでも資料を読み解く中でそう感じだただけだ。


実際見たわけじゃないから何とも言えない。


近くにダンジョンもあるし、栄える理由はたくさんあると思うんだけどなぁ。


これも冒険者不足原因なんだろうか。


魔物の駆除も追いついておらず、王都付近も魔物の発生は少ない割に被害は大きい。


冒険者がここまで来ていない証拠と言えるだろう。


自前の兵士ではどうにもならず、ずるずると被害が拡大している。


余程強い魔物がいるんだろうか。


もしそうだとしたらそれを餌に揺さぶることが出来るのでは?


『精霊の力で駆除するからここから出せ!』


って言っても出してくれなさそうだけど。


「結局ここにいるだけじゃ何も出来ないんだよなぁ。」


「むしろ何かされては困るからここに押し込んでいるのだが?」


「どうも、お久しぶりです。二日ぶりでしょうか。」


「どんなものかと様子を見に来てみたが、何も変わっていないようだな。」


「お陰様で。少々運動不足なのと野菜不足なぐらいでしょうか。」


「中を走れば少しは運動になるのではないか?」


「個人的には日の当たる下で走りたいんですけどねぇ。」


紫外線に触れないと脚気になるんだっけか。


確かビタミン不足で発症するんだよな?


今の食糧事情から考えても明らかなビタミン不足と言えるだろう。


野菜、野菜を食わせてくれ。


「そんなこと言って外に出してほしいだけではないのか?」


「出してくれないのでしょう?」


「当然だ。」


「ではせめて新鮮な空気と入れ替えてくれませんかね、ここは空気が悪すぎる。」


「それも無理だ。」


「風魔法でこぅ、ぶわ~っと・・・。ダメですか。」


「魔力を遮断している場所でどうやって魔法を唱えるのだ。馬鹿か?」


電気が無いのに扇風機を着けてくれと言っているようなものだ。


ぐぬぬ、無理か。


「そういえばそうでした。」


「何故陛下はこのような人間に肩入れするのか、見当もつかん。」


「そりゃ利用価値があるからでしょう。馬鹿と天才は紙一重と言いますから。」


「そんな言葉きいたことも無い。」


あらそうですか。


自分で自分の事を天才という時点でアレだけど、突っ込まれなかっただけ良しとしよう。


「それは残念です。」


「お前が何をどう画策したところでここから出ることは叶わない。もし出ることがあれば・・・それは死んだ時ぐらいだ。」


「それは利用価値が無くなったら殺すという脅しですか?」


「脅しではない事実だ。」


「ならばせいぜい殺されないように頑張りましょうかね。」


「その減らず口がいつ泣き言に変わるのか、楽しみだ。」


ハッハッハと高笑いをしながらダークスが石塔を出ていく。


一人残され、大きく息を吐いた。


若干ふざけてみたものの、効果は無し。


今更バカなフリをしてもダメですよと、知ってた。


外はもう夜だろう。


今日も固いパンと干し肉で寂しい晩餐としゃれこみましょうかね。


大きく伸びをして、体をほぐす。


肩や腰がバキバキと乾いた音を響かせる。


壁の方に移動して背中を預け、パンの入った包みを開ける。


今日も干し肉がパンの下に隠れていた。


別々で食べてもいいけれど、今日はパンに挟んで・・・おや?


よく見ると干し肉の下に白い紙が敷かれていた。


紙で包んであるのにわざわざ紙を敷く必要はないよな。


取り出してみるも特に変わった所は無い。


透かして見ても何も書かれていない。


でも明らかに混入しましたって感じじゃないんだよなぁ。


ってことは、何か意味があって入れられていると考えられる。


透かしてもダメ、あぶり出しには火がいる。


残るは・・・。


俺は横に置いてあったコップに人差し指を入れ、濡れた指で紙をなでる。


すると、水で濡れた部分が不自然に色を変え、何やら浮かび上がってきた。


同じ要領で全体を指で湿らせる。


浮かび上がってきたそれはみるみるうちに形を成し、短い文章を作り上げた。


「え~っと、今日の夜、わずかに戸が開く。」


短いが解りやすい。


問題があるとすれば、今も夜だろうから何時頃かわからない所だな。


ま、逃げ出すわけじゃないし、俺の無事を伝えれたらそれで十分だ。


そうだ、伝える相手をちゃんと伝えないと駄目だな。


シルビアやエミリアは今回の事態を知らない可能性が高いから、メルクリア女史にお願いするのが一番だろう。


王都に避難しているはずの俺が隣国にいるとかしれたら大騒ぎになるだろう。


あ、伝えたことも口止めしないとまずいか。


ミハエル王子に迷惑が掛からない為にも、その辺は徹底してもらわなければ。


今回の目的はあくまでも俺の状況を伝える為。


脱出に関しては二の次だ。


その辺はミハエル王子が画策してくれているようだからお任せしていいと思う。


地図から察するにこの国からすぐに逃げるってわけにもいかない。


最低でも馬車で二日はかかるだろう。


居なくなればすぐにバレるだろうし、追手もかけられる。


二日逃げ続けるとなると中々に大変だ。


援軍はまず見込めないし、休憩も必要になる。


とはいえ街で休む事も出来ないから野宿になるんだろうけど、魔物がかなりいるわけですよ。


自分の身は自分で守る必要があるだろう。


といっても、ここから出ればドリちゃんもディーちゃんも出てこれるだろうから後は二人に任せておけば問題なしだ。


相変わらずの他力本願だが、そうするしか方法が無いんです。


追手を派手な魔法で殲滅!なんてのはネット小説でよくある話だけど、残念ながら俺にそのスキルは無いんです。


「何はともあれ、いつ開くかわからない以上油断はできないな。」


ダークスが来てすぐに開くことは無いだろう。


開くとしたら真夜中、それも警備の緩むタイミングだけだ。


さっさと食事を済ませてその時を待つとするかな。


相変わらず待つばかりだが、今はこれが精一杯。


腹を満たし、いつもならそのまま睡眠って流れだが今日は長丁場になる。


食後に眠たくならないコツは体を動かす事。


適度に腹を満たしたら久方ぶりの筋トレでもしますかね。


なんならこの中をぐるぐる走ってもいいかもしれない。


ハムスター宜しくぐるぐると回り続けようじゃないか。


そんなことを思いながらパンを頬張るのだった。



「来た!」


そしてその時が来た。


石塔内を走るのも飽き、魔法陣の真ん中でゴロゴロと転がっている時だ。


突然石塔内の空気が持ち上がり、外に吸い出されるような感覚があった。


それと同時に冷たい空気が流れ込んでくる。


冷気は下に、暖気は上に流れる習性があるが、まさにそれだ。


冷たい空気とは逆に、俺のポケット内は一気に熱を帯び慌ててポケットから融合結晶を取り出し床に放り出した。


結晶内で何かがうねるように動いている。


それはまるで出口を探す生き物のようで、しばらくそれを見ていると突然パチンとひび割れが出来た。


そして、次の瞬間。


パリンと乾いた音がしたかと思うと融合結晶は中心から爆ぜるようにして割れてしまった。


「シュウちゃん!」


石塔内に聞き覚えのある声が響く。


姿は見えないが、間違いなくそこにいる。


それだけはわかった。


「ドリちゃん。」


「シュウ、ちゃん。」


「ディーちゃんも、来てくれたんだね。」


「良かった、本当に良かった。何も感じないからどうしようかと思ってたんだ。」


「怪我はしてない?大丈夫?」


感動の再会と行きたい所だが時間はない。


いつ扉が閉まるかわからない以上、速やかに目的を達しなければ。


「大丈夫だから二人ともよく聞いて、次にいつお話しできるかわからないから。」


「うん、わかった。」


声が落ち着くのが分かる。


「今、ハーキネン王国という隣の国に幽閉されているんだ。とりあえずは無事だからこの事をエフリーの祝福を授かっているメルクリアさんに伝えてもらえるかな。それと、これは絶対に秘密だから漏れないようにしてほしいって。」


「あの子だね。」


「奥様じゃなくて、いいの?」


「心配かけたくないから。」


「そっか、そうだよね。」


なんとなく事情は察してくれたようだ。


現在地、今の状況、無事、伝える相手。


シミュレーションしていたのでスラスラと伝えることが出来た。


まだ扉は開いているみたいだな。


「二人が来てくれたのは気配を感じたから?」


「うん、シュウちゃんの気配があったから。でも、魔力が無いから結晶の魔力を使ったんだ。」


「それももう、終りみたい。」


空気の流れが少なくなる。


戸が閉められるようだ。


「来てくれて嬉しかったよ、外に出たらまたお願いね。」


「うん!必ず助けに来るから。」


「だから、まってt・・・。」


ディーちゃんの言葉が途中で遮られる。


それと同時に石塔に静寂が戻ってきた。


もう空気の流れもない。


冷たい空気だけが石塔内を満たしていた。


「一回こっきりだったけど、成功したかな。」


割れた融合結晶のかけらをかき集める。


今度融合結晶をよこせと言われたらなんて言い訳をしようか。


それを考えておかないと。


でもまぁ、後でいいか。


状況を伝えられた、それだけで妙な達成感があった。


流石に俺の為に攻め込むようなことはしないと思うけど、色々と手を回してくれるだろう。


願わくばそれがミハエル王子に伝わりますように。


達成感と安心感で急に眠気が襲ってくる。


俺はその場に横になり体を丸め目を閉じた。


今はまだ何もできない。


でも、状況は確実に変わってきている。


皆の力を借りて、俺はここから出る。


そして家に帰る。


俺は家に帰るぞ!


そんなことを考えながら眠りにつくのだった。

少々短めですがお許しください。

状況は確実に変わり、そして前進しているようです。

さぁいよいよクライマックスも目前、果たして彼は脱出できるのか。

そして国に戻れるのか。

戦争は?

ダークスとの戦いの行方は?

それはまた次回という事で。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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