新しい命はどうやって生まれる?
地上に戻ると店はもう閉まっていた。
魔灯は消え、宿泊している冒険者の部屋だけ明かりがついている。
時間も時間だし家に戻ったんだろう。
長い一日だったなぁ。
そんなことを考えながら裏へと回り、明かりのついた家に向かう。
さぁドアを開けよう、そう思った次の瞬間。
勢いよく扉が開き、ドアが顔にクリーンヒットした。
余りの痛さに声も出ず、頭を押さえてその場に蹲る。
「シュウイチ、大変だ!」
大変なのはこっちだ、という元気もなかったがあのシルビアが大慌てしているんだ、さぞ大事なのだろう。
ジンジンと痛む頭を押さえながら顔を上げると、目に飛び込んできたのは床に倒れるユーリの姿だった。
「ユーリ!」
慌てて立ち上がり家に駆けこむ。
「先ほど急に産気づいて、シルビア様が村に行くところだったんです。」
「産気づいたって、予定日はまだ先では?」
「申し訳ありません。おそらく先程大量の魔力を吸い込んでしまい、一気に栄養が流れ込んでしまったのでしょう。」
「何冷静に分析しているんですか。」
横たわるユーリがいつもと変わらない顔で、いやそう見えるだけで額には汗がにじんでいる。
あのユーリが苦しんでいるんだ、かなりの状況だろう。
「この様子では先生が来るまで持たないだろう。村に行き人を呼んでくる。」
「お願いします!」
「私はお湯を用意しますからニケさんは綺麗な布をお願いします。確か納戸に入れておいたはずです。」
「わかりました!」
「私は・・・。」
「シュウイチさんはユーリの傍にいてあげてください。」
エミリアとニケさんが慌ただしく動き回るのを横目で見ながら、俺はユーリの手を握り続けた。
そういえば子供の姿が見えないぞ。
「お二人でしたら食事の後すぐに眠ってしまいました。」
「よかった。」
「それで、ドラゴンの方は・・・ウッ!」
苦悶の声を漏らすユーリの腰を何度も何度もさする。
こういう時男は何もできないんだよね。
エミリアの時もシルビアの時もただ横にいるしかできなかった。
まぁ、それが当たり前なんだけど、二人曰くいてくれるだけで安心するらしいので俺はそれを全うするだけだ。
「ドラゴンとは無事に意思疎通が出来ました。色々ありましたが、リェース様が話を付けてくれたので今後はいい関係が築けることでしょう。」
「それは何よりです。」
「ちょうど最下層に守護者的な存在が欲しいと思っていたんです。彼女であればその役目を全うしてくれるに違いありません。」
「女性なのですね。」
「ドラゴン的には性別など関係ないそうですが、そのようです。」
「ドラゴンも孕むのでしょうか。」
ちょっとユーリさん?
この状況でよくそんなこと考えられますね。
余裕すぎません?
「余裕などあるわけ・・・ありません。痛みに強いはずのこの私がこれほどまで苦しんでいるんです。先に産まれた奥様方を尊敬いたします。」
「人造生命体は痛みに強い、昔そう言っていましたね。」
「はい。あの方がそういう風に作りました。にもかかわらずです、この痛み・・・。産まれる時は一体どうなってしまうんでしょうか。」
「大丈夫ですよ、気づいたら産まれています。」
慌ただしく走り回りながらさらっと答えるエミリア。
気付いたら産まれてるって、貴女の時かなり大変だった記憶があるんですけど。
余りの痛さに意識がもうろうとしていたからそう感じるのかもしれない。
妻の悲鳴を聞き続けるという苦行。
出産とは本当に大変な事なのだ。
「ぐぅ・・・!」
「はい、呼吸を浅くして力まないで。今力んでも生まれませんよ。」
「そうは言いましても・・・これは!」
「母親になるんです、頑張りましょうユーリ。」
「・・・はい!」
エミリアに勇気づけられユーリが大きく頷く。
しばらくして村から三人ほど助っ人がやって来てくれた。
二人を産んでいるベテランさんで、過去に村での出産も補助しているお産婆さん的存在だ。
「かなり大きなお腹ね。」
「これは産むの大変よ。頑張りましょう。」
「皆さま、よろしくお願いします。」
彼女たちが来たらもう安心だ。
当分生まれないからと追い出されるように寝室へと戻る。
俺のベッドで大暴れをしながら寝ている二人の頭を撫でつつ、時折聞こえてくるユーリの悲鳴を聞きながら眠れぬ夜を過ごすのだった。
そして迎えた朝。
「シュウイチ!」
「はい!」
ウトウトしていたらシルビアが慌てた様子で駆け込んできた。
大きな声に子供達も目を覚ましてしまう。
「生まれましたか?」
「いや、様子がおかしいすぐに来い!」
いや、様子がおかしいとかマジで勘弁してくれ。
お願いだから安心して生まれてくれよ。
そう願いながら慌てて階段を駆け下りると、信じられない状況が目に飛び込んできた。
大きなお腹をしたユーリがあろうことか立ち上がり外に行こうとしている。
それを必死に止める奥様方。
俺も慌ててユーリに駆け寄った。
「ユーリ、早く横になってください!」
「ご主人様、助けてください。ここでは、ここでは産めません。」
「どういうことですか?」
「お腹の子が言うんです、ここはダンジョンじゃないって。あぁ、産まれてくる子供はご主人様と変わらないと思っていたのに・・・。」
三人がかりで止めようとするもユーリの体はびくともしない。
まるで地面に張り付いているような状況だ。
「ともかく落ち着いて。」
「あぁ!」
ユーリがひときわ大きな声を上げたかと思うと、大きくなったお腹がぼこぼこと動き出した。
まるで腹を破って出て来ようとしているようにも見える。
昔見たSF映画みたいな光景だった。
「どうする、このままでは大変な事にもなりかねん。」
「シュウイチさんどうしましょう。」
全員の目が俺を見てくる。
どうする。
どうすればいい。
考えろ。
考えろって言ってもこんな状況初めてで俺にはどうすればいいか・・・。
その時だった。
ある人物の存在が頭に浮かび上がってきた。
まるでこの時の為に現れたような存在。
このお腹になったのも元はと言えばアレが原因じゃないか。
「ユーリ、ダンジョンに行きたいんですね。」
「この子がそう言っています。ダンジョンに行かなきゃと。」
「わかりました、行きましょう。」
「シュウイチ!?」
「私一人で連れて行くのは無理です、エミリア力を貸してくれますか?」
「わかりました。」
「エミリアまで、ユーリにもしもの事が有ったらどうするんだ。」
「もうどうにかなっています!」
今にも腹を破って出て来ようとしているのがその証拠だ。
そもそもユーリは人造生命体であると同時にダンジョン妖精。
地上よりもダンジョンの中の方が何かと都合がいい・・・かもしれない。
うめき声をあげるユーリをエミリアとシルビアの三人でゆっくりと移動させる。
途中何度も叫び暴れるので何度も引き返しそうになったが、肩に食い込む指の痛さで我に返りやっとの思いで転送機の前に到着した。
「行きますよ。」
「二人共、ユーリを頼む。」
「はい!」
シルビアに見送られ転送装置を起動させる。
暗転すること一瞬、あっという間に最下層へと到着した。
そして叫ぶ。
「リェース様おられますか!」
俺の声が最下層に響いた次の瞬間、驚いた顔をしたリェースさんが目の前に現れた。
「そんな大きな声を出していったいどうしたの。」
「お願いします、知恵をお貸しください。お腹の子が暴れているんです。」
「あらあら苦しそうな事。この子・・・普通の子じゃないわね。」
「人造生命体で、ダンジョン妖精としての機能も有しています。」
「このままじゃ腹を破って中の子が出てくるわ。そうすると、この子は死ぬわよ。」
「そんな!どうにかなりませんか!?」
息も絶え絶えな感じで横たわるユーリに、エミリアがそっと寄り添う。
藁をもすがる思いでここに来たんだ。
もし見放されたとなったら・・・。
いや、大丈夫だ。
何とかなる、何とかして見せる。
お腹の子も、ユーリも死なせはしない。
何なら俺の命を使ってでも・・・。
「そんなに思い込まなくても大丈夫よ。この感じ、過度の魔力が流れ込んで一気に成長しちゃったのね。妖精ではたまにある事だから、心配しなくてもいいのよ。」
「本当ですか?」
「問題はどの魔力を使ったかだけど・・・。あら?この感じ、どうして彼女の気配がするのかしら。」
暴れるユーリを見下ろしながらリェース様が困ったように首をかしげる。
どの魔力をつかったか。
そんなの決まっている。
「アースドラゴンのハルトさんを召喚した時に過度の魔力が流れ込んでしまいこうなってしまったようです。」
「あぁ、だからあの子の気配がするのね。なら大丈夫、ちょっと待ってね。」
ポンと手を叩き納得したような顔をする。
なんとかなる・・・のか?
「ハルト、ちょっといらっしゃい。」
「は、はい!」
リェース様に呼ばれて人化したままのハルトさんが文字通り飛んできた。
どうも数刻ぶりです。
「どうされました?」
「貴女の魔力が流れ込んじゃったみたいなの、受け皿が欲しいからちょっと竜玉を出してくれる?」
「あの、リェース様?竜玉と言えば私の命そのもので・・・。」
「いいから早く出す!」
「は、はぃぃぃ・・・。」
竜玉。
確か竜の心臓みたいなやつで、それには莫大な魔力が封じ込められている。
ってのが、ゲームとかでよくあるやつだよな。
まさか実在したのか。
リェース様に命令され、渋々といった感じで目を瞑り全身に力を籠めるハルトさん。
すると、髪の毛が逆立ち苦悶の声と共に鮮やかな金色をした塊が浮かび上がった。
竜玉の名に相応しい金色の宝玉。
ふぅと息を吐いてハルトさんが目を開けた。
「これでよろしいですか?」
「半分貰うわよ。」
「えぇ!半分もですか!?」
「ここで幾らでも魔力を回収できるじゃない。ちょっと苦しいだけよ。」
「ちょっとじゃないと思うんですけど・・・。」
「必要なら私の魔力を上げるわ、それでいいでしょ?」
「リェース様の魔力であれば喜んで!」
なんとまぁ現金なものだ。
満足そうにうなずくと、リェース様が金色のオーブを一刀両断するように手を動かした。
すると浮かんでいたオーブが本当に真っ二つに分かれる。
苦しそうな声を漏らすハルトさんに半分が吸い込まれ、残りの半分が小さな塊となってユーリのお腹の上で止まった。
「ちょっと、苦しいけど頑張りなさいよ。ここで頑張ったら、新しい貴女に会えるわ。」
「・・・はい。」
「シュウイチさん、手を。」
「わかりました。」
何をするかはわからない。
でも、この人に任せていたらきっと大丈夫だ。
そんな根拠もない自信が俺の中に生まれていた。
ユーリの目を見るとまっすぐに俺を見返してくる。
「頑張れますね。」
「もちろんです。リア奥様、よろしくお願いします。」
「大丈夫、私達だけじゃなく皆一緒ですから。」
「リェース様お願いします。」
ユーリが自分の意志で合図をする。
「じゃあ、行くわよ。」
リェース様がユーリの横に立ち、お腹の中でボコボコと動き回る子供に向かって手をかざした次の瞬間。
ユーリの上に浮かんでいたオーブが光り輝いた。
と、同時にお腹も光だしユーリの叫び声がダンジョンに響き渡る。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
「ユーリ!」
「頑張って!」
爪が食い込み血が滲む。
痛いが、俺以上に痛いのはユーリだ。
暴れるユーリを必死に抑えながらいったいどれぐらいの時間が経ったんだろうか。
突然暴れまわっていた子供が静かになり、お腹の光がふわりと浮かび上がった。
そして上で同じように光るオーブに吸収される。
ふと、ユーリの手が緩んだのでそちらを見ると、さっきまで叫んでいたユーリが真顔でこちらを見ていた。
「ユーリ・・・?」
「痛みが有りません。」
「え?」
「痛みも、そしてお腹の子の気配も・・・。」
ゆっくりと自分のお腹を触るユーリ。
さっきまであんなに膨れ上がっていたお腹は、いつものスリムな感じに戻っていた。
暴れまわる様子もない。
「大丈夫よ、もう一人の貴女はここにいるわ。」
呆然とするユーリに向かってリェース様が優しい声をかける。
先程同様オーブは光り輝きながら空中に浮かんでいる。
でも、さっきと違うのはその光の中に影が見えること。
そしてオーブがまるで脈打つように明るくなったり暗くなったりを繰り返し始めた。
「もう一人の私?」
「正確には彼との子供だけど、ハルトを呼んだ時に魔力の影響を受けすぎたのね。人ではなくダンジョン妖精として生まれることを選んだみたい。」
「それは、この子が?」
「そうよ、抱いてごらんなさい。」
ユーリが手を伸ばすと吸い寄せられるようにオーブがその手に収まった。
「温かい。」
「さぁ、抱きしめて。」
「はい。」
言われるがままそのオーブを抱きしめる。
すると一際まばゆい閃光が発せられた。
余りの眩しさに思わず目を覆ってしまう。
しばらくして光が収まり、手を下した。
「初めまして・・・になるのでしょうか。」
そこにはユーリがいた。
ちがう、ユーリは別にいる。
ユーリの手の中に、小さなユーリがいた。
人造生命体でありダンジョン妖精でもあるユーリの子供はどういう存在なのか。
作者自体も色々と考えていました。
まぁ、ファンタジーの世界ですので何でもありなんですけど、これが作者の思い描いた形です。
その説明はまた次回。
何はともあれ、無事に産まれたようです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




