嘘をついているのはどっちだ
騎士団員と共にダークスが勧誘したっていう料理屋へと向かってみたものの・・・。
「ま、この時間に空いているわけがないか。」
「どうしますか?」
「聞き込みをしてどこに住んでいるのか聞いてみましょう。」
「わかりました。」
完全に別れてしまうと護衛の意味がないので、二つに分かれて近くの建物を片っ端にあたってみる。
飲食街なのでどこもまだ準備中、そろそろ仕込みに来てもおかしくないのだが残念ながら誰もいなかった。
「居ませんね。」
「仕方ありません、一回騎士団に戻って・・・。」
諦めて引き返そうとしたその時。
「誰!?」
鋭い声が路地に響いた。
慌てて振り返るとまだ10代に見える女性が俺達を睨んでいた。
「怪しい者ではありません、二三お聞きしたく騎士団員と一緒に回っているんです、こちらの方ですか?」
「そうだけど・・・本当に騎士団の人?」
「私は違いますがこの二人はそうです。あ、申し遅れました私はシュリアン商店のイナバと申します。」
「イナバってあのイナバ?」
「えぇ、あのイナバです。まぁ『あの』の中身が多すぎて『どの』イナバかは存じませんが間違いないかと。」
「要件は何?」
「ダークスという商人が無理やり勧誘してきた件について調査をしています。お話聞かせて頂いてもいいですか?」
ダークスの名前を出した瞬間に露骨に嫌な顔をする。
俺のと騎士団の二人を交互に見てから、大きなため息をつかれてしまった。
ホント、すみません。
「入って。」
「話さえお伺いできましたらすぐに引き揚げますが・・・。」
「話を聞きたいんでしょ、ここじゃ迷惑だから入ってほしいの。」
「ではお言葉に甘えて。」
何はともあれ話を聞かせてもらえるようで良かった。
もし俺一人だったら逃げられてしまっただろう。
騎士団の二人に感謝だな。
案内されるがままお店の中に入る。
小料理屋のような感じで、大きなカウンターがありテーブルは二人掛けが三つとこじんまりしたような感じだ。
「適当に座って。」
「我々は立っていますのでイナバ様どうぞ。」
「では遠慮なく、失礼します。」
カウンターの一番手前に座る間に女性はその向こう側へといってしまった。
手に荷物を持っていたし、それを置きに行ったんだろう。
「で、何で私が声かけられたって知ってるの?」
向こう側から声だけが聞こえてくる。
「貴女が勧誘されたとラントさんにお聞きしたんです。」
「あのデブに?」
「彼の顔を立てるわけではありませんが、根はいい人なんですよ。少々やり方が残念ですけど。」
「まぁ確かにあのダークスとかいう奴よりかはマシかもしれないけど、私はこの店から出るつもりはないからね。」
「それも承知しております。それで、そのダークスという商人ですがどういう風に勧誘してきましたか?」
「どういう風って・・・いきなりこんな風に店に来て『自分の店を持ちたくないか?』って聞いてきたんだ。こっちが迷惑だって言ってるのに聞かなかったから水ぶっかけてやったら帰ったよ。」
なかなか豪快な人のようだ。
「実は同様の被害にあっている人がいるようでして、怪しい勧誘だけに騎士団も調査に乗り出したんです。他にそういう話を聞いたことはありませんか?」
「そういえば、三軒隣の姐さんもそんなこと言ってたっけ。」
「やっぱり。」
「姐さんも怒鳴ったら帰ったって言ってたし、この辺の女は皆強いから大丈夫じゃないかな。」
「それは何よりです。怪しい事に変わりはありません、もしまた来ることがありましたらすぐ騎士団に連絡してください。」
「わかった。」
「準備の邪魔をして申し訳ありませんでした。では失礼します。」
店を出るまで姿は見えなかったが、話が聞けただけでも良しとしよう。
ここと三軒隣の女性も声を掛けられていた・・・と。
シャルちゃんは分かるが飲食業の女性に声をかけるのはどうしてだろうか。
「あの、イナバ様。」
「どうしました?」
「知人に聞いた話なんですが、娼婦の中にもそういう勧誘を受けた人がいるそうです。」
「本当ですか!」
「聞いた話なんで本当かはわかりませんが、聞いてみる価値があるかと。」
「例え嘘でも行けば分かる話です、すぐに行きましょう。」
聞いた話、知人ってのはたいてい本人の情報ってのが鉄板だが今はそこを気にしている場合じゃない。
そのまま裏通りを抜け、歓楽街へ。
向かうはおなじみの、あそこだ。
「これはイナバ様、ようこそお越しくださいました。」
「お昼間に失礼します。お時間よろしいですか?」
「もちろんです、騎士団のお二人もどうぞ奥へ。」
中に入ってすぐに支配人が俺に気づき、奥まで誘導してくれた。
夕方以降が書き入れ時の娼館だが、日中もそれなりに活気があるようだ。
横を通り過ぎる娼婦達が団員の二人に艶めかしい視線を向けている。
後ろにいるのでどんな顔をしているかはわからないが、おそらくドギマギしている事だろう。
若い子のようだし、そっちに興味があって当たり前だ。
だが今は職務中、我慢してくれよな。
「どうぞ、こちらです。」
案内されたのは一番奥の応接室。
ムーディーな建物内と違ってここはかなり質素な感じだ。
「どうぞおかけください。」
「失礼します。」
「後ろのお二人から察するに何か緊急の用件でしょうか。」
「緊急事態、というわけではありませんがあまり良くないお話ではあります。単刀直入にお聞きしますが、行方不明になっている娼婦などはいませんか?」
「・・・どうしてそう思われるのです?」
「実はサンサトローズ近郊で若い女性ばかりを狙った声掛け事案が発生しています。今の所未遂に終わっているようですが、当初商人や職人ばかりを狙っていたはずが今では娼婦にもその被害が広まっていると噂で聞きました。ここでしたらそのような話が集まってきているのではと思いまして。」
俺の話を聞き、支配人が難しい顔をする。
どういうべきか考えているのか、それとも思い出しているのか。
判断しかねる感じだ。
「幸い当館では行方不明になった者はおりませんが、声を掛けられたという話は聞いたことが有ります。」
「その時の客は小太りの中年男性ではありませんでいたか?」
「申し訳ありません、そこまでは把握しておりませんがお時間頂けましたらお調べさせていただきます。」
「どのぐらいかかりますか?」
「複数人から話を聞かなければなりません。今仕事中の娘もおりますので夕刻は過ぎるかと。」
「わかりました、確認出来次第騎士団まで報告をお願いします。」
「かしこまりました。」
あえてダークスの名前は出さなかった。
ここが奴らとつながっている可能性も否定できないし、出したことで先入観が入っても困る。
小太りの中年男性なんてそこら中にいるから大丈夫だとは思うが、念の為だ。
「あの・・・。」
それではと立ち上がった所で支配人に呼び止められる。
なにか?といって振り返ると何とも言いにくそうな顔をしていた。
「どうされました?」
「先ほどの件ですが、別の娼館で行方不明になった子がいると聞いたことが有ります。二期ほど前になりますので今回の件と関係あるかはわかりませんがご報告だけしておきます。」
「貴重な情報ありがとうございました。」
それ以上つっこまずにそのまま猫目館を後にする。
俺達が見えなくなるまで支配人がずっとこちらを見ていた。
「あの、どうして支配人は言いづらそうにしていたんでしょうか。」
「娼婦が逃げたとなればそこは管理が甘いという事になります。管理が甘ければ不正や悪事の温床になりますから、騎士団や自警団に目を付けられることになるでしょう。そうなったら誰がそんなことをバラしたのか!と犯人探しが始まるはず、それを恐れての事だと思います。」
「なるほど。自分がバラしたと思われたくないんですね。」
「だから最後までこっちを見ていたのか。」
「特に今回はお二人と一緒に行動していますから、何かあればすぐに出所がばれることでしょう。それを覚悟で情報を流したことは称賛に値します。」
「つまり、慎重に調査してほしいって事ですね。」
「そういう事です。とはいえ娼婦が居なくなったという事実はあるようですから、具体的な日時などが聞けたら最高ですね。」
引き続き手に入れた貴重な情報だ、有効に使わないとな。
一度歓楽街から離れ、別の路地から目的の娼館へと向かう。
騎士団員が来たことで受付の女性に驚かれてしまったが、事情を話すとすぐに支配人室へと案内してくれた。
「うちだけで二人、いなくなってるんですよ。」
その道中の事だった。
突然受付の女性がとんでもない発言をしてきた。
「そんなにですか。」
「勝手に逃げるのは良くある話ですけど、そういう子は借金のカタに売られて来たとかだから逃げる理由があるんです。」
「でも今回は違う?」
「その子も売られてきた子ですけど、行く場所もないからずっとここにいるって言ってました。もう3年はいたかな。」
「それが急にいなくなってしまったと。」
「だからみんな驚いちゃって。身請けされる話もあったのに、それを捨てて逃げ出すなんてありえませんよ。」
まるで水が漏れるように情報が溢れ出てくる。
口外するなとか言われていたんだろうか。
そうじゃないとこんなにも一気に話すことはないよなぁ。
ま、支配人に詳しく聞けばわかるか。
「失礼します、シュリアン商店のイナバ様が来られました。」
「シュリアン商店の?まぁいい、入れ。」
中から支配人らしき人物の声が聞こえてくる。
「では私はここで。」
「有難うございました。」
「私が話した事内緒にしててくださいね。」
パチンとウィンクしてその女性は去って行った。
大きな胸を強調するドレスだったので、谷間に目を奪われかけたがをグッと堪える。
エミリア並みの乳だったな。
彼らには目の毒だっただろうかと後ろを振り返ると、騎士団の二人が彼女の背中を見つめていた。
うん、仕方ないよな。
若いんだし。
気を取り直して支配人室のドアをノックしてから中に入ると、中には子供・・・のような見た目をした男性が難しい顔をして出迎えてくれた。
「シュリアン商店のイナバと申します、本日はお忙しい所お邪魔して申し訳ありません。」
「騎士団員なんか引き連れて一体何の用だ?」
「実は秋のチャリティに向けて色んな界隈の方とお話していたのですが、そこで妙な噂をお聞きしましてね。人攫いが出ていると聞いたことはありませんか?
「知らんな。」
「そうですか。では、娼婦が逃げたというお話は?」
「チッ、いったい誰が漏らしやがった。」
「どうやら覚えがあるようですね、お話をお聞きしても?」
「言わなきゃ捕まるんだろ?」
「そんなことはしませんよ。」
あははと軽く笑ってみるも、向こうは益々不機嫌な顔になってしまった。
「確かにうちから一人逃げたが、そんなのよくある話だろ。」
「そうですね、借金のカタに無理やり売られたなんて娼婦には良くある話です。」
「今回もそんな感じだ。こっちは金だけ出て行って大損だよ。」
「ちなみに逃げ帰った可能性は?」
「もちろんすぐに家探ししたさ、だがどこにもいなかった。おおかた身体で冒険者でも釣って街の外に逃げたんだろ。」
「その可能性はまぁ、ありえますね。」
「どこで仕入れてきた噂が知らないがその程度だ。残念だったな。」
「いえ、それが分かっただけでも収穫です。人攫いの件は本当にあった事ですのでどうぞお気を付けください。」
はいはいといった感じで手で追い払われてしまった。
もう一度お礼を言って無言のまま支配人室を出る。
後ろの二人も何かを感じてはいるが、俺が何も言わないので黙ってついてきた。
「有難うございました。」
「何かわかった?」
「えぇ、色々と。」
「そ、ならいいけど。」
「世の中何があるかわかりません、美味い話には注意してください。」
「そんなのわかってるよ。そんな事よりもさ、今晩どうだい?」
目線が俺では無く後ろの二人に向けられている。
胸元の空いたドレスの肩ひもがはらりと肘まで落ちた。
「しょ、職務中ですので!」
「自分もです!」
「あはは、そんな反応してくれるって事は私もまだまだ大丈夫そうだね。」
「十分お美しいですよ。」
「そんな世辞よりも二人の反応の方が嬉しいよ。じゃあ、待ってるからね。」
ひらひらと手を振りながら扉が閉められる。
良い人じゃないか。
「ま、待ってるって言われてもよぉ。」
「だよなぁ。」
「今日あったことは何も言いませんし、団員がお休みの時に何をしていても騎士団は咎めないでしょう。もちろん、犯罪に手を染めれば別ですが。」
「そんな事しません!」
「あはは、下手な娼婦に引っかかるよりもあぁいう女性の方が安全で楽しませてくれるでしょうね。」
そんな俺の発言に、どう返事をして良いかわからない様子。
これが女性ならセクハラって言われるんだろうけど・・・、待てよ男性でもセクハラは成立するのか。
気を付けよう。
それよりも気になるのは支配人が嘘をついたことだ。
あの女性は二人いなくなったって言っていた。
だが、支配人は一人だけだと言っている。
逃げ出した理由も借金のカタに売られたからで、身請けの話が出ていた女性の話はしなかった。
あの女性が嘘をついているのか。
それとも支配人なのか。
それは調査していけば分かる事だろう。
「とりあえず騎士団に戻りましょうか、シルビアが何か聞きだしているかもしれません。」
「「は、はい!」」
慌てる団員を連れて騎士団へと戻る。
はてさて、向こうはどうなっているのかな。
普通に考えれば支配人の方ですけど、世の中何が本当かわからないことが多くあります。
それを確実にするにはどうするか。
聞いて回るしかないんですよね。
片っ端から情報を集めて集めて集めて、結果判断する。
もちろん判断を誤ることも有るでしょうが、情報量が多ければ多いほど可能性が少なくなります。
世の中自分で調べもしないで信じる人が多すぎる気がします。
新たに情報を仕入れたところで舞台は再び騎士団へ。
はてさてなにか進展はあったでしょうか。
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




