思わぬところでヒントを見つける
「では行ってくる。」
「いってらっしゃい、気を付けてくださいね。」
「お店は任せました。」
「そっちこそ、シャルちゃんの件は任せたわよ。」
皆に見送られて朝一番に家を出る。
子供達はまだ寝ているがメルクリア女史が一緒だから大丈夫だろう。
昨日は帰るって言ってたけど、結局そのまま子供達と一緒に寝てしまい起きたのはついさっき。
え、どこで寝ていたのかって?
寝かしつけは俺のベッドなんですよね、いつも。
その後子供達をエミリアかシルビアの部屋に連れて行くんだけども、メルクリア女史がそのまま寝ていたって事は昨日寝る場所は無かったわけで。
久々に1階のソファーで寝ることになってしまった。
エミリアかシルビアのベッドに行けばよかったんだけど、朝一番で出発ってなるとなかなかそういうわけにもいかないんです。
若いならまだしももう35ですから、体力的に翌日がつらい。
ハーレム物で翌日元気なのとか、絶対に嘘だろ。
30過ぎたら朝がしんどくなったけど、35過ぎたらそれが加速するから。
よく覚えとけよ!
「身体は大丈夫か?」
「問題ありません。ダンジョンで雑魚寝するよりも快適でしたよ。」
「確かに遠征時の堅い床に比べればマシかもしれんが・・・、頑丈になったな。」
「この世界に来てから鍛えられましたから。」
「シュウイチのいた世界は魔物もおらず平和だと聞く、確かにそれでは鍛える意味がないな。」
「健康や見た目を維持するために運動する人は多かったですよ。」
「健康はともかく見た目とはなんだ?」
「あまりにもお腹が出すぎると格好悪いので、それで鍛えるんです。」
俺もこの世界に来た時はそこそこお腹がポッコリしていたが、今は鍛えたようにがっちりしている。
なんなら腹筋六つまではさすがに無理だが四つぐらいには割れてるぐらいだ。
村の手伝いやダンジョンに潜る事をしていると必然的にこうなってしまうんだよな。
「貴族と同じか。」
「まぁ、そんな所ですね。」
「大勢が貴族のように見た目を気にしているという事は、食べ物にも困らず平和だという事が伺える。幸せな事だ。」
「全ての人がそうだったらいいんですけど、魔物がいない分人同士の争いが絶えません。肌の色が違うだけで争いのタネになるんですから。」
「まるで大昔の話のようだ。」
それが違うんですよねぇ・
魔物という共通の外敵がいるからこそ、そんな些細な事で争わない。
むしろ、違いのあるからこそ協力し合う事で新たな力を生み出しているんだろう。
「人同士の争いが無いこの世界の方が、私にとっては平和に思えますよ。」
「全く無いわけではないしな。今回のように、ヒトを食い物にしている輩は多い。」
「そうですね。そんな不埒な輩から守ってあげるのも大人の仕事です。」
「そっちの件は任せるが、騎士団でも同様の事件が起きていないか聞いておく。」
「お願いします。まずは商業ギルド、その次に商店連合へといくつもりです。終わりましたら騎士団に行きますのでお昼にしましょう。」
「それまでに終わればいいがな。」
前回も一応調べているし、そんなに時間はかからないと思うんだけどなぁ。
商業ギルドに登録していない、そしてコッペンの情報網にも引っかからない正体不明の商人。
恐らくというか間違いなくシャルちゃんのポーションが目的なんだろうけど、冒険者のいる中で強引に連れて行こうとする当たりやり方が雑だよな。
誘拐で捕縛されてもおかしくないのに、まるで何かに追い詰められているようだ。
借金が膨らんで切羽詰まってるとか、そんな単純な理由だったりして。
むしろそうであってほしい。
その方が話が簡単だ。
サンサトローズに到着後予定通り二手に分かれる。
シルビアはついたその足で騎士団へ、俺は商業ギルドへ。
流石に今回はルシルク様に会う事は無かった。
あの人も忙しい人だし、あの日出会えたのが奇跡みたいなものだろう。
「すみませんイナバといいますが・・・。」
「これはイナバ様良くお越しくださいました。今日はどのようなご用件ですか?」
「登録されている商人について調べたいのですが、閲覧させてもらえるのでしょうか。」
「登録者票がございますのでそちらをご利用ください。いつからのが必要ですか?」
「といいますと?」
「現在の登録している方の他にも過去に登録していた方々の分もございます。最新の物でしたらすぐに手配できますが・・・あまりに古いものになると地下から持って来なければなりませんので少しお時間を頂きます。」
ふむ、この前調べてもらったのは現在登録している商人だけだったな。
念の為過去の分も調べてみるか。
「では過去30年分をお願いします」
「かしこまりました、閲覧室は奥の通路をまっすぐに進み三つ目の扉になります。すぐお持ちしますので少しだけお待ちください。」
「よろしくお願いします。」
手配を頼み閲覧室に入る。
中には細心の登録者一覧があったので運ばれるまでそれを確認していたが、やはりダークスという商人は登録されていなかった。
名前を聞き間違えている可能性もあるので絶対ではないが、似たような名前も存在しない。
うーむ、いったい何者なんだろうか。
「お待たせいたしました。」
と、先程の受付嬢が大きな資料をいくつも抱えてやってきた。
慌てて立ち上がり半分持ってあげる。
「すみません、思ったよりも多くて・・・。」
「重かったでしょう、有難うございました。」
「いえ、仕事ですので。」
仕事とはいえ、いきなり来た俺のせいでこんなにも重い物を運ばされたんだ、誠に申し訳ない。
「もしかして外にあるのも?」
「はい、あと5冊程ですが。」
「それは私がやりますのでゆっくりしてください。」
「そんな、イナバ様にして頂くわけには。」
「気にされなくても大丈夫ですから。」
半ば強引に受付へと戻って頂き、外の資料を中へと運び込む。
「さーて、お昼までに調べられるかなぁ。」
腕まくりをして大量の書類と睨めっこする。
最初のを捲った感じでは、これ全てが商人名簿ではなく他の資料も混在しているようなので、おそらくは大丈夫だと思う。
これでも乗っていなければ後20年分はさかのぼればいいだろう。
種族によって寿命に差があるわけではないので、流石に100年前の商人って事はないだろうしな。
どれ、頑張りましょうかね。
気合を入れて資料へと向かい、一心不乱に捲り続ける。
どれぐらいそうしていただろうか、突然コンコンという音が聞こえてきて顔を上げると、先程の女性がお茶を持って入ってきた。
「よろしければ休憩なさってください。」
「すみません、気を使わせてしまって。」
「良かったらお手伝いしましょうか?」
「そんな、そこまでして頂くわけには。」
「むしろそうさせて頂けると助かるのですが・・・。」
慌てて断ろうとするもなんだか様子がおかしい。
ふむ、事情を聴いてみるか。
「どうかされたんですか?私で良ければお話を聞きますが。」
「そ、そんな!イナバ様にそこまでして頂くなんて・・・。少し匿って下されば大丈夫ですので。」
匿うって事は追われているか逃げたいかのどちらかだろう。
とはいえ、受付をしているような人が追われているとは考えにくい。
となると、残るは逃げだしたい感じなんだろう。
例えば、嫌いな商人が来たとか、セクハラしてくる人がいるとか・・・。
まてよ、こんな所で二人っきりってセクハラになったりしない?
大丈夫?
「手伝ってもらうわけですから話を聞かせてもらった方がスッキリします。」
「ご迷惑ではないですか?」
「むしろこの大量の資料を昼までに捌けるか不安だったんです、こちらからお願いしたいぐらいですよ。」
「ではお手伝いします、いえさせてください。」
「ではよろしくお願いします。あ、好きに会話してくださって結構ですから気楽にして下さいね。」
なんだかよくわからないが逃げたいのならば逃げればいい。
もしかすると仕事をさぼりたいだけかもしれないけれど、俺からしてみれば猫の手も借りたい状況だ。
それから一刻程、休憩をはさみながら資料の山と格闘する。
どうやら言い寄ってくる面倒な商人がいるらしく、受付という仕事柄邪険にするわけにもいかないので俺にお茶を淹れるという体で逃げてきたそうだ。
断っているのに執拗に声をかけて来る当りどこぞの商人とやる事が同じだな。
「ちなみにその商人の名前は?
「ラントっていう商人なんです。」
「聞いたことありませんねぇ・・・。」
「ハーメス商店っていうお店をしているらしいんですけど、そんなお店どこにもないんですよね。でも、本人は『俺は南通りに新しい店を持ってる、そこの受付をやらないか?』ってしつこくて。も~、せめて嘘つくならもっとマシなのをつけばいいのに。」
「あはは、本当ですね。」
この街の事なら何でも知ってる受付嬢にそんなわかりやすい嘘をつくバカがいるとは思いもしなかった。
って待てよ、それどこかで聞いたことあるぞ。
「ちなみにですけど、言い寄って来てるのって中年で少し小太りの男ですか?」
「そうです!今日なんて部下みたいな人を連れて来てたんですけど、顔見た瞬間に逃げちゃいました。」
「ちなみにまだいます?」
「いつもならすぐに帰るんですけど・・・。」
「ちょっと見てきますね。申し訳ありませんが、さっきの人とは別にそのラントっていう人を探してもらえますか?」
「わかりました!」
もしかしたら奴かもしれない。
ダークスが偽名なのか、ラントの方が偽名なのかはわからないが言っていることは同じだ。
作業を中断して店のエントランスに戻り、当たりを見渡してみる。
が、奴の姿はどこにもなかった。
念の為他の人にも聞いてみよう。
「あの、すみません。」
「あれ?イナバ様どうしたんですか?確かセーラがそっちに行ったはずですけど。」
「そのセーラさんが嫌いな商人がいると思うんですけど、その人どうなりました?」
「しばらくうろうろしてましたけど、いつの間にかいなくなっちゃいました。ひどくないですか?私の方が胸もお尻も大きいのにガン無視なんですよ!」
そう言いながら自分の胸を持ち上げるのは止めなさい。
確かに大きいかもしれないが、残念ながらエミリアには負けているようだ。
「もしかするとよくない商人かもしれないので関わらない方がいいかもしれません。」
「え!?そうなんですか?」
「可能性の話ですけど。結構頻繁に来るんですか?」
「ひどい時は一日に二回も三回も来ます。今日も来るんじゃないですかね。」
「もし来たら教えてもらう事ってできますか?」
「いいですけど・・・、極秘任務とかですか?」
「そんなんじゃありませんが、厄介な相手であれば早々に対処する方がいいと思いまして。」
「わかりました!」
「お昼からは騎士団にいると思いますからよろしくお願いします。」
もしかするともしかするかもしれないし、違ったら違った時だ。
再び部屋に戻って、同じ説明をする。
対処してくれるとわかってたいそう喜んでくれた。
「あ、みつけました!」
「本当ですか!」
それからしばらくしてセーラさんが声を上げた。
見てみると28年前の記録に確かにダークスという名前が登録してある。
が、登録当時の年齢は40歳。
って事は今は68歳って事になるんだがどう見てもそんな年齢じゃなかった。
いくら若く見える種族がいるとはいえあの見た目で68って事はないだろう。
「ちなみにラントっていうその商人は登録されているんですか?」
「私も気になって前に調べたんですけど、三年ほど前に登録されていました。でも登録年齢が27歳なんです。どうみても40歳超えてるんだけどなぁ。」
「つまり嘘をついていると?」
「登録した時に間違える可能性はありますけど、流石に気づくと思います。」
「怪しいですね。」
今の話を聞いただけでも色々と想像することが出来る。
年齢を偽っているとか偽名を使っているとか、別人に成りすましているとか。
どっちかっていうと最後のが可能性高いな。
登録されているのは本人だけど、名乗っているのは別人。
登録されている人は死んでるけど、それを報告しないで成りすましていたらギルドの関係者じゃなければ確認できない。
っていうかいちいちギルドに確認を取るとか面倒だし気にしている人はいないんだよな。
ちなみに、調べを進めるとダークスという商人は10年ほど前に亡くなっているようだ。
通りで登録されてないわけだよ。
死んだ商人の名前を出すあたり益々怪しい。
一体何をやらせようとしているんだろうか。
っと、そろそろ時間だな。
「すみません、途中なんですけど騎士団に行かなくちゃいけないんです。お手伝いいただきありがとうございました。」
「こちらこそ助けてもらって、有難うございました。」
「例の商人が来たらすぐに連絡ください。」
「はい!」
セーラさんにお礼を言って急ぎ騎士団へと走る。
来た時はカンカン照りだったのに急に雲行きが怪しくなってきたな。
空は真っ黒で今にも雨が降り出しそうだ。
そういえば元の世界ではゲリラ豪雨とかしょっちゅうだったな。
この世界に来て嵐は何度も経験しているけど、こんな急に天気が変わるのは久々かもしれない。
良くない事の前兆だろうか。
まさかね。
あと少しで騎士団という所でついに雨が降り出し、何とか駆け込んだ時にはびしょびしょになってしまった。
「シュウイチやっときたか・・・ってすごい恰好だな。」
「まさかこんなに降るとは思いませんでした。」
「すぐに着替えを用意させよう、とりあえずこれを使え。」
俺の事を待っていたのかすぐにシルビアがタオルを渡してくれた。
確かに下着まで濡れているので着替えられるのは助かる。
頭を拭きながらシルビアの後を追いかけると、応接室ではなく団長室に案内された。
「ここで少し待っていてくれ。」
「いや、待ってろって言いましても流石にまずくないですか?」
「本人は今不在だ。」
余計にダメじゃないだろうか。
まぁ、シルビアがいいならそれでいいんだけど。
促されるまま中に入ると、もちろん誰もいない。
体中を拭き、ソファーに深く腰掛ける。
あー、疲れた。
かなり集中して細かいものを見たから目の奥が重たい感じがする
これも年のせいかなぁ。
「待たせたな、ほら着替えだ。」
「助かります。」
シルビアから着替えを貰い、すぐに服を脱ぐ。
え、せめて場所を変えろ?
嫁さんなのでいいじゃないか。
「確かに随分と引き締まったな。」
シャツを脱ごうとしたら突然シルビアに腹をつつかれた。
「うわ!びっくりした。」
「くすぐったかったか?」
「というかびっくりしました。」
「ここ来た時はそうでもなかったが、なかなかいい男になって来たな。」
「惚れなおしました?」
「いいや・・・。」
なんだ、残念。
「私はずっと惚れっぱなしだよ。」
と思ったら惚気でした、ありがとうございます。
「有難うございます。」
「だから、なんだ。早く着替えてくれるか?その気になってしまうだろ。」
「おっと、失礼しました。」
家ならまだしもここは騎士団、しかも団長室だ。
さすがにここでいたすわけにはいかない。
急いで着替え一息つく。
「ふぅ、スッキリしました。」
「それで、収穫はあったのか?」
「それなんですけど・・・。」
さぁ話そうと思ったその時だった。
「失礼します!イナバ様にお客様が参られましたが、どうされますか?」
俺のお客さん?
このタイミングで来る理由は一つしか考えられない。
「ちょうどよかった、すぐに行きます。」
まさかこの短時間で再登場するとは思わなかったな。
だが今度はシルビアも一緒だ、逃がしはしない。
不思議そうに首をかしげるシルビアと共に、俺達はエントランスへと急ぎ向かった。
とんとん拍子?で話は進み、しかも正体不明の商人が再登場したようです。
果たして何者なのか。
また目的は何なのか。
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




