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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二十章

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番外編~ドーンは敗者として学ぶ~

「………。」


「どうかされましたか?」


「普通『決闘』というものは命のやり取りをするものであって、このような景色を見ることはないのだがな。」


「そうですね、どちらが負けてもその後を見ることは普通ありえませんから。」


元来『決闘』というものは命と命の奪い合いだ。


どちらかの命が尽きるまで殺し合うので、敗者はその後を見ることはない。


最後に目にするのは自分を殺す相手の顔か、それとも臥した地面か。


だが我々の前に広がる光景はどうだ?


とても決闘をした後とは思えない。


ダンジョン前の広場にはいつの間に用意されていたのか、大きな天幕が張られその中では忙しそうに料理人が動き回っている。


大きな天幕を囲むように三つの天幕が隣接し、その一つをイナバ殿の家族が、もう一つを我々の関係者が使用していた。


残った一つには大きなテーブルが置かれ、鬼の形相をしたパトラがさわやか笑顔を浮かべるフィフティーヌ殿とにらみ合っていた。


また言い合いでもしているんだろう。


我々はそれを離れたところから眺めている。


手には酒の入ったグラス。


こんな気持ちで酒を飲むのは生まれて初めてかもしれない。


「今回は私の完敗だ。相手を見誤っていたとはまさにこの事、今後も精進しよう。」


「最後のはずるみたいなものですから、普通の冒険者にはできませんよ。」


「いや、相手が精霊師だとわかっていながら大丈夫だと高をくくってたのは紛れもない事実事実。世の中には自分の想像を超えたやり方がたくさんある。罠もそうだ、あのような配置、あのような組み合わせは想像していなかった。」


「引っかかって頂いたようで嬉しかったです。」


「父が元気な時は経営に携われないとわかっていたからな、冒険者になりたくさんのダンジョンに潜ってきたつもりだった。それなりに実力を積み、中級冒険者にもなった。だが、今回のダンジョンはそのどれとも違う、なんていうか全て見透かされているような感じだったよ。」


グラスの中身を一気に飲みほし、大きく息を吐く。


彼もそれに合わせるように中身を流し込む。


勝者だというのにけして驕らず、普段と変わらなく接している。


この時点でどちらが勝者かわかったようなものだな。


「相手が貴方だとわかっていましたから、それに合わせて作らせて頂きました。普通のダンジョンで同じように作っても冒険者は引っかかってくれませんよ。」


「あそこに罠があるはずがない。そう思って進み罠にかかる。同行した冒険者が驚いていたよ、こんなダンジョンは見たことが無いとね。」


「私も同じようなものです。魔物の配置、種類、どれも勉強になるものばかりです。早速店に戻って応用させて頂きますよ。」


「負け惜しみだが、私の全てを注ぎ込んだと言っていいダンジョンだ。是非真似してくれ。」


「はい。」


空のグラスをぶつけると、澄んだ音が響き渡った。


どれどれ、そろそろ出来上がったころか。


「行きましょうか。」


「そうだな。」


彼の合図で中央の天幕へと移動する。


ちょうど主菜が出来上がったのだろう、巨大な肉の塊が鎮座していた。


周りを様々な野菜が取り囲み、横には鮮やかな果物が添えられている。


見たことのない料理人だな。


「イナバ様、ドーン様ですね。この度はお疲れ様でした。」


「すごい料理ですね。」


「見た目もさることながら味にも自信があります。どうぞお腹いっぱい召し上がって下さい。」


「うちの料理人ではなさそうだな。」


「お二人にはまだ自己紹介しておりませんでしたね、メルクリア家で長年料理長と務めておりますシェイフと申します。フィフティーヌ様の命でこの度参上いたしました。」


メルクリア家の料理長か、通りで見たことないはずだ。


「一つ質問なんだが構わないか?」


「もちろんです。」


「私が勝っていても同じようにもてなしたのか?」


「私は決闘終了後の食事を任されただけですので、結果に関しては存じ上げておりません。ちなみにどちらが勝たれたのですか?」


まさか、自分の主人となる人間なんだぞ?


それに関知しないとは、フィフティーヌ殿は何を考えているんだろうか。


それともそれがメルクリア家のやり方なんだろうか。


「わぁ、すごいお料理ですね。」


「セレン殿が見たら喜びそうだ。」


「リュシア様、シルカ様大きなお肉ですよ。」


「あ!」


「おー!」


「お二人とも大興奮ですね、固形は難しいかもしれませんが・・・。」


「心配ご無用です、お二人用に食べやすく加工したものを用意していますのでそちらでお召し上がりください。」


料理が出来たと聞き、彼の家族が集まってきた。


幼い子供達が目を輝かせて料理を見つめている様子に、彼の顔が崩れるのが分かる。


「今いくつだったかな。」


「一歳ですね。」


「私も家族を持つと変わるのだろうか。」


「変わりますよ。私も自分がこうなるとは思いませんでしたから。」


「その為にもフィフティーヌ殿をと思ったが、なかなかうまくいかないようだ。」


「失礼な言い方ですが、お父様から自由になられたのであればこれからではないでしょうか。聞けばかなりいろいろと制限されていたそうですし、パトラ様共々好きにされていいと思います。」


「自由……。そうだな、これからはもっと好きにやらせてもらおう。」


これまでにも何度か父上が決めた女性と会ってきたが、どれも私の願う女性ではなかった。


誰もが私の顔色を伺うばかりで、自主的に考え行動することはなさそうだ。


だからこそ、家柄などで人を見ずはっきりとモノを言うフィフティーヌ殿に惹かれたのだが、彼のほうが一枚も二枚も上手だった。


というよりも、彼女をあそこまで自由にさせる事ができるのは彼以外にいないだろう。


精霊師。


私にはない肩書の一つ。


世界に類を見ない複数精霊の祝福を授かり、それをうまく操る男。


危険を厭わず現場に出向き直接問題を解決する。


誰も思いつかなかった事を平然と行い、そして結果を残す。


彼の功績は商店にとどまらず多岐にわたる。


彼のような何ものにも捕らわれない人間こそが、彼女にふさわしいのだろう。


「お兄様!」


「パトラ、フィフティーヌ殿と話をしていたのではなかったのか?」


「別に話などしていませんわ。」


「随分と楽しそうに見えたが、気のせいだったか。」


「あれが楽しそうだなんて、お兄様の目は節穴もいいところです。」


節穴か、確かにその通りだ。


「それで、なにか収穫はあったのか?」


「収穫などあるはずありません。・・・いえ、一つありましたわ。」


「なんだ?」


「私がどれだけ文句を言った所で、変わらない物は変わらない。変わるならば私が変わらなければいけないのですね。」


「兄妹共々良い収穫があったではないか。父上も安心してあの世に行けるだろう。」


「お兄様、誰が聞いているかわかりません。」


「別に聞かれていてもかまわない。これからは私たちの時代だからな。」


彼に負けたとはいえ死んだわけではない。


負けたことで学んだことがたくさんあるのだ、それを生かさずしてどうする。


「そうだろう、イナバ殿。」


そして彼にも意見を求める。


真横で話を聞いていながら、彼は何も言わず静かにしていた。


「もちろんです・・・と言いたいところですが、私はただの商人です。そういったことはドーン様にお任せいたしますよ。」


「なに冷めたこと言ってるのよ。今までの功績を考えても貴方に仕事が回ってこないはずないでしょ。」


「その為に元老院や混成議会があるのではないでしょうか。」


「その議員よりも発言力を持ったのが仇になったわね。」


パトラがここに来たということは、フィフティーヌ殿もここに来るということだ。


彼の横に立ち呆れたような顔をしている。


「今後は商家五皇ペンディキュラの一員になられるわけだしそうなるだろう。たかが貴族の私など足元にも及ばないな。」


「貴方こそ何を言っているの?そこの子猫が前に言っていたように商家五皇なんてものは過去の話。今の勢いを考えればドーン商店はこの国で五本の指に入る有力貴族よ。発言力が無いだなんて言わせないわ。」


「だが・・・。」


「彼には彼の仕事があるように、貴方には貴方の仕事がある。お互いに商売を生業にしているけれど、たった一軒のちっぽけな店を運営する彼と比べればあなたの仕事量は計り知れないわ。そして、その影響力もね。」


「どうもすみません、ちっぽけな店で。」


「いいから黙ってなさい。ともかく、これからの未来を考えるのなら貴方にはどんどんと発言力を増してもらわないと困るのよ。」


商売敵に影響力を増してほしいだなんて誰がいうだろうか。


普通は落ちぶれてほしい、そういうものじゃないのか?


「発言力が増せば商店連合に不利があるのでは?」


「多少はあるでしょうけど、それはこの国を良くする発言でしょう?冒険者の待遇が上がれば必然的に我々の儲けも増えるわ。そういう部分でも貴方の活躍に期待しているの。」


「私をダシにして儲けようというわけですね。」


「そういう事。彼の発言は突飛すぎて使い物にならないから、貴方のような広い目で物事を見れる人が必要なのよ。これからも私達と冒険者の為に活躍してくれることを期待しているわ。」


「ではこの食事は?」


「私からの接待と思ってちょうだい。」


彼女が彼と同じようにニヤリと笑う。


やはりこの人にはかなわないな、そう思わせる笑いだった。


仮に私が勝っていたとしても掌で転がされた事だろう。


結果それがメルクリア家ひいては商店連合の利益に繋がっていたはずだ。


ドーン商店を拡大させているはずが気づけば商店連合が勢力を増していたなんてことも十分にあり得る。


恐ろしい女性だ。


「さぁ、ここに来たって事は接待を受けるって事よね?今日は帰さないわよ。」


「いや、帰してくださいよ。早く戻らないと陰日明けの開店に間に合わないんですから。」


「うるさいわねぇ、それじゃあ貴方一人で帰りなさいよ。」


「両商店の発展の為にも是非イナバ殿には残って頂きたいのだが。」


「そんな言い方されると帰れないじゃないですか。まいったなぁ。」


「お兄様、そのような男に話を聞かなくてもお兄様は立派にやっておられます!」


「変わる為に痛みは必要だ。そして謙虚さもな。」


むしろ勝者から学ぶのは当たり前だ。


私は彼からダンジョンについてを、そして彼は私に商店について学ぶのだ。


お互いがお互いを意識し合い、伸び合う事こそ今後の我々の成長に繋がる。


彼の言葉を借りれば切磋琢磨というらしい。


削り合い磨き合うと石も宝石になるそうだ。


タダの石ころで終わるのか、輝かしい宝石に変わるのか。


それは自分の学ぶ姿勢次第だろう。


彼はそれを知っているからこそ、わずか二年でここまでの地位を築き上げたのだから。


「そうと決まれば早速食べるわよ。ほら、貴方はお皿を並べなさい、子供達が待ってるじゃない。」


「わかりましたからそんなに押さないで下さいよ。」


決闘に負け得たものは大きい。


これからの自分の為に、今日という時間を有効に使わなければ。


「さぁパトラ、お前も行くぞ。」


「でも・・・。」


「これからのドーン商店にはお前が必要だ。俺の右腕としてこれからもよろしく頼むぞ。」


「はい!精一杯頑張らせていたきますわ!」



その後ドーン商店がシュリアン商店共々この国のダンジョン商店を引っ張る存在になるのはそんな遠い未来の話ではないのだった。


が、またそれは別の話。

少し短めではありますが、決闘の後日談となりました。

今回の主人公は決闘相手のドーン氏。

勝負に負けて終わりではなく、負けから学ぶことはたくさんある。

それを生かすか殺すかは自分次第。

よく聞く話ではありますが、実際それが出来る人は少ないと思います。

かという私もその他大勢の方で、中々失敗から学べません。

それでも少しずつ前に進めるのであれば、それは失敗ではないのかもしれませんね。


これにて今章も終了。

次回から新章へと変わります。

果たして何が起きるのやら。

次回もどうぞお付き合いください。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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