正々堂々戦うために。
無言の時間が続いている。
ドーン氏はいまだ立ったままで、ププト様は再び壁を背にして笑っている。
なんだよ、そんなに笑わなくなっていいだろ。
ってかメルクリア女史まで笑っているのはどういう事でしょうか。
「そんなに胡散臭そうに見えます?」
「見方によっては見えなくはないわね。」
「そうですか・・・。」
「安心しなさい、貴方の事を知っている人間は誰もそんなことを思っていないわ。知らない人間がいたとしても知ってもらえば何の問題もない、そうでしょ?」
「そうですね。これだけ品行方正な人間中々いませんよ。」
「そういう事は自分で言わない方がいいわよ。」
知ってるっての!
いつもなら今までの功績は私一人の力じゃないって言ってきたけど、その場でそれを言うとややこしくなるのでこの場では言わないことにした。
世の中には言わないほうがいいこともたくさんあるのだ。
「初めて顔を合わせた時、君は身分の差が違うと言ったが私からしてみれば積み上げてきた功績が違いすぎた。私のような何も成し遂げていない男が多くを成し遂げてきた男から恋人を奪おうなんて言っているんだ。もちろんバカげたことだと思う、だがそれを押してでも叶えたいからこそ私は決闘を挑んだのだ。わかるかい、パトラ。世の中には身分や資本で推し量れない物がたくさんあるんだ。我々が常に上の立場でいるなんて思い上がりはすぐに捨てなさい。」
「いいえお兄様それは違うわ。」
ここまでの流れをぶった切るようにまだ否定を続ける妹。
だがその目は決して泣いているわけでも打ちひしがれているわけでもなかった。
「今までの話は所詮過去の物。貢献や実績が尊いというのならばお兄様はそれ以上のものをこれから成し遂げるわ。お父様が病に臥せってからの二年間、この二年間に積み上げてきたものがそれを証明しているもの。稀代の人と呼ばれたお父様でも成し遂げられなかった事業をお兄様はいくつも達成してきたじゃない。お兄様が世に出るようになれば国王陛下どころか世界中の人がお兄様の名前を知ることになるわ。そうよ、そんな男など過去の人になるのよ。」
そう言いながらキッと鋭い目つきで俺を睨んで来る。
いったい俺が何をした。
あれか、大好きなお兄様が俺よりも下ってのが許せないのか?
べつに俺は下だなんて一度も言ってないんだけどなぁ。
勝手にドーン氏がそう思ってるだけであって俺は別に・・・。
「未来は未来、過去は過去。確かにそのとおりね。」
「こいつが将来何を成し遂げるかなど想像もつかないな。」
「どうせ変な事に首を突っ込んでは、何とかするのよきっと。」
「何ですかその変な事って。」
「変な事は変な事よ。」
だからそれは何かって聞いてるんだってば。
「私が入り込む余地などないとわかっているのだが、可能性が有るのであれば試したい。いや、私はただ単に諦めたいのかもしれないな。決闘を挑んで負けたならあきらめがつく、そんなことを考えているのかもしれない。」
「まだ負けると決まったわけじゃありませんよ。まぁ、私も負ける気はありませんけど。」
「お兄様が負けるはずないわ!」
「いいじゃないですかやりましょうよドーン様。妹さんがしてきた事は許されない事、決闘に泥を塗る事だったかもしれませんが、幸いにも決闘の舞台は汚されていません。それどころかドーン様自身が綺麗に整えられたじゃありませんか。どちらが上か下かではなく、信じてくれる人の為に実力を示せばいいんです。」
「信じてくれる人?」
「私は家族とメルクリアさんの為に、ドーン様は妹さんの為に実力を示せばいいのです。それでドーン様が納得するのであればやる価値はあります。もちろん、それによってメルクリアさんがどう思うかは私の知る所ではありませんがね。」
そう言いながらメルクリア女史の方を見る。
また馬鹿な事を言っているとでも言わんばかりに首をすぼめ、ヤレヤレと横に振った。
「これだけの不手際を犯した我々にまだ決闘を許すというのか?」
「許すも何も元々そういうお話でしたから。この前もお話したかもしれませんが、これは家同士、店同士の戦いではありません。単純に私という人間とドーン様という人間のメルクリアさんをかけた戦いなんです。私は恋人をドーン様は信念を賭けるだけですよ。」
信じられないと言った顔で俺をみるドーン氏。
先程まで打ちひしがれたような顔をしていたのに、少しずつ瞳に光が戻ってきた。
それどころか最初に会った時のような強い目で俺を見てくる。
「やっぱり君は私が持ったとおりの人だった。まさに私が挑むにふさわしい相手だ。」
「私も興味があるんです。この二年で急成長したダンジョンを作ったのがどんな人なのか。」
「私もだ。決闘まで後二週間、最高の舞台に仕上げようじゃないか。」
「望むところです。」
お互いに歩み寄り固い握手を交わす。
決闘は無くならないけど、お互いに悔いの残らない戦いになりそうだ。
俺も罠の配置や種類など再考しなければならないな。
ガチで殺しにかかる罠にしたのでその辺は変更しておかなければならない。
その後、ルールに関する細かな確認を行い終始和やかなムードで話は進んだ。
二人を除いては。
「有意義な時間を過ごさせて頂きました。決闘の結果はさておきこれからも良き知人として色々と意見を交わしたい所ですが・・・。」
「何よ。」
「いやぁ、随分と機嫌が悪そうだなと思いまして。」
「当然よ。貴方達は仲良くやっているかもしれないけど、私はそうじゃないわ。」
「そうです。お兄様が何と言おうと私はこの人を許していません。」
和やかな俺達と違い殺伐とした空気が流れる二人。
お互いに睨み合い、一触触発の状態だ。
気付けばププト様の姿もない。
あの人の事だ、飽きて食堂に戻ったんだろう。
「具体的にはどうしたいんですか?」
「謝罪を要求するわ、それと今回の件で各商店が被った被害への賠償と彼を襲った事への賠償も。彼への直接的な被害は無かったけど二回も狙ったんだもの当然よね?」
「そうですね、決闘に関してはともかくそちらに関しては必要な事です。」
「本当であればメルクリア家への侮辱に対する謝罪も要求したい所だけど・・・、子猫がじゃれただけでそんな事をしたらお母様に怒られるでしょうね。」
「誰が子猫ですって!」
「パトラ!」
「でもお兄様!」
メルクリア女史の安い挑発に乗るあたりまだまだお子ちゃまだな。
子猫という表現も、的を得ている。
ただ騒ぎ立てるだけで中身は可愛いだけ。
「元はと言えばお前の責任だ、自分がしでかしたことの大きさを良く反省するが良い。今日この時点でドーン商店取締役の任を解く。ならびに当分の間自宅待機だ。お前がこれまでにかかわってきた事業に対しても適正かどうか調査させてもらう。」
「そんな!」
「良く反省しろ。」
強い口調で命令され、悔しそうに俯いてしまった。
中々に厳しい措置だが、それぐらいの事をしでかしたんだ当然だろう。
私怨で大勢の人に迷惑をかけたわけだしな。
「賠償額に関しては経理部と相談してからになる、構わないだろうか。」
「問題ないわ。お金というよりもけじめを付けたいだけだから。」
「寛大な配慮痛み入る。」
「でも彼への賠償はどうするつもり?」
「そうだな、一度ならずに度までも命を狙ったんだ。家族にも狙われるかもしれないという不安を与えてしまった。私に出来る限りの事はさせてもらうつもりだ。」
「貴方聞いていた?」
「私としては別に・・・。」
「だめよ、これはけじめなんだから。」
それはまぁわかってるんだけど・・・。
お金が欲しいわけじゃないんだけどなぁ。
各商店への賠償はわかるんだけど、正直メルクリア女史がどこを落としどころにしたいのかが読めない。
「確かドーン商店は温泉地を保有していたわよね。」
「あぁ、ラインから少し奥に行った所で宿を運営している。」
「心因的な問題を解決するためにも温泉は非常に有効だと思うの。何もかも忘れてサッパリするのはどうかしら。」
「もしかしてそれが狙いですか?」
「狙いだなんて人聞きの悪い、貴方達の感じた恐怖を癒してあげようと思っただけじゃない。」
「了解した。我がドーン商店総力を挙げて最上のおもてなしを約束しよう。」
「きまりね。家族全員で楽しませて頂戴。」
何を狙っているのかと思ったらまさかの温泉でした。
そりゃ読めんわ。
そして家族全員って事は、その中に自分も含まれているんだろう。
自分が温泉に行きたいがために、今回の一件を利用する。
おそるべしメルクリア女史。
「さぁ、小難しい話はこれで終わり。後は決闘の日まで男同士仲良くやって頂戴。」
「フィフティーヌ殿はどこへ?」
「食堂で何か作ってるらしいわよ、せっかくだからみに行ってみない?」
「そういえばそんな時間ですね。」
「だが、我々は部外者では?」
「あれだけ迷惑かけておいて何言ってるのよ、謝罪ついでに食事位付き合いなさい。」
「そうだな。それが筋というものだ。」
「貴女もよ、子猫ちゃん。」
返事はしなかったが人を殺せるんじゃないかっていう鋭い目つきでメルクリア女史を睨みつける。
あの目はもう子猫じゃないとおもうんだけど。
女って怖い。
食堂ではププト様主導で大宴会の準備が整えられており、昼間っからどんちゃん騒ぎをする羽目になった。
まぁ泊りで来ることは確定だったので何の問題もないのだが、想像以上の盛り上がりだったな。
子供達もわからないなりに楽しい雰囲気で大はしゃぎして、今はぐっすり眠っている。
日も暮れ、火照る体を冷やすためにお屋敷の庭をうろうろしていると奥から誰かがやってくるのが見えた。
「イナバ殿、少しよろしいか?」
「ドーン様。」
そこにいたのはどんちゃん騒ぎの中心で終始ププト様に飲まされていたドーン様だ。
流石というか、どれだけ飲んでも潰されることなく二人して難しい話をしていた。
巻き込まれると面倒なので俺は離れて子供たちと遊んでいたんだけども。
庭の中心、噴水傍のベンチに腰掛ける。
ギャルゲーだったら重要なデートイベントだろうが、残念ながら相手は男だ。
加えてお互いにそっちの趣味は無い。
「今日は非常に楽しい時間になった。改めて礼を言わせてくれ。」
「こちらこそ急なお誘いにもかかわらず、主にププト様のお相手をして下さってありがとうございます。」
「あの方とも一度話をしてみたいと思っていたのだ。辺境の雄との噂通りの人だったよ。」
「ちょっとアクが強いですが、すごい人であることは間違いありません。」
「その彼が終始君の事を褒めていた、あれほどできる男には今までにあったことが無いそうだ。」
「皆さん過剰にほめ過ぎなんです。それを言えば、ドーン様もすごい方ですよ。」
僅か二年で結果を残している。
俺なんてその二年で出来たのはダンジョンと村を何とか大きくさせたことぐらいだ。
「パトラの件は本当に済まなかった。悪い子ではないのだが・・・。」
「ドーン様の事を思っての事ですから。」
「だが、いい勉強になっただろう。世の中は家柄やお金だけでは測れないものがたくさんある、私達のように恵まれて育った人間はそれを知ることが中々できないからな。」
「この件をバネにより成長されるでしょうね。やり方はあれでしたけど、着眼点は素晴らしい物がありました。」
「金に物を言わせて冒険者を引き留めるなど、考えもしなかったな。」
「私もです。冒険者からしてみれば安全にお金を稼げるわけですから、悪い話ではありませんしね。」
「彼らがいることで我々が儲かる。彼らを援助する一つの形にはなるだろう。」
ドーン様も俺と同じく初心者を大切にし、冒険者を育てるタイプの人間のようだ。
工業都市ラインのダンジョンは妹さんの指示で開発されている物らしい。
だからやり方が違うんだな。
この人とは今後もいい関係を築いていける、お互いにそれは感じているだろう。
「正直に言って自分以外が作ったダンジョンに入る機会が無さすぎるんです。後学の為にも今後はそういう交流があっても良いと思うんですけどねぇ。」
「それは言えているな。各ダンジョン商店それぞれに特色のある作り方がある。全てをマネするわけにはいかないが、勉強する価値は十分あるだろう。」
「決闘ではなく勉強の為に攻略し合うのも面白いかもしれませんね。」
「それはいい考えだ。」
お互いにダンジョンを作り合い攻略し合う。
冒険者を募って、どっちが先に攻略されるかを競っても面白いかもしれない。
先に攻略された方が負け。
初心者向け、中級者向け、上級者向けがあってもいいよな。
「そろそろいい時間ですね。二週間後、楽しみにしています。」
「私もだ、全力でお相手させてもらおう。」
「負けても恨みっこ無し、正々堂々と頑張りましょう。」
再びお互いに固い握手を交わす。
さぁ、男と男のガチンコ勝負。
残り時間は後二週間だ。
それまでに出来る限りの準備をして迎え撃とうじゃないか。
話は無事にまとまり、男と男の堅い約束が無済まれました。
さぁ、いよいよ決闘です。
果たしてどちらが勝つのか。
それはまた次回という事で。
次話で今章も最後、その後は番外編を経て新章となります。
前章で出た物の放置されていることがあるの覚えておられますか?
それにうごきがある・・・かもしれません。
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




