襲撃を超えて
翌朝。
「それじゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃい!」
「気を付けてください!」
「後の事はお任せください!」
元気な三人組とたくさんの村人に見送られながら鉱山へと向かう馬車は出発した。
護衛はこれまたいつもの三人組。
モア君、ネーヤさん、ジュリアさんだ。
スリーマンセルっていうぐらいだ、やはりバランスがいいんだろうな。
「何とかなりましたね。」
「昨日はお疲れの所、有難うございました。おかげで何とかなりましたよ。」
「私達は言われたことをやっただけです。」
「力仕事はモアの専売特許だからね。」
「え、俺力仕事だけ!?」
「アンタに頭脳を求めても無理でしょ?」
「いや、多少は出来るよ多少は!」
モア君、それは自分で出来ませんって言っているのと同じだよ。
いつもの三人に元気づけられ馬車はゆっくりと進んでいく。
しっかし、昨日は本当に大変だったなぁ。
重症者は無事に峠を超えたけれど、軽症者はまだ大勢いた。
モア君達の持っていた毒消しを融通してもらい、かつジュリアさんの治癒魔法でなんとか症状は緩和できたけれどまだ本調子には程遠い状況だった。
普通のポイズンマウスならここまでならないそうなのだが、やはり例の魔石変異の影響だろうか。
死骸は焼却してしまっていたため確認することは出来なかったが、恐らく間違いはないだろう。
畑の方は冒険者三人組の指示で動ける人間が急ぎ対応していた。
病気の麦だけでなく、念の為に周辺部の麦も多めに刈り取り、離れた場所で焼却。
その後、各家庭に残されていた灰をかき集めて、畑中に撒いて回る頃には日はどっぷりと暮れてしまっていた。
暗闇の中、松明の明かりだけを頼りに彼らは頑張ってくれたのだ。
また、薬師の彼女もつきっきりで看病してくれた。
その疲れからか出発までに起きてくることは出来なかったみたいだけど・・・。
昼までにはサンサトローズから救援が来るだろうし、それまでゆっくり休んでくれるといいなぁ。
一先ず、本当に一先ずだがなんとか形になったと思う。
でも問題は山積みだ。
本当に疫病が抑えられているかはわからないし、生命線である村の井戸は枯れる寸前。
サンサトローズから水を運んでくるのも費用が掛かる。
かといって、別の場所に井戸を掘るわけもいかない。
水脈を考えて井戸を掘るのは中々に大変な作業だからね。
その辺は俺の仕事じゃないので後はププト様がやってくれるだろう。
あの人の事だ、ティナさんの話を聞いて速攻で対応策を考えてくれたに違いない。
義に厚く領民の為に心血を注ぐのがあの人。
それに加えて俺が関わったと知ったら俄然力が入るらしいんだが・・・。
何でそんなに対抗心を燃やすんだろうか。
俺も一人の領民のはずなんだけどなぁ・・・。
「変異したポイズンマウスですか、厄介ですね。」
「ティナさん曰く下半身を失ってもすぐに絶命しなかったとか。これはあくまでも仮定の話ですが、心臓付近にあった魔石から魔力の供給を受けていた可能性が有ります。」
「でも、魔石鉱山は昔からあったわけですよね?それが今更こんな騒ぎになんて、変じゃないですか?」
「それはつまり誰かがやったって事?」
「そういうわけじゃないけど、昔から居たのなら何でわかんなかったのかなって。」
確かにモア君の言う通りだ。
その辺に関してはティナさんとも話し合ったが結論は出なかった。
まず第一に変異させる理由がわからない。
魔物は我々の敵だ。
家畜化された魔物は居るけれども、99パーセント以上の魔物は我々に害をなすと考えていいだろう。
もちろんそれで生計を立てているのが冒険者なので、居なくなったら困るという人はいる。
でも、居なくならないからこそ彼らが魔物を退治してくれているのだ。
居なくならないから駆除をして、居なくなったら冒険者は居なくなる。
それが正しい方だな。
だからその魔物をわざわざ変異させる理由が無いのだ。
我々には。
「それを含めて確認する為に今向かっているわけです。」
「閉山した魔石鉱山の調査なんて怪しいと思ったのよね。周辺の水不足もそこの出水が原因なんて言ってるけど怪しいったらありゃしない。」
「まぁまぁ、僕らは調査するだけでお金をもらえるわけだし。」
「その調査が危険じゃないのかって話よ。」
「もし危険だとしても成功すれば評価は上がるわけだし、変異した魔物の素材は高く売れるかもしれない。損はないと思うけど。」
「損得勘定だけで動くからこの間みたいに大変なことになるんでしょうが。」
何やらトラブルに巻き込まれたことがあるようだ。
モア君も結構そういうところあるよね、俺と同じで。
まさか、彼もそういうタイプの人間なのだろうか。
俺とモア君。
二人が一緒に行動するということはつまり・・・。
いや、考えるのはやめておこう。
それが一番だ。
「三人はどういう風にこの依頼を受けられたのですか?」
「ギルドに行ったときに声をかけられたんです。いい仕事があるんだけどどうかって。」
「私は最初断ったのよ?でもこの二人が勝手に決めちゃったの。」
「魔石鉱山の件は噂で聞いていましたが、まさかここまで大ごとになっているとは思いませんでした。いやぁ、僕とした事が失敗しちゃいましたよ。」
「始める前から失敗っていうなよな、俺もそう思いだしてきたけどさ。」
まさかのモア君までそう思っているとは・・・。
でもまぁそうだよな。
変異した魔物が出るとは聞いていたが、そこに至る村でこの騒動。
冒険者は体が資本なだけに、それを避けようとするのは当然の思考だ。
「私なんて話をもらった時からそう思ってましたよ。でも会社命令で断れませんでした。」
「イナバ様にも色々あるんですね。」
「家族のことを思えば危険な仕事でも受けるしかないんです。」
「イナバ様まで危険だなんて、ねぇやっぱりやめようよ。」
「ここまで来て辞めれるかよ。」
「えぇ、私達でも力になれるのであればそれを成すだけです。」
怖いがそれに勝る達成感があるなら挑戦したい。
そんな男心がありありと見えるようだ。
しばらくの間三人の冒険話を聞かせてもらいながら馬車はゆっくりと鉱山へと進んでいった。
なだらかだった街道も気づけば山道へと変わっている。
さすが元魔石鉱山を支えた山道だけあってかなりの広さがあるのだが、両脇の木々がどんどんと侵食してきていて頭上の見通しは悪い。
それに加えて使われ無くなって長いからか道も悪かった。
途端にガタガタと揺れだす馬車。
乗り心地は悪いが目的地に近づいている証拠と言えるだろう。
もう少しで目的の鉱山だ。
「ねぇ、なんだか変な感じ。」
「そうだな。」
「なんでしょう、誰かに見られているようです。」
じっとりとした周りの空気がまとわりついてくるようだ。
思わず自分の腕を触ってしまう。
気持ちが悪い。
辺りを見渡すも特にこれと言って変化が無いように思えるのだが、絶対そんなことは無い。
となるとだ。
出来るだけ早くここを抜けた方がいいだろう。
「すみません、速度上げられますか?」
「無理だよ、この道じゃ脱輪しちまう。」
そう言いながらも馬車を操るおっちゃんの表情も硬い。
おそらく同じ雰囲気を感じているんだろう。
はてさてどうしたもんか。
「モア。」
「わかってる、ネーヤは?」
「準備万端、いつでもいいよ。」
どうするか考えていると早くも三人は臨戦態勢になっていた。
揺れる馬車の中、モア君が剣をに手をかけネーヤさんは早くも弓を番えている。
この状況でも射ることが出来るなら流石としか言えない。
周囲の木々がザワザワと音を立て、絡みつく感覚が強くなるのがわかる。
これはどう考えても気のせいなんかじゃない。
間違いなく何かが居る。
「何があっても速度は下げないでください。」
「わ、わかった!」
「いるわ、右側。数は・・・三匹。」
「木の上という事は比較的素早い魔物の可能性が高いですねぇ。」
「この辺にそんな魔物居たか?」
「恐らくエイプ系の魔物でしょう。変異している可能性は・・・否定できません。」
っていうか間違いなくしてるだろうけど。
鉱山からだいぶ離れたあの街までネズミが出てきたんだ。
ここにいない理由が無い。
問題はどうやって変異したかなんだよなぁ。
木を飛び回る魔物が鉱山に入るか?
ネズミはともかくありえないと思うんだけど。
あ、悪いものを食べたってやつ?
駄目だよ拾い食いしちゃ。
「伏せて!」
と、突然ネーヤさんの鋭い声が聞こえてきた。
その声に無意識に体が反応し、うつ伏せになる。
と、同時に真上を何かが飛んでくるのが分かった。
ボスンと幌にあたったかと思ったら、コロコロと目の前に転がってきたのはピンポン玉ぐらいの石。
嘘だろこれが飛んできたのかよ。
中々の速度だったよな。
当たれば死ぬぞ?
「くそ、姿が見えねぇ。」
「何ですか、何なんですか!?」
「いいから走れ!止まったら終わるぞ!」
「何が終わるんですかぁぁぁ!」
おっちゃんが悲鳴にも似た声を上げている。
それでも手綱を手放さないのは従者としてのプライドだろうか。
上がらないと言った速度が上がり、馬車がガタガタと揺れる。
その間にもボスンボスンと石が投げ込まれ、時々俺の上を通過していった。
「もぅ、揺れてて狙えない!」
「当たらなくてもいい、とりあえず撃っとけ!」
「そんな勿体ない事出来るわけないでしょ!」
「牽制になればいいんだよ!」
あぁなるほど、と言わんばかりに腕をポンと叩くネーヤさん。
こんな状況でも余裕あるなぁ。
流石だ。
石が止む一瞬のタイミングを即座に掴み牽制の為に矢を射かける。
それで少しは時間を稼げるものの、反撃が無いとわかるとまた石が降ってくるというね。
「あーもう!きりがない!」
「本当に三匹なのかよ、絶対にもっといるだろ!」
「そんなの見たらわかるでしょ!」
「わからねぇから聞いてるんだよ。」
「今わかってるだけで六匹、いえ七匹目が見えた!」
最初は三匹という話だったが追いかけられているうちにその数がどんどんと増えてきた。
それに比例するかのように降ってくる石の量も増えている。
思ったより勢いが弱いのか、未だ幌を突き抜けてくるやつは無いが時間の問題だろう。
数は暴力だ。
一つでは問題なくても複数では余裕でそれを超えてくる。
三倍の戦力をぶつければ防衛線でも突破できるとは言うけれど・・・。
「ともかく今はここを抜けることが先決よ!」
「なら頑張れネーヤ!」
「アンタたちも手伝いなさいよぉぉぉ!」
それから何度か威嚇射撃と向こうの石投げが交互に行われたが、突然それが終わりを告げる。
「抜けた!」
そう、山道を抜け目的の場所へと到着したようだ。
「ここが魔石鉱山・・・。」
「こりゃまたすごいな!」
「まるで空から星が落ちてきたようです。」
その表現が正しいだろう。
俺達の目の前にあるのは想像していた鉱山とは全然違う。
巨大な穴だった。
何処かで見たことのある景色。
そうだ、これは鉄鉱石の露天掘りだ。
巨大な穴の円周に細い道が渦を巻くように築かれており、上から下へと降りれるようになっている。
その途中途中に小さな穴が開いており、そこから中に入れるようだ。
奥がどうなっているのか想像もつかない。
こりゃあ想像以上だ。
「撒いたみたいね。」
「どうやらそのようです。」
「なんだ、あそこからこっちには出てこないのか。」
「出てこないのはいいけど、それってつまり帰りも襲われるってことよね?」
「そうなりますね。」
何か理由があって出てこれないとしても、そこに行けば出ていくという事。
こんな事になってるなんて聞いてないんだけど、ちょっとメルクリアさん?
今度会ったら文句言ってやる。
もっとも、俺が無事にここを出れたらの話だけどな。
「とりあえず先に行きましょ、今の話を伝えなきゃ。」
「そうだな。」
「イナバ様、どこに行けばいいんですか?」
「さぁ、私も行けば分かるとしか言われてませんので。」
俺の想像ではダンジョンのような穴がぽっかりと開いている前に店を出すイメージだったんだが・・・。
この感じだと穴の底になるのか?
まさか、それは無いだろう。
出水がどうのこうの言ってるのにわざわざ沈む可能性のある場所に作るはずがないよな。
多分。
「あ、あそこじゃない?」
目のいいネーヤさんがいち早く気付き指さしたその先には小さな小屋があっその周辺にたくさんの人が見える。
まさか、あれ全部が冒険者なのか?
「凄い人だな。」
「そうですね。」
「あれを思い出すわね、ほら、イナバ様の。」
「あぁ、障害物競走な。」
そういえばそんなこともあったねぇ。
懐かしい話だ。
確かにあの時と同じぐらい冒険者が集まっている。
そう考えれば何とも無いように思えてきた。
俺は彼らを相手に商売をするだけ。
別に調査をするわけじゃない。
むしろあれ全部が金づると思えば・・・。
「イナバ様、流石にそれはちょっと。」
「え、聞こえてました?」
「えぇ、まぁ。」
相変わらず心の声は駄々洩れらしい。
気を付けなければ。
「聞かなかったことにしておいてください。そう思わないとやってられなくて。」
「まぁ、気持ちはわかります。」
「あれだけの冒険者をイナバ様だけで捌くのよね?」
「もちろん商店連合から助っ人は来るそうですが、それでも大変な仕事になると思います。」
「心中お察しします。」
「ありがとうございます。」
馬車が近づくにつれどんどんと人が見えてくる。
冒険者。
体一つで魔物を切り裂き依頼を成し遂げる猛者達。
彼らを相手に商売をする。
それが俺の仕事だ。
例え大人数であっても。
決して臆することなく。
でもさぁ。
今回ばっかりは荷が重いような気がするんだよね。
ま、なるようになるか・・・。
頑張ろう。
襲撃を乗り越えやっとの思いで到着した彼らを待ち受けていたのは大勢の冒険者たち。
さぁ、ダンジョン商店腕の見せ所です。
頑張って頂きましょう。
え、それだけじゃないだろって?
それはまぁそうなんですけどね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




