準備は万端・・・ではないようです。
ボロボロの馬車が冒険者の間を通り抜け、小さな小屋の前で停車した。
周りの冒険者が何事かと集まってくる。
「ご苦労様でした。」
「も、もうこんなことは二度と御免です!」
「もちろんです、でも帰りもあそこを通らないといけないんですよね。」
「ひぃぃ、もう終わりだぁぁぁ。」
「帰りの護衛について話をしてみますので一先ずここでお待ちください。」
「わかりました・・・。」
へなへなと座り込むおっちゃんの肩をポンポンと叩き三人と一緒に馬車を降りる。
そのとたんに集まってくる冒険者の視線。
なんだか有名人になった気分だが、残念ながらそうでもない。
サンサトローズならまだしも、ここは別の場所だからね。
その証拠に見たことある顔はほとんどなかった。
「なんだよ、こいつら。」
「ひでぇ馬車だな。魔物にでも襲われたのか?」
「どう見ても冒険者じゃない奴がいるぜ、何しにきやがった。」
「どうせギルドの人間だろ?変なこと言うと報酬減らされるぞ。」
「大丈夫だって、どうせ口だけだ。俺達が居なきゃ仕事にならないんだから文句なんて言わせねぇよ。」
おーおー、結構言われてるなぁ。
残念ながらギルドの職員ではないんだが、そういう目で職員を見ているのであればあまりよろしくないぞ。
きつい言い方をすればお前たちの代わりは居るってやつだ。
そういう態度を取るのであればお引き取りして頂いても構わない。
別の冒険者に頑張ってもらえばいいだけの話だ。
見た感じ上級冒険者ではないだろう。
中級であれば比較的数がいるので代わりは手配できるからね。
「なんだよこいつら。」
「別にいいでしょ、ほら、さっさとギルドまで行って登録しないと。」
「ネーヤの言う通りです。護衛はまだ終わっていませんよ。」
三人はというと特に気にする様子はないようだ。
色んな所に行っているしこういうのは慣れているんだろう。
三人に囲まれるようにして小屋へと向かうと、そこには小さいながら冒険者ギルドのエンブレムが掲げられていた。
「魔石鉱山出張所、だって。」
「小さい上にぼろぼろと来た、これなら横の天幕の方がマシじゃないか?」
「その天幕も準備できていないようですね、本当に仮、という感じなのでしょう。」
「とりあえず護衛任務の報告をしないと、それから登録ね。すみませーん、シュリアン商店のイナバ様を護衛してきました~。」
ネーヤさんが元気よく扉を開くと、バキッという音と共に扉が取れた。
「あー、壊した壊した壊したー!」
「壊してない!取れただけよ!」
慌ててネーヤさんが扉を閉めるもそれで治るはずがなく・・・。
「壊したな。」
「えぇ、壊しましたね。」
仲間にまで責められている。
不可抗力ではあるけれど、とどめを刺したのは間違いないかな。
「こんなにボロボロなのが悪いのよ!」
「ボロボロで悪かったなぁ!」
「あーもう、後で直すってば!」
中の様子はここからは見えないが、どうやら職員と話をしているようだ。
中から聞こえてくる声が妙にガキっぽい・・・もとい子供っぽいのは気のせいだろうか。
「まぁまぁとりあえず中に入りましょう。これぐらいならモアが直せるはずですし。」
「そっか、じゃあいいや。」
「俺が直すのかよ!」
ひとまず扉を横に置いて三人と一緒に中に入る。
小屋の中は想像通り狭く、5~6人入ればいっぱいになってしまうだろう。
奥の小さなカウンターにこれまた小さな男の子が鎮座していた。
「シュリアン商店のイナバと言います。冒険者ギルドの要請を受けスマート商店連合より派遣されてまいりました。彼らは護衛依頼を受けた冒険者になります。」
「遠いところどうもありがとうございます!あ、僕コロルといいます!」
「コロルさんですね、宜しくお願いします。」
元気よく立ち上がった(立ち上がってもカウンターの上に首が乗っている程度だが)コロルさんと握手を交わす。
一先ずの挨拶は完了っと。
「それで、この後に関してはこちらで指示を受けるように伺っているのですがどういう状況でしょうか。」
「実は・・・。」
「実は?」
「まだ何も手付かずなんです!お願いします助けてください!」
はい?
手つかずってどういうことだ?
簡易天幕だが店は出来ているんじゃなかったっけ?
俺の聞き間違い?
「えっと、どういう事でしょうか。」
「商店連合からは冒険者にお願いして天幕の設営をしてもらうようにと言われていたんですけど、この見た目からか冒険者の皆さんに舐められてしまって誰も話を聞いてくれないんです。」
「つまり設営作業にすら入れていないと?」
「ギルドとしての機能は僕一人で何とか果たせるんですけど、それ以外は全然で・・・。」
「依頼を出してやったりとかは?」
「もちろん報酬は出しますって言いましたよ!でも、誰も話を聞いてくれないんです。勝手に鉱山には入っちゃうし、あーもう、どうしたらいいんですか!」
どうしたらいいんですかって聞かれても知らないよ。
その辺はギルドの仕事なんだからしっかりしてもらわないと・・・。
マジかぁ。
思っている以上に大変そうだなぁ。
「イナバ様、どうされます?」
「どうするもこうするも設営しなければ話になりません。」
「俺達が手伝いますよ!」
「それはありがたいですが三人だけでは難しいでしょう。外にいた冒険者全員でやればなんとかなりますが・・・。」
「じゃあ頼めばいいじゃないですか。」
「ギルドで依頼を出しても聞いてもらえないようですし。困りましたねぇ。」
「うぅ、このままじゃずっとここに押し込められて死んじゃうんだ・・・。」
当の本人はというと、悲観したままで役に立つ気配はない。
援軍は期待しない方がいいだろう。
仕方ない、ここは俺が仕切るしかないか。
出来るならば大人しく商売だけをしておきたかったけれど、そういうわけにはいかないようだ。
もしかすると上の皆さんもそれを想定して俺を派遣したのかもしれない。
こいつならどんな状況でもなんとかするだろうみたいな。
確かに昔からそういう立場で仕事してましたけど・・・。
いいだろう、上がその気ならやってやろうじゃないか。
依頼料の他にもしこたま稼がせてもらうぜ!
「話を整理しますが、ギルドとしての機能は有しているんですね。」
「依頼をだしたり管理したりは出来ます!」
「出来ていないのは商店連合より頼まれた天幕の設置だけ?」
「それと今回の調査依頼の正式受領業務がまだで・・・。」
「無法地帯じゃねぇか。」
「こら、モア!」
「うぅ・・・。」
あーもうまた泣いちゃったじゃないか。
ネーヤさんに後ろからチョークスリーパーを決められタップをしているモア君は置いといて、俺のやるべきことは分かった。
ようはギルドもまともに稼働してないってことだ。
それを稼働できるように統制を摂るのが俺の仕事ってわけだな。
「とりあえず三人は私の依頼料を受領してください。それと調査依頼の正式受注もですね。一番乗りですよ。」
「一番乗りかぁ、嬉しいような嬉しくないような。」
「いいじゃない、最初に受けたってだけで評価はされるんだし。」
「まぁ、そうだな。」
「と、いうことで彼らの処理をお願いします。私は外を受け持ちましょう。」
「よろしくおねがいしますぅぅぅぅ。」
土下座でもしそうな勢いで頭を下げるコロルさん。
いや、してるな。
だって姿が見えないもん。
とりあえずここは三人に任せて俺は俺の仕事をしよう。
外に出ると俺達に興味を失った冒険者たちが好き勝手にたむろしていた。
あ、馬車のおっちゃんにも絡んでる。
可愛そうだから辞めてあげてよね。
えーっと、天幕天幕っと。
小屋の横に放置された天幕は設置しようとした努力の跡は見えたが一人で出来るはずもなくそのままという感じだ。
あれ、商店連合からも人員が補充されるって話だったけど、その人たちはまだいないのかな?
辺りを見渡してもそれらしい人はいない。
ま、今来られても何もできないし、別にいいか。
「とりあえず設営だな。」
普通の天幕と違い店の代わりにするので結構大きい。
結構じゃないな、かなりだ。
設営には最低10人は必要だろう。
それが合計5つある。
店に一つ、倉庫に一つ、休憩所に三つって感じかな。
あ、一つは食堂になるか。
それ用の機材もあるんだろうけど・・・。
あの大量の木箱がそうなんだろう。
うへぇこれを俺一人でってどう考えても無理ゲーだな。
とはいえやらないわけにもいかないわけで。
まずは設営。
それから荷物整理。
当座の金銭はギルドに融通してもらうとして・・・。
うん、このやり方で行こう。
流れを確認して深呼吸を一つ。
冒険者の方を向いた俺はもう一度大きく息を吸い込んだ。
「これより天幕の設営を行います。今日一日の拘束で報酬は銀貨1枚と夕食の支給です!先着10名参加者は集合願います!」
俺の声が巨大なすり鉢状の鉱山中に響き渡る。
突然大きな声が聞こえたものだから、全冒険者が驚いた顔で俺を見てきた。
10秒ほど待つも反応は無い。
うーむ、まだ駄目か。
「こちらは商店連合所属シュリアン商店出張所です!これより天幕の設営を行います、今日一日の拘束で報酬は銀貨1枚と夕食の支給です!今後我が商店が皆さんの支援を行います。今後も休憩所の設営、食事処の設営と仕事は山積みですので、我こそはと思う人は名乗りを上げてください、お願いします!」
今度は店の名前を出してみる。
だが先程と同じく反応は芳しくない。
それどころか面白い事が始まったとニヤニヤしている奴もいる。
ここで舐められたら負けだ。
「こちらは商店連合所属シュリアン商店出張所です!これより・・・。」
「うるせーぞ!静かにしろ!」
「そうだ!天幕ぐらい自分で張りやがれ!」
三度目の声を上げる前に罵倒が飛んでくる。
罵倒だけなら気にしない。
再度声を上げればいいだけだ。
「商人風情が何しにきやがった!さっさと帰れ!」
「かえれー!」
「俺達から金をむさぼる守銭奴め!誰がお前の店なんか使うかよ!」
「とっとと失せろー!」
だが、罵倒に加えて別の物が飛んできた場合は別だ。
冒険者の声が多くなると同時にゴミや石が飛んでくる。
殆んどが俺の手前で落下したが、一つだけまっすぐに俺の顔めがけて飛んでくるものがあった。
この程度なら俺でもキャッチできる。
手前で落ちたのはいい、だが直接届いたやつは違う。
これは攻撃だ。
俺への挑戦だ。
そっちがその気なら容赦はしない。
商人だからって舐めるとどうなるか、思い知らせてやる。
俺めがけて飛んできた奴を華麗にキャッチして見せると、冒険者から驚きの声が聞こえてきた。
「これを投げたのは誰ですか?」
「誰だっていいだろ!」
「さっさと帰れよ!」
「もう一度聞きます、これを投げたのは誰ですか?」
再度問いかけると、ただならぬ雰囲気を感じたのか冒険者たちがお互いの顔を見合わせる。
そして、一人の冒険者へと視線が向けられた。
年は若くいかにもチャラいですって感じの見た目だ。
不必要なまでの装飾に、過剰な武器の露出。
背は高いが筋肉は少ない感じだ。
あいつか。
「貴方ですね?」
「あぁ、俺だよ。商人風情がいいきになるなよ?」
「顔は覚えました、貴方とは商売致しませんので宜しくお願いします。」
「はっ、こっちこそ願い下げだね。」
「ですが、お手伝いしてくれるのであれば目を瞑りましょう。いかがですか?」
「誰がお前の小間使いなんかするかよ。」
「これは冒険者ギルドの正式依頼なのですが・・・。」
「ギルドが怖くて冒険者が出来るかってんだ。なぁ。」
「「「あぁ!」」」
恐らく仲間だろう。
周りの冒険者も俺を見て笑っていた。
はい、こいつらも同罪。
「では、賭けをしましょう。」
「賭けだぁ?」
「力比べをして負けたらいう事を聞くっていうのはどうですか?私が勝てば設営を無休で手伝って頂きます、貴方が勝てば潔く帰る事にしましょう。」
「お前みたいなヒョロイ奴が俺なんかと勝負になるわけないだろうが。」
「さぁ、それはどうでしょう。それともあれですか?これだけの人数の前で負けるのが恥ずかしくて逃げるんですか?」
「この野郎調子こいてんじゃねぇぞ!」
俺の安っぽい挑発にいとも簡単に引っかかるあたり、実力は見えたな。
でも餌としてはちょうどいい。
面白い事が始まったと周りに冒険者たちが集まりだした。
「どうするんです?やるんですか?」
「やるに決まってんだろ!」
乗り気になってくれた所で俺は地面に直径2mほどの丸を書き、その中心に立った。
「勝負は簡単です。30数える間に私をこの縁の外に出してください。何をしても構いません、切りかかっても魔法を使っても押し出しても結構です。外にさえ出せばあなたの勝ち、出なければ私の勝ちです。」
「そんな簡単でいいのかよ。」
「えぇ、貴方に出来るのであればね。」
「やってやろうじゃねぇか!」
開始の合図も待たずに冒険者が突っ込んでくる。
さぁここで負ければすべて終り。
もちろんそんなことになるはずがないけれども・・・。
ラグビー選手宜しくタックルしてくる彼を見ながら、俺はとっておきの助っ人を呼び出した。
まぁ、こうなりますよね。
一筋縄ではいかないと持っていましたが、まさか準備すらできていないとは。
でもそんな状況でもなんとかするのが主人公です。
屈強?な冒険者相手に無謀とも思える勝負を仕掛ける。
果たして彼は勝利できるのか!
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




