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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二部 第十九章

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精霊師として

森をぬけ、村へ向かう道すがら俺達を迎えてくれたのは一面緑色の畑だった。


南の村はそれなりの穀倉地だと聞いていたがここまでとは思わなかったな。


かなり広大な農地に目を奪われたものだが、それが村に近づくにあたりどんどんと色を失い茶色く枯れた物も目立って来た。


そして・・・。


「大丈夫ですか!」


村に到着した俺達を出迎えてくれたのは、元気な村人・・・ではなく、倒れこむ人々だった。


「待ちなさい!」


慌てて駆け寄ろうとした前衛二人をティナさんが引き留める。


「何でですか!」


「疫病の可能性もあります、まずは状況確認からです。」


「それなら私が、病気でしたら少しは知識があります。」


「お願いできますか?」


「任せてください。」


じゃあ俺がと言う前に薬師の子が素早く村人に駆け寄った。


遠巻きに様子を伺う事しかできず歯がゆい思いをしているのだろう。


前衛二人は手をグッと握りその時を待っていた。


「大丈夫です!」


「よっしゃ!」


「行くぞ!」


許可が下りると同時に村の中へと走り出す。


いたるところで倒れる人たち。


年齢性別関係なく、顔色が悪い。


病気・・・ではないな、これは。


何て言うか毒?


「恐らく何かしらの毒が原因かと思います。毒消しハーブを煎じた薬湯を飲めばおそらくは。」


「予備はある?」


「とりあえず手持ちの物で準備します。」


「では私のも使ってください。」


「私のもどうぞ。」


「助かります。えぇっと水場は・・・。」


俺とティナさんから水場へと向かおうとしたその時だった。


最初に駆け寄った人が彼女の足を弱々しく掴んだ。


「ダメ、水は汚れてる。」


「え?」


「ポイズンマウスが水場に落ちたの。その毒が回ってみんな・・・。」


「うげ、あいつ等かよ!」


「でもどうする?水がなかったらどうにもならないぞ。」


自分達が持って来た水は昨日使い切ってしまった。


川が干上がってしまい大変な事になっているとは聞いていたが、頼みの井戸まで仕えなるとなると確保する方法がない。


村ののいたるところで倒れている人達は皆、井戸の水を飲みこんなことになってしまったんだろう。


マジか、どうする?


どうすればいい?


「今、サンサトローズまで水を買いに行ってるんだ。朝一で出て行ったけど、まだかかるだろうな。」


「貴方は?」


「ボイルだ。俺はたまたま水を飲まなかったから助かったが、他のやつらは皆・・・。」


「何があったんです?」


「昨日の夜に突然ネズミ達が村を襲ったんだよ。襲ったっていうか通り抜けたっていうか、ともかく大量のネズミが村に来てあっという間に森の方に消えて行ったんだ。何匹か倒したがおそらくその最中に何匹か井戸に落ちたんだろうな。」


「それでこんなことに・・・。」


おそらくあの変異したポイズンマウスだろう。


それが森に逃げ込んだっていうのは、正直ショッキングな内容だ。


つまりは俺達の村にも来る可能性があるって事だろ?


畑を通ったってことは疫病を持っているのと同じこと。


それが村に押し寄せたら取り返しのつかないことになる。


何とかしないと・・・。


「病人は何人ですか?」


「村の半分、40人程が毒にやられてる。その中の何人かは危険な状態だ。」


「その人達を優先的に治療しないと!」


「とりあえず備蓄の毒消しは使ってるんだが、やはりそのままじゃ効果がないんだ。」


「ポイズンマウスの毒が体内に入ってしまうと内臓から犯されていきます。薬湯で中から治療しない事にはどうしようも・・・。」


とりあえずは水、水か。


朝一で取りに行っているとはいえ往復半日。


まだ時間はかかるだろう。


せめて重傷者だけでもなんとかしたいんだけど・・・ってそうだ!


「ディーちゃんに頼んでみましょう。」


「え、水の精霊様ですか?」


「商人であるのと同時に私は精霊師ですから、何か出来る事があるかもしれません。」


思い立ったら即行動だ。


ディーちゃんを呼び出す為には水が必要だ。


ボイルさんに誘導してもらって一先ず汚染されているという井戸へと向かった。


「死骸は撤去してある。だが毒はそのままだ。」


「わかりました。出来る限りの事はしてみます。」


「頼む、重症者には俺の息子もいるんだ・・・。」


そんなこと言われたら失敗できないじゃないか。


って失敗するつもりもないけどさ。


俺は大きく深呼吸をして意識を集中させる。


最初はつかみにくかった魔力の流れも、集中する事でなんとなくわかるような気がしてきた。


本当になんとなくだが、それが出来るのとできないのとでは雲泥の差があるらしい。


魔力のあるこの世界に俺も馴染んできたのかもしれないな。


井戸の中を覗き込み、そこに見える微かな水の揺らめきに視線を向けた。


「ディーちゃん、聞こえる?出て来て欲しいんだ。」


そしてお願いをする。


召喚とか詠唱とかそう言うのは一切ない。


俺と彼女達との関係はそんな形式的な物じゃない。


もっと親密で、そしてフランクだ。


水底が微かに揺らぎ、それからみるみるうちに井戸の水がせりあがって来る。


慌てて顔を井戸から出すと、巨大な水球が井戸の中から飛び出してきた。


「なんだ!?」


「静かに!イナバ様が精霊様をお呼びしているんです。」


突然の出来事にボイルさんをはじめ村の人たちが動揺するが、ティナさんがそれを素早く制する。


水球は俺の前でフヨフヨと浮かぶと、次第に形を変え見覚えのある姿へと変化していった。


「シュウちゃん、呼んだ?」


「ありがとう水の精霊様(ディーちゃん)、来てくれて助かったよ。」


「シュウちゃんの、お願いだから。でもどうしたの?それに、この水、良く無いモノが混ざってる。」


いつもは綺麗な半透明の色をしているディーちゃんの体が、今日は茶色く濁っていた。


清楚な女子大生というよりも、健康的に日に焼けた女子大生って感じだろうか。


ギャルまではいかない。


イメージで言えばそんな感じだ。


「実は魔物の毒がここの水を汚染してしまって、みんな苦しんでいるんだ。どうにかならないかな。」


「これを、分離すればいいのね?」


「できる?」


「もちろん。すぐに追い出すからちょっと待ってね。」


そう言うと右腕を前に伸ばすディーちゃん。


すると、見る見るうちに体中の茶色く濁った何かが右腕の方へと集まり出した。


色が濃くなり、肘の辺りまでこんがりと日焼けしたような感じになっている。


「シュウちゃん、ちょっと離れてて。」


距離を置くように言われ少し離れた次の瞬間。


ディーちゃんの左腕が素早く動き、右腕の肘から先を切り落とした。


「うわ!」


切断された部分が地面に落ち、ジュワジュワと嫌な音を発しながら乾いて消えた。


何とも言えないにおいが鼻につく。


これ、吸っても大丈夫なんだろうか。


「これで良く無いモノは無くなったよ。」


「飲んでも大丈夫?」


「大丈夫。でも、地下の流れが細いからすぐなくなっちゃうかも。」


水枯れは川だけじゃなく地下水にも影響しているのか。


このままだと井戸さえも枯れてしまい、この村から水がなくなってしまうだろう。


それだけは何としてでも阻止しなければ。


っと、その前に。


「とりあえず綺麗になったお水を少し貰ってもいい?」


「うん。」


「ボイルさん、お鍋か何かを持ってきてください。すぐ薬湯をつくります!」


「わかった!」


口を開け俺とディーちゃんを見ていたボイルさんだったが、ハッと我に返り慌ててどこかへと行ってしまった。


とおもったらすぐに大きな鍋を抱えて戻って来る。


「店の調理鍋なんだが、これでいいか?」


「ディーちゃんお願いできる?」


いつの間にか復活していた右腕から水が溢れだし、ボイルさんの鍋をなみなみと満たす。


「では急ぎ火を起こしてください。大丈夫、後は彼女の指示に従えば必ず助かります。」


「ありがとうございます精霊様!」


助かる。


そう聞いた瞬間にパッと顔が明るくなるボイルさん。


俺もその気持ちはよくわかる。


子供に何かあって、助かるよと言われたらどれだけ安心するだろうか。


嬉しそうな顔をする俺を見て、ディーちゃんもまたうれしそうに笑っていた。


「それじゃあ、戻るね。」


「あ、ちょっと待って。」


「なぁに?シュウちゃん。」


「村の水をこっちに持ってくることはできないよね。」


「うん。水脈が繋がっていないから、難しいかな。」


「そっか。そうだ、ドリちゃんに伝言をお願いできるかな。良くない魔物が森に入ったかもしれないから注意してほしいって。魔石に犯されたネズミなんだ。」


森の妖精(ドリちゃん)が魔物を排除してくれることはない。


魔物がいる事は正常な事であり、それを除外すると正しい森ではなくなってしまう。


でも今回は普通の魔物ではなく、害のある可能性が高い魔物だ。


注意を促すぐらいは問題ないだろう。


「わかった、伝えておくね。」


「お願い。で、今回の御礼なんだけど・・・。」


「じゃあね、ほっぺにチュウしてくれる?」


「お安い御用だよ。」


可愛らしく頬を差し出してキスをねだるディーちゃん。


精霊師と名前はついているが、俺と彼女達とは対等な関係だ。


どちらかが隷属しているわけでも服従しているわけでもない。


お願いするには対価が必要になる。


それはその時々で変わるので基準はないんだけど、今回はキスで大丈夫なようだ。


優しく頬に口付けすると、冷たいゼリーのような感触が帰って来た。


嬉しそうに頬を撫でるとディーちゃんは手を振りながら井戸の奥へと戻って行った。


中をのぞき込むと最初同様水面が揺れているだけだ。


でも、もう大丈夫。


毒素は取り除かれ元の状況に戻った事だろう。


でも、水は少ないままらしい。


困ったなぁ。


「お疲れ様でした。」


「無事にうまくいきました。」


「今向こうでお湯を沸かしています。毒消しの量が少ないので重傷者を優先して治療しますが、おそらくは間に合うとのことです。」


「彼女に来てもらっていて本当に良かった。」


「そうですね。私もこんなことになるとは思いもしませんでした。」


村の奥を見ると三人組が忙しそうに動き回っていた。


倒れている人に声をかけ、毛布を手渡している。


おそらく彼女に指示を貰ったんだろう。


良い連携が取れているなぁ。


「あ、あの・・・。」


「どうしました?」


「水はもう大丈夫なのでしょうか。」


「精霊様が除去してくださったのでもう安心ですよ。皆さんに水を配ってあげてください。」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます精霊師様!」


「精霊師様万歳!」


水が復活したと聞き元気な村の人たちが井戸の周りに集まって来た。


精霊師と褒めたたえられるのはいまだに慣れない。


だって、何かをしたのは俺ではなく彼女達だ。


俺は彼女達を呼んだだけなんだけどなぁ・・・。


「それでも、村の人たちがイナバ様によって助けられたのは事実です。」


「そうなんですけどね。」


「胸を張ってください。イナバ様の頑張りをお子さんたちが喜んでいます。」


「子供が喜んでくれるなら、それでいいか。」


お父さん頑張ったよ!


ってことにしておくとしよう。


その後ひとまず村は落ち着きを取り戻し、重症患者も峠を越えたようだ。


流石にこのままにして村を離れるわけにはいかないので手分けして村の手伝いをしていると、夕刻前に無事水を積んだ馬車が戻って来た。


「あ、イナバ様!」


「モア君!どうしてここに?」


「馬車の護衛任務を受けたんですよ。ちょうとここに来る用事があったんで助かりました。それよりもどうしてイナバ様がここに?」


「たぶん目的は一緒ですよ。」


「という事はイナバ様も鉱山に行くんですね。」


「えぇ、そこでお店を出すと同時に別の仕事も頼まれています。」


「イナバ様がいるなら心強いや。」


へへへと笑う顔にはまだ幼さが残るものの、この一年でさらに成長したことを俺は知っている。


あの頃はやっと中級冒険者って感じだったが今じゃベテランの風格すらある。


上級冒険者に上がるのも遠い話ではないだろう。


「あれ、他の二人は?」


「後ろの馬車に乗っています。イナバ様がいると聞いたら喜びますよ。」


「また変な事に巻き込まれると思われませんかね。」


「大丈夫ですって。」


一部冒険者の中には疫病神的な扱いをされているからなぁ。


俺が関わると事が大きくなるらしい。


別にそんな気はないんだけど。


まったく、困った体質だ。


「イナバ様、ひとまず村の方は落ち着きました。」


そんな事を話していると今度は村から三人組が戻って来た。


「後、畑も見てきました!面倒な疫病ですけど病気の部分を刈り取って全体に灰をかければ抑えられると思います。」


「あれならまだ何とかなるよな。」


うんうんと頷き合う三人組。


「わかるんですか?」


「俺達小さい時から畑いじってましたからね。」


「それが嫌になって冒険者になったんだけどな。」


「そうそう。」


あははと笑う彼らだが、それがどれだけすごい事か理解できていないようだ。


この穀倉地が全滅すれば麦の高騰は必至。


過去に提案した税制改革がなされたとはいえ、貧しい人達は苦しい思いをすることになっただろう。


この村だって再出発するのにかなり時間がかかってしまったはずだ。


それを食い止める事が出来るとしたら、これは勲章ものの功績になるぞ。


そんな偉業をまだなりたての新米冒険者が成し遂げたと聞いて、誰が信じるだろうか。


俺は信じるけどね!


「ありがとうございます。本当なら村に戻ってもらって依頼料を貰ってもらうんですけど・・・。」


「いいですよ、俺達もこのまま放っておくことなんてできませんし。なぁ。」


「あぁ。出来る事をやる、イナバ様の教えじゃないですか。」


「それにあの人も村に残るって言ってたしね。」


「え、彼女も?」


「病気の人を置いてはいけないそうです。」


そうか、みんなこの村の事を心配してくれているんだな。


となるとだ。


権力を持った大人が出来る事は一つしかない。


「ティナさん。」


「わかってます。彼らにはしかるべき報酬をお支払いするようギルドに掛け合っておきます。というか、むしり取ります。」


「あはは、さすが話が早い。」


「私は先にこの件を伝えにサンサトローズに戻ります。お水ももう少し必要でしょうし、イナバ様のお名前をお借りしますね。」


「それであの人が動くのなら喜んで。」


さっすがティナさん、話が早い。


働き者には正当な報酬を、そして大変な思いをしている人には的確な支援を。


それが出来る権力をただの商人である俺が持っているというのもおかしな話だが、まぁ気にしちゃいけないよね。


「俺達も何か手伝いますか?」


「今日はもう出発できませんから、それまでお願いできますか?」


「任せてください。」


働ける者は誰でも使う。


鉱山に行く前にせめて形だけでも整えておかないと。


大変な事になるとは思っていたけど、こりゃ想像以上の状況かもしれないな。


そんなことを考えながら夜遅くまで彼らに指示を出すのだった。

商人であると同時に精霊の祝福を授かっている精霊師でもある主人公。

チートの持たずにやってきた彼ですが、こういう部分はチートですよね。

なんせ世界で唯一の複数精霊の祝福保持者ですから。

最初はそれを表に出すことはありませんでしたが、時間がたち、その力を使うようになったようです。

この辺に関しても追々書いていければと考えています。


何やら大変な事になっている主人公。

いつもの事ですがこの先どうなるのでしょうか。

それはまた次回ということで。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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