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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二部 第十九章

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森をゆく

村に行くと冒険者ギルド出張所の前には早くも冒険者たちが整列していた。


ティナさんを前にしてガチガチに緊張している姿がまた面白い。


まるで引率の先生と生徒のような構図だ。


「お待たせしました。」


「ちょうど今準備が完了したところです。」


「ありがとうございます。えぇっと自己紹介は必要ですかね。」


「おそらくは大丈夫かと。皆一度はダンジョンを利用したことがあるそうですから。」


「そうですか。では今回は宜しくお願いします。」


「「「「よろしくおねがいします!」」」」


今回参加するのは四人の冒険者。


男性3名女性1名。


初心者冒険者らしく皆若く元気いっぱいだ。


って、女性はそうでもないのかな?


男三人組はおそらく知り合い同士なんだろう、何やらヒソヒソと話している。


女性は我関せずと言った感じで・・・いやティナさんの方をじっと見ているようだ。


同性の憧れみたいな人だからファンなのかもしれない。


「では各自支給された装備を持ってください。」


「「「「はい!」」」」


「今回は森の状況調査と設営の訓練でしたね。」


「そうです。ダンジョン外での行動の仕方や注目する部分を指導していきます。設営に関しては夕刻にいい場所があれば取り掛かる予定です。」


「ダンジョンの外に関しては私も素人みたいなものですから、今日はよろしくお願いしますティナ先輩。」


「やめてくださいイナバ様、恥ずかしいじゃないですか。」


いやいや、上級冒険者なんだから大先輩みたいなものだ。


恥ずかしがる理由がわからない。


それに過去にダンジョンには何度も同行してもらっているし、初めてじゃないんだけどなぁ。


「あ、あの!」


と、出発する前に女性の冒険者が急に声を上げた。


なにやらモジモジとしているようだが、トイレですか?とは聞きづらい。


「どうしました?」


「お二人は、その・・・お付き合いされているんでしょうか。」


「「え?」」


「だって、その、非常に仲が良いと聞いていて・・・。」


うーむ、何と答えるべきか。


確かに仲は良い。


過去に何度も死線を超えているし、個人としても話が合う。


うちの奥様方とも仲がいいし、村に住むようになってからは毎日のように顔を合わせているから半分家族のようなものだ。


とはいえ、付き合っているかと聞かれたら微妙なところだな。


「えっと、それは・・・。」


「付き合っていますよ?」


「「え!?」」


「お付き合いさせて頂いています。それがなにか?」


「いえ!ありがとうござます!」


慌てたように頭を下げる女冒険者と、驚いた顔のまま固まる俺。


そうだったの?


全然知らなかったんですけど。


「もう他に質問はありませんね?では出発しましょう。」


「「「「はい!」」」」


俺へのフォローは無く、そのまま出発を宣言するティナさん。


俺も慌てて装備を持って最後尾につく。


「昼までは私が先行して進みますが、昼食後は皆さんに先行して進んでもらいます。この辺りは魔物はまだ少ないですが、奥がどうなっているかは分かりません。私とイナバ様はギリギリまで教えませんのでそれなりの覚悟を持って進んでください。これは遊びではありません、調査というれっきとした依頼ですから初心者だからという甘えは許されませんよ。」


何時にもなく真剣な言い方に、冒険者達が息をのむのが分かった。


これは依頼だ。


金銭が発生している以上失敗は基本許されない。


もちろん罰則は無いが、危険が付きまとうのは当然の事だ。


ダンジョンと違って魔力溜まりが出来やすいので、思いもしない魔物が出てくることだってある。


それにどう対処するのか。


そこも重要になってくる。


さっきのティナさんの発言で彼らの緊張は一気に高まり、それに満足したようにティナさんは歩き始めた。


中央広場を抜けて開発中の南の森へと進む。


「お、出発か?」


「えぇ。それと、急遽店を開けることになったので村の事は任せました。詳しくはシルビアに聞いてください。」


「なんだ随分と急だな。」


「いつもの事ですよ。」


「ま、そうだな。」


そう、いつもの事なんです。


ウェリス達に見送られて森へと足を踏み入れる。


この辺はまだ手が入っているので歩きやすい。


薪を拾ったり開発用に岩なんかも取り除かれているしね。


でもそれから一刻程、無言なまま進み続けるとどんどんと環境が変わってくる。


歩きやすかった足元は苔や藪が生い茂り、進行速度がグンと下がってきた。


極力歩きやすい場所を選んでも木々が邪魔をしてくる場合もある。


ティナさんが素早くそれを切り払ってくれるので今は快適だが、昼を過ぎてからは彼らがそれを行う事になるだろう。


初めての状況に戸惑いながら必死に追いかけているという感じだ。


いざやれとなったら難しいだろうな。


え、お前は出来るのかって?


そりゃあもちろん。


ユーリの散歩に付き合っていると気づけば出来るようになっているものです。


「止まって。」


目の前を塞いでいた木々を切り倒したその時だった。


突然ティナさんが身をかがめ俺達を制止する。


慌ててそれに従い俺達も身をかがめた。


静かに息を殺し辺りの音に注意を払う。


しばらくそうしていると、木々の向こうから何かが歩いている音が聞こえてきた。


パキ、パキと小枝を踏む音がする。


音の感じからそんなに重い魔物ではなさそうだ。


複数回聞こえるのは四つ足の証拠。


ってことはボア種ではないだろう。


森の中って事はディヒーアかゴートかそんな感じだろう。


「一匹、いえ二匹いますね。」


「種類はわかりますか?」


「小型の魔物だと思います。せっかくですから皆さんでやってもらいましょうか。」


「「「え?」」」


「大丈夫です、相手をよく見て動けば問題ありません。」


種類も確認せず彼らにやらせようだなんて、ティナさんもなかなかに鬼畜だな。


突然のご指名に慌てる彼らを横目に、ティナさんは俺の隣へとやって来た。


「イナバ様は周囲の警戒をお願いします。」


「お任せください。」


「その間に私は昼食用の場所を探してきます。皆さん、何かあっても誰も助けてくれませんからそのつもりで。」


「「「は、はい!」」」


思っていたよりもスパルタなやり方にちょっと驚いている。


もっと丁寧に教えるのかと思っていたが・・・。


でもそうだよな、自分達しかいないんだから援軍を期待しちゃいけないよな。


先行するという事は、ティナさんには魔物の正体がわかっているんだろう。


初心者でも狩れる。


そう判断したから任せると言ったんだ。


最悪俺が何とか出来る程度の魔物なんだろうな。


「じゃあ行ってきます。」


「ティナさんも気を付けてくださいね。」


返事の代わりにニコリと笑うとティナさんは足早に森の奥へと消えて行った。


残された冒険者たちがどうすればという感じで顔を見合わせている。


手助けしてもいいけど、助言を求められるまではグッと我慢だ。


「ま、魔物がいるんだよな。」


「どこだ?木が邪魔で見えないぞ。」


「小型の魔物なんだろ、大丈夫だって・・・多分。」


男三人は怯えながらどうするかを話し合っている。


装備を見る感じ二人は前衛かな?


少し大きめの斧にもう一人は長剣。


一人は弓を準備し始めた。


ビビってはいるが戦う意欲はあるみたいだ。


さて、どう出る?


「本当に二匹か確かめた?」


「え?」


「もしかしたら三匹いるかも。」


「でも、ティナさんは二匹だって・・・。」


「自分の目で確認しないと、死ぬよ。」


最後の一人。


紅一点の彼女が彼らに鋭い一言を放った。


初心者にしては少し年齢がいっている。


三人組と比べると五つぐらい年上だろうか。


「おい、お前行けよ。」


「え、俺!?」


「そうだよ。」


「でも・・・。」


「いい、私が行くから。」


押し付け合いを始めた前衛二人を押しのけて、彼女が魔物のいる方へと足早に向かう。


その様子を三人はただボーっと見ることしかできなかった。


見た感じ経験者っぽいし、大丈夫だろう。


むしろこの三人を置いていく方が危なそうだ。


何かあれば戻ってくるだろう。


気まずそうな三人組。


しばらくすると何食わぬ顔で彼女は戻ってきた。


「ラビットホーンとシルバーリザーみたい。他はいなかったわ。」


「それなら俺達でもなんとかなるかも。」


「おい、行こうぜ!」


「待って。」


自分で倒せると考え飛びだそうとする前衛二人の前に左手を出してそれを止める。


驚いた二人だったが、彼女の表情を見て慌てて止まったような感じだ。


「ラビットホーンは貴方が仕留めて、出来るわよね。」


「え、僕?」


「この先は場所が開けてるから弓でも問題ないわ。私達はシルバーリザーを囲みましょう。ティナさんが言っていたでしょ、誰も助けてくれないって。ラビットホーンは仕留めそこなっても問題ないけど、もう一匹は逃げると厄介だわ。あいつ、仲間を呼ぶから。」


「仲間を呼ぶって聞いたことないけど?」


「それはダンジョンの中での話、外だと彼らにしか聞こえない声で連絡を取り合うの。」


へぇ、よく知ってるなぁ。


やっぱり俺の見立ての通り完全な初心者ではなく、それなりに経験はあるのかもしれない。


「じゃあどうすればいいんだ?」


「三方向から一斉に攻撃して仕留めれば大丈夫。動きは早いけど、迷うと一瞬止まるからその隙を狙えば行ける・・・はず。」


「・・・わかった。おい、しくじるなよ。」


「わかってるって。」


お、二人がちゃんと意見を聞き入れたぞ。


てっきり反発するかと思ったが、案外素直なのかもしれない。


「私はここにいます、気を付けて。」


「「「「はい!」」」」


それぞれ散っていく冒険者達。


取り残される俺。


昔の俺ならどうしようかと焦ったかもしれないが、幸いにもそれなりに経験は積んできたので昔ほどの恐怖はない。


この辺りの魔物ならどうにかなるだろう。


いざとなったらドリちゃんもいるしね。


しばらく待つと、ガサガサという音がこちらに近づいてきた。


短剣に手を添え音のする方向に意識を向ける。


この感じは魔物じゃない。


でももしもって事もある。


意識を集中させてその時を待っていると・・・。


「あれ、まだ戻ってきてないんですか?」


茂みの向こうから出てきたのはティナさんだった。


「えぇ、二つにわかれて行ったままですね。」


「え、二手に?」


「彼女が助言を出して、三人もそれに従っていました。彼らと違って完全な初心者ではないみたいでしたが、お知り合いですか?」


「イナバ様にはすぐばれちゃいますね。」


「なんとなくそう感じたんですが、やはりそうでしたか。」


「隠していたわけではないんですけど、ごめんなさい。」


別に謝られるようなことではない。


ティナさんなりに何か考えての事だろうし、結果として良い方に転んでいるんだ。


「向こうはどうでした?」


「良い場所が見つかりました、戻ってきましたら昼食にしましょう。」


「ありがとうございました。」


いつものように笑顔で返事をしてくれているが、おそらくいい場所を見つけたのではなく良い場所を作ってきてくださったんだろう。


鎧にほんの少し返り血がついている。


こういう所がカッコいいだよね、ティナさんは。


さすがです。


なんてことを考えていると、また別の方から音が聞こえてきた。


がさがさと賑やかな音。


間違いない。


「「「「戻りました!」」」」


「「おかえりなさい。」」


前衛の二人が満足そうに獲物をかかげている。


怪我は、無いみたいだな。


「昼食の場所も見つかりましたし、そちらに移動してから捌いてしまいましょう。」


「豪華な昼飯になるな。」


「あぁ、兎肉か美味いんだろうなぁ。」


「もちろん作るのは貴方達よ?」


「えぇ!俺達が?」


「労働なくして食事なし、でしょ。」


「「うぃ~っす。」」


なんだか最初よりも仲良くなっているみたいだ。


彼女にどんな過去があるのかは知らないが、それを知った所で何かが変わるわけでもない。


「さぁ行きますよ。」


四人組と一緒にティナさんの背中を追いかける。


ただの探索依頼だと思っていたけど、色々と面白いものが見れそうだな。

どうやら面白い探索になりそうです。

新人教育とはいえ依頼は依頼。

この先何が待っているかは未知数です。

なんせ、南の村ではよくないことが起こっているいる様子。

何もないはずが・・・ないですよねぇ。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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