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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第二部 第十九章

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単身赴任は大変です

メルクリア女史から話を貰ってから三日後。


俺の予想よりもだいぶ早く契約書は届けられた。


「じゃあ確認して頂戴。」


「拝見します。」


いつものように十秒出勤すると、メルクリア女史が今か今かと俺の到着を待ち浴びていた。


そのままバックヤードに連行され、今回の契約書を突き付けられる。


もとい提示された。


えーっと何々。


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「破格すぎません?」


「言ったでしょ、ご指名なのよ。」


「でも普通の調査依頼なんですよね?」


「一応はそうね。」


「絶対裏があるでしょ、これ。」


そう聞いてもメルクリア女史は表情を変える事はなかった。


今回提示された条件。


『鉱山前に手配した商店ならびに休憩所の運営、ならびに冒険者への助言。成功報酬制、金貨10枚。なお所定以外の勤務が発生した場合は別途報酬を支払う。』


要約するとこんな感じだ。


他にもこまごまとした事は書かれているが、俺に不利な内容は一切ない。


むしろプラスの内容ばかりだ。


・シュリアン商店の出張所となる為、得た利益は全てシュリアン商店に属する。


・仕入れは商店連合が行い定期的に輸送し、別途必要な品も手配する。


・出張所には商店連合より社員を二名配置する。


等々。


あまりにも美味し過ぎて逆に怪しく感じてしまう。


裏があるんじゃないか。


店だけと言いながら炭鉱の攻略までさせるつもりじゃないのか。


そもそも魔物の状況すら入って来ないってのはどうなんだ?


もう三日だぞ?


それだけあれば周辺の調査とか終わっているんじゃないか?


そんな事ばかり考えてしまう。


「金貨10枚って、普通に払う報酬じゃないですよね。」


「そうかしら。」


「そうですよ。それに、この前お話していた『私のやり方次第で期間が変わる』っていうのも気になります。」


「言葉通りの意味だけど。」


「絶対に何か隠していますよね。」


隠していない、とは言わなかった。


その代わりにジッと俺の目を見て無言を貫くメルクリア女史。


言えない理由がある。


そうとしか考えられなかった。


「ご承知と思いますが幼い子供に妻が四人います。何かあったらどうするおつもりですか?」


「どうにかなるつもりなの?貴方が。」


「そりゃあ最悪の事態はないと考えたいですが、可能性はゼロじゃないですよね。」


「それでも生きて戻ってくるわよね。貴方ならそれが出来るはず。」


出来るかと言われれば出いるだろう。


どうにもならなくなったらドリちゃんやディーちゃんの力を借りればいい。


命の危険を感じる所まで来たら見返り無しで助けてくれる・・・はずだ。


ちなみにルシウス君は季節的に登場できない。


あと半年後・・・かな?


「つまり上はそれを見越して私を推薦してきた。そういう状況を想定しているという事ですね。わかりました。」


「それで、どうするの?」


「受けますよ。こんな破格の報酬出されたら引くに引けないじゃないですか。」


「貴方ならそう言ってくれると思ってたわ。」


「貸し一つですからね。」


どうやって返して貰うかは決まってないけどな。


身体?


冗談でしょ。


「高い借りになりそうね。」


「そりゃあもぅ、とんでもないお願いしてあげますよ。」


「私にも限度があるんだけど?」


「そうなったらご当主に直談判するまでです。」


「お母様に?そんなことしたら・・・。」


「失言です、撤回させてください。」


「すぐに撤回しないでよ、別に私はいいんだけど?」


貴女が良くても私が良くないんですよ!


あの人に会う度に、娘を貰え娘を貰えと言われ続けるんだから。


まったく、困ったものだ。


「これでいいですね。」


「確かに。これで契約成立よ。」


「いつから行けばいいんですか?」


「今からでも。」


「いまから!?」


「冗談よ。でも、ギルドの要請を受けて冒険者は動き出してるし、簡易商店の建設も進行してるわ。明日出てもらっても問題ないわよ。」


明日、明日かぁ。


そうなると子供たちの顔を見れなくなっちゃうんだよなぁ。


先延ばしにしたい。


でも契約した以上あまり遅れることは出来ない。


「現場へはどうやって行けば?」


「南の村まで行けば、冒険者が護衛してくれる手はずになっているわ。一度サンサトローズに向かって、それから馬車を乗り換える感じね。」


「なるほど・・・。」


トランジットでいくのか。


それはそれで面倒だなぁ。


でもそれしかないか。


どういう手段で行くか、いつ行くか悩んでいたその時だった。


「失礼します、イナバ様今よろしいですか?」


申し訳なさそうに開店前の店舗の戸を開ける人がいる。


「あれ、ティナさんじゃない。どうかしたの?」


それにほぼノータイムでそれに反応するメルクリア女史。


さすがだ。


「先日の依頼について、手配が出来ましたのでご報告に来たんですけど・・・。」


「依頼って、確か森を抜けて南の村まで行くのよね?」


「周辺調査と一緒に初心者へ野営の仕方などを教えるんです。」


そういえばそんな依頼があった気がする。


南から魔物が入ってきていないかを調査するって話だったよな。


「あら、ちょうどよかった。彼が南の村まで行くんだけど一緒に連れて行ってくれない?」


「え、イナバ様が?」


「ちょっとちょっと!何でそうなるんですか?」


「行く場所が一緒なんだから問題ないでしょ?別に貴方が同行しちゃいけないって依頼じゃないんだし。むしろ初心者も貴方が一緒でうれしいんじゃないかしら。」


そう言いながらチラっとティナさんを見るメルクリア女史。


ほら、ティナさんも驚いてるじゃないか。


向こうにもやり方があるんだし俺みたいな部外者が一緒だと・・・。


「それを聞いたら彼らも喜びますよ。お願い出来ますか、イナバ様。」


「え、あ、はい・・・。」


お邪魔じゃないですか?と言ってくれたら、断る事も出来たのにまさかのお願い出来ますかとは・・・。


ティナさんも中々策士だなぁ。


そんな言い方されて断れるわけがないじゃないか。


「何時出発するの?」


「後は冒険者の到着を待つだけなので、おそらく昼前には出発できるかと。森の中で一泊して翌日の昼には南の村に到着できます。」


「じゃあ向こうにもそんな感じで伝えておくわね。」


とんとん拍子で話が進み、残り時間はあとわずかになってしまった。


急ぎ家に戻って子供たちの顔を見なければ!


「イナバ様は何しに行かれるんですか?」


「メルクリアさんに嵌められて、閉山した魔石鉱山へ出稼ぎです。」


「え、あそこって確か変異した魔物が出てるんですよね?」


「らしいですよメルクリアさん。」


「そうだったのね、知らなかったわ。」


絶対嘘だろ。


なんだよ変異した魔物って。


ティナさんもしまった!みたいな顔しないの!


「道中詳しく教えてください、うちの上司があれなので。」


「私にわかる範囲でになりますけど。」


「今はどんな情報でも問題ありません。お昼には村へ行きますので宜しくお願いします。」


「わかりました、お待ちしております。」


そう言うと、ティナさんは扉を閉めて戻って行った。


残されたのは俺とメルクリア女史。


「じゃあ、お店の準備はお任せします。私はエミリア達に事情を説明してきますので。」


「それがいいわ。私も急ぎノアに連絡するから。」


全く悪びれる様子の無いメルクリア女史。


向こうには向こうの都合があるんだろうけど・・・。


なんだかなぁ。


しょぼくれながら店を出て家に戻る。


あまりにも早い帰宅に皆目を丸くしていたが、事情を説明すると心配そうに話を聞いてくれた。


「時々は帰ってくるのだろう?」


「三日に一度は戻れるかと。」


「ならそんなに心配することも有るまい。子供たちの事は任せておけ。」


「私の顔忘れませんよね?」


「大丈夫ですよシュウイチさん。ね、シルカ、リュシア。」


「ンン?」


「ウ?」


まぁ難しくてわかるはずもないか。


二人をぎゅっと抱きしめると嬉しそうな顔をしてくれた。


この顔を見るために頑張ろう。


単身赴任するお父さんマジで尊敬するわ。


「ですがご主人様ダンジョンはどうされるんですか?この間の処理がまだ終わっておりませんが。」


「あー、そうでした。後片付けまだでしたね。」


「魔物は全て討伐されましたがかなり荒らされた状態です。また、前回の魔物量を期待して今日も中級冒険者が多数来られるかと。」


怒りに任せた大量召喚は無事に討伐された。


冒険者側には大きな被害も出ず、むしろいい訓練になったと大好評だったようだ。


実入りも中々に良かったらしい。


うちもそれなり儲けさせてもらったが、代償としてダンジョンは荒れ放題だ。


「罠の再配置にはまだ時間がかかりますか?」


「目下バッチさんに任せていますが時間はかかるかと。」


「でも荒れているのは23階層以降ですよね?」


「23~27階層にかけてがかなりひどい状況です。」


「では時間を稼ぎましょう。15階層~20階層にホワイトエイプを一頭ずつ召喚してください。それと同時に討伐依頼も掲示、条件は無傷の毛皮を提出することで報酬は銀貨10枚プラス高価買取・・・でどうですかね。」


「さすがご主人様、それだとかなり時間を稼げるかと。」


さすご主頂きました!


これも久々だなぁ。


ちなみにホワイトエイプとは名前の如く純白の毛皮をしたすばしっこい猿だ。


巨体ながら動きはかなり俊敏で、中々捕まえることが出来ない。


魔法や罠で捕獲することは可能だが、どうしても毛皮を傷つけてしまうので、細心の注意が必要とされる。


それを五頭も放てば、目先の利益に目がくらんだ冒険者がこぞって狩りに行くだろう。


その隙をついて修復作業に当たるわけだ。


ちなみに、魔力はあまり消費しないので俺達としては美味しい魔物だが、傷をつけられると商品にならないので、買い取っても高く売れない事が多く金銭的な実入りは少ない。


今回は時間をお金で買おうというわけだ。


「じゃあ依頼はこちらで準備しますね。召喚はユーリにお任せします。」


「かしこまりました。」


「シュウイチはその間に出発準備だな。一泊とはいえ野営をするんだ、それなりの準備で行けよ。」


「一泊どころか三日分はいりますよ。」


「一人だけ大荷物だな、手配できるものは向こうで買ったらどうだ?」


他の新人は少ない荷物なのに俺だけ大荷物とか、ちょっと恥ずかしすぎる。


シルビアの案に乗っかるのが一番だろう。


「それがいいですよねぇ。」


「メルクリア様にお願いして先に用意してもらうという手もありますよ。」


「さすがニケさん、冴えてますね。」


「お店に出れたらノア様のお力を借りなくても良かったんですけど・・・。」


「今は無理をする時期ではありませんから、ゆっくり体を休めてください。」


今日は調子がいいのか、朝から一緒に食事を摂ることが出来た。


こころなしか顔色もいい。


「絶対に無事に帰ってきてくださいね。」


「みんなと子供たちを置いてどこかに行くはずないじゃないですか。」


「そう・・・ですよね。」


「その通りです。ご主人様の事ですからいざとなったら逃げて帰ってくるでしょう。」


「そんなに心配するとお腹の子供に不安が移るぞ。」


「そうですよ。心配しなくてもシュウイチさんは帰ってきてくださいます。まずは、四日後?ですよね。」


「飛んで帰ってきますから。」


っていうか飛んで帰らせてくださいお願いします。


せっかく精霊の祝福を三つももらったのに未だに魔法は使えない。


転移魔法さえ使えたらこんなに苦労することないのに!


あ、いや、使えるとそれはそれで困るか。


メルクリア女史のようにあっちこっちへ飛び回らなければならなくなる。


今はこんな僻地にいるから王都へもあまり行かなくて済んでいるんだし・・・。


前言撤回、今のままでいいです。


その後皆で店に戻り店の準備は任せて自分の荷物を用意する。


肌着などは向こうで手配するとして、とりあえずは野営用の荷物を持っていこう。


いつもの武器と簡単な防具は身に着けてっと。


「それじゃあ行ってきます。」


「くれぐれも気を付けてな。」


「何かあったら逃げてくださいね。」


「ダンジョンはお任せください。」


「商店連合の顔なんだからしっかりやんなさいよ。」


みんな心配してくれているのに、一人だけ違うのは気のせいですか?


気のせいじゃないですよねぇ。


「何よ。」


「いえ、別に何も。」


「フィフティーヌ様も本当は心配しているんですよ。」


「そ、そんなことないわよ?」


「シュウイチもわかってるだろう?この人はそういう人だ。」


「だから違うって!」


エミリアとシルビアに両肩を掴まれながら慌てて否定する幼女。


この人が慌てているのは中々に珍しい。


「あはは、じゃあ行ってきます。」


「「「「いってらっしゃい!」」」」


最後にもう一度子供と妻達を抱きしめて村へと向かう。


なに、たった四日の辛抱だ。


働き出したらすぐに時間が経ってあっという間にその日が来る。


だから何の心配もない。


「もしもの時はお願いね。」


念の為マナの樹に触れてから村への道を歩き出す。


さぁ、単身赴任の始まりだ。


お父さん頑張っちゃうぞ!


単身赴任ってホント大変ですよね。

家族の顔を毎日見れないとか、しんどいと思います。

まぁ、今は家にい過ぎて見飽きたという人も多いと思いますがステイホームで頑張りましょう。


はてさて、別れを済ませて出発した主人公。

何事もなく到着できればいいんですけど・・・。

え、何も起きないはずがない?

さぁそれはどうかな。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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