最適な人選
メルクリア女史の話によると、川の水が干上がるだけではなく井戸の水位もが下がり始めているそうだ。
今はまだ生活に支障の出ない範囲だが、疫病と水不足が深刻化すれば壊滅的な被害が出るそうだ。
南の村が位置する付近は大規模な穀倉地帯ではないものの、それなりの収穫が見込まれる地域だけに被害が広がれば国そのものにも影響が出てくるだろう。
「井戸水の減少・・・。降雨不良による水不足が原因でないとしたら他に可能性が有りますね。それこそ地下水の減少とか。」
「さすが、話が早いわ。川の干上がりも恐らくは地下水の減少により発生したと考えているの。」
「で、その原因らしきものも見つかったと。」
そうじゃないと、わざわざ俺の前で言う必要ないよね。
どう考えても国家レベルの案件だ。
いくらメルクリア女史が商店連合の役員だとしても、ぶっちゃけ関係ない話だよね、これ。
一商店が関わるような話じゃない。
にもかかわらずここで俺に言うってことは・・・。
「近くに閉山した魔石採掘用の鉱山があるんだけど、どうやらそこが原因っぽいのよ。」
「あえて聞きますが、それって私に言うべき内容ですか?」
「もちろんあるわよ。」
「それは商人として、ですよね?」
「じゃないとわざわざ部下に言うはずないじゃない。」
いつもは部下だなんて言わないのに、こういう時だけ部下扱いして。
まったく。
「では聞かせてもらいましょうか。」
「『魔石鉱山の奥で出水が発生。それに伴い、地下水が減少し一連の流れを作り出した。』と、上の人間は考えているようね。根拠は鉱山内にしか出没しない魔物が周辺に溢れている事。それに追い出されるようにして、周辺の魔物が移動を開始しているのも根拠の一つとして挙がっているわ。もちろん、全部自分で確認したわけじゃないから何とも言えないけど、そうだとしたら『雨が降って終わり』という話にはならなくなるわね。」
「あの、全く私に話す内容じゃないんですが・・・。」
「最後まで聞きなさいよ。そこで上は冒険者ギルドに調査を依頼して、そのギルドが商店連合に補助依頼を出してきたの。要は『調査をするから店を準備してくれ』ってことね。」
「そんな状況なのにお金取るんですね。」
補助っていうぐらいだからタッグを組んでやるんだとばかり思っていたけれど、そうではないようだ。
「近くに街があればそこで済む話なんだけど、場所がかなり奥だからそういうわけにはいかないの。冒険者としては素材を売ったり薬を買ったりしたいわけだし、わざわざ街に行かなくていいだけでも十分感謝されるのよ。」
「なるほど。あくまでも調査依頼ですから我々が無償で援助する必要はないと。」
「そういう事よ。」
商店連合としては冒険者の売り上げを独占できるわけだし、かなり美味しい仕事と言えるだろう。
危険も無く実入りもいい。
「規模はどのぐらいですか?」
「商店の他に休憩所も併設するわ。宿泊は自前で何とかしてもらうけど食事も提供する予定よ。」
「結構大規模ですね。」
「天幕での営業だから撤退も早いし、在庫はうちが定期的に搬入するから問題ないでしょう。金銭管理だけ気を付けてもらえれば後は自由にやって構わないわ。」
構わないわってなんで俺がやる事前提なんでしょうか。
「そんなこと簡単よ、貴方が一番適任だから。」
「適任って、この店はどうするんですか?」
「貴方が行っている間サンサトローズからノアが助っ人に来ることになっているわ。彼女ならエミリアとも仲がいいし問題ないでしょう。」
「そこまで決まってるんですか。」
「商店連合直々の推薦よ、光栄に思いなさい。もちろんタダってわけじゃないから。」
タダじゃないってそこは問題じゃないんだけども・・・。
まさか異世界に来てまで会社に振り回されることになるとは思わなかった。
いや、昔に比べたら全然ましだけどさぁ。
これも雇われ店長、サラリーマンの宿命か。
「拒否できないわけですね。」
「そういう事になるわね。具体的な報酬に関しては後日契約書を用意するけど、今年の目標を考えたら受けるべきだと私は思うわ。」
「確かにえぐい目標ですからねぇ・・・。」
「仕方ないわよ。営業利益じゃなくてもいいなんて破格の条件付けてもらっているんだから。」
「まぁそうなんですけど。」
毎年夏節の初日に、一年間の目標を設定されている。
初回は何とか達成。
昨年は比較的余裕をもって達成することが出来た。
理由は簡単だ。
今まで遠慮してもらっていなかった報酬をもらうようになったから。
例えば、ププト様から助言を求められたり企画を行った時なんかは成功報酬として代金を受け取る。
王都に呼び出された時も同様だ。
内容に応じて交通費と報酬を貰うようにした。
精霊師として登録しているわけじゃないけれど、その力が必要な案件であればドリちゃん達にお願いをして手伝ってもらったりもしている。
お金で困った一年目だったからこそ、二年目はそこにこだわって仕事をしてきた。
結果、それなりのお金を確保できたので比較的にスムーズに達成できたというわけだ。
村の開発も順調に進み、移住に関しても二回目という事もありスムーズに受け入れることが出来た。
お陰様で大きな問題も起きなかったのでダンジョンも順調に拡張できている。
そして迎えた今年。
昨年の達成率からさらに高い目標を設定されてしまった。
1、金貨40枚の納付。
2、村に農業以外の産業を定着させる。
3、ダンジョンの10階層追加。
以上だ。
3はまぁ、今のままで行けば十分に達成できるだろう。
昨年ワザと拡張せずに魔力をプールさせていたので、来期には5階層の拡張が出来る。
後は一年かけてもう五階層分の魔力を貯めればいいだけだからね。
もちろん必要魔力も増えるけど、深くなればなるほど冒険者が増えるので何とかなるだろう。
上級冒険者の知り合いが多いってのも嬉しい。
位が高ければ高いほど生み出す魔力も大きい。
彼らがほぼ毎日のように入ってくれるだけで、初心者が今の倍来るのと同じだけの魔力を生み出せるんだから、すごいよなぁ、
え、お前はどうなのかって?
ダンジョンマスターは入っても魔力を生み出しません。
仮に生み出しても位が低すぎて初心者並なので雀の涙以下。
無駄ではないけれど足しにはならないって感じだ。
鍛錬は続けているし、王都に行ったときはダンジョンに潜ったりもしたけれど初心者であることに変わりはない。
2番目の産業に関しても一応の考えはある。
畜産か林業かのどちらかになるだろうけど、過去に何度か話し合っているのでいずれまた話し合うつもりだ。
だけど今は水不足への対応が急務なので今回の件が落ち着いてからになるな。
「まぁ今日明日の話じゃないから、エミリアには私から説明しておくわ。」
「シルビア達にもですね。短期で解決できる話じゃなさそうですし・・・。」
「あら、それは貴方次第じゃないかしら。」
「え?」
「ちょっと、何で貴方が選ばれたのか分かってないの?」
俺が選ばれた理由?
手堅くお金を稼ぐために推薦してくれたんじゃないのか?
「ダンジョン単独踏破者、初心者の五階層最短踏破記録保持者ってのもあるわね。商人としてもそうだけど専門家としても期待されているのよ。」
「でも今回はダンジョンじゃありませんよね?」
「そうね。」
「鉱山という事は地図も出来上がっていますよね?なら私が出る必要はないのでは?」
この世界においてダンジョンは別空間に存在する場所になっている。
黒い壁が存在し、そこを通過すればダンジョン内に入れる。
そこではない何処か。
それがダンジョンだ。
今回はそういう場所ではないし、罠があるわけでもないんだから別に俺である必要はないんじゃないかなぁ。
「普通の鉱山ならそうでしょうけど、今回は魔石鉱山だから。」
「だからなんです?」
「そこから溢れた魔力が魔物を変異させている可能性が高いの。普段は警備員が巡回しているから魔物は駆除されるんだけど、今回の場所は閉山していてそこに入り込んだ魔物がその後どうなったかの確認は取れていないわ。」
「でも鉱山にいた魔物が溢れていると先程・・・。」
「えぇ、見た目はね。」
見た目はいつもと変わらない。
でも中身は?
「つまり通常とは違う状況が考えられるからこそ、そういった状況に対応できる人間に行かせたい。それが上の考えですか。」
「これは冒険者ギルドからの要請でもあるの。出来ればシュリアン商店のイナバに来てほしいってね。」
「その打ち合わせって王都で行われたんですよね?」
「そうよ。」
「ジンさんか。」
「ギルド長直々の要請なんて商店連合としても鼻が高いわ。」
「本人は正直やりたくないんですけどね。」
村が大変な時に離れたくないってのが本音だ。
シャルちゃんの件も水泥棒の件もやっとどうするかが決まっただけで、全然進んでいない。
それをほったらかして別の所に行くって言うのは。
何より子供たちの顔が見れないのが一番つらい!
「別に四六時中張り付いて居ろってわけじゃないわ、聖日の他に一日ぐらいなら抜けても構わないわよ。」
「南の村でしたら無茶苦茶遠いわけじゃないですし可能は可能でしょうけど・・・。」
馬車を使えば五刻程で到着する距離だ。
森をぐるりと迂回するので時間がかかるが、まっすぐ抜けることが出来ればそんなに時間はかからないだろう。
抜けることが出来たらな。
「貴方の手腕次第で早期に解決することも可能よ。あくまでも調査依頼なんだからササっと終わらせて戻って来たらいいのよ。」
「商店連合としては長期にわたった方が実入りがいいのでは?」
「貴方が子供たちの顔を見たくないのならそうすれば?」
あくまでも調査依頼。
さっさと状況を確認して報告すればいい。
そうすれば俺はすぐに解放され子供と妻達に会うことが出来る。
単身赴任かぁ。
イヤだなぁ。
「商店を営業しつつダンジョンも攻略する。あなたにピッタリな素敵な仕事でしょ?」
「そうですね。」
俺にぴったりの仕事。
確かにそうではあるんだけど何とも言えない気持ちになるな。
食後、今回の件をエミリア達に報告した所、予想外に反対意見は出てこなかった。
商店連合と冒険者ギルドの要請。
それならば仕方ないと言った感じだ。
いつもは自分から首を突っ込んでいるのでお小言を言われていたのだが、今回はそうじゃないもんな。
お金も出るし、致し方ない。
早く帰ってくるんだぞとシルビアに肩をポンポンと叩かれたぐらいだ。
「ノアちゃんもいますからお店の方は任せてくださいね。」
「産後お祝いに来てくれた以来ですか?」
「最近では王都にも呼ばれる事があるので忙しいみたいです。」
「さすがエミリアの後輩ですね。」
「無理しなければいいんですけど、時々念話で愚痴を言っていたので心配で・・・。」
「それは心配ですね。お手伝いに来てもらうんです、その辺もしっかり聞いてあげてください。」
ちなみに、お忘れの人もいるかもしれないがノアちゃんはサンサトローズにいるエミリアの後輩だ。
幼女系の見た目だが中身はかなりの武闘派。
ちなみにエミリアを奪ったという事で出会った頃から敵視されている。
それは産後も変わらないようだ。
「南の村という事だが、初心者冒険者への依頼はどうするのだ?」
「それは予定通り行います。鉱山と森とは距離がありますし情報収集を兼ねていますので。」
「メルクリア殿の話では魔物が活性化している可能性もあるとか、村も用心するべきだろうな。」
「最悪の状況は考えておいていいと思います。」
「騎士団への要請も視野に入れるか・・・。」
そこまではまだ大丈夫と思っているのだが、それもティナさん達の持ち帰る情報次第だろう。
想像以上に魔物の数が多いのであれば救援要請を出す必要がある。
熟練冒険者が多数存在するとはいえ、全員が防衛に参加してくれるとは限らない。
身体が資本だからね、こんな所でケガをしたくないと思うのは仕方ないだろう。
「パーパー。」
「お、リュシアが呼んでるぞ。」
「どうしました?」
いつものようにサークルのバーにつかまり立ちして何か言いたそうに俺を見てくる。
ルシカは我関せずと言った感じだ。
別に俺が居なくてもいいって?
ま、エミリア達がいれば安心だよな。
「ン~アイ!」
「頑張れと言っているんじゃないですかね。」
「稼いで来いと言っているに違いありません。」
「そのどちらもだろう。稼がねば生きていけない、リュシアも立派な商人の娘だな。」
子供に応援されるのであれば致し方ない。
要請はまだ先だし、それまでに準備できるものは準備しておこう。
情報収集もだな。
店から出ずとも店に来る冒険者から話を聞けば遠方の情報も入ってくる。
ギルドに話が通っているという事は、冒険者にも情報が出回るという事だ。
恐らく南の村に向けて大規模な討伐隊が編成されるだろう。
顔なじみも多いはずだ。
彼らのサポートが出来ると考えれば、決して悪い仕事じゃないよな。
無事解決すれば店の認知度も上がり、冒険者の数は増える。
一石二鳥いや三鳥の仕事なのかもしれない。
頑張るとしよう。
「じゃあ先にお風呂貰いますね。」
「一緒に子供たちを入れてくれるか?」
「じゃあルシカからで。」
「よかったなルシカ、父上が淹れてくれるそうだぞ。」
「ア~イ!」
短い間とはいえ離れ離れになる。
子供たちの成長を目に焼き付けておかないとな。
そんなことを考えながらルシカを抱き風呂場へと向かった。
相変わらずトラブルに巻き込まれる主人公。
それは二年経っても変わらないようです。
でも、その二年で少しは耐性もついたようですね。
はてさて今回は何が起きるのやら。
不穏な気配のする出張(単身赴任?)が決まりました。
時々昔懐かしの名前が出てきます。
皆さん覚えおいででしょうか。
え、しらない?
なんて方はどうぞ最初からお楽しみください。
なに、ほんの320万文字です。
一か月もあれば追いつく・・・はず?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




