解決の糸口を探る
「セリスちゃんに嫌いって言われた?」
「あぁ、いつもと変わらないつもりなんだが、いったい何が悪かったんだ?」
確かに大問題だ。
だが、それはこいつにとってであって、他の人にとってはどうでもいい話。
そんな事で俺を呼んだのかよ。
「何か気に障るようなことをしたのか?」
「それが思いつかないから困ってんだよ。口をきいてもらえなくなって二日目だぞ?セレンとは普通に会話をしているのに俺が近づいた瞬間無口になるんだ。」
「それは中々重症だな。」
「くそ、いったいどうすりゃいいんだ!」
手に持っていた斧を力強く振り下ろすと、木くずがあたりに飛び散った。
こらこら、物にあたるんじゃないよ物に。
「とりあえず様子を見るしかないだろ。」
「それをして変化がないから困ってんだよ。」
「じゃあ何か好きなものをあげてみるとか。」
「好きな物?」
「甘い物や可愛い物、普段手にしないものを渡すのは効果が高い・・・と俺の経験がそういってる。」
「そんなものどこにあるんだよ。」
まぁそうなんだけどね。
昔はシャルちゃんの店しかなかったこの村にも何件か商店が開店した。
サンサトローズから誘致したものもあれば、村の人が自分もやってみたいと手を上げた店もある。
今では飲食店2雑貨1宿1薬屋1というラインナップで営業中だ。
だがウェリスの言うように、いつも同じ店で皆買い物をするので見慣れた品しか置いていないのがネックなんだよな。
店を増やそうにも現状では飽和状態だし、もう少し人口が増えないと難しいだろう。
「ふむ、この後用事は?」
「特にないが・・・。」
「じゃあサンサトローズに行くぞ。」
「行くぞって、今からか?」
「この時間なら最終の定期便に乗って帰って来れる。セレスちゃんと会話したいんだろ?」
ちょうどシャルちゃんの件を調べに行きたかったし好都合だ。
自分の用事だけだと行きにくいが、何か別件があると言い訳もできるしね。
「・・・わかった。」
「兄貴、こっちは任せてください!」
「おまえら何時から聞いてた!?」
「兄貴のおかげで楽出来ましたからね、戻ってくるまでに仕事終わらせときます。」
「お礼は酒でいいっすよ!」
「馬鹿野郎、酒よりも肉だろ。」
「えぇ、酒だって。」
「んだとコラァ!そんなんだから嫁さんに飲み過ぎだって怒られるんだろうが!」
「うるせぇ!お前だって彼女に食べすぎだって言われてんだろうが!」
相変わらず仲がいいなぁ。
部下の皆さんの中でもウェリス同様にカップルが成立しており、二組ほど結婚までたどり着いている。
皆奴隷という身分なのだが、刑期が開ければ問題なくなる。
通常奴隷上りは定職に就くのは難しいのだが、彼らはもう村になくてはならない存在だ。
このまま定住してもらい村の発展に尽力してくれる事だろう。
「喧嘩するんじゃねぇよ、お前等頼んだぞ。」
「「「まかせてください!」」」
そうと決まれば即行動だ。
急いで停車場へ向かうとちょうど定期便が出発するところだった。
慌てて飛び乗り二人で息を吐く。
「お前は何しに行くんだ?」
「シャルちゃんから相談を受けててな、その調査だ。」
「あぁ、あの迷惑な奴か。」
「知ってるのか?」
「流石に昨日は度が過ぎてな、ティオが呼びに来てくれたから怒鳴りつけてやったら帰って行ったよ。」
「結構強引な感じだなぁ。」
「まったく本人が嫌がってんだから諦めればいいものを。」
ウェリスもまたシャルちゃん達の父親だ。
というか村のみんなが父親であり母親であるんだけど、二人にとってウェリスとセレンさんは特別な存在だからなぁ。
お父さん二号としてはちょっと嫉妬してしまう。
「名前は把握してるから商業ギルドで詳しく聞いてくるよ。」
「あぁ、よろしく頼む。」
「その間にウェリスにはネムリの店に行ってもらえるか?」
「ネムリの所に?なんでまた。」
「事情を言えば最適な品を紹介してくれるからだよ。ただし、予算はこれだけだ。」
そう言ってウェリスに銀貨を一枚握らせる。
「子供の遣いかよ!」
「どうせ余計なもの買わされるに決まっているんだ、自己防衛だよ自己防衛。」
「あいつらへの土産はどうするんだ?」
「それは別の店で手配する。お酒と肉、だったっけ?」
「いいのか?」
「いつも頑張ってもらってるし、たまにはいいんじゃないか?」
「すまん、助かる。」
奴隷である以上働いても働いても給金が出ることはない。
代わりに衣食住は保証されているので心配なく暮らせるのだが、それではやはり楽しみが無い。
特に結婚している人は奥さんに養ってもらう形になるので、悔しい思いもしているだろう。
まぁ、相手もそれがわかって結婚しているんだし問題ないと言えば問題ないのだが・・・。
男にはあるんですよ、プライドってやつが。
女性にはわからない、もしくはくだらないなんて言われるんですけど、俺達にとっては大切な奴なんです。
なので結婚している方には別途別のお土産も用意しなければ。
あ、あれ?
お金足りる・・・かな?
馬車は定刻通りサンサトローズへと到着した。
最終の定期便まで二刻程ある、それまでに用事御終わらせるとしよう。
「じゃあ後は任せました。」
「おぅ。」
「終わったら騎士団前に集合で。」
「出来ればいきたくねぇなぁ。」
露骨に嫌な顔をするウェリスと別れて商業ギルドへと向かう。
過去に色々と合ったが今では良好な関係を気づきつつある。
持ちつ持たれつってやつだ。
まぁ、俺の方が若干強いってのはまだ続いているけどね。
ギルドに入ると中はいつものように大賑わいだった。
静かなのは魔術師ギルドだけだろうか。
いや、あそこは門番が中々にうるさいからなぁ。
「これはイナバ様、ようこそお越しくださいました。」
「これはルシルク様、お久しぶりです。」
「王都で会議以来ですかな、あの時は大変お世話になりました。」
「こちらこそご助力いただきありがとうございました。おかげで王都でのチャリティ企画も無事に成功しましたよ。」
「なに、古い馴染みに声をかけただけです。」
チャリティ企画は翌年も行われ、その噂はすぐに王都へと伝わる事となった。
特にレティシャ王女がこの企画に興味を示されたことで、試験的に行われることになったのだ。
王都でやるとなると規模も大きくなる。
そこで企画した張本人が呼ばれたというわけだな。
いやー、マジで大変だった。
今年は絶対に行かないぞ。
ホンクリー家に全部丸投げしてやる。
「それで、今日はどうされたのですか?」
まさか入ってすぐルシルク様に会うとは思わなかった。
普段からお忙しい方だけにギルドにいるのがむしろ意外だ。
丁度いい、せっかくだからギルド長に直接聞いてみよう。
「ダークスという商人について調べに来たのですが・・・ご存じありませんか?」
「はて・・・そのような商人この街におりましたかな。」
「村の商店にサンサトローズに出店しないかと声をかけて下さったそうなのです。ですが本人にその気はなく、お断りをしているのですが中々ご納得いただけないようで。」
「それはまた強引な話ですなぁ。ですが申し訳ありません、そのような商人についてはすぐに思い出せませんな。」
「そうですか。」
「一応受付で聞いて頂けますか?何分私もこの年ですからなぁ。」
確かに年かもしれないが、中身は全然更けていない。
俺は知ってるぞ、王都の商業ギルドに文句を言えるのはこの人だけだって。
まだまだ発言力も行動力も健在だ。
「お忙しい所有難うございました。」
「イナバ様もご無理なさいませんよう。」
「あはは、有難うございます。」
お陰様で健康だけが取り柄でしてね。
この二年ぐらいは風邪一つ引かないんです。
これも加護のおかげなんだろうか。
地味に助かってます。
その後受付で調べてもらったが、やはりダークスという商人は登録されていなかった。
うーむ、これは予想外だ。
サンサトローズに店を構えるためには基本商業ギルドへの加入が求められる。
もちろん前回の一件もあり強制加入ではないのだが、登録は必須みたいなものだ。
ここで引っかからないとなると、別ルートで調べる必要が出てくるな。
とりあえず商店連合にはエミリアに聞いてもらうとして・・・。
「残るはコッペンか。」
出来れば会いたくないが致し方あるまい。
そうと決まれば即行動だ。
ギルドを出てすぐに裏通りへ。
壺屋のおばちゃんとももう顔なじみだ。
最近じゃ顔パスで通れてしまう。
それでいいんだろうか。
うねうねと裏通りを進み、おなじみの店へと到着した。
「コッペン、いますか?」
「よぉ!イナバじゃねぇか珍しいな。」
「この間は素敵な贈り物有難うございました。妻も喜んでいましたよ。」
「あれは嫁さんがやったことだ、礼なら嫁に言いな。」
相変わらず薄暗く奥が見通せないが、内装のセンスはバリバリいい感じの店だ。
隠れ家Barと言えば聞こえはいいが、やっているのは非合法なことが多い。
もちろん俺は関係ないよ?
清廉潔白がモットーですから、我がシュリアン商店は。
「では今度お土産を持ってきますと、お伝えください。」
「俺にも土産はあるんだよな?」
「そうですねぇ。水不足が問題になってきていますが・・・、どんな感じです?」
「南の村ではだいぶ被害が大きいらしいな、収穫の半分は枯れたそうだ。」
「結構な被害ですね。」
「病に加えて川が一つ枯れてその程度ならまだ持ってる方だ。だが、それも時間の問題だな。」
「援助は?」
「飲料水は運搬してる。だが、それ以外の水となると手配が難しいだろう。」
なるほど、だから水泥棒が出てるのか。
これは思った以上に深刻なのかもしれない。
「他に詳しい情報は入ってきていないんですか?」
「時期が悪く水を求めて魔物が大移動しているらしい。集団暴走まではいかないが、そっちの被害も深刻みたいだな。」
「水不足に魔物。ディヒーアに襲われたことを思い出しますよ。」
「お前が南に行ってたら納得したんだが、何だ今回は違うのか。」
「人を原因みたいに言わないでくださいよ。」
「へへ、悪い悪い。」
まったく、最近じゃどこに行っても死神だの疫病神だの言われる始末。
俺だってトラブルを起こしたくてやってるんじゃないんです。
行くたびに何かが起きるんです。
俺は悪くねぇ!
「そんな人には水の供給についてはお話しなくてよさそうですね。」
「なに!?どういうことだ。」
「後村では水路を開放して必要とする人に供給する予定です。それ用の馬車があると助かる人も増えるんだろうなぁと思っただけですよ。」
「水用の馬車は準備が面倒なんだよな・・・。」
「そこは貴方の手腕次第でしょう。」
「ま、なんとかなるか。聞きたいことはそれだけか?」
どうやら水の件は情報料として十分らしい。
タダであげたものをコッペンがどう処理するのかは知らないが、それで助かる人がいるのであれば悪い話じゃない。
オッサンも言ってただろ、水一滴で人が人を殺すって。
「ダークスという商人について何か知りませんか?」
「しらねぇなぁ。」
「南の大通りに店舗を持っているそうで、近々そこに空きが出るそうです。」
「あの辺の店が閉まるって話は聞いたことがねぇ。」
「任せて構いませんか?」
「情報料は十分もらったからな、いいだろう。」
「よろしくお願いします。」
よし、とりあえずこっちはコッペンに任せよう。
でも表と裏そのどちらにも名前が知れ渡ってないってのは妙だなぁ。
どっちかで引っかかると思ったんだけど、益々怪しい相手みたいだ。
一応全員で情報共有しておいた方がよさそうだな。
コッペンに礼を言って外に出るといい感じに日が傾いていた。
体感的に乗り時間は一刻を切っている。
こりゃ急いだほうがよさそうだな。
超特急で買い物を済ませ待ち合わせ場所まで走る。
「お待たせしました!」
「おせぇぞ。」
「すみません、思ったより手間取りまして。」
「首尾は?」
「上々・・・とは言いづらいですね。」
「そんなときもあるさ、帰り道に詳しく聞かせてくれ。」
「わかりました。」
どうやらウェリスも無事にお目当ての品をゲットできたようだ。
あれは・・・人形か?
一先ず定期便に乗り込み一息つく。
「結構な量だな。」
「行く先々で色々と。」
「相変わらずだな。」
「有難い事です。」
チャリティ企画を含め昨年はサンサトローズの運営に首を突っ込んで回ったからな。
そのおかげか今まで以上に顔を覚えてもらった感がある。
肉を買いに行けば注文以上の量をもらい、お酒を買いに行けば樽で渡されそうになった。
流石に樽は無理なので、ちょっと珍しいお酒をおすそ分けしてもらったというわけだ。
ちなみに、結婚組には化粧水を用意してあります。
「そっちは人形か?」
「あぁ、女の子だったらこれだとよ。」
「ネムリの家には女の子もいたはずだし、間違いないだろう。」
「これのどこがいいんだか。」
「さぁ。」
男には男の、女には女のツボという奴があるんだろう。
光物を見せようものならそれはもう鳥のように・・・ってこれ以上は自分の首を絞めるだけだな。
ひとまず商人の件をウェリスに伝え様子を見てもらうことにした。
一週間もあれば何かしらの返答がある・・・はずだ。
夕暮れの森を馬車が進む。
村に到着後は部下の皆さんにお土産を配って回ってから、俺も家路についた。
え、ウェリスはどうなったのかって?
翌日大事そうに人形を抱えて歩くセリスちゃんの姿が目撃されたらしいぞ。
さて、いろいろな問題が出ております。
解決できるものもあればそうでないものもあるようで、
果たしてこの先どうなるのやら。
新章をはじめて三話目。
皆さんお楽しみいただけてますでしょうか。
あの場で終わらせるつもりでいたのですが、先の話を考えているとまた楽しくなってきました。
どうぞ引き続きお付き合いください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




