色々な問題
定期便の日は朝から大忙し。
これは昔から変わらない。
変わった事と言えば週二回だった定期便が三回に増えた事だろうか。
回数が増えれば純粋に売上が増える。
嬉しい話だが、その分スタッフの疲労も増えるわけでして・・・。
メルクリア女史の手があるとはいえ、ぶっちゃけオーバーワーク気味ではあるんだよね。
ニケさんがいれば何とかなるんだけど、ジルさんの件もあるし後二年はこの調子が続くと考えていいだろう。
無理に店に出て大事になったら大変だ。
ホワイト企業シュリアン商店は、妊婦に優しい会社を目指します。
って誰への宣伝だよ。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさいエミリア、もっとゆっくりしてきても良かったのに。」
「ご飯が終わったらすぐに寝ちゃったので。」
「そぅ、無理するんじゃないわよ?まだ一週間なんだから。」
「ありがとうございます、フィフティーヌ様。」
昼食を終えたエミリアが戻ってきた。
子供たちはお昼寝の時間のようだ。
食べたら寝る、成長の秘訣ですな。
「では、少しお店をお願いします。」
「お任せください。」
「早く帰ってくるのよ、この時間はいいけど夕方からまた忙しくなるんだから。」
「善処致します。」
俺だって早く帰れるなら帰りたい。
シャルちゃんの用事だけならまだしもあの二人の用事となると・・・。
ぶっちゃけ面倒ごとを頼まれる気しかしないんだよね。
俺を何でも屋かなんかと勘違いしているんだろうか。
ツンツン頭じゃないんだけどなぁ。
「イナバ様、村に行くのか?」
「そうです。」
「これをセレンさんに渡してくれ、アイツから頼まれたんだ。」
そう言いながらガンドさんが投げてよこしたのは見覚えのある小さな小瓶。
たしか聖水が入っている奴だ。
「頼まれました。」
「それと、先生にまた診てもらえるかも聞いてもらえると助かる。」
ガンドさんも心配なんだよな。
うちは皆元気に過ごしているけれど、二人目の時はどうなるかもわからないし・・・。
診てもらう事で安心できるのならばそれでいいじゃないか。
通いなれた街道を進み村へと向かう。
今年の夏は暑くなるそうだ。
心なしか雨も少ない。
幸いうちはディーちゃんの池から引いてきた水路があるので水に関しては問題ないが、他の地域では影響が出ているかもしれないな。
水なしでは人は生きられない。
あの時水路を引いておいて本当に良かったよ。
「あ、イナバ様!」
村へ向かう途中、正面から見覚えのあるシルエットが走って来た。
ものすごい速度で近づいてきて、あっという間に到着する。
「こんにちはティオ君。」
ティオ君は見るたびにどんどん成長している気がする。
この間まで見下ろす感じだったのに、最近は目線をあまり下げなくてもよくなった。
成長著しいな。
「姉ちゃんが来てくださいって言ってたよ。」
「うん、ティナさんから聞いて今から行く所、ティオ君は?」
「自警団の訓練が終わったからダンジョンに行こうとおもって。」
「訓練の後なのに?」
「訓練と実戦じゃ得られるものが違うってシルビア様も言ってたし。」
「そっか、無理しないようにね。」
背負っている剣も随分と立派になってきた。
装備が軽装なのは気になるけど、あまり深い所に行かないなら問題ないだろう。
幼いころからシルビア様直々の鍛錬を受けていただけあって、サンサトローズからくる初心者よりは何倍も強い。
ダンジョンも庭みたいなものだろう。
元気よく走り去るティオ君を見送り再び村へと向かう。
途中何人もの冒険者とすれ違い、その度に挨拶を交わしているうちに見慣れた門が見えてきた。
門の手前には人だかり。
今日も大繁盛だな。
「すみません~ん、今日の分は品切れです!」
「「「えぇぇーーー!!!」」」
と、どうやら在庫が切れてしまったらしく店の外までシャルちゃんがお詫びをしに出てきたところだった。
「次の販売は二日後です、すみません。」
「いいよいいよ、また来るから。」
「無理して作って倒れないでくれよ!」
「これ、差し入れ!後で食べてよ。」
「ズルいぞ!俺もこれ食べてくれよな!」
シャルちゃん印のポーションは通常の品よりも効果が高く、上級冒険者からも引く手数多の商品だ。
なので連日大行列ができ、作っても作ってもいつかない。
商売相手が冒険者だけに、普通であれば買えなかったことに文句を言う輩も出そうなものだが、文句どころかむしろ気遣いの言葉がかけられる。
これもシャルちゃんの人徳という奴だろう。。
なによりうさ耳娘、可愛いよね!
買えなかった冒険者達が差し入れを次々と積み上げていく。
ちなみに冒険者が文句を言わないのは優先購入券を配っているから。
これを渡せば並ばなくても優先的に購入できる仕組みに俺がした。
裏ではこの購入権が売買されているらしいが・・・。
まぁ、規制するほどではないので今は目を瞑っている。
余りにも高騰したり競争が激化したらまた対応を考えるつもりだ。
最後の冒険者がいなくなると、差し入れが崩れんばかりに積みあがっていた。
まるでアイドルだな。
「こんにちはシャルちゃん、それとお疲れ様。」
「あ、イナバ様!」
「何か聞きたいことがあるんだって?とりあえず片づけてから聞くよ。」
俺が来た途端に耳がピンとまっすぐになる。
耳は口程に物を言うってね。
え、目だって?
彼女は耳でいいんだよ。
差し入れ用のテーブルに積み上げられた品々を店内へと搬入して、最後に閉店の札を掲げる。
手紙にお菓子、お、今日はアクセサリーまで入っている。
大人気だなぁ。
「すみません助かりました。」
「ううん、気にしないで。」
「今お茶を淹れますね。」
「いいよいいよ気にしないで。」
荷物もそのままに裏へ行こうとするシャルちゃんを引き留める。
ゆっくり話を聞きたいのは山々なんだが、こっちも都合がありましてね。
申し訳ないけどここで聞かせてもらおう。
差し入れを仕分けする傍らシャルちゃんが伝票を整理している。
最初はポーションだけだったこの店も今や10種類を超える薬を取り扱っている。
冒険者だけでなく村にも必須の人材だ。
本人もまさかこれ程までに錬金術の才能があるとは思っていなかったらしい。
あの日、魔物に食べられそうになっていたうさ耳娘がこんなに立派になるなんて。
お父さん感激だよ。
「これで、ひとまずは終わりです。」
「こっちも終わったよ。」
「ありがとうございました。」
たまーに変な品物が混ざっていたりするけれど今回は問題なかった。
誰だよ、セクシー下着なんて送ったやつ。
本人顔を真っ赤にして大変だったんだからな。
「今日も大盛況だったねぇ。」
「最近はお昼前になくなっちゃうんです。」
「生産は追いついてる?」
「ナーフさんがまとまった数を仕入れて下さっているので何とか。最近は冒険者ギルドが買い取ってくださっているのを回して貰っています。」
「ギルドが?」
「代わりにいくつかポーションを下ろしてほしいとの事で、ナーフさんと同じ価格で卸してくださるんです。」
なるほど賢いやり方だ。
ポーションの材料になる薬草の買い取り価格は通常銅貨15枚。
ナーフさんはそれを銅貨13枚でシャルちゃんに卸している。
製作するのに薬草を五つ消費するので、原価で考えると通常銅貨75枚かかる。
販売価格は銀貨1.5枚。
ようは倍で売っているわけだ。
本来であればギルドが買い取り価格以下で品を流すことなどありえないのだが、シャルちゃんのポーションがかなり優秀なので報酬として組み込むために赤字で卸しているんだろう。
その赤字を取り戻すだけのリターンがあるわけだから、むしろプラス?
販売量が増えてナーフさんの分だけでは足りないって話は聞いていたから、有難い話だな。
「それはよかった。ってことは、今日はその件じゃないんだよね?」
「はい・・・。実はサンサトローズにお店を出さないかって誘いが来てるんです。」
「え!そうなの?」
「もちろん断ったんですよ?でもそれから何度も何度も誘われていて、正直ちょっと怖くて。」
確かにシャルちゃんならサンサトローズでも十分やっていけるだろうけど・・・。
しつこいってのがあれだな。
「先に聞いておくけど、セレンさんや私達に遠慮してじゃないよね?」
「もちろんです!」
「それを聞いて安心したよ。じゃあ、その誘いをどうにかしてほしいっていう相談だったんだね。」
「断り続けるのはいいんですけど、それで村に何か悪い事が起きたらいやだなって。」
「わかった。その人について詳しく教えてくれるかな。」
村の事を考えて相談してくれたんだな。
本当に優しい子に育ったなぁ。
お父さんは・・・以下略
シャルちゃんの話ではサンサトローズに店を持っていて、空き店舗になるから是非出店してほしいとの誘いなのだそうだ。
条件は家賃のみで売上におけるインセンティブとかは一切なし、場所は南の大通りに面していて期間も無期限という中々の好条件だった。
名前はダークスさんというらしい。
うーむ、聞いたことない名前だな。
「今までに何回来たのかな?」
「昨日で三回目です。いつもならすぐに帰ってくれるんですけど、昨日はなかなか帰ってくれなくて・・・。」
「それで怖くなったと。」
「私は村から出ません!って言ったんですよ、でも聞いてくれなくて。」
「確かに強引な感じだね。わかった、商業ギルドに話を聞いてみるよ。」
「お願いします!」
他でもないシャルちゃんの頼みだ、お父さんに任せておきなさい。
シャルちゃんの店を出て村に向かうと早速探していた人物がやって来た。
「よぉ、兄ちゃんじゃねぇか丁度良かった。」
「ティナさんを伝言板にするのは辞めてもらえませんかね。うちの大切なお客様なんですよ?」
「それを言うなら俺達の大切な仲間、だろ?もう一年も村に住んでるんだからよ。」
「まぁそうなんですけども。」
村の住人に伝言を頼むのは当然。
確かに間違ってないんだけどさぁ。
「今暇か?」
「暇ではないですが、何かあったんですか?」
「直近で何か起きているわけじゃないんだが、お前の知恵を借りたい。」
「・・・わかりました聞きましょう。」
「とりあえずこっちだ、ついてきてくれ。」
そのままオッサンに連れられて村の北側、水路の方へと足を向ける。
畑は今年も豊作で見渡す限り麦の海が広がっている。
随分と広くなったものだ。
これも毎年移住を受け入れて開拓を続けたおかげだな。
今や村の人口は100を超えたはずだ。
「正確には114人だな。」
「随分と増えましたねぇ。」
「お前が来た時とは比べ物にならねぇよ。」
昔は顔と名前がすぐに一致したが、この人数となるとそれも中々に難しい。
それでも大きな問題は起きず、強固なつながりは維持できている。
そこはニッカさんやオッサンの頑張りのおかげだと言えるだろう。
「畑に何か問題が?」
「いや、問題があるのはこっちの方だ。」
「こっち?」
オッサンが目を向けたのは畑・・・ではなくその横に流れる水路の方だった。
今日も清らかな水が流れ続けている。
「水路・・・ですか。」
「正確には水の方だな。」
「すみません、話が良く掴めないのですが。」
「ここ数日畑の裏側を通って水を盗んでいるやつがいるみたいだ。」
「水を盗む?」
「あぁ、不審な足跡が森の奥から畑を伝って水路まで伸びでいた。足跡周辺に水たまりが出来ていたからおそらくは間違いないだろう。」
ふむ、水泥棒ねぇ。
ぶっちゃけ盗られた所でうちに何のマイナスも無いのであれば放っておいても構わないんだけど、オッサンがわざわざ言いに来るぐらいだから他の問題があるんだろう。
「確かに今年は雨が少なく、水不足が心配されていますがサンサトローズ周辺でもそんな話出ていませんよね?」
「今の所はな。だが心配しているのはそこじゃねぇ。」
「となると畑の方ですか。」
「そうだ。水を持っていくのは構わねぇ、だが知らない奴が近くをウロウロすることで、何か悪い病気が入って来る可能性が有る。事実、南の村では腐れが出てるって話だ。」
「腐れって、病気ですか?」
「根っこを腐らせ麦を駄目にしちまう奴だ。腐りきる前に刈り取れば何の問題も無いが、気づくのが遅くなれば一気に広がって収拾がつかなくなる。」
おぉう、中々シビアな話じゃないか。
疫病ってやつか。
前に村でも流行ったよな、人間のやつが。
「つまりその病気が入らない様、畑付近に近づかないようにしたいわけですね。」
「その通りだ。何かいい考えはないか?」
「そうですねぇ・・・。」
大前提として本当に水泥棒がいるって所からになるのだが、もしいるのであれば話しは簡単だ。
コソコソと盗むのではなく堂々と持って行ってもらえばいい。
今問題になっているのはコソコソやる時に畑の傍を通る事だ。
つまりそれがなくなれば危険は減る。
だがそうでない場合が厄介だよな。
何かしらの理由でコソコソやっているのであれば、いくら水を融通しても解決できないだろう。
「まずは水路の開放から行きましょう。水を必要としている人がいるのならば、分け与えればいい。入れ物だけ預かって我々で水を入れれば病が畑に近づく可能性は減らせますよね?」
「確かに。」
「次に畑の監視です。それでも解決できないのであれば怪しい場所に見張りを置いて、本当に水を盗みに来ているのか、それとも別の理由があるのかを見極めなければなりません。前者であれば水を融通していると教えてあげれば片が付きますから。」
「畑付近だけでいいか?」
「念の為泉の方も巡回しておきましょう。」
「わかった、すぐに手配する。」
幸い人の手はたくさんある。
男衆が交代でやればそんなに負担にはならないだろう。
「ひとまず様子見でいいと思います。しかし、水泥棒ですか。嫌な世の中ですねぇ。」
「水一滴で人殺しが起きるからな、気を付けるに越したことはねぇよ。」
「そうですね。」
「すまん、助かった。俺の用事はこれで終わりだ。」
「そうだ、ウェリスどこにいます?」
オッサンの用事はこれで終わり。
でもこれで帰るわけにはいかないんです。
あー忙しい忙しい。
「ウェリスなら南の森で木を切ってるんじゃないか?手狭になって来たから広くするって言ってたからな。」
「わかりました行ってみます。」
「終わったらニッカさんの所に顔を出すように言っといてくれ。」
まったく今度は俺が伝言板がわりかよ。
自分で言いに行け自分で!
とか何とか思いながら南の森へと足を向ける。
すれ違う人達に声をかけ、何か問題が無いかを聞いてみたがこれといった問題は出ていないようだ。
平和で何より。
南の方までくると森の方からコーンコーンという音が聞こえてくる。
木こりは木~を切る~コンコンコーンっとな。
「あ、イナバさん!」
「兄貴ですか?」
「えぇ、どこにいます?」
「兄貴なら奥で一心不乱に木を切ってます。」
「え、本人自らですか?」
「なんか、色々大変みたいで・・・。」
ふむ、何かあったんだろうか。
森へ近づくと音がだんだんと大きくなってきた。
さらに音のする方に進むと・・・いた。
上半身裸のオッサンがすごい勢いで斧を振っている。
「ウェリス!」
「なんだ、お前か。」
「呼ばれて来たのになんだとはなんだよ。」
「すまん、悪かった。」
おぉ?
いつもならもっと突っかかってくるのに、今日は随分と大人しいな。
心なしか覇気がない気もする。
とりあえず聞いてみるか。
「何かあったのか?」
斧を下ろし大きく息を吐くウェリス。
「実はな・・・。」
次に聞こえてきた言葉は、予想の斜め上を行く内容だった。
そりゃ事件だわ。
色々と問題が来ているようです。
むしろ起きないことなんてないですよね?
生きているだけでなにかと大変なんですから。
果たしてウェリスの問題とは何なのか。
それはまた次回という事で。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




