ゴブリンと聞いて思い浮かぶのは
翌朝。
冬節のまだ種期とはいえ四週目となると随分と冷え込んできたのがわかる。
そっか、普通に考えれば12月の19日ぐらいになるのか。
まてよ、ということはもうすぐクリスマス?
ってかもうすぐ元旦?
マジか。
この世界には年度の切り替えという物がないので正月みたいな文化はないらしい。
けどなぁ、せっかくだったらお祝いしたいよなぁ。
暇を見つけてなにか考えてみよう。
さてっと、今日はメッシュさんに挨拶に行くんだった。
店は聖日でお休みだし、久々にのんびりするかな。
「で、今日はエミリアなんですね。」
「この前はユーリに後れを取りましたが今日は無事に勝ち取りました。」
勝ち取りましたって完全に勝負になっているじゃないか。
『俺を一人で行かせるとろくな結果にならない』
という事で誰かがついてくることになったワケだけど最近は趣旨が変わっているような気がする。
いや、気がするというか完全に変わってる。
まぁ別にいいだけどね。
「エミリアはゴブリンに会ったことありますか?」
「仕事関係でしたら何度か。見た目には驚かされますが気のいい人が多い気がします。」
「確かに見た目は驚きますよね。」
魔物種族。
ようは魔物が知識や知恵をつけて生活するようになったのだ。
どちらかと言えば亜人に分類されるがその生い立ちから迫害されることが多い。
だが話をすればそれが偏見であることはすぐに気づく事だろう。
人間や亜人に嫌われ無いように生きる健気な種族、そんな印象を受ける。
確かに名前だけ聞けば某スレイヤーさんが出て来るような悪い印象を持っちゃうよね。
「お土産こんなもので良かったでしょうか。」
「積極的に交流していないとのことでしたので喜んでいただけると思います。」
手に持つのは家の倉庫から引っ張り出してきた日用品等だ。
食べ物とも思ったのだが、サンサトローズに買いに行く時間もない。
それに好き嫌いもわからない相手に食べ物というのはなかなか難しい。
その点こういった雑貨は何かと利用できるので喜んでもらえる可能性が高いが、箪笥の肥やしになる可能性も高いわけで・・・。
まぁ、無いよりましか。
手土産を片手に二人で街道を進む。
え、森のどの辺りかわかるのかって?
その辺抜かり在りませんよ。
「ここですか?」
「えぇ昨日印をつけておいたので間違いありません。」
街道の南側に一か所だけ石を置いておいた。
もちろんその辺にあるような小石じゃない、人が座れるぐらいの大きな石だ。
これだったら全く知らない人にはただの石にしか見えないし、必要以上にメッシュさんを刺激する事も無い。
分かる人が見ればここから森にはいるんだなって目印になるし。
何事もさりげないのが一番ですよ。
「こんなに近くに住んでおられたなんて全く気づきませんでした。」
「私も気づきませんでしたよ。お話では秋ごろに来られたという事ですが、その頃は何かと忙しくしていましたからね。」
この秋は人生で一番大変だった。
そりゃもう社畜時代と比べてもダントツだ。
なんせ狙撃されて二週間意識を失うし、その後もチャリティの為にかかりっきりで準備をした。
多少ゆっくりできたのは客足の減った花期ぐらいなものか。
それでも保護施設の準備などでバタバタしていたし、ゆっくりできた印象はないな。
冬は冬でダンジョンの魔力が無くなったり別のダンジョンに潜ったりでてんやわんやだったし・・・。
我ながらイベント盛りだくさんだな。
目印の石を越えて道なき森へと足を踏み入れる。
道なきと入ったが、よく見ると落ち葉が踏み固められている。
俺達の足跡だけじゃなくメッシュさんも日常的にこの道を利用しているんだろう。
森を行くこと数分。
お目当ての大樹跡へと到着した。
「大きい!」
「えぇ、見事な物でしょ。」
「こんな大きな樹があったなんて、今は朽ちていますが成木だったころはどこからも見つける事が出来たでしょうね。」
「この大きさとなると世界樹のようなものなのかなとも思ったのですが、わかりますか?」
「ごめんなさい詳しくなくて。でも世界樹自体は一本しか存在しないわけではなく各地に点在していますのでその一本と考えてもおかしくないと思います。問題はどうして枯れてしまったか・・・。」
「世界樹だとしたら枯れないんですか?」
「ごめんなさいそこまでは知らなくて。」
まぁそりゃそうだよな。
流石のエミリアにも知らないことがあったわけか。
今度ドリちゃんに聞いてみるとしよう。
この森の精霊様なんだ、知っているに違いない。
そのままぐるりと反対側に間りこむと屋根の付いた入り口にたどり着く。
さて入りますか。
俺、エミリアの順で中に入っていくわけだが・・・。
そこ、上を向いて下着を覗こうとしてるとか思ったでしょ。
残念ながら下心は全くなしだ。
ゆっくりとした下り坂とはいえエミリアを先頭にするわけにはいかない。
滑って落ちて怪我をしたら困るし、一度は行ったことのある人間が先頭を言うのが当然だからだ。
それに今日は珍しくズボンスタイルでもある。
なので上を見ても心配もない。
「滑りますから気を付けてくださいね。」
「は、はい・・・。」
恐る恐ると言った感じで穴を降りていく。
下につくと音で気がついたのかメッシュさんが出迎えてくれた。
「ようこそおいで下さいました。」
「朝早くからお邪魔します。これつまらない物ですけど良かったら使ってください。」
「あ、石鹸だ!それに手ぬぐいに蝋燭まで。この辺はついつい足りなくなっちゃって、助かります。」
さすがエミリアだ、ナイスチョイス。
「沢山頂いたのでおすそ分けみたいになってしまうんですけど・・・。」
「お気遣いいただきありがとうございます。狭いですが奥へどうぞ。」
メッシュさんを先頭に通路を進む。
一度見ているとはいえ本当にどうやってこの空間を作ったんだろうか。
作るにせよ秋からの一節で作り上げるのは不可能に近い。
エミリアも同じなのか物珍しそうに辺りを見回していた。
そのまま前回子供が寝かされいた奥の部屋へと到着した。
道中分かれ道は無し、部屋はこことその奥に見えるドアの向こう側ぐらいか。
「狭い所で申し訳ありません。」
「とんでもない、本当に不思議な空間ですね。まさか森の地下にこんな空間があるとは思ってもいませんでした。」
「もともとここはどなたかが作った場所を私が勝手に使用しているだけなんです。森を探索中に偶々見つけまして、今までは離れた洞窟を家代わりにしていたんですけど何かと不用心な事も多くて。その点ここなら人や魔物が来る心配はほとんどありませんから。」
「それじゃあ、あの入り口も昔から?」
「いえ、あれは私が作りました。雨の日になると浸水がひどくて・・・。」
確かに雨が降ればそのままこの奥の部屋まで坂を下って雨水が流れ込んでくるだろう。
しっかし、誰が作ったのかまではわからないのか。
残念だなぁ。
「エミリアは何か感じますか?」
「うっすらと魔力を感じますが大分古いので消えかかっていますね。感じからすると100年いえ200年ぐらい前からあるんじゃないでしょうか。」
「そんなに古くから!何か由緒ある場所なのでしたら出て行きますけど・・・。」
「村の人に聞いてみましたがそう言う話はありませんでした。今まで無人だったんですしいいんじゃないですかね。」
由緒ある場所だったらもっと大事にされているはずだ。
でも、野ざらしにされていたという事はそうではないという事だ。
所有権のない場所なら最初に見つけた人の物。
魔物が巣食うよりもよっぽどマシだよ。
「今お茶を入れますね。」
「あ、お気遣いなく。」
「この間の御礼もありますから。もしイナバ様がいなければ私はここを追い出されていた。いえ、もしかしたら殺されていたかもしれません。」
「殺されていただなんてそんな!」
突然の言葉にエミリアがすぐ反論する。
「確かにその可能性はありましたね、みんな子供がいなくなってピリピリしていましたから。」
だがその言葉を遮るように俺もメッシュさんの意見に同意した。
「私のせいではないとはいえ子供が怪我をしていて、しかもこんな奥に連れ込まれている。この間ご一緒に来られた方の反応が正しいと思います。」
「冷静に考え子供の意見を聞けば誤解はすぐ解けるでしょうけど、あの状況ではそれも難しかった。それでもメッシュさんが子供を助けてくださったことに変わりはありません、本当にありがとうございました。」
「ゴブリンである私を偏見の目で見ないばかりか御礼まで。世の中にはイナバ様のような方もいるんですね。」
「私の場合は環境が特殊なんです、ほら言ったじゃないですか奴隷に亜人に・・・あ、妖精も増えましたよ。」
「そんな方だからこそ皆さん寄ってくるのでしょう、こんな綺麗な奥様までおられるわけですから。」
綺麗と言われ顔を真っ赤にするエミリア。
あれ、奥さん居るって言ってあったっけ?
「紹介が遅れました、彼女はエミリア、私の妻でありダンジョン商店を営む仲間です。」
「はじめましてエミリアと申します。」
「メッシュです、見ての通りゴブリンでこの辺りで薬草などを採取して生計を立てています。」
「メッシュさんはナーフさんに薬草を卸しておられるそうなんですよ。」
「ナーフさんとお知り合いだったんですね、なるほどそれで納得しました。」
どうやらいつも大量の薬草類を納品してくれるナーフさんにエミリアも疑問を抱いていたようだ。
いくらNEWナーフさんとはいえ半年前までは剣も握った事の無いようなガチガチの初心者だったんだ。
それがこの半年で別人みたいになっていた。
いくら薬草集めが元々得意とはいえ、今納品してもらっている薬草類を一人で集めるのは大変だからね。
「ご要望がありましたら直接納品もさせていただきますが・・・。」
「いえ、それだとナーフさんの取引先を奪ってしまう事になります。これからも今まで通りでお願いします。」
「てっきりそれをお願いに来たとばかり、いや失礼いたしました。」
「商売を優先すればそれが一番なんでしょうけど、私一人が儲けても意味がありません。村の人も含めてこの地域全体が潤えばそれでいいんです。」
「ナーフさんの言う通り、イナバ様は本当に周りの人を大切にしておられるんですね。」
「上司には『ぬるい』と言われそうですけどね。」
それを聞いたエミリアが後ろを向いて笑っている。
でも、口ではそう言うけれどあの人なら仕方ないで済ませてくれると思う。
そんな気がする。
「っと、そういえばこのあいだはキュプコの実も持っておられましたね。あれはかなり珍しい物だったと思いますがあれもこの森に?」
「数は少なく見つけるのも大変ですがたまに落ちています。」
「今は必要ありませんがいずれ必要になる日が来るかもしれません。そういった時にだけ直接卸していただくことは可能でしょうか。もちろん、それなりの対価はお支払いいたします。」
「キュプコの実といえば上級ポーションの作成に必須の素材でしたね。そんな珍しいものまでこの森にあるだなんて知りませんでした。」
さすがエミリア、略してさすエミ。
「イナバ様はポーションも作られるのですか?」
「私ではなく村にいる錬金術師様に作っていただいています。昨日助けていただいた子供の怪我をしてない方のお姉さんがそうなんですよ。」
「まさか錬金術師様が!でしたら調合用の素材もご入用ですかね。」
「ナーフさんが卸しておられましたので今後の需要はあると思います。」
「ですがよろしいのですか?村で販売されればお店の方で売れなくなってしまうのでは・・・。」
「冒険者が安く安心を買えるのであれば私は構いません。それに、早急に必要な方であれば私どもの方でご購入いただけますから。」
それこそうちの行商人が困っている人の所にひとっとびだ。
保険は安いに限る。
なんてどこかのコマーシャルで聞いた事あるよな。
薬草とか毒消しも一種の保険なんだ。
使う事は少ないけれどあると助かる。
それが安く手に入るのならありがたい事だよな。
「私の知っている商売人の皆様とは真逆まではいきませんが、かなり変わった考えをしておられますね。」
「あはは、よく言われます。」
「でも、それがシュウイチさんの良い所なんです。」
「そう思います。」
「ありがとうございます。そうだ、すっかり忘れていました!」
雑談にばかり花を咲かせてしまい本命を忘れるところだった。
今日ここに来たのは挨拶だけでも雑談しに来たわけでもない。
それが伝わったのかメッシュさんが真剣な目で俺を見つめ返してきた。
ゴブリンに睨まれるとこんな感じなんだろうか。
いや、睨んでないのはわかるんだけどさ。
「今日ここに来ましたのは村長の言葉をお伝えに来たからです。」
懐から一通の手紙を取り出しゆっくりと読み始める。
『本来ならば直接御礼の御挨拶に伺うべきなのですがあまり村と関わりたくないことをイナバ様にお聞きし、伝言という形で御礼をお伝えさせていただきます。この度は本当にありがとうございました。私達はメッシュさんのような隣人を快く歓迎いたします。何か困ったことがありましたらどうぞご遠慮なくお立ち寄りください、その際には改めてお礼の気持ちをお伝えさせていただければと思っております。』
これが村としての意見だ。
隣人がゴブリンであれなんであれ、子供を助けてくれたことに変わりはなくその恩に報いる用意がある。
我々は敵ではなく良き隣人でありたい。
そう言っているのだ。
「以上が村長ニッカ様より預かりました手紙の内容です。」
「確かにお聞きしました。」
「村を始め我が商店も良き隣人であるメッシュさんを快く歓迎いたします。日用品の手配から食料まで必要な物がれば喜んでお準備いたしますので何でもおっしゃってください。」
「イナバ様と言い、村長様と言い、どうして私のようなゴブリンに優しくしてくださるのですか?」
「言ったじゃないですか、その人が良い人であれば何者かなんてどうでもいいんです。」
「それが魔物でも?」
「メッシュさんは魔物じゃありませんよ、こうやって話が出来てお互いに理解し合える。本当の魔物はそれができませんし、魔物でなく悪意のある人間であればそれも敵です。別に敵にまで優しくすつもりはありませんから。」
我々に敵意を向けて来るのならば全力で対処しよう。
博愛主義などありえない。
俺は俺の家族とそれに近しい人を守りたい、それだけだ。
「・・・今まで生きて来てこんなにうれしい言葉を聞いた事はありません。」
「でしたら今後はそれが当たり前になる様に私達も頑張ります。」
「すぐには難しいとおもいます、でも頑張ってみますのでその時はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願い致します。」
差し出した手をお互いに堅く握りあう。
少しごつごつして固い指だが伝わってくる温かさは本物だ。
こうして新しい隣人と仲良くなれたわけだけど・・・。
「そうだ一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「私でわかる事でしたら。」
「最近この森周辺で不可解な現象が続発しているんです。内容は子供の悪戯程度の物なのですが、過激になるまでに何か手を打ちたいと思っていまして。お恥ずかしい話ですが同じように森で怪しい影が目撃されていましてね、その影が犯人だろうとばかり思っていたもので・・・。」
「その影が私だったんですね。」
「ですが村に来たことの無い方がそのような事出来るずないんです。何かご存知ありませんか?」
何か知っているのならばと一縷の望みをかけての質問。
はてさてどんな返事が返ってくるのやら。
原作は拝見したことないのですが盛り上がってますよね。
今度時間がある時に読んで(見て?)みようかと思っています。
賛否あるようですが要は楽しければいいんです。
万人受けする作品は難しい。
でも、この作品を読んで楽しんでくださっているみなさんがいる。
そんな皆さんがまた楽しんでいただけるよう日々頑張って参りますのでどうぞよろしくお願い致します。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




