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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十二章

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くすぶる火種を抱えて

 それからしばらく話を聞いていたが、ちょうど間が開いたので少し休憩することにした。


 メッシュさんの淹れてくれたお茶は独特の味がする。


 この世界でいつも飲んでいるのは香茶と呼ばれるまぁ、紅茶みたいなやつだ。


 だがメッシュさんのやつは中国茶に近い様な気がする。


 もしくは薬草茶。


 苦いとか渋いとかじゃないんだけど、茶葉以外の味をたくさん感じる。


 オリジナルブレンドという奴だろうか。


「お口に合いますでしょうか。」


「珍しいお味ですね。」


「我々ゴブリンの間では一般的なんですけど、なかなか茶葉が手に入らないのでそれに近い野草を煎じているんです。」


「なるほど、通りでいろんな味がすると思いました。」


 エミリアも同じ感想だったようだ。


 決してまずいわけじゃない。


 それは強調しておく。


「他のゴブリンの方々はどのあたりに住んでおられるんですか?」


「どのあたりというのは難しいのですが、各部族が街から遠くはなれた場所に集落を作って暮らしています。環境的にはどうしても住みにくくなってしまいますね。」


「それはやはり迫害されているからでしょうか。」


「別に迫害されているわけではありません。ですがこの見た目ですからね、良い印象は持ってもらえませんから。どの集落もイナバ様の様に信頼のおける方とだけ商売をして後は自給自足で生活しています。」


 なるほどなぁ。


 完全に孤立しているわけじゃないけれど、あまりいい印象があるわけでもないのか。


「でも、最近ではゴブリン族の装飾品が独特で美しいと評判なんですよ。」


「そうなんですか。」


「各部族がそれぞれの特色を生かして作っていたのですが、それが王都の職人さんの目に触れたようで少しずつ交流が生まれていると聞きます。」


「そうやって少しずつお互いが歩み寄れるといいですよね。」


「本当に。」


「現物はまだ見たことないんですけれど細かな木彫り細工が素敵なんだそうです。ネムリさんに言えば仕入れてもらえるでしょうか。」


 ちょっとエミリアさん何言ってるんですか?


 さすがのジャパネットネムリでも難しいんじゃないですかねぇ。


「ネムリさんをご存じなんですか?」


「えぇ、この世界に来て最初に知り合った商人です。」


「ナーフさん同様に快くお商売してくださる方です。最近はお仕事も順調でお忙しいそうですが・・・まさかこんな所でも繋がっているとは思いもしませんでした。」


「世間は狭いですね。」


「本当に。」


 サンサトローズに商売人は数多くいれどもネムリ程急成長した商人は他にいないだろう。


 この春までは小さなお店で商売をする程度だったのに、気づけば騎士団や領主様果ては王都にいたるまで数々のパイプを作り出し、今やサンサトローズ一とも言われるお店へと成長した。


 近々別の場所に二号店を出すつもりだとか。


 商売繁盛してますなぁ。


「これもイナバ様が授かった精霊様のご利益という奴でしょうか。」


「さぁ、それはどうでしょう。」


「私自身はもうご利益にあやかっていますから、ありがとうございます。」


 別に俺は何もしてなんだけどなぁ。


 俺のおかげでみんなが幸せになってくれるならそれはそれで嬉しいけど・・・。


 それよりも自分の店を何とかしないとな。


 それと、もう日一つ。


「さて、話を戻しましょうか。」


「すみませんこんなに誰かと話すのは久々で、つい話し過ぎました。」


 村の拡張もまたノルマの一つだ。


 今のところ順調に村づくりは進んでいるが、ここにきて陰の影響で作業に遅れが出てきている。


 正確に言えば資材の高騰から搬入に遅れが出ているだけなんだけど、作業に従事している皆が見えない何かにおびえていることは間違いない。


 それをなんとかしないとノルマが達成できないからね。


「森で何か変わったことがなかったか、ですよね。」


「えぇ。村の中でしたら把握できるのですがその他の場所で何かいつもと違う事が起きていないかと思いまして。うちの人間が毎日森の北側は巡回してくれているのですが、南側に関してはまだまだ情報が足りないんです。」


「思い出しては見ましたが、やっぱりこれと言ったことは何もありませんね。しいて言うならば魔物の数が減ったことぐらいでしょうか。」


「魔物の数が減った?」


「これまでは頻繁に遭遇していた魔物がこの冬になってから急激に少なくなりました。一度大雪が降りましたよね、あの後ぐらいからです。」


 大雪の後と言えば、ルシウス君の暴走事件の後という事になる。


 丁度冬節が始まった日だ。


「それは冒険者からも聞いた事があります。全くいなくなったわけじゃありませんけど、随分減ったと言っていました。」


「寒くなって暖かい所に移動したとか?」


「そう言った魔物がいる事は報告されていますが、コボレートやモフラビットは寒さにも強い魔物ですからそれはないと思いますよ。」


 そうだよな、モフモフと犬だもんな。


 犬は喜び庭を駆けまわり・・・ってうちの犬はストーブの前から動かなかったけど。


「私としては危険が少なくなって助かっていますけど。」


「その他に、例えば物が移動しているとかしまったものが散らかっているとかはありませんか?」


「そう言ったことはありません。」


「そうですか・・・。」


 全くわからんなぁ。


 森の南側では特に問題は無し、むしろ魔物が減っていると。


「ユーリが言っていた罠を外されていた件も未解決ですね。」


「罠が外されていたんですか?」


「えぇ、簡単な罠ではあるんですけど作動した罠が外されて魔物がいなくなっていました。


「わざわざ魔物を逃がす様な事、いったい誰が。」


「それがわからないんですよねぇ。普通の人ならそんなことしませんし、冒険者であっても同様です。捕まえられるのは自分で倒せるような弱い魔物ですからわざわざ罠にかかっている魔物を仕留める事はしないでしょう。」


 それに森の罠はユーリが仕掛けているとみんな知っている。


 それを知って悪戯するような暇人はいないと思うんだけどなぁ。


「となると魔物を恐れずむしろ助けたい誰かがやったという事でしょうか。」


「そんな人いると思いますか?」


「いませんよね。」


 ですよねー。


 わざわざ逃がして自分が襲われちゃたまったもんじゃない。


 それともあれか?


『昨日助けていただいたモフラビットです。』


 とか言って恩返しされるのを期待しているのか?


 うん、無いわ。


「この件は継続して捜査するしかなさそうですね。何かお気づきのことがありましたらいつでも教えてください。お店に来るのが大変であれば裏の家に手紙を入れて下さるだけでも大丈夫です。」


「わかりました。いつもよりも注意して歩いてみようと思います。」


「シュウイチさんそろそろ・・・。」


「あ、もうそんな時間ですか。」


「これからまたどこかに?」


「村へ挨拶完了の連絡と情報収集をしに行こうかと。」


「どうぞ村長様含めよろしく伝えてください。」


「お任せください。」


 昨日の今日で顔を出せとはさすがに言えない。


 この辺は長い時間をかけてゆっくりとやっていけばいいさ。


 敵じゃないんだし害もない。


 近くて遠い隣人みたいな感じか?


 でもなぁ、最近は元祖の方が関係悪化してるからなぁ。


 ってこの世界じゃ気にしなくてもいいか。


 元の世界でも気にしてなかったけど。


 その後メッシュさんの家を後にした俺達はそのままニッカさんの所へと向かった。


 さぁノックをと思ったら勢いよく扉が開き、中から出てきた人物とぶつかってしまう。


「っと、悪い見てなかった。」


 まったく気を付けてドアを開けましょうね!


 そこにいたのがセレンさんだったら大問題だぞ、このオッサン。


「大丈夫です、急いでどうしたんですか?」


「喧嘩だ。」


「喧嘩?」


「最初は些細な感じだったんだがここ最近妙な事ばかり起きてピリピリしてただろ?そこに昨日の一件だ。そろそろ村に来て一期、まぁ持った方じゃないか?」


 あぁなるほどね。


 新しい住人と古参の住人とでいざこざが起きたのか。


 急に住民が増えたんだし起こらない方が不自然だよな。


「どうしましょうか。」


「とりあえず様子を見に行きましょう。」


 仲裁はオッサンが行ってくれるはずだ。


 え、お前がやらないのかって?


 俺はただの隣人、この村の住民じゃないからね。


 ドリスのおっさんに着いて行くと南の広場からなにやら荒々しい声が聞こえて来る。


 やりあっているのは古参の若いのと、子供をつれた母親?


 ってあの子は確か最初に逃げだした兄弟の母親じゃないか。


「いったいどこに証拠があるっていうんですか?」


「証拠も何もそこのガキがやったに決まってるだろ。」


「僕何もやってないもん!」


「僕もだよ!」


「嘘を言うな!ちょっとした落書きならまだしもあんなにでかでかと書きやがって。書いてる場所からしてどう考えても大人じゃ無理だ、怪我したやつは家から出てないしティオもやってないとしたらそこの二人しかいないだろ。」


 確かに子供がやったとしたらそうなる。


 この村に住む子供は総勢5人。


 うち一人は乳幼児なので除外したらまぁ計算は合うな。


 でもそれは単なる引き算。


 証拠としてはちょっと弱いよね。


「おいおい子供を捕まえて何事だ?」


「ドリスさんアンタからも言ってくれよ、せめて自分のガキの面倒ぐらい見ろって。」


「状況もわからねぇのに叱れるかよ。詳しく説明してくれ、まずはそこからだ。」


「家の裏に置いといた材木にでかでかと落書きしやがったんだ。せっかく机を新しくしようと張り切って切り出してきたのにあれじゃ使い物にならねぇよ。」


「あぁ、あの三人がかりで切り出したやつか。」


「小さい落書き程度じゃ怒らないが下半分にびっしりとよくわからない模様を書き込みやがった。大人じゃあの低さに書くのは無理だし、そう考えるとこいつらしかいないだろ。」


 裏に置いといた木材に落書きか。


 確かに大人が落書きするのなら上からのほうが楽だよな。


 わざわざ子供の悪戯に偽装する必要も無い。


 となると、犯人は子供しかないか。


 なるほどなるほど。


 至極普通の推理だ。


 それで、どう対処するのかな名探偵ドリスさんは。


「んで、お前達はさっきまでどこにいたんだ?」


「ティオの所でお菓子食べてた!」


「シャル姉ちゃんが美味しいクッキー焼いてくれたから、昨日逃げちゃったこと謝りに言ってたんだ。」


 シャルちゃんと一緒って事は犯行時間が分かれば十分なアリバイになる。


 子供とはいえシャルちゃんは一人前という扱いをされているしね。


「落書きに気付いたのは何時だ?」


「ついさっきだけど。」


「最後に無事を確認したのは?」


「昨日の夜だ。」


「おいおい、それだけ時間が空いてちゃ子供だって断定できないぞ。」


「それじゃあ誰がこんなことするんだよ!こいつを切り出すのにどれだけ大変だったか他の奴なら誰でも分かるはずだ。分からないとしたら新しく入ってきた奴等ぐらいだろ!」


 昔の仲間なら俺の気持ちが分かるはずだ。


 そんな風に聞こえるのは気のせいだろうか。


 言い換えれば新しい仲間に俺の気持ちはわからない。


 分からないからこんな事をするんだ、なんて暴論が成り立ってしまうんだろうな。


「なんだよ、それだけで俺達を犯人扱いするのか!?」


「先に住んでた奴の方が偉いのかよ!」


 野次馬をしていた住民からも非難の声が上がる。


 立ち位置を見るだけで今この村がどういう状況か分かるな。


 古い住人と新しい住人が混ざる事無く固まっている。


 もちろんもう仲良くなっている人もいるけれど、まだまだ馴染めず自分の立ち位置に戸惑いを隠せない人も見受けられる。


 完全に受け入れられるにはまだまだ時間が足りないようだ。


 そりゃそうだよな、まだ一期経ってないんだから。


「まぁまぁ皆落ち着け、今の状況じゃ誰が犯人かなんて決めるのは無理だ。それにここ最近妙な事ばかり起きてるのは皆知ってるだろ?そしてそれを解決する為に後ろにいるアイツがあれこれ調べてまわってるのも知ってるはずだ。もう少し時間をくれ、頼む。」


「それは分かってるけどよぉ・・・。」


「ドリスさんに頭下げられちゃ何にも言えないよな。」


「イナバ様も調べてくれてるんだ、今は待つしかないよな。」


「あぁ・・・。」


 俺をネタにオッサンが上手いこと話しをまとめたようだ。


 なんだかんだ言いながらも村の事を村長の次に考えているのはこのオッサン。


 それを新旧どちらの住民も良くわかっている。


 被害にあった若いのと子供達は何ともいえない顔をしているが、ひとまず野次馬のほうは落ち着いたみたいだな。


「もう一度聞く、お前らやってないんだな?」


「やってないよ!」


「本当だな?」


「悪い事したらお母さんに怒られるもん!」


「晩御飯食べれなくなっちゃうもん!」


「あっはっは、そりゃ困ったなぁ。」


 母親の後ろから顔だけ出した二人におっさんが優しく問いかけると、初めて子供達の顔に余裕が出た。


 何てこと言うの!と母親が子供の頭を叩くも、へへへと笑っている。


 それを見て落書きをされた若いのも毒気を抜かれてしまったようだ。


「お前も落ち着いたか?」


「すみませんついカッとなっちゃって・・・。」


「こんな状況だからな冷静になれないのも無理はねぇ。けどな、お前みたいな若い奴こそ冷静に周りを見て他の奴等を引っ張っていかなきゃ行けねぇんだ。だが間違っても後ろにいるアイツを見習うんじゃねぇぞ、身体壊すだけだ。」


「ちょっと、聞き捨てなら無いんですがどういうことですか?」


「聞いての通りだよ。休みを潰して村に聞き取りに来るなんて馬鹿のやることだ。」


 俺はみんなのためを思ってだなぁ・・・。


 でもそうか、そう思ってるのは俺だけで別にみんなにやってくれと頼まれたわけじゃない。


 自分のノルマの為にと俺が勝手にやっているだけだもんな。


「じゃあ後は全部お任せしても?」


「お前が解決しないで誰が解決するんだよ、しっかり頼むぜ。」


 まったくちゃっかりしてるよ。


「と、言う事ですので引き続き頑張りましょう。宜しくお願いしますエミリア。」


「お任せ下さい。」


 この村にはまだまだ多くの火種が残っていて、それぞれの心の中で燻っている。


 また油を注がれれば今回のように一気に燃え上がることだろう。


 これに関しては一つずつ火種を消していくしか方法は無いんだよな。


 不安定な状況だからこそ、芯のある人間がどっしりと構えてみんなを引っ張っていかないといけない。


 そういう意味ではオッサンは適任と言えるだろう。


 俺はその裏でこそこそやれるとしますかね。


 さて、まずは聞き込みから。


 調査開始です。

中々思うように捜査が進まない中次々と起こる事件の数々。

その中を過労気味の店長はどう捜査していくのか!

次回、過労探偵イナバシュウイチ『調査開始!』お楽しみに!

なんて冗談です。


良い話は聞けず、そしてまた事件が起きる。

人は不安が積もるとどんどんと余裕がなくなっていくものです。

それはどんな些細なことでも同じ事。

心の余裕、大切ですね。

商店も大切ですが村づくりはもっと大切。

そんな彼の頑張りにお付き合い下さい。


それでは次回お会いしましょう。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

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