第二話 婚約解消
エルシア視点です。
ジェラルディ殿下の婚約者である私は王宮で行われる行事に出席するのは義務だ。
しかし毎回その席にロゼーも呼ばれている。
今日も外国からのお客様をもてなす夜会が開かれていた。
王宮から贈られたドレスを身に纏って私はジェラルディ殿下の横に立っていたが、当然のようにロゼーも反対側に立っている。
親密すぎるほど近いその距離はまるでロゼーの方が婚約者の様に見える。
「よければ私とダンスを踊っていただけますか?」
婚約者の声に振り返ると、ジェラルディ殿下はロゼーに手を差し出していた。
「なっ! ファーストダンスも踊っておりませんのに、婚約者以外をダンスに誘うなど!」
声を上げた私にジェラルディ殿下はこれ見よがしにため息を吐き、ロゼーは目に涙を浮かべる。
「君は完璧だけど融通が効かないし冷たいな。少しはロゼーを見習ったらどうだ」
信じられない思いでジェラルディ殿下を見る。
「エルシアお、姉様はいつも正しいけれど……息が詰まるの。そんなだからジェラルディ様も癒されないし、一緒に居たって退屈なだけだわ。そうでしょう?」
ジェラルディ殿下は肯定する様に、ロゼーに笑顔を向けホールの中心へと行った。
「少しは譲る余裕を持ったらどうだ。侯爵家の令嬢として見苦しいぞ」
「申し訳ありません」
父の言葉に私は頭を下げた。
踊り終えた二人が戻ってくる。
よほどダンスが楽しかったのか、二人は寄り添いながら楽しそうに話している。
「君とのダンスは楽しいな。今日のドレスもとても美しい。天使、いや女神の様だ」
「ありがとうございます。このドレスはお母様が手配して作ってくださったのです。ほら、この裾の広がりが、きゃ」
くるりと回って見せて、バランスを崩したロゼーをジェラルディ殿下が包む様に引き寄せる。
「申し訳ありません。こんなそそっかしくちゃジェラルディ様に恥ずかしい思いをさせちゃう」
「いいや、構わないよ。完璧な妻より、安らげる妻の方がいいよ。ロゼーが婚約者であったらどれほど良かったか」
ジェラルディ殿下の言葉に周囲の音が消えた。
二人のために用意していたグラスの無機質な冷たさだけが手に残る。
……あ、無理だ。
「でしたら、婚約者を変更いたしましょう」
「は?」
「ジェラルディ殿下は私のことを常々完璧だけど冷たいと仰っていました。私のような妻はいらないのでしょう? であれば、私との婚約を望んでいないと言うことになります。ならばロゼーに譲りますわ」
「お前は何を言っている!」
怒鳴る父に向き直る。
「いい子でいれば、いつか報われると信じておりましたが、どうやら違った様です。皆様、お聞きください。私、エルシア・オルブライトはジェラルディ王太子殿下との婚約を辞退いたします。それではごきげんよう」
カーテシーをし、会場を去った。
帰りの馬車の中、胸の中には虚しさしか残っていない。
いい子の侯爵家長女はもう終わり。
しかし、泥舟にいつまでもいる必要はない。
窓の外を眺め、その先に目を向けた。
ジェラルディ、そうじゃない、そうじゃないんだよ!
エルシアに融通が効かないって言ってますけど、マナーのお話をしてるのですよ?っていう、温度差。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
また次回もお楽しみください。
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【完結済み・短編】
◆ほっこりとほんのりざまぁが読みたい方へ。
人質の王女が婚約破棄&国外追放──唯一の家族である三匹の魔獣を連れて出て行きました。
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