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捨てた私と、拾った貴女  作者: 衛星 奏志
第一章 エルシア

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第一話 いい子の侯爵令嬢

暑いので熱中症にお気をつけください。

 カシャン。

 落ちたグラスの音に私はハッと隣のロゼーに目を向ける。


「あ……、お姉様ひどい! あたしが気に入らないからってドレスにワインをかけるなんて」


 ロゼーの声に周囲が騒めく。

 大方注意力散漫でグラスを落とし汚したのだろうが、パーティでドレスを汚すことは淑女の恥だ。しかし、嫌がらせとなれば話は違ってくる。


「妹のドレスにワインを? なんて酷いことをなさるのかしら」


 ポロポロと涙をこぼすロゼーの姿は庇護欲を掻き立て、周囲の私へ軽蔑の目を集めさせる。

 ここでそんなことをしていないと言ったところで誰も信じはしないだろう。

 ましてや──


「エルシア、なぜいつも君はロゼーに嫌がらせをするんだ」


 私の婚約者であり、王太子でもあるジェラルディ殿下がロゼーを庇うのだから嘘であろうと真実になる。

 もちろん、ジェラルディ殿下は私の、というよりロゼーの側にいたのだからワインをかけていないことを分かっているはずだ。にも関わらずいつもロゼーを庇う。


「彼女に謝るんだ」

「っ、申し訳ございません」


 ロゼーを守るように肩を抱いたジェラルディ殿下に言われ、衆人の中頭を下げる。

 ロゼーはいい気味とでも言うように笑い、周囲からはクスクス嘲笑われる。


 (私が我慢すれば、丸く収まる)


 ギュッと拳を握り込んだ。



 侯爵家長女の私の一日は侯爵家と王太子の執務に追われて終わる。


 当主である父は仕事の殆どを丸投げし、後妻であるベアトリスは女主人としての仕事を一切行わないからだ。


 父が当主となったばかりの頃は、侯爵家としての体裁を保っていた。しかし、父はお金を使うことには長けていても稼ぐことは出来ない性分だった。


 まだ母がいた頃は良かった。父が当主となって二年ほど経った頃母は儚くなり、その後すぐベアトリスと一つ下の義妹、ロゼーがやってきてから侯爵家は一気に傾いた。


 散財する人間が三人に増えたのだから当然だ。


 執事であり家令でもあるハンスの言葉にも耳を貸さない父に困り果てているのを見兼ねて母の行っていた実務を引き継いだ。仕事はどんどん増え、当主の仕事まで。


 さらに日中は何かと王城に呼び出されるようになった。王太子殿下が書類を理解できるように解説をつけるのが仕事だ。


 早朝から午前中に侯爵家の仕事をし、昼前頃から登城して王太子の仕事を手伝い夕方帰宅してからはまた夜まで侯爵家の仕事をする。


 睡眠時間は毎日三、四時間。

 五年以上、この生活を続けている。


「はあ、また収支がマイナスだわ」


 請求書の束をめくりながらため息を吐く。


 気が重いながらも父のもとに行く。

 サロンに向かうと、中からはロゼーの楽しそうな声が聞こえる。


「見て、お父様お母様、これ素敵でしょう?」


 新しいドレスを自慢しているのかロゼーがくるりと回るとパステルピンクのシフォンドレスがふわりと広がった。


「とても可愛いな。まるで天使のようだ」

「本当に。生地からこだわって作らせましたのよ。髪飾りは良いものがなくて外国から取り寄せましたの」

「そうかそうか、似合うぞ」


 私は請求書をギュッと握る。


「失礼します。お父様、財務のことでご相談が……」

「財務のことは家令に任せている」

「しかし、収支が……」

「聞こえなかったのか、報告は聞いている。だがそれをどうにかするのが家令と補佐をしているお前の役目だろう。できないなんて泣き言言うな。長女なのだから少しは家の役に立て」


 父は冷たく言い放ち、打って変わってロゼーに優しく声をかける。


「ロゼーはこんなにも愛らしいのになぜ姉はこんなにも違うのだろうなぁ。社交の役に立たないのだから、少しは家の役に立てばいいものを」

「あらお父様、あたしが美しいのはお母様譲りですわ。お姉様のようにお仕事ができても、殿方に好まれなければ意味はないのですもの」

「そうだな、私の天使」


 父は邪魔だと言うように後ろ手でシッシッと追い払う。


「お嬢様、如何いたしましょうか」


 気遣うようにハンスが声をかけてくる。

 自分のことだけでなく母のことまで馬鹿にされ、強く握りしめていた手をゆっくりと緩める。


「そうね……お母様のルビーのブローチがあったでしょう? それを売りましょう。一番高い値段をつけたところに売却するわ」

「よろしいのですか? あれは奥様が一番大事にされていたブローチですのに」


 グッと唇を噛んだ。

 捨てられるところだったのを何とか守った母の形見。それが一つ一つ失われていく毎に、思い出も失っていくような。母の存在が消えていくような気がして虚しくなる。


「出過ぎたことを申しました」


 ハンスが頭を下げる。

 いろいろな事を飲み込んで一つため息を吐く。


「あれを売って食料費の支払いに当てれば、それなりの量の食料は買えるでしょう。数週間は凌げるわ」


 食料を買うのすら窮する今の状況に頭を抱える。

 これが侯爵家だと言うのだから笑えない。

 私はゆっくりと深く呼吸をすると、執務室へと足を向けた。


初めましての方、二度目まして〜の方。

ご覧いただき、ありがとうございます。

このお話は三話姉目線、四話以降は妹目線でお送りします。

起こる出来事は同じですが、妹目線で婚約解消とその後まで書いておりますので、最後までお楽しみいただけますと幸いです。


さて、ありがたいことに

『断罪相手は人違い?最強婚約者乱入で現場が破綻しました。』

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が日間で1位を獲得しました!

それも皆様のおかげ、ありがとうございます!

まだの方は良かったら読んでみてください。

よろしくお願いします。

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