江戸川 ケント
「決まったことだしすぐ行こうぜ」
「剛力が治るまで待ってろ、こういう大事な事は皆の承諾を得るのが日本人軍団の決まりなんだ」
「剛力なら賛成すると思うけどな」
正人は道具を整理しながら焦らずゆったりと過ごしている。
「そうか・・・・・・ あ! お前携帯見たいな奴持ってたじゃんかそれ使って聞けばいいじゃん」
「無理無理、教会は神聖なマナを貯めるために外部からのマナ遮断してるからこれは使えねぇよ」
電話が出来る魔道具を投げながら説明する。
「なら直接行くしかないか」
正人がため息をつきこぶしでほっぺを支える。
「あのさ、お前 疲れるって言葉知ってるか? さっきまで依頼やってたんだよおれ達、そんなすぐに行くわけないだろ、普通明日だろ」
「忘れてた、俺能力で疲れないから」
「フーン、力が有り余ってるならバイトでも探しとけば」
「わかった」
正人たちは解散し各々家に帰っていった。幸也は一応自分に出来そうなバイトを二、三件見つけた。
幸也は剣と全財産だけを持ち支度を終える。
(俺の十五万マナ、一点五か月分の猶予・・仕方ないよな、それにまだ五か月ある)
幸也が思いを巡らせている所に突如正人の顔がドアップで写し出される。
「うわっ、化け物」
幸也は尻もちをつき、焦り腕が折れるほどの勢いで剣を正人の顔目掛け投げつける。
「びっくりしたー、急に変なもん投げるなよ幸也」
「こっちのセリフだわ」
幸也は正人の顔だとわかり平常心を取り戻す。
立ち上がり投げつけてしまった取りに行くため正人の顔を避けると、宿に亀裂が入っていた。
「あああああ」
項垂れ地面に頭を擦り付ける。
「どうした幸也」
視界から幸也が消えたため、見渡すように方向を変える。
そして悲惨な現状を目にした。
「俺の全財産がなくなる時に、クソーー」
「げ、元気出せよ、そんな大した程……壊れて……な、ないぜ」
「元気なんて出し手られるか、知ってるかクソぼろい宿でも下に見られて、修理費十万マナ取られるんだぞ」
「そんな取られわけないだろ、ちょっとひびが入っただけ––
––「ベッド壊しただけで払ったことがある」
「なら今持ってる金で払えよ、もともとお前の金だろ、罰金のことは気にするなおれ達で払えばいいんだから、それにおれのせいでもあるんだし少し負担させてくれ」
「正人、ごめん、つい怒っちまった」
「こっちこそ急に出てきてごめんな、それと剛力が回復したからギルドに集合だ、色々あると思うから遅れても構わないぜ」
「わかった、出来るだけ間に合うようにするよ、それじゃ」
「じゃあな」
正人の顔が消え部屋には床から天井に届くほどの大きな亀裂と風通しがよくなりそうな小さな穴だけが残った。
**************
ギルドで正人と一緒に過ごし一連のやり取りを眺めていた剛力は何か起こったことを察する。
「どうかしたんですか?」
正人は頭を抱え自責の念に駆られている
「ああ、ちょっとな、やらかしちまった、いくらかはわからないが罰金が増えそうだ、こんな時にごめんな」
「失敗しない人間なんてこの世にいないんですから元気出してください、それにその失敗を今日活躍して挽回すれば幸也もきっと許してくれますよ」
すごい速度で剛力の方を向く。
「そうだよな、今日めちゃくちゃスカウトすればチャラに出来るよな、ありがとうな剛力、おかげで元気出て来た」
「お役に立てて何より」
正人が立ち直ったすぐ後に、また自責の念に駆られた女が現れた。
「すいません、遅れてしまいました」
「別に時間は指定してないぞ」
正人は恵梨香の目を見て違和感に気付く。
「それならよかったです、それと私知り合いに当たってみたのですが三人ともダメでした」
「そうかダメだったか、まぁいつものことだ仕方ない」
「本当にごめんなさい」
恵梨香が誤り正人の違和感が確信に変わった。
「お前まさかまだ引きずってんのか、昨日も言ったがお前は何も悪くない」
「でも、私が他に打開できる魔法を覚えてなかったのが悪いし、それにたとえ仕方なかったとしても罪を忘れたくわないから」
「罪なんかじゃありませんよ、あなたは素晴らしいことをしたんです。もし恵梨香、あなたの魔法が罪になるのだとしたらそれは力がない僕達の罪でもあります、だから一緒に返していきましょう、誰も文句は言いませんよ」
「剛力、剛力さんーー」
恵梨香は剛力に泣きながら抱き着いた、抱え込んでいたものを全て吐き出すようにして。
泣き止み、落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございます、スッキリしました。その悪いんですが一緒に罰金返していきましょう」
「悪くねぇよ」
「正人の言う通り」
恵梨香の心も晴れ一段と仲間の結束が深まった時今度は、絶望の中心に陥った男が現れ物凄いスピードで正人の肩を握りしめて来た。
「正人、誰でも出来て日給十万マナのバイト紹介してくれ」
正人は痛みに耐えながら幸也に優しく触れなだめる。
「落ち着け幸也、この世界にそんな闇バイトみたいな条件のバイトはない、処女を捨てる覚悟があるなら一つだけ紹介できるけど(幸也にしか聞こえない小さな声)」
「す、捨てたくない」
「そうだろ、でいくらだったんだおれにも悪いとこがある半分払わせてくれ」
「五十万」
「残り三十五万か、割り切れねぇな」
「いや十五万払った残りが五十万」
数秒沈黙の時間が出来る。
「ぼ、ぼったくりだよな」
「正当だ、宿全体に亀裂が出来てた」
「そうか・・・・処女卒業するか、大丈夫だおれも一緒に行くから、二人でやれば怖くない、だろ」
正人は震え声で幸也に問いかけた。
「それだけは絶対やだ、死んでもやだ」
「お前は再生能力があるんだ、処女も復活する」
「そういう問題じゃないだろ」
「じゃあどうすればいいんだよ」
二人がこそこそもめ合っている所に救いの手が降りかかった。
「何があったのか知りませんが、私も一緒に払いますよ」
どん底に落ちていた二人にはこの時の剛力が女神に見えただろう。
「私も手伝う、仲間でしょ」
「お前ら」
幸也は自然と涙を流していた。
「仲間って最高だな」
「ほんとにな」
正人も自分の貞操が守られ涙を流した。
**************
皆がそろいそれなりに時間が経ち、ようやく話し合うことが出来る状態になった。
「まずおれ達が今抱えてる罰金は幸也の含めて六十万マナだ」
「おいそれだとおかしくないか俺の十五万がなくなったのにギルドの罰金が減ってるぞ?」
「剛力が二十万出したんだ」
「ここからが本題なんだが今のままじゃAランクの依頼は失敗する、かと言ってBランクの依頼をちまちまやって返すには時間がかかる。よって今日みんなで日本人をスカウトしに行く、異論があるものはいるか?」
「もちろん賛成です」
「いろんなーし」
「余計なの増やしてしまった俺に断る権利はありません」
「よし、じゃあ、おれと幸也、剛力と恵梨香二手に分かれるぞそれじゃ解散」
恵梨香と剛力は当てがあるのか行く順番を話し合いすぐギルドから出て行った。
「俺達はこれからどうするんだ、俺この町に来て日が浅いからあんま役に立てねぇぞ?」
「だからスカウト経験が一番多いおれと組ませたんだ、安心しろお前はついてくるだけでいい」
「まずはこのギルドにいる日本人に片っ端から声をかけるぞ」
一番近くにいたCランクのモブ顔日本人に話しかける。
「ちょっと時間いいか?」
「良いですけどなんですか?」
「おれ達のパーティーに入る気はないか?」
「ありません、僕にはもうパーティーメンバーがいるので」
即答で断られていた。
「正人、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、何回も断られてるから耐性はついてる」
「気にしないで次だ次」
(悲しい耐性だな)
次にBランクの男。
「妻と子供がいるので、そう簡単に転職は出来かねます」
次にAランクの女。
「は? なんでわざわざ格下の貴方たちのパーティーに入らなきゃいけないわけ?」
次にDランクの男。
「あなたたち僕を殺す気なんですか、ぼくDランクですよ?」
次にEランクの男。
「うお、俺なんかスカウトする時点で雑魚パーティー確定じゃん、そんなチーム金積まれてもごめんだわ」
正人もさすがに心が折れたと思われたが何もなかったかのようにまたスカウトに戻る。
「すでにパーティーに入ってる奴は厳しいか、次は冒険者以外の日本人に当たってみるか」
「なぁ、別に日本人にこだわる必要ないんじゃないか、別に性格良ければそれでいいだろ、ほらあそこの猫耳獣人とか」
「幸也、性格を考えると獣人はやめておけ、あいつらは自分勝手で強そうなやつの言う事しか基本聞かないクソ野郎どもだ」
「みんながみんなそうなわけじゃないだろ」
「おれは今までで一度も性格がいい獣人を見たことが無い」
「そうなのか」
幸也は突き付けられた現実を受け入れられず下を向く。
「心配するな、お前はいるだけでいいんだ佐藤幸也がいるだけでパーティーに箔がつくそれだけで成功率も上がるってもんよ。今の所ゼロパーセントだけど ボソ」
正人はギルドを出ていく。
「ほら、早く来いよ、次は外回りだ」
幸也は紛らわすかのように、何も考えず正人について行くことにした。
買い物をしている女に話しかける。
「ごめんね、私戦う系は苦手なの」
正人の知り合いらしき女に話しかける。
「正人ちゃん、私の仕事知ってるでしょ、そ れ と も正人ちゃん専属にしてくれるの?」
「今、お金に困ってるから」
「そう、お金がたまったらお店に来てね、いっぱいサービスするから」
通りすがりの男
「名前がダサいからいいや」
挙動不審な男
「佐藤幸也、こんな見た目なんだ意外だな、でも断るよあそこのリーダーはクソ無能野郎って噂だからね、幸也君と君もリーダーに才能をつぶされないように頑張るんだよ」
正人のことを初めて怖いと感じるほど殺気を感じた。
その後も半裸の男、全身鎧の女、カップル二人(両方男)、ロリババア、魔法使い、に話しかけてみたが悉く断られてしまった。
日が暮れ、もう一人しかスカウトできない時間になった、選んだのは凄くボロく胡散臭い探偵屋に住んでいる者にすることにした。
「お邪魔しまーす」
窓は軋み、人がすんでいるのかと誰もが疑問に思うほど暗い。
一歩一歩、歩く度、足音が不快な音に変わる、そして幸也達を不安にさせる。
「おい、本当にこんなところに人が住んでいるのか?お化けが住んでいると言われた方が納得できるぞ」
「住んでるのは確かだ、けど今日は留守かもしれねぇな、明日出直すか、な幸也」
突然肩に手の感触がし振り返る。
「普通にいますよお客さん」
「うわ、化け物」
幸也はまた剣を投げつけそうになるが正人が必死に抑える。
「やめろ幸也、お前幽霊と借金五十万マナどっちが怖いんだ」
「五十万マナ」
「なら落ち着け、お化けなら逃げれるが借金は逃がしてくれねぇからな」
「お前ら普通に失礼だぞ人を化け物、お化け呼ばわりするなんて。女神マナよ我に火の恵みを」
魔法を短縮詠唱し、上にある魔法道具らしきものに火をつけた。
部屋が明るくなり化け物兼お化けの姿がようやく見えた。
そこにいたのは見た目は子供、ボロボロの服、腰に小さな短剣を備えた少女?が立っていた。
「なんだただの子供か、君迷っちゃったのかな、それとも度胸試しで怖くて戻れなくなたのかな」
「本当に失礼な奴だな、僕、はここの主だぞ」
やたら僕と強調してくる喋り方、子供が大人ぶって見え幸也達は微笑ましく思う。
「君たち絶対信じてないだろ、ま、いつものことだ証明してあげるよ」
「長野正人、十八歳、冒険者日本人軍団のリーダー、パーティー名ダサ、娼館通いの素人童貞それと––
––「わかった、わかったからもう言わないでくれ」
「次は佐藤幸也、と言っても君はここにきてまだ日が浅いから大した情報はない、強いて言えば獣人達をいやらしい目で見て、町の獣人達に嫌われているという事だけだな」
「嘘だろ・・・・・・椅子とロープをくれないか」
「よそでやってくれ」
「お前何者だ、どうしておれ達のことを知ってやがる」
「さっきも言ったろ僕、はここの主、江戸川ケント探偵兼情報やさ」
「情報や?」
「探偵だけでは食べていけなくてね、兼任して情報やもやってる」
「それで君たちは僕、をスカウトしに来たんだろうけど辞めといたほうがいい、僕、は戦闘に向かない能力だからね、けど折角来たんだ、情報か調査の依頼でもしてくれないか」
「いくら?」
「情報は一マナ」
正人は驚く
「調査は一日千マナだ」
正人は情報を買うことにした。
情報と言っても何を聞けばいいのかわからず考える。
幸也は魂が抜けだしたように突っ立ている。
「この町のことならなんでもこたえられる、調査なら殺人事件の解決とか、不倫調査とか、あと気になるあの子に彼氏はいるのか君のことが好きなのか全部調べてあげる」
「それは本当ですか?」
「ああ」
「今は金欠なので情報にしますけど、いずれ調査も頼みますんでその時はよろしくお願いします」
正人は何か調べてほしいらしく子供扱いしていた相手に仕立てに出ている。
「それじゃあ江戸川ケントさんの能力は何ですか?」
一マナを渡す。
「僕、の能力か、簡単に説明すると超五感だ。視力聴力嗅覚味覚触覚が君たちの十倍以上だと思ってくれればいい」
「そうか、確かに戦闘には向かないな」
「そうだろ、僕、も異世界に来たら戦ってみたいと思ったんだがね、デメリットしかない能力だったもので諦めたよ」
「でもいい能力じゃないか、視力は監視に役立つ、聴力は犯人を盗聴出来る、嗅覚は警察犬の代わりが出来て、触覚はなんか風を感じることが出来るし、味覚は青酸カリか判断できる」
「探偵として最高の能力だな」
正人の慰めにケントは下を向き手を握りしめ歯を噛みしめる。
それでも我慢できずに声を荒げてしまった。
「最高の能力? 取り消せよ今の言葉」
少女のような見た目から発せられた男が怒鳴る声を聴いた正人は目を丸くする。
「お前はわかるのか?小さい虫があちこちに見えることが、家にいても他人の声が聞こえることが、匂いを嗅いで気絶することが、食べるのが苦痛になるほどのまずさが、デコピン一発で負ける屈辱がお前にわかるっていうのか、いいやわかるわけがない、何も知らないくせに、お前みたいな良い能力を貰ったやつに僕、の気持ちが分かってたまるか」
ケントは言い切り息切れする。
「ごめん」
ケントは冷静になる。
「いや、僕、の方こそ向きになってしまった」
「なぁ、おれ達の仲間になるか?」
「それは同情かい?」
正人が黙り込んで立ち去ろうとしたとき幸也が口を開いた。
「同情なんかじゃない、俺達のパーティーにお前が必要だこい江戸川」
「幸也何言ってんだ、ケントは戦えない」
「だから?江戸川は俺達のパーティーで今一番必要な能力を持っている」
「正人昨日俺達が負けそうになったのは何故だ」
「……相手の数が多かったから」
「それも正解だが、違う、答えは奇襲されたからだ、もし最初から来るとわかっていたらお前の弓で一網打尽に出来ていただろ」
「確かに」
「江戸川には俺達が想像できないほどの目と耳と鼻の力がある」
「で正人今のを聞いてどう思った」
「おれ達のパーティーにほしい」
「江戸川ケント俺達のパーティーに入らないか?」
「本当に僕、が入ってもいいのか」
「お前の耳は飾りか?聞こえていただろ」
ケントは全身を震わせ、自分の手を見つめ水が垂れていることに気付く。
涙をぬぐい満面の笑みで。
「ああ、入るよ、これからよろしくな」
「よろしく」
「よろしく」
江戸川ケントが仲間になった。
ケントを剛力たちに紹介するためギルドに向かっている途中。
「お前、男だよな?」
正人がケントの長い髪を触りながら聞く。
「声でわかるだろ、僕、は男だ」
「やっぱ男なのか・・・将来イイ女になると思った俺の心を返してくれないか?」
「そんなの知るか、それに成長したらいい男になってるかもしれないだろ、成長するかわからないが」
「なんだお前今の歳から成長を諦めてるのか、ちゃんと成長するから安心しろよ」
「誤解があるようだから言っておくが、僕、は君より一年早く生まれている」
幸也と正人は道の真ん中で立ち止まる。
「どうしたお前たち、そんなに僕、の歳が意外だったか?」
「じゃあお前、見た目は子供中身は大人状態なのか?」
「そういっているだろ、それと見た目は気にしているからあまり触れないでほしい」
「悪い」
正人は驚きより反省が勝ち別の話題にチェンジさせようと必死に話題を探し見つけた。
「それにしても幸也、よく気づいてくれたよな、お前は話すら聞いてないと思ってたぞ」
「よーく聞いていたよこいつの出まかせを証明するために」
「僕、は出まかせなんて言った覚えはないが」
「俺が獣人達に嫌われているといったではないか」
「ああ、それか、 正真正銘事実だよ、獣人達は人より感覚が鋭いからね、以上な欲情が向けられていることに気付くんだよ」
「嘘だよな、嘘だと言ってくれ」
「僕、も一回、ロリと勘違いされて欲情された時気づいたからね事実だよ」
幸也は吐血し倒れ、最後の力を振り絞り江戸川ケントとダイイングメッセージを残した。
「まさか探偵の僕、が人殺しになるとはね、しかも無傷の幸也に初めて傷を負わした人物なんじゃないか」
正人は血を気にすることなく幸也を背負う。
「幸也お前、ケモナーだったんだな」
幸也は正人にケモナーであることがばれたことは気絶していたため気づかなかった。




