解けない氷
天井の氷に穴が開き、そこ目掛け這い上がる。
正人は先頭、恵梨香がその後ろをついて行き、幸也は動けない剛力を担ぎ遅れながら登りきる。
幸也は地上に出て固まってしまう、寒さから固まったわけではない、目に映る景色が幸也を動かなくしたのだ。
(嘘、だろ、これが恵梨香の魔法なのか)
そこは見覚えがない場所だった、あんなに全体をこすりつけた土も、敵の襲撃に気付けない程そびえ立っていた木も、あんなに苦しめられた多い命も全て氷に埋もれていた。
「おーい、幸也何突っ立てるんだ、早く来い、死ぬぞ」
正人の呼びかけで冷静になり一刻の時間もないことを思い出した。
(歩きにくい)
氷の上、急ぎたくても滑ってしまい急ぐことが出来ない、そこに珍しく正人が機転の利いた働きをした。
弓を放ち一直線上の氷を砕き道を作ったのだそこからは、剛力を背負い急ぎ町に帰還した。
「なぁ俺もう教会の場所覚えちまったんだけど」
「それは良かったじゃんか」
「よくないだろ、さすがに早すぎんだよ怪我する感覚が」
「お前にはわからないだろうがな、冒険者に怪我は付き物なんだぞ」
「そうかもしれねぇけどよ、重症すぎるだろ」
「仕方ないだろ、剛力は自分で自分を治せないんだから」
「おれたちは長年冒険者やってんだ覚悟ぐらいできてるよ」
「うぅー」
何も言えなくなりそのままギルドに向かった。
恵梨香と正人は落ち着いたように歩いている、幸也は氷が解けないか心配で焦っていた。
「なぁなんでそんなのんびりしてんだよ」
「疲れたんだよ、少しぐらい休憩させろ」
「そんなの後ですればいいだろ、早くしないと解けちまうぞ」
「大丈夫だよ、あの魔法は解けないから」
恵梨香の方を目を全開にしてみる。
「さっきからソワソワしてたのって解けると思ってたから?」
「そうだよ、解けない氷なんてあると思わないだろ」
幸也は恵梨香から顔を逸らす。
「へ、幸也まだこの世界に馴染んでねぇな」
「うっせ」
「でも解けないからってそのまま放置してていいのか?」
「放置したらまずいですよ、だからギルドに報告するんです」
「あと最初に謝っておきますが、今回の報酬は良くて半分最低でマイナスですので」
「それは仕方ないだろ、今回は危なかったからな」
「危ないのは今回だけじゃないだろ」
「たがよ報酬が減るのはわかるがなんでマイナスになるんだよ?」
「それは単に地形を変えちゃったので、それの賠償をする可能性があるんです」
「あそこ私有地でも何でもないだろ、なのに賠償しなきゃいけないのかよ」
「いえ、賠償は正当ですよ、幸也も行ったことあるあの砂漠も、あと砂漠の反対にある氷結地帯も、全部、大昔に発動した魔法のせいであんな気候になったんですよ」
「マジで」
「大マジです、何なら私の師匠が原因ですし」
「マジかよ」
衝撃的な事実が明かされてすぐ幸也達はギルドに着いた。
「お疲れ様です、正人様、依頼の方はうまくいきましたか?」
正人を押しのけ恵梨香が前に立ち出来事の説明をする。
「さようでございますか、では氷の中にいるラモス討伐の依頼を発行するため、報酬の半分を引かせてもらいます、それと環境魔法破壊で罰金、五十万マナです」
(日本円にして五百万・・・・・・マジヤバくね)
「支払いは足りない分は次からの報酬で賄いますので、頑張って働いてくださいね」
すべてが無駄になり、正人と恵梨香は下を向きギルドの机に倒れるように座る。
「俺の貯金は十五万だから後三十五万か、お前たちはどれくらいだ?」
「私は二十万です」
「おれは、ゼロ万」
幸也は無言で正人の頭を殴りつける。
「痛い、剛力治して・・・・はっ、今いないんだった」
二発目は自然と右フックが飛び出た。
「あと十五万か、いけそうか」
「Sランクなら一回、Aランクなら三回ぐらい、Bランクなら依頼によるが二十回だな」
「おれ達は、Sランクは受けれないからAランクの依頼を三回こなせばいいんじゃねぇの」
「ごめんなさい、私のせいで」
縮こまり、頭を深く下げている。
「だから、お前は悪くないっつてんだろ、あの時お前の魔法が無かったら全滅してたんだから謝るなよ」
(これに関しては正人の言う通りだ、けど)
「なぁ正人、ほんとにAランクでいいのか?」
「他に何があるんだよ、依頼を二十回も受ける暇なんかねぇぞ」
「俺達Aランクの依頼で死にかけたんだぜ」
「そうだった、また今日みたいになったらプラス五十万マナ……あれおれ達詰んだ?」
「待て待て、借金があるだろ借金が」
「ダメだ、この世界の金利はアホほど高い、一日百パーが普通だぜ」
(わー、牛島君もびっくり)
「詰んだのか?」
「詰んだよ」
幸也も力が抜けぐでりはじめ、正人はほっぺが自立しそうなほど沈んでいた。
「ちょっと、二人とも諦めないでくださいよ」
「諦めるな、つてもよどうすればいいんだよ」
正人はもうあきらめたようで全身の力が抜け手はぶら下がり、机に顔だけを乗せ、体重はほっぺで支え面白いほど不細工な顔になっている。
「Aランクでも一匹だけのモンスターとかないのかそれならどうに、かなりそうだが」
「それこそ超級魔法を使わなくちゃ倒せないだろ」
「お前の弓でもか?」
「倒せるけど、時間稼ぎしてもらわないといけなくなるぜ、出来るのか?」
「出来るぞ」自信たっぷり。
「お前には無理だろ、死にかけまくってんだから」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「バイトしながらコツコツ稼ぐしかないだろ」
(それだけは困る、貯金がなくなるのに時間はかけてられない)
「なぁAランクの依頼受けようぜ、これまでも何とかなって来ただろ、な」
正人は幸也をじっと見つめため呆れたようにため息をついた。
「剛力はあのざま、おれ達も今日死にかけた、今おれ達に命があるのは運がいいだけかもしれない、これ以上命を賭けるわけにはいかないだろ、学んだんだよおれは」
(いつ学んだんだよ、お前さっきまで馬鹿な事言ってただろ、正論だからなんも反論出来ねぇし)
手はないかと思われたが幸也に閃光が走る。
「そうだ仲間だ」
「おう、おれ達は仲間だな」
「違う、仲間を増やすんだよ、見てて思ったがS,Aランクパーティーは大体十人ぐらいはいるだろ、モ〇ハンじゃないんだし四人以上はダメだって決まりはないだろ」
「幸也君分かってないなー、確かに即戦力を増やせばどうにかなるとは思うけどね、僕はこの町に居るほとんどの日本人をスカウトして来たけどね、恵梨香と剛力以外全員ダメだったんだよ」
「それは昔の正人に魅力がなかっただけだろ」
「それに今の俺は、結構な功績上げてるから噂ぐらいはたってるだろ」
「噂ねぇ、そんな簡単にされるもんじゃないだろ」
「いやお前、俺の噂知ってたじゃん」
「そういえばそうだな、よしどうせ出来ることもねぇしまたスカウトしてみるか」




