忘れていた弱点
幸也はこの町でも安い宿に泊まっていた、イザベラの延命のため、まだまだ貧乏生活は続きそうだ。
「パーティーを組んだのはいいもののソロの時より報酬が安いな」
モンスターの報酬は四分割されてしまうため幸也の手元にはDランク時代と変わらないお金しか手に入っていなかった。それでも幸也にパーティーを抜けるという選択肢は思い浮かばない。
「悪魔に関する本も買わないといけねぇな。でもなこの世界、本が高いんだよな余裕で一万マナとかするし」
幸也は深い深いため息をつく。
「腐食の悪魔か、どんな見た目でどこにいるのかもわからない。どうすればいいんだ俺は」
イザベラも腐食の悪魔も幸也は諦めようと思えばすぐにでも諦めることが出来る、なにせ自分の目標ではなく他人から押し付けられたものだからだ。
その上、頼んできた人間も多くの日本人を殺し幸也を四回も殺した極悪人ときた正気な人間なら人の命が掛かっていたとしてもすぐに諦めるだろう。
だが今の幸也は正気ではなかった、ピューレから出て他人の目は気にならなくなったものの自分の心は覚えている、どんな理由であれ人を殺した事実を。
そして心の中に住み着いてしまったのだ俊と言う存在が。
––幸也は昨日約束していた時間の二十分前にギルドに到着した。
あたりを見渡すと剛力と正人が喋っているのを見つけすぐさま駆け寄った。
「おはよう」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
異世界人には挨拶する文化はなく幸也は四か月振りに挨拶をして少し不思議な感覚に陥った。
「幸也今日は絶対モンスターを狩りまくるからな気合い入れろよ」
正人は昨日とはくらべものにならないほど張り切っている。昨日有り金を全部使ってしまい一文無しなので当然と言えば当然である。
剛力はと言うと昨日とあまり変化は見られない。
寝起きには少しうざい正人のテンションに嫌気がさしていたころ、最後の一人である恵梨香がやって来た。
「おい恵梨香待ちくたびれたぞ」
「私時間通りに来たんだけど」
昨日恵梨香は最後まで正人と夜同士飲み歩いていたためすごく眠そうである。
「よしみんな揃ったことだしひと狩り行こうぜ」
正人は一人でギルドを出ようとする、それを見た恵梨香が呼び止める。
「ちょっと待ってください依頼をまだ決めてませんよ」
「お前が来る前にもう決めたぞ」
恵梨香は呆れたように正人を見つめる。
「ちょっと待ってください私抜きで決めちゃったんですか?」
正人はうなずく、それを見て信じられないのか剛力と幸也を交互に見る。だが剛力も幸也も合意してしまったため申し訳なさそうな顔で頷くことしかできない。
「まだ私抜きで決めるのはいいとして何を受けたかぐらい私に話してくださいよ」
「すまんすまん忘れてた」恵梨香があきれたようにため息をつく。「で何をうけたんですか?」
「Aランク依頼のデザートスコーピオンの討伐依頼だ」
––討伐のため解毒草を買いまた砂漠に向かった。
「すみません幸也さんお水をください」
恵梨香は寝不足だからか昨日とは違い砂漠でばてる寸前のような状態である。
「女神マナよ我がマナを糧に水を創造した前スプリットウォーター」
手から出た水を水筒の中に入れる。
「恵梨香、僕が背負いましょうか?」
「大丈夫、自業自得なんだから、そこまで迷惑かけられない」
「おい恵梨香体調管理は冒険者として当たり前だぞ命がけの仕事って言ってたのはお前だろ」
「わかってるわよ、ただなんであんたはぴんぴんしているのよ私と一緒にずっと飲んでたでしょ」
正人は誇らしそうな顔になる。
「自慢じゃないけどおれ一度も風とか引いたことないんだ」
正人は恵梨香の前に行き背を向けてしゃがみおんぶする姿勢になる。
「ほら来い」
「大丈夫って言ってるでしょ迷惑はかけないは」
杖を突き正人の横を通り追い抜く。追い抜かれた正人はまた恵梨香を追い抜かしさっきと同じポーズをする。
「馬鹿かお前、そうやって無理して戦う時に使い物にならなかったらどうするんだよ。それにお前迷惑かけたくないとか言ってるけどな、仲間ってのは迷惑をかけあうものなんだよ。おれなんてお前らにいっぱい迷惑かけてんだからお前もおれにいっぱい迷惑かけてもいいんだよ」
「私が迷惑かけたくないのはあんたを見てたからよ」
と言いつつも正人の背中に乗っかりおんぶされに行った。
一連の光景を見ていた幸也はカップルを見ている感覚になった。
幸也も高校生、そういう事が一番気になる年頃、気になりあまり集中できていない。なので幸也は気を引き締めるためにも剛力に聞くことにした。
「剛力さんあのふたっりてそういう関係なんですか」
「そういうってどういう?」
「付き合ってるんですかあの二人」
「別に付き合ってはないと思うよ、強いて言うなら喧嘩するほど仲がいいみたいな関係かな」
「本当ですか傍から見たらお似合いカップルに見えますよ」
「絶対付き合ってはないよ、だって正人娼館に通ってるもん」
「マジっすか」
「マジ」
なんとも言えない空気になってしまった。
(帰ったら獣人の娼館があるか調べよ)
––長い道のりを経て幸也達は危険区域に到着した。
眠気も冷めたのか恵梨香は昨日のように戻っていた。
「探索魔法、一応幸也に防御魔法もかけろ」
防御魔法を先にかけ幸也を先頭にデザートスコーピオンを探す。
運が悪く二十分経った今も見つけることはできない。
「右にデスワームが潜んでいるので迂回していきましょう」
少し歩きまだデスワームが砂の中に潜んでいる場所に近い当たりで恵梨香の探索魔法が一匹こちらに近づいてくるものを感じとる。
「正人ヤバいですデザートスコーピオンがこちらに向かってきてます!!」
「どうするんだおれ達まだデスワームの近くじゃねぇかよ」
「先にデスワームを倒しましょう幸也さんおびき出すので狩ってください」
「ダメだ幸也はスコーピオンが来た時に備えていてください、僕が引き付けるからその間に恵梨香が魔法で倒して、正人は幸也と同じようにデザートスコーピオンに集中して」
全員が剛力の言葉に従い陣形を組みなおす、正人と恵梨香はお互いが背中合わせの状態に、剛力はデスワームの近くへ走り、幸也はスコーピオンがいる方向を向く。
「耳を塞いでくださいレフィタルノイズ」
何度やっても慣れない不快な音が体中を駆け巡る、それと同時にスコーピオンの姿を確認し幸也と剛力はそれぞれのモンスターの所へ向かう。
最初に戦闘がおこったのは剛力たちが担当しているデスワームだった。
恵梨香は魔法を唱える、剛力は怪力で鈍足そうな見た目のわりに素早く動きデスワームの攻撃をかわしながらメイスで攻撃している。
「剛力さんこっちに」
詠唱を終え魔法を発動させる準備ができ剛力に合図を送る。それを聞いた剛力デスワームの攻撃をかわしいなしながら恵梨香の元へ誘導する。
それと同時に幸也がスコーピオンと敵対する。大きさは一メートルと大して大きくないサソリだが走ってくる様子から素早いことはわかる。
幸也はスコーピオンの武器であるハサミを斬ろうと斬りかかったのだがスコーピオンは幸也の速度に反応し横に飛び避ける。
幸也のスピードも速く二本の右足を切り落とすことに成功した。だがスコーピオンが幸也に向かってハサミでつかみかかろうとする。
(やっべ)
避けられると思っていなかった幸也は反応できずそのまま胴体を挟まれそうになったその時矢がハサミの根本を吹き飛ばし地面にハサミが落ちる、間一髪幸也は挟まれずに済んだ
幸也はスコーピオンの速さを警戒してスコーピオンから離れる。
––正人とほぼ同時に恵梨香が魔法を発動する。
「アイススピア」
ドリルのような見た目で回転していた氷の塊がデスワームをねじり切り真っ二つにしてデスワームは討伐された。
討伐しても気を抜かず剛力と恵梨香はスコーピオンの討伐に取り掛かる。
「正人エンチャントは?」
「速度と爆発」
鼓膜が少し破れているため恵梨香に声が聞こ得ていない。
「なんて?」
「今鼓膜治しますんで少し待っててください」
事情を知った正人はハンドサインで会話をする
一方でスコーピオンの足とハサミが中から生えて来た。
(こいつ再生能力もちかよ、にしても再生て気持ち悪いな)
(再生持ちは一撃で殺さないとは死なないんだよな)
幸也は捨て身で行くことにした。剣にありったけのマナを込めてる。スコーピオンが待ってくれるはずもなく突撃してくる。
幸也は全身の力を足に貯めて本気でジャンプした。下を見ると点に見えるくらい小さく見えるその小さな的に目掛け空中で姿勢を治し頭を下にして剣を突き出し重力でそのまま下に落ちる。
ほんの数秒でスコーピオンの頭目掛け落ち堅い皮膚を貫通して頭を貫き幸也も地面に落ちた衝撃で全身骨折してしまった。
数秒が経過し幸也の怪我も全部治癒し起き上がった。面白いことに貫いた剣が地面に勇者の剣見たく刺さっていた。
(これ選ばれし物しか抜けない奴かな)
スコーピオンの上から両手で剣を握り力いっぱい引き抜こうとする。ただ刺さっていただけの剣なのですんなり抜け余分に入れてしまった力のせいで後ろにこけてしまう。
頭を押さえながら立ち上がり剣をしまいスコーピオンを観察する。
(こいつの何を持っていけば証明できるんだ?再生能力持ってるんだからどこ持っていても証明できなくね?あそこに斬られたハサミ落ちてるし)
スコーピオンの上を歩き回っていた時。
(あれ?俺が開けた穴がふさがって)
「幸也後ろ!!!!」
正人の声で咄嗟に後ろ見たがもう遅くスコーピオンの毒針が幸也の腕を貫通していた。
幸也が腕に痛みを感じ見ると矢が飛んできて幸也の腕を貫通し切断した。
脳裏に裏切りと俊の顔がチラついたが毒をこれ以上広げさせないため正人がやったのだとすぐ理解する。
理解できたのは手遅れで毒が周り全身が動かなくなってからなのだが。
毒のせいで立っていられなくなりスコーピオンの上から転げ落ち、目の前に放り出される。
(忘れてた毒は再生されないんだ)
幸也は暑さで空間が歪んで見える空を見ることしかできない。
恵梨香は魔法を放つが時間がなく威力が低い出来損ないだ、そのためスコーピオンの堅い体には効かない。
そしてスコーピオンはハサミで地面をえぐり幸也の首をぶった切った、首と胴体は分かれてしまい幸也は即死した。
スコーピオンは幸也を踏みつぶしながら最もマナ量が多い恵梨香の元へ向かう。
「あああ」
剛力は我を忘れスコーピオンに突撃する。
メイスで殴りつける、だがスコーピオンはハサミでメイスを握り折りもう一方で剛力の腕を殴りつけきる。
バキバキと音が鳴り剛力は吹き飛ばされる。
剛力には興味がないのか恵梨香の元にまた進む。
迫りくるスコーピオン恵梨香は後ずさりし躓き尻もちをつく絶体絶命の場面で死を感じ取り失禁してしまう。布の色が変わり渇き切った地面に潤いが戻った。
その時不死身の男が立ち上がる。
(この不快で二度と経験したくない感覚、また俺は死んだのか)
手をグパーする。
(動くな)
毒が抜けていることを確認するとすぐさまスコーピオンを追いかけ追いつき毒針がある尻尾を切断した。
(やっぱり死んだら力が湧き出てくるな)
追撃し頭を一刀両断する。だがまだ死んでいないのか尻尾は少しずつ再生し体も動き続ける。
その時スコーピオンが近づきながらも怯まず、ずっと力を蓄えていた正人が矢を放つ。
放たれた矢は肉をえぐりスコーピオンのコアを壊した。
ようやく再生が止まり胴体も動かなくなった。
「倒したのか?」
幸也がスコーピオンが死んでいるか確認していると正人が飛びついてきた。
「幸也生きててよかった、うー」
泣きじゃくりながら抱きしめてくる。
「俺はこのくらいじゃ死なねえよ(死んでたけど)」
「だって普通、クビ斬られたら死んだと思うだろ馬鹿、生きてんだったら生きてるって言えよ」
正人は幸也が生きているとわかって安心したが、もう一人吹き飛ばされた男を思い出しすぐさま駆けつける。
駆けつけたが腕があらぬ方向に折れて動かず倒れていた。
「剛力?おい剛力」
死んでいるか確かめるために脈を確認した。
「大丈夫だ生きてるぞ正人」
(よかった俺が死んでる間に殺されてなくて)
「本当か?」
「本当だ、けどこの状態で砂漠はきついだろうから早く帰った方がいい」
「そうだな幸也は足を持ってくれ俺は体を持つ」
幸也と正人で持ち上げようとした時剛力は意識を取り戻した。
「正人何やってるんですか?」
「剛力起きたか、大丈夫なのかお前?」
剛力は自分の状態を確認する。
「腕が折れてるだけですよそれより幸也さんは?」
「幸也ならピンピンしてるよほらそこにいるだろ」
幸也は剛力と目があい手を振る。
「よかった」
「あんなになってたのに生きてるの本当にチートだよな」
「別にいいじゃないですか、仲間なんですから」
「そうだな」
剛力を正人が支え恵梨香とスコーピオンの元へ向かう。
恵梨香を見ると異様に積まれた土の横に恥ずかしそうにスカートを隠しながら座り込んでいる。
「おい恵梨香大丈夫だったか?」
「私はだ、大丈夫だから。それよりデザートスコーピオンの解体しなさいよ私は周囲を警戒してるから」
「そうだった帰るまでが冒険だからな、帰ってから祝うか」
スコーピオンを解体し青色に輝く小さな球を取り出す。
「これがコアなのか正人?」
「そうだこれを壊せば死ぬからな、おれらの心臓みたいなもんだ。お前にもコアが入ってんじゃないか?頭斬られても死なないし」
「な!?俺頭斬られたのか!!??」
「そうですよあの時は死んでしまったのかと思いました、ほんと生きていてよかったです」
「それにしてもAランクモンスターを倒したんだよなおれら」
「そうですね色々ありましたけどね」
「よしこの調子でAランクに上がって、Sランクになってやるぜ」
三人の男たちは興奮していたが一人恵梨香だけは絶望していた。
「正人、こっちにデザートスコーピオン二体が接近してます」
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