旅立ち
二日後の朝、メイリーとの別れの挨拶を済ませ旅立ちの準備をしていた。
「金よーし、服よーし、食事よーし、装備よーし、魔法陣よーし」
引っ越しの荷物を全て確認する。
「こうも荷物が少ないと寂しいな」
ビジネスホテル暮らしのような生活を送っていたため日用品は服しかないのだ。ただバックの中に入れてしまえば荷物が多くても少なくても魔法陣の効果で全て入れられるので見た目は一緒である。
宿を十秒ほど見た後約束の場所に向かった。
––––約束の場所に着く。町から少し離れた草原そこに十台の荷馬車が遠くからも見える。
近づくとやはりデカい、八畳ほどの部屋と同じぐらいの大きさだその中に荷物がびっしり詰まっている。こんなん運べんのかと幸也は思ったが大丈夫だと確信する。少し歩いていると手綱に繋がれたユニコーンらしき一本の角が生えた馬が二頭地面に蹄を叩きつけながら堂々と立っていた。
(これ角生えてるからユニコーンなのか?だとしたら想像と全然違う)
それもそのはず四メートルはあろう巨体にボディービルダー顔負けのゴツゴツしていて引き締まった筋肉を持っていた。足は実物の三倍は太く。体に関しては人が乗れそうにはないぐらい横幅がデカい。興味本位で触ろうとすると遠くから呼び止める声が聞こえてきた。
「おいそこの兄ちゃん。後ろめたいことがあるなら近づかねぇ方がいいぞ」
もちろん幸也には後ろめたいことがあるので即座にその場から離れる。ユニコーンの顔を見てみると怒っているのか幸也のことを睨みつけている。
「ありがとうございましたあのまま触ってたらどうなっていたか」
「あのまま触ってたら兄ちゃん腹に穴開けられて死んでたぞ」
幸也の体から物凄い量の冷や汗が出てくる。
「本当にありがとうございます。それと少しの間ではありますがこの荷台の護衛をします佐藤幸也ですお願いします」
「やっぱり君が幸也君か。僕はここのリーダのローデンだよろしく」
ローデンは幸也に手を差し出しそれを見た幸也は自分の手を服で拭った後に手を握った。
「異世界人は礼儀正しい子が多いね」
少し照れる。
「そうそう真ん中の荷台に君と同じ護衛の冒険がいるから挨拶してくると言い。それじゃあね期待してるよ」
そういってローデンは荷物の確認作業に戻っていった。
五番目の荷台に着き中を覗くそこには誰から見ても高そうな宝石。大きい紙に描いてある魔法陣。幸也が聞いたことはあったが見るのは初めての魔法アイテムの数々などの高価な品物が集められていた。
見入っていた幸也の背後に首元に剣をつきつけている一人の獣人の女がいた。
「人間そこでにゃにしてる」
幸也は後ろに振り向こうとすると首筋に少し剣を刺してきた。
「イっ」
「動くにゃ、にゃにをしているのか口で説明しろ」
「にゃ!!」
首に刺さっていた剣が引き抜け後ろを振り返ると二メートル五十センチの身長とユニコーンにも引けを取らない筋肉を持つ上半身裸の大男に抱き上げられている獣娘が目に入る。
「にゃにをするガストン放せこいつ泥棒だにゃ」
抱きかかえられながら殴ったり蹴ったりしていたがガストンと呼ばれる大男はびくともしない。
「ルルフ落ち着きなさいこの人は泥棒ではありません」
「そんにゃわけにゃい、こいつ物欲しそうにゃ目で宝石をにゃがめてた」
「違いますよこの方は私達を探していただけですよ。忘れたんですかローデンさんが言ってた佐藤幸也さんですよ」
ルルフは暴れるのをやめまじまじと幸也を見つめる。幸也は恥ずかしくなり目をそらす。
「確かにこの顔は異世界人だにゃ、ガストン謝りたいから降ろすにゃ」
降ろされたルルフは幸也に近づき深々と頭を下げる。
「ごめんにゃさい、私の勘違いで傷まで負わせてしまって」
「全然大丈夫ですよ。俺が宝石に目を奪われてたのが悪いんですしルルフさんはただ仕事をしただけですよ。それにほら傷なんてないですから」
そう言って振り返り刺され治った首元を見せる。当然能力により回復しただけでちゃんと刺されていたのだがそんなことは知らないルルフは、にゃ~と言いながら口を大きく開け驚く。(かわいい)
「ぶっ刺したはずにゃのににゃんで!」
そういいながら幸也に近づき体を密着させながら首を観察する。近くで香る独特のいい匂い背中に当たる胸についてある防具の感覚、たまに足に触れる尻尾。幸也は今人生で一番幸せだ。
どうしても信じられないのか刺したはずの首をなぞるように触る。
「ふぁ」
感じてしまいつい声が出てしまう。だが今はそんなことはどうでもいいなぜなら幸也は勃起していた。
隠すため幸也は足を曲げ内またになり尻を突き出す。それを見てルルフは体調が悪いのか心配になり腹をさすろうと手を伸ばす。バレそうになり慌てて逃げようとしたが幸也の格好では逃げれるわけもなく触られそうになった瞬間ガストンがルルフを担ぎ連れて行った。
幸也は感謝の眼差しでガストンを見ると目が合いガストンは笑顔でグッドサインをする。
(この世界でも男の常識は同じなのかよ)
幸也は恥ずかしさのあまり数分の間体育座りで荷台の下に隠れていた。
荷台の確認を終えついに出発の時間が来る。一列に並び等間隔で進む、護衛のものはここで最も高価な品が乗せられている真ん中の二つの馬車にそれぞれ乗り込んだ。幸也が乗った方にはルルフとガストンが同行している。ルルフは索敵のため荷馬車の上で常に周囲を確認しているため実質的に幸也とガストンが二人きりになる。
(すごく気まずい)
幸也は社交的な会話は得意な方なので大体の人とは話すことができるがガストンの場合勃起していたことを知っている可能性があるので恥ずかしく話しかけにくかった。ガストンに関しても幸也のことを見つめるばかりで話してこない。
一時間会話もなく剣を握って後ろのユニコーンを眺めていると突如ルルフが帰って来た。
「敵か?」
ガストンが斧を持ち立ち上がる。
「ただの交代だにゃ」
それを聞いて安心したのか斧を横に置いて腰掛ける。
「どうしたんだお前が一言も喋ってにゃいとは珍しい」
「いえ幸也さんがあまりにも集中していたので邪魔しては悪いかと思いまして」
(集中してません気まずくてユニコーンを観察してただけです)
「そんにゃん当たり前だろ、なにせ五百年に一人の天才にゃんだから」
(五百年に一人の天才????)
「それにどうやったのかわからにゃいが私が刺した剣を避けやがった。しかも私が刺したと錯覚させにゃがら、あれは本物だにゃ」
「五百年に一人の天才てのはどう言ううことだ」
かっこいい称号と獣娘を前にしてかっこつけてしまう幸也。
「知らにゃいのか?冒険者にゃら誰しもが聞いたことがあるのに、まさか本人が知らにゃとは驚きにゃ。
噂だがその男は半年足らずでBランク冒険者ににゃり、その男は一回も傷を負わず、その男は全てのものを真っ二つに斬ることができる、二つ名は無傷その男のにゃは佐藤幸也。まさかそんな奴がこんなにかわいい顔だとは思わにゃかったにゃ」
「最後の奴は誇張されているが他は事実だな」
(真ん中の奴は傍から見たら事実だし問題ないよな。そんなことよりもかわいい顔だって他の奴に言われてたらキレてるけどルルフちゃんに言われると嬉しい、ウフフフ。…………ちょっと待てよほとんどの漫画だと獣人の娘は強そうな見た目の奴がタイプじゃないか。かわいいは褒められているのか?どうする幸也もし俺が考えていることが事実であるのなら俺は獣娘にはモテないじゃんか。顔に傷でもつけて少しでも迫力ある顔にするか……クソ俺の能力じゃ傷がつかないじゃないか。こんなクソチートいらねえよチェンジだチェンジ)
この会話を皮切りに気まずい空気にならずに済みました。
––––ルルフちゃん達との会話でこの世界の常識を知ることができた四か月もこの世界にいるのにまだまだ知らないことだらけだ。まずこの世界は王都を中心に六つの大きな町が作られている、北西の町リンドブルグ、北東の町エッセンコイル、東の町ランドルフ、東南の町リセリセル、俺がいた南西の町ピューレ、そして今向かっている西の町レイブス。そしてこれらの町の周りに集落や村などが形成されているらしい。
護衛対象の商人集団は王都からそれぞれの町を順番に巡り王都の品を売りさばき、特産品を王都に収集しているのだとか。
もう一つ第二の王都と呼ばれている魔族との戦争地帯に近い場所に作られた国があるらしい。最初は戦争を生業に商売をしていた者共の住処だったが、新たな魔王が生まれ戦争が激しくなる頃には拡大し国と呼べるほどの規模にまで成長したのだ。今もどんどん拡大してきていて今の王都に匹敵する可能性が出てきているのだとか。
そして俺が一番興味を引いた話は魔術師についてだ。最初は魔法使いと何が違うのか分からなかったがこの世界では全くの別物らしく、ほとんどの人間は魔術師を軽蔑の目で見ているのだとか。なぜなら魔術は魔族の使う物だからなのだ。魔法は女神マナによってこの世界に満たされた自然の力だ、人間種はマナを食事や大気から吸収して魔法を使っている。対して魔術とは魔族や悪魔が持つ生命エネルギーである魔力を使い魔法のような頂上的な力を発揮している。魔術師はマナを魔力に変えて魔族の魔法である魔術を使うためあまり人に好まれていないのだ。
情報収集とルルフの好感度上昇のために会話をしていると馬車が急に止まりその勢いで幸也は荷物にぶつかりまたその衝撃で立った。
「さすがユキヤ気づいてたのかにゃ、ガストン戦闘準備モンスター共のお出ましにゃよ」
流れに身を任せ外に出るとそこには三十体ほどのオークが大きなこん棒を持ちこちらに向かってきている。
ルルフ達のパーティーメンバーは慣れた動きで即座に陣形を組む。ガストンは前衛、ルルフは中衛、それと二刀流の短剣を構える男も前衛、魔法使いと思われる杖を持つ男と女が後衛と言ったバランスがよく見える良いメンバーだ。
幸也が熟練度が高そうなルルフのパーティーに入れるはずもなく一人で戦うことを決意する。
(数が多いとはいえたかがオークCランクレベルの相手だ絶大なレベルアップした俺の敵じゃない)
幸也はようやく自分の力を試せると思いわくわくしている。
「ユキヤ雑魚は私たちがやるにゃ、後ろにいる二頭のボスは任せた」
「了解」
ボス見ただけでわかる他のオークよりもでかく武器もこん棒ではなく大剣と大きい盾を装備している。
(あれは人間が作った武器か?まさかあいつらいや今は考えないでおこう)
何も考えずオークに物凄いスピードでオークに突っ込む。子分のオークが邪魔してきたが頭を真っ二つに斬り速度を落とすことなくボスに向かう。ボスの十メートル付近に着き飛びかかろうと足に力を入れ地面をける、すると一瞬でオークの元まで行くほどの速度で突っ込み幸也も反応することができず剣が空ぶる。
(速っや!!レベルが上がったとは言え強くなりすぎだろ。やべぇコントロール出来ねぇ)
すると幸也の速さに驚き立ち尽くしていたもう一方のオークが正気に戻り幸也に大剣を振りかざす。
気づいた幸也は咄嗟に剣を振り止めようとする。オークが持っているのは人の高さと同じくらいの大剣普通ならば剣は折れ幸也に直撃してしまう、だが今のレベルの幸也の力は凄まじく受け止めるどころか剣で弾いて大きな隙を作った。その隙を逃さず上半身を真っ二つにする。仲間を殺され激怒して正気を失ったオークが何も考えず力任で隙だらけで攻撃する。横に振りかぶった大剣をジャンプし避けそのまま顔面に剣をつき刺し殺した。
ノルマを終え暇になったのでルルフ達が戦っているオークどもを後ろから襲撃しすべて倒すことができた。
「すごいですね噂には聞いていましたがこれ程とは噂以上だ」
二刀流の男がオークの耳を集めながら話しかけてくる。
「それはそうにゃユキヤは天才にゃんだから」
「なんであなたが自慢げなんですか」
ルルフに褒められ有頂天になっていながらも照れ隠しで幸也は自分が倒したボスオークの近くにいるガストンの方に向かう。
「あぁユキヤさんこれはあなたのですよ」
オークの耳が入った袋を幸也に手渡す。
「ありがとうございます。それより何をやってるんですか?」
「神に祈ってるんですよ死んでしまったものが安らかに眠れるように」
そこにはボスオークが持っていた二本の大剣が地面に突き刺さっていた。
「オークをですか?」
「いいえ違いますオークに殺された私達と同じ冒険者をです」
(やっぱり殺した人の装備を使っていたか)
「俺も祈っていいですか?」
「もちろんですとも」
幸也は両手を重ね合わせ顔も名前も知らない冒険者を俊に重ね自らの罪を懺悔するかの如く深々と頭を下げ祈っていた。
––––その後は何事もなくレイブスに着いた。十メートルの壁に覆われている町、そして幸也の新たな物語がまた始まる。
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