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13/22

試し切り

 討伐へ行く途中、少しばかり寄り道をする。そこは幸也が激戦の末倒したジャイアントベアの死骸があるはずの場所。一日しか経っていない、だが血は黒く変色しこれが自然なのだろう、ジャイアントベアは何かに食われたのか骨だけの残骸になり果てている。


 幸也も予想はしていた。リザードを狩った時、瞬く間にモンスターに死骸を食われていたのだ。ただ諦めがつかず、現実逃避していただけだったのだ。


 しょうがないか、現状を見ると諦めがつく、いや諦めるしかないのだ。死骸を探っていても太く頑丈な骨しか出てこないのだから。だが幸也はあまり無駄なことが好きではない。せめてなにかに使えないかと牙だけは持って帰ることにした。


 何か吹っ切れたかのように異世界探索をつづけていた。涼しい風、透き通る水、見たことない魚?広大な中州、異世界はビックスケールなものばかり。アマゾン川よりもでかいんじゃねえか!?幸也はアマゾン川なんて見たことがない、それでも世界最大の川なのは有名なことだ。だがこの川に関しては違う、一見遠くから見たら日本と同じように石と砂利や砂で構成されている台地、きれいな水が流れるごく一般的な川に見えるだろう。だがまじかで見ると池と勘違いされてもおかしくないほど幅が広いのだ。


 一回やってみたかったんだよな、こんな広い川で水切り。少しだけテンションが上がり依頼のことなんて忘れたかのように遊びだす。


「石発見!」


 幸也が手に取ったのは自分の手のひらと同じサイズのあまり水切りには適さない石であった。


「ォラ」

 

 物凄いスピードで水平に進み続ける、水に触れ大きい水しぶきが出て一回跳ねまた遠くに飛び水の中に沈む。

幸也は少し動揺していた。自分の力に関してだ、プロの選手並みのアンダースローだったからだ。それもそのはずジャイアントベアを倒した時レベルが一上がっていたのだ。二レベル上がっただけでもう日本のアスリート以上の能力を有していたのだ。


 そんなことはつゆ知らず。幸也は自分の力を試そうと躍起になっていた。まずは一メートルぐらいの岩を持ち上げることにした。


「よっこらせ」


 持ち上がらなかった。

 

 次に石をどれだけ遠くに飛ばせるかやってみた。手の中にすっぽり入るちょうどいい大きさの石を握りこみ、力任せの遠投をする。角度は四十五度には程遠い二十五度ぐらいだったのだが、百メートルは飛ばすことができた時速も百五十キロ以上は出ていただろう。


「俺、強くなってる!」


 持ち上がらなかった岩のことは忘れ幸也は自分の成長を喜んでいた。


––「腹減ったな」

幸也の荷物の中には食べ物が一切入っていなかった、これは幸也が昼飯のことを考えていなかったわけではない。この世界では魔法の発展により腐らず衛生的に食べ物の持ち運びができる、そのせいか保存食の開発がされておらず、食糧を保存する魔法陣を持ってないものは食べ物の持ち運びができないのである。当然金欠で金のない幸也は買えてるはずもなく、それに加えこの世界にはどんな菌があるかも不明なため一日ぐらいなら大丈夫とはいかないのだ。


 ––少し大きな岩に座りあたりを見渡す。(それにしても討伐するまで飯抜きか、ばかやったな)


 にしても見つからないな、かなりデカいはずだからいてもすぐ見つかってもおかしくないはずなんだがな、ここにはいないのか?別の場所に移動しようとしたその時、足場が揺れ始めた。

地震か!?地面を見る。すると幸也が乗っている岩だけが動いていたのだ。慌ててジャンプし岩?から降りる。


「こんな近くにいたのかよ、ジャイアントクラブ」


 幸也が岩と思っていいたものは擬態したジャイアントクラブだった。丸まって潜んでいたのだろう。擬態を解き足とハサミを露にするとカニそのものだ、ただ日本のカニとは大きさはまるで違っていた。


「腹減ってんださっさと倒させてもらうぜ」


 ハサミで幸也のことを掴もうとする。幸也は華麗によけ足を切り落とした・・・はずだった。剣は弾かれ、手に痺れが生じた。(硬すぎるだろ!)体制を立て直すべく一時撤退する。敵は逃すはずもなく追いかけてくる。だが逃げ切れた、かなりの巨体故に動きはかなり遅かったのだ。


 どうすれば勝てる?あいつの甲羅、岩と同じ硬さだそもそも剣で岩を切ることができるのか?そもそもなんであいつがDランクなんだよ詐欺だろ、くそこんなこと考えても意味がない。幸いあいつの動きは遅い、ダメージをくらうことはないし簡単に攻撃が当たる、あいつに効く何かがあれば……ない。

俺剣しか持ってないし魔法もまだ使えない。待てよ、そういやこの剣魔法陣が描かれてるとか言ってたな。そうだよ俺これにマナを流さず使ってたんだ、そうと決まれば。


「こっちだぞカニ」

獲物を見つけ敵意むき出しでこちらに向かってくる。

遅いな、俺が行ったほうが早いか。剣に描かれた魔法陣に手を置き突っ込む。

(マナを流すマナを流す)

ジャイアントクラブは射程圏内に入った幸也目掛け二本のハサミで挟み込むように攻撃してきた

やべぇ、幸也はマナを流すことに集中していたせいで反応が遅れてしまう。

咄嗟に剣でガードしようと魔法陣から手を放し右のハサミ目掛け振る。

ゼリーでも切ったのか?あんなに硬かったはずの甲羅がこうもあっさり。幸也は油断した。大抵の生き物は自らの身体を傷つけられれば、ひるむはずなのだ。だがジャイアントクラブは違った。ハサミが切られたことなどお構いなしに幸也の足首を掴み中刷りにし、切り落とした。


「イっ!!」

地面に這いつくばり巨大なハサミが顔に向かって振り下ろされる。即座に起き上がり落とした剣を広いもう片方のハサミも切る。他の人なら死んでいただろう、だが幸也の超再生の力により痛みは一瞬にして消える、幸也もまた痛みではひるまないのだ。


 ハサミを失ったカニは無力。真っ二つにされ討伐された。


 解体作業のまっ最中、幸也は食欲と戦っていた。外見を見たら、食べられるのか?と疑問を持つモンスターだが、中身を見れば弾力がありそうな身が目に留まる。

食べたい食べたいのだが、一つ問題がある、生で食っていいのか?だめだ危険な可能性がある以上幸也は食べない。なぜここまで恐れるのか、それは幸也の実体験からだ。幸也の好物はもともと海鮮や貝類などの海の幸だった、好きなものをいっぱい食べたいのは当たり前のことだ。それに海の近くに住んでいたこともあり人より食べる機会が多かった、カキなど生で食べるとおいしいものにはリスクもあり食中毒で腹を痛めたりすることもある。だがそんなのお構いなしに幸也は食べることができていった、あることが起こるまでは。


 アニサキスだ。腹に伴う激しい痛み、自分の体内に寄生虫がいるという気持ち悪さ、激しい吐き気、それが数日間ずっと続く恐怖。この体験から幸也はトラウマを持ち、生で食べれなくなってしまったのだ。


 とは言え三大欲求の一つである食欲を我慢することができるはずもなく、幸也は食べることを決意する。(そうだこういう時こそ転移者のアドバンテージである現代知識を生かす時なのではそうと決まれば、木で火起こしだ)


 幸也は乾燥している平らな木と棒を持ってきた。よしこいつらをこすり合わせて。

十分経つが火がでる気がしない、摩擦でこすり合わせている部分は黒く変色はしていたが煙すら出てこない現状諦めるしかない。だが腹は音を鳴り続け幸也も我慢ができなくなっていた。


(トラウマ克服のチャンスだ)自分に言い聞かせ生の身を一口。

!!「うめぇ」

手が止まらないとはこのことか、とろけるような甘味、ぷりぷりの食感。幸也の人生で一番うまいカニだった。幸也の体と同じ大きさのハサミを丸まる食べつくした。


 翌朝一日中苦しんだ。

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