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SCIENCE REBOOT  作者: 水素
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8/10

Episode : 8 (Oxygen) / 醸造所

この異世界にも、ペニシリン産生菌が登場した。一方で、もはや手遅れと思えるほど、この町に肺炎が流行していた。だがユズキは希望に満ちあふれていた。


診療所の裏。顕微鏡の下に置かれた培養皿を、ユズキはじっと見つめていた。


(ユズキ)「これでペニシリンは作れる、ただ、大量に作らなければならない」


(ユズキ)「本当の戦いはここからだ、できるだけ元気な人をあつめるぞ」


この町には、何十人、何百人もの患者がいる。

聞こえてくる咳。運び込まれる患者。


(馬之助)「なにをさせるんだ?」


(ユズキ)「働いてもらう」


短い答えだった。

だが、その目には迷いがない。


(ユズキ)「方法は全部書いてある、あとは試しまくるだけだ」


ユズキは羊皮紙の束と、成功した培養皿を差し出した。

羊皮紙には、これまでの実験記録とペニシリンの抽出方法がびっしりと書かれている。

そして何より、渡された1つの培養皿が希望だった。


(ユズキ)「頼んだぞ、馬之助」


馬之助は、1枚、2枚と羊皮紙を読み、顔が引きつっていく。


(馬之助)「……これ、俺が全部やるのか?」


ユズキは診療所の方を見る。


(ユズキ)「だから人を集めて頑張ってくれ、俺はここにいないと、患者が待っている」


馬之助はしばらく黙っていた。

羊皮紙と、培養皿。そして診療所から聞こえる咳。

やがて、彼は大きく息を吐いた。


(馬之助)「……やるしかねぇな」


(馬之助)「任せろ」


ユズキがすぐに患者の方へ向かうのを見届け、馬之助は歩き出した。

馬之助は町を走り回っていた。


(馬之助)「死にたくなきゃ元気なやつは集まってくれ!」


馬之助は、醸造所ならアオカビの培養に適していると気付く。

馬之助と集まった人々は、醸造所に向かう。

歩きながら馬之助は、仕事の内容を説明していく。


(馬之助)「ここなら...」


そこは、ビールのにおいが香る醸造所。木樽の香りもある。

なんか、見覚えのある屈強な職人もいるような...


(ヒューストン)「おお、君か、来ると思ってたよ、あっはは」


(馬之助)「なんで...いるんだよ、先回りして」


(ヒューストン)「おう、酒でも飲もうかと」


馬之助はこんな時になめやがって。という顔をしていた。


(ヒューストン)「はっは、冗談だよ」


ヒューストンが羊皮紙を覗き込む。


(ヒューストン)「お前が指揮するのか?」


(馬之助)「エリンもユズキも、患者と向き合っているんだ、俺にしかできない」


ヒューストンはニヤリと笑った。


(ヒューストン)「随分と頼もしいじゃねぇか」


(ヒューストン)「なら、俺も手伝うぞ、まあそのつもりで来たんだ」


(ヒューストン)「それに、おもしろそうじゃあねぇか」


(馬之助)「……助かる」


馬之助は木樽を見上げた。

馬之助は深く息を吸った。


大容量の容器、濾過に使える布。

醸造所は、まさに "大量生産" のための設備が整えられていた。

醸造のために培われた、微生物を扱う職人たちの経験も加わる。


(馬之助)「よし、始めるぞ」


そしてすぐに、彼らは仕事を始める。

馬之助は羊皮紙を片手に、一人ずつ作業を確認して、仕事を割り振る。


木樽を洗い、瓶を洗い、ホエイをそそぎ、加熱殺菌。記録も忘れずに。

そして、大切な試料をそっと切り分けて、アオカビの部分だけを満杯の樽にいれる。

一つでも手順を間違えれば、別の菌が入り込む。


(馬之助)「その瓶、もう一回洗って!」


(村人)「え? さっき洗ったぞ?」


(馬之助)「だからもう一回!」


(村人)「そんなに必要なのか?」


(馬之助)「必要なんだよ!」


(馬之助)「汚染したら最初からやり直しなんだ!」


以前なら、こんなことを言われても馬之助には何のことか分からなかった。

今は違う。ユズキに何度も言われてきたことだ。


「条件を揃えろ」

「記録しろ」

「失敗したら、原因を探せ」


それだけは頭に叩き込んでいる。


しばらくして――


何度か夜明けを迎えた。まだ最初の木樽には、アオカビは十分に育っていなかった。


成功した培養皿から、ペニシリン産生菌を全て取り出し、5本ばかりの樽に加えた。これらの樽でアオカビが成長するまで、待たなければならない。

絶えず町の方から咳の音が聞こえてくる。ユズキも顔を見せにこない。それほど忙しいのだろう。

馬之助は木樽を見上げながら、ふと思った。


(馬之助)「間に合うのか?」


(ヒューストン)「間に合わせなければ、みんな死ぬぞ?」


(馬之助)「そうだな、よし、がんばろう」


そして馬之助たちは、アオカビからペニシリンという物質そのものを "抽出" する器具を準備し始めた。

大きな樽の隣に、いくつもの陶器の容器と布、硝子瓶が並べられている。

ヒューストンは腕を組み、それらを眺めていた。


(ヒューストン)「これで、あのカビから薬を取り出すのか?」


(馬之助)「そうらしい」


馬之助は羊皮紙を見つめる。


「培養」

「分離」

「抽出」

「精製」


そして、その横には大きく、


――条件を揃えること。


と書かれている。

馬之助はそれを指でなぞった。


(馬之助)「……ユズキのやつ、こんなところまで書いてやがる」


彼はもう、以前の馬之助ではなかった。何十回もの失敗を見てきた。


働きつめた彼らは、すっかり眠ってしまっていた――


(ヒューストン)「おい、俺たち、寝てしまってたみたいだぞ」


(馬之助)「ああ、カビは...?」


(ヒューストン)「ほら、これをみろ、気持ち悪いがな」


淡い色の液体。その内部は青緑色のアオカビで埋め尽くされていた。

これまでなら、ただの腐った液体にしか見えなかった。今は違う。

ここには、人間を救うかもしれない物質がある。


(馬之助)「……これが、薬になるんだよな」


(ヒューストン)「俺には、まだただのカビにしか見えねえが」


(馬之助)「俺だってそうだよ」


馬之助もヒューストンも少し笑った。だが、笑う暇はなかった。

アオカビや、不純物となる他の細菌・カビには多くの毒性物質が含まれるため、それにより投与しても患者の病状が悪化する可能性もある。そのため、ペニシリンの "抽出" かけてはならない工程だ。


(馬之助)「さあ、やろう」


馬之助の目にも、希望の光が宿った。

・参考文献

https://ch.nicovideo.jp/kotaku/blomaga/ar325182

https://youtu.be/YOrRQtA8BsY

https://bona-filtration.com/ja/penicillin-extraction/

https://patents.google.com/patent/JP2001521396A/ja

https://sekatsu-kagaku.sub.jp/penicillin-science.htm

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