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47話 挟み撃ち

 突然の豪雨。ほんの数メートル先も見えないほどの豪雨だ。

 ペステとダーミッツはこの気候変化を事前に予測しており、この日を帝国攻略の日としたのはこれを待っていたからだった。


「この雨が足音や鎧の音を完全に消してくれる。視界も塞いでくれる」


 アルテたちが苦労して踏破した古代の風穴から秘密裏に帝国領内へと入り込んだベリウスたちは、壁に向かって静かに進軍していた。

 本来の帝国の利用するルートからは大きくハズレた進行ルートは帝国兵に見つかる可能性は低い、ただ、壁の周囲から壁に取り付くまでの場所は当然厳しい監視下にある。

 たとえ帝国側と言っても普通に侵攻すればすぐに帝国兵の知るところとなり、壁の内部で帝国兵による包囲下に置かれ殲滅されることは疑いようもない。

 このタイミングで、この豪雨に紛れて壁に取り付き扉を開ける。

 それこそがピースメイカー軍がこの壁を突破する唯一無二の方法だ。


「信じられなかったが、本当にこんな豪雨になるとはな……」


「あの二人は天候さえも操るのでしょうか?」


「いや、過去の情報と雲と風の動きで導き出せるそうだ……わしには何がなんだか……」


「漁師や狩人などが経験で天候の変化を知ることと似たようなことなのでしょうね」


「そうだな。なんにせよ、この雨が俺等にとっての天恵であることは間違いない……

 総員! 我らの動きがすべてを決める! 覚悟を決めろ!!」


 皆、ぐっと息を呑んで覚悟を決める。

 その覚悟があるものだけがより優られた部隊だ。

 指揮するのはバーゼル。この帝国の新しい未来のために決死隊を率いている。


「行くぞ!」


 豪雨の中を兵士たちが走り出す。

 壁の兵士たちは繰り返されるアルテたちの攻撃によって完全に冷静さを失い、混乱から恐慌状態になろうとしていた。

 結果として、帝国側の警備、監視が緩みきっていたことは、帝国兵に非があるよりも、この状況を作り出したピースメイカー軍の戦略を褒めたほうが良いだろう。


 突如として現れた伏兵、しかも絶対にありえない帝国領からの奇襲。

 壁の兵士たちが為す術もなく門を開け放たれてしまったことは、仕方がないことだった。

 なだれ込むピースメイカー軍、帝国兵たちが投降するまでに時間を必要としなかった。

 難攻不落の帝国の壁の伝説が、この瞬間に終わりを告げるのであった……


「バーゼル! よくやってくれた」


「アルテ様、少々拍子抜けなほどあっさりとうまくいきました」


「バーゼル殿、そのために準備に準備を重ねてきた結果ですよ」


「そうでしたなペステ殿、草むらに伏せているとき雨がふらなければどうするのだろうと悩んだものです」


「なんにせよ、壁を超えた。大きな壁を……」


 ファーンの言葉がピースメイカー軍の皆が思っていたことを代弁していた。

 帝国の壁を超える、帝国で生まれたものならそれがどんな困難な道程であるかを嫌という程理解している。過去の歴史、一度たりとも壁を破ったものはいなかった。

 それを自分たちが成し遂げたのだ。


「喜んでばかりもいられないぜ、これからが始まりだ……」


 マギウスの言葉は紛れもない事実だ。これから先は完全な敵地の侵攻になる。

 しかも、今までのようにしっかりと敵地を抑えながらの着実な侵攻をしている暇はない。

 不穏な気配が帝都方向からビリビリと伝わってくることをアルテたちは感じていた。

 急がなければいけない……確信にもにた予感を皆が持っていた。


 ピースメイカー軍が帝国の壁を突破した報は、帝都に激震を起こした。

 貴族たちは慌てふためき、平民も古い体制を壊されることに恐怖を覚えていた。

 それほどに帝都の人々は、()()()なのだ生粋の……


 そういった点からもピースメイカー軍の進軍は今までは全く異なるものになる。

 今までは解放された平民に歓迎されていた進軍が、自分たちの生活を壊しに来る軍隊へと変わってしまったのだ。

 そして、貴族に仕える兵士たちも自分たちが甘い汁を吸える場所を壊しに来るピースメイカー軍に対して必死の抵抗を行ってくる。

 それは、アルテたちからすれば狂っていると見えるが、あまりにも狂騒的に攻撃してくる軍と何度かの戦闘を終えた頃に、生粋の帝国人であることの恐ろしさを知ることになる。


「ピースメイカー軍に渡すくらいなら、すべて火をつけて破壊してしまえ!」


 ある町の貴族は、自らの街に火を放ち、大量の人間を巻き込んで自殺した……

 ピースメイカー軍に捉えられると想像できないほどの酷い目に遭う。

 壁の外なら一笑に伏されるような話も、中の人間たちは情報というものが無いために信じてしまう有様であった。

 占領した街でもレジスタンスによるゲリラ的な抵抗を受けることもあった。

 ピースメイカー軍の進軍は、想像以上に困難を極めるのだった……


「どうしてわかってくれないんだ……」


「くそっ! あいつら表ではペコペコしてたくせに裏返せばレジスタンス支援の中心じゃねーか!」


 将も兵もその状況に疲弊していくのは仕方がないことだった。

 ペステも様々な方法で情報操作などを試みたが、帝国の奥深くに生活していた人間の思考は、異常なほどべっとりと凝り固まっておりなかなかうまくいかないことが原因だった。

 その原因の一つに黒の勢力が関わっていることは間違いない、ペステはそう考えていた。

 帝国の地下にうごめく黒い意思によって人々の思考が鈍り凝り固まっていた。

 しかし、現状ではその解決は難しく、ピースメイカー軍は侵攻速度を落とさざるを得なく、苛立ちと焦りに包まれ始めていた。

 

 そんなピースメイカー軍の前に、帝国の中心戦力の一部が向かってきている報がもたらされた……

 

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