45話 終局への初手
珍しいことに、ウォルがドラゴンの亡骸を漁っている。
「どうしたのウォル?」
ウォルはドラゴンの亡骸から美しい魔石を探し出す。
そしてそのままごくんと飲み込んだ。
「え? 大丈夫あんな大きいの……」
「ゲフッ!」
ウォルが魔石を飲み込むと、ドラゴンは灰となって消えていった。周囲にあったリザードの亡骸も同じように消えていく……
「おい! 奥がすげーぞ!」
マギウスが通路の先からアルテたちを呼んでいる。
どうやら通路の下り道はこの先で終わっており、そこがホール状になっている部屋が存在した。
「これは……ドラゴンの宝か……」
ドラゴンは宝を集めると言われている。
あの変わり果ててしまったドラゴンが古き時代に集めた宝が、部屋の半分ほどを埋め尽くしていた。
「これは……見たこともない術式が施されているわね……
相当昔の物みたいよ……」
「部屋全体に状態保存の仕掛けでもあるのか?
チリ一つない……」
ペステやファーンが興味深そうに周囲を探索し始める。
「皆、探索は後回しじゃ、今はまず、この風穴を抜けないといかん」
「そうね、バーゼル候のおっしゃる通りだわ」
「し、失礼した」
「でも、ちょっと休もう。流石にドラゴン相手は疲れたよ」
アルテは背伸びをするようにおどけてみせる。
「ふむ、それもそうじゃの……儂も、疲れたわい……」
「準備しますね」
ペステがファーンやマギウスとキャンプの準備を手早くしていく。
すぐに火が起こされていい香りがあたりに立ち込める。
手早くできる簡単な軽食とスープが準備された。
「はぁーーー……旨いな」
「ああ、身体に染みわたる」
未知の存在との戦闘はいつの間にか皆の精神をすり減らしていた。
ひとときの休息は想像以上に全員の心を解してくれた。
結局その場で仮眠と休憩を取ることになった。
交替で見張りを立てながらの休憩だが、ドラゴンの宝の性か魔物が近づくことは全員がしっかりと休めるまで起こらずに済んだ。
緊張をほぐし、疲労が抜けた一同はドラゴンという強敵を倒したことにより、その後の探索はスムーズに進む。
どうやらこの風穴の底はドラゴンの宝の部屋だったようで、そこからはなだらかな上り坂、途中幾度となく魔物達に襲われたが、今のアルテたちの敵とはなり得なかった。
「扉だ! 扉があるぞ!」
終盤になると坂の傾斜も緩やかになってほぼ平地となっていた。
扉は入り口と同じように巨大な、そして様々な意向が施されている。
考古学的価値は同等と見ていいだろう。
アルテとウォルは静かに前に進み扉に手をかざす。
ふわっと光を放つ扉は、音もなく開いていく、その隙間から蔦などの植物が洞窟内に落ち込んでくる。
どうやら帝国領側の扉は鬱蒼と茂った森の奥深くに位置しているようだった。
扉が開ききると、何とも心地の良い風が風穴内に流れ込んでくることがわかる。
アルテとウォルは感じていた。
風穴内の停滞した重い空気が、この爽やかな風によって払われていったことを……
周囲に注意を払いながらも草木を刈り取り、情報を収集する。
「どうやら帝国側にこの場所が知られている可能性はありませんね」
「長年人が入った形跡はないようじゃの」
「具体的な位置関係を把握するのはまたにして、まずはこの通路の開通を知らせなければいけませんね」
「わしとペステ殿でこの地は確保しておこう、残りはアルテ様とピースメイカー軍に知らせに行くのがよかろう」
「そうですね、ついでに出来る限り周囲の状況を把握して、部下が来れば引き継ぎます」
「ファーンとマギウスも残ってよ、僕はウォルと一気に風穴を抜けて皆に知らせてくる。
ウォルが3時間で往復するって張り切ってるから」
「なんと……いや、流石にそれはついていけない……」
「ウォル、頼んだぜ!」
「ウォン!!」
任されたと胸を張る。
「中にはまだ魔物も残っているかもしれない、気をつけてくださいねアルテ様」
「うーん、もう大丈夫じゃないかな? 風の風穴は本来の姿を取り戻したよ」
「アルテ様がそうおっしゃるのならそうなのですね」
「それじゃあ、行ってくる!」
ウォルに跨ると風のように風穴に飛び込んでいく。
ウォルは事実風に乗って風穴の壁面を爆走する。
「うおおおお! 凄い! 疾いーーー!!」
風穴にアルテの楽しそうな声が響き渡る。
アルテの言う通り、風穴内の暗い雰囲気は一掃され、心地の良い風が抜けていた。
風となったウォルはあっという間にピースメイカー領側の入り口にたどり着く。
「ただいまー。あっちに抜けられるよー」
「アルテ様! ウォル様!」
待機していた兵士たちが二人を迎える。
こちら側の出口周囲には簡単な拠点が構築されていた。
アルテは状況説明を行ってすぐに信用できる兵と共に風穴を戻る。
兵士たちはアルテに導かれながら風穴を駆け抜けることになったが、心地よい風が不思議と疲労を感じさせなかった。
兵たちが帝国側に到着すると、やることは山ほどあった。
帝国側周囲への監視や地形の把握、この風穴を利用した帝国本土への作戦立案。
アルテたちの動きは、すでに止まることを許さず、まるで怒涛のように流れ始めるのであった。




