44話 ドラゴンバスター
「こんな奴らが外に出ていたら大惨事だな……」
「そうですね、アルテ様とウォル様の加護のある私たち以外、相手に出来る者はいないでしょう……」
「しかし、先ほどの軍勢を倒してからは静かな物じゃのぉ」
「ウォルの鼻にも引っかからないから、しばらくは安心して進めると思うよ」
「いやー、これだけの魔石があれば実験がさらに進められるます」
「母さんもほどほどにね」
「貴方に言われたくないんですけど、育ての母親様にも私もお会いしたいわ……」
「とりあえず、時間は有限。進める時に進むのじゃ」
再び無音の洞窟に戻る風穴、口には出さないが、全員、アルテとウォル以外は先ほどの戦闘の感覚を思い出していた。
明らかな身体能力の向上、それも鍛錬などというレベルの話ではない、まさに別次元の力だった。
外の魔獣と同じく別次元な闇の勢力に対抗するには必須であろう力、そしてそれを生み出していたのは間違いなくアルテだった。
やはり、アルテの存在はこの世界のおける希望の光で守らねばならない。
皆の意思がより一層に固まっていくことになった。
「ウォフ!」
しばらく洞窟を進んでいくと通路がカーブしながら下って行く形に変ってきた。
その変化と同時にウィルが皆に警戒を促す。
程なくして敵の一団と接敵する。先ほどの軍ほどではないが、数の上では敵が多い。
異様な姿だが、ベースはゴブリンやオーガ、キラーベアなど既存の魔物が変貌している。
しかし、その能力は既存の魔物の比ではないほどに強力だ、アルテ一団も強化こそされているが、一瞬の気も抜けない。確実に前の軍の敵よりも個体の能力が高かった。
それでもアルテたちパーティとしての強さが上回る。
その後も強力な敵と対峙するが、まるでそれに呼応するかのようにアルテたちの光の力も強まっていくことを感じていた。
「随分と深くへ来ましたね。なんていうか、空気が重い……」
ファーンの言う通り、空気がまるでまとわりついてくるかのようにアルテたちの足取りを重くさせる。
もしもこの場に光の加護のない人間がいたら、生気を奪われ命を落としていただろう。
すでに闇の眷属の境界に足を踏み入れているのであった。
「うーーーー……」
ウォルがうなりを上げて警戒心を強めていく、気色の悪い重い空気が一層濃いエリア、そこから巨大な影が這いずりだしてくる。
「こ、これは……ドラゴン……?」
威風堂々とした竜種とはかけ離れ、身体の様々な部位が黒く変色し、目はギラギラと赤く光っており、よだれを垂らしながらギョロギョロと周囲を見回している。落ち着きがなく常に何かに怯えるように動き回る姿は、ドラゴンというよりトカゲのその動きに近いように見える。
その周囲にも小型の竜種であるリザードを伴っている。皆一様に赤い目が印象的だ。
「流石にドラゴンと戦ったことは無いのぉ……」
「ドラゴンスレイヤーになるチャンスだなじー様」
「倒せれば……な」
「しかし、道は一本道。やるしかないんでしょうね」
「ウォルがあいつがこの道の元凶って言っている。倒すしかない」
「リザードは見えてるだけでも30、アレの生態的にかなりの数が予想される。
皆、囲まれないように注意してね」
「この地形を利用して敵を背後に回らせないようにせねばならんのぉ……」
「僕たちが横に布陣して、ペステが後ろからサポートかな」
「弓引きの陣……そうじゃな、さすがはアルテ殿」
「ファーン、抜かれるなよ?」
「マギウスの方が雑なんですから心配です」
「ペステ、もしかしたら効果あるかもしれないからアレ使っていこう。皆は防寒大丈夫だよね?」
全員魔石を利用した防御機構が備わっている。
アルテが言ったアレとは周囲の温度を急激に冷やす魔道具で、一般的にドラゴンは種類によるが、リザードなどは寒さに弱いというのが定説だった。
「いくよ!」
物陰から一気に飛び出して布陣すると同時にペステが魔道具を効率的な場所へと投げ込む。
起動すると同時に急速に気温が下がってアルテたちの吐く息が白くなる。
冷気を停滞させる機構もあるために、装置の周囲の空気が効率的に、そして急速に冷やされる。
「グアアアアァァァァァ!!」
突然の敵の出現に神経質そうなドラゴンは怒りの雄たけびを上げる。
取り巻きのリザードたちもギャァギャァと騒ぎ立てる。
そして、リザードたちが先兵のように押し寄せてくる。
やはり予想通りにドラゴンの鳴き声に呼応して、さらに多くのリザードが道の奥から這い出してきた。
冷気の効果はそれほど時間を置かずに現れてきた。周囲のリザード動きが明らかに鈍くなってきた。
「しっかりリザードを減らしておきましょう」
「あのでかブツは元気いっぱいだからな!」
邪魔くさいリザードの数をどんどん減らしていく、ドラゴンはアルテ、バージル、ウォルが中心になって引き付けている。巨体を振り回す攻撃は味方であるはずのリザードもお構いなしに風穴の壁面に叩きつける。バージルはドラゴンの攻撃を見事に大楯で受け切る。アルテもウォルのスピードはドラゴンを上回り全ての攻撃を華麗にかわす。
アルテの剛力はさらに磨きがかかっており、その一撃はドラゴンの分厚い鱗をも叩き壊していく。
ウォルの体が風のようにドラゴンを掠めると、一文字に鮮血が迸る。
漆黒の部位と自身の大量の血液が、ドラゴンの体を染め上げていった。
リザードが片付き、全員でドラゴンとの戦いに集中すれば、ダメージは対数的に上昇していく。
元は誇り高きドラゴンだったのかもしれないが、闇にとらわれ、光によって討ち滅ぼされるのであった……




