37話 決着、サーザランドの戦い
ゴーガイアム陣営は混乱の極みに達していた。
突然陣内に火の手が上がり、味方同士が争い始めたのだ。
陣の扉は打ち壊され、兵站は燃え盛る。
「早く消せ! 食糧が無くなるぞ!
ええい、裏切者!? 奴隷どもが裏切るはずがない! 正規軍か!?」
様々な情報が無作為に飛び交い、完全に疑心暗鬼。
混乱は収まるどころかさらに悪化していく。
「魔紋師ども、奴隷を全て殺せ。
ひとまずそれで一部の火種は収まる」
「し、しかしゴーガイアム様! まだ奴隷が関係するとは……」
「ええい、うるさい!! どうせ何の役にも立たないんだ、せめて邪魔だけはさせるな!!」
「くっ……魔紋師に伝えよ、奴隷紋を発動させろと!」
「……ははっ……!」
この時、陣の内部に飛び込んでくる影があった。
その影は俊敏な獣に跨り、陣の中央に堂々と立つと手を天に掲げて叫んだ。
「奴隷たちよ!! 紋から解き放たれ、自由を手に入れよ!!」
その腕から発せられた光が陣の中を明るく映し出す。
その光に陣内の兵士たちは争う手を止めて魅入ってしまう。
「皆の大事な人たちはちゃんと助けて安全な場所に避難させている。
戦いたくない物は逃げろ。意味のない戦いを止めるんだ!」
「……本当だったんだ! マルスの言う通り!」
「俺の奴隷紋も消えたぞ!!」
「さ、騒ぐな! 何が起きている!?」
いたるところで混乱は続いている。特にゴーガイアム正規軍、生え抜きの兵士たちは状況を把握できずにいた。
「どうした!? さっさと奴隷を殺せ!
そうだ、人質もここに連れてこい! あいつらを見せればキリキリ戦うだろ!」
「そ、それがすでに呪紋は発動しているはずなのですが……」
「しょ、将軍! すでに陣内にピースメイカー軍がなだれ込んできております!」
「な、なにぃ!?」
「見張りはどうした!?」
「どうやら混乱の最中に発見と対応が遅れたようで……敵はすぐ側まで迫っております!」
「くそ!! 俺は引く! お前らは死ぬ気で奴らを足止めしろ!!」
ゴーガイアムはすぐにテントの裏口から外に出て陣を捨てる決断をする。
先ほどまでの怒りに任せて愚かな選択は取らないあたりは、無能な章ではない。
「どうした!? 馬は!? 馬をよこせ!!」
「残念ながら、あんたの馬は来ないぜ!」
ヒュン、とゴーガイアムの目前を剣先が掠める。わずかのところで倒れこむようにその剣戟を回避するゴーガイアム。
「ほう、今のを躱すか……将の看板は伊達ではないな」
「何者だ!!」
「ピースメイカー軍マギウス。将軍の身柄、押えさせていただく!」
「若造が……俺を捉えるだと!?
ほざくなぁ!!」
ゴーガイアムは手勢の兵から自らの槍を奪い取りマギウスに振り下ろす。
凄まじい音ともに、マギウスの立っていた場所が槍によって大きくえぐられる。
その音で呆けていた護衛の兵も武器を抜いてマギウスを囲むように陣取っていく。
「マギウス! 無茶するな!」
「いやー、アルテ様にだけは言われたくありませんぜ」
「あちらはファーンが来てくれた。あとはゴーガイアム将軍、貴方を押えるだけだ!」
「き、貴様が! 貴様のような若造が!
この俺に、こんな目に合わせたのか!!」
「貴様が散々犯してきた狼藉のツケを払ってもらう!」
アルテはウォルに跨り一気にゴーガイアムに隣接し、自らの得物を叩きつける。
すさまじい金属音が周囲に響き、ゴーガイアムはその手に響く衝撃に顔をゆがめる。
「ぐぬぬぬ!! 若造が!! 何をしている! 殺せ! 殺せ―――!!」
ゴーガイアム将軍の怒号に兵士たちはハッと我に返ってマギウスとアルテに襲い掛かる。
二人とも難なくその攻撃をいなしながらも将軍の逃げ道を塞いで立ち回る。
「うおおお!!」
一人の兵士がマギウスに果敢に突っ込んでいく、その決死の一撃もマギウスは見事に凌いでいく。
「マギウス!!」
アルテが叫ぶ。次の瞬間、マギウスの目の前に血しぶきが上がり、マギウスの間近を槍の穂先が通過していった。
まさに今向かってきた兵士のわき腹が味方である将軍の槍によって切り裂かれていた。
「目隠しにもならんのか! 役立たずが!!」
「き、貴様!!」
マギウスの表情が憤怒に変る。しかし次の瞬間、その場の空気が凍り付く。
「下郎が……っ!!」
バチバチと青い雷を身にまとったアルテが神速の速さで将軍の懐に潜り込み、槍を持つ両手を薙ぎ払った。本来曲がるべきか所でない部分がぐしゃりとゆがみ、手に持つ槍も地面に落とす。
「な、なんだ、ぐわっ……腕が、うでがぁ!!」
突然のことに自らの腕の痛みを刹那忘れてしまうほど、アルテは速かった。
周囲の兵士はアルテの様子にしりもちをついて戦意を消失してしまう。
「アルテ様……これ程とは……」
傍に立つマギウスもその覇気に当てられ頬に冷たい物が流れていく。
「死ね……」
静かに将軍の前に立って獲物を振り下ろすアルテ。
「ウォン!!」
呆けた顔の将軍の顔の一寸手前でアルテの武器が止まる。
ウォルのひと鳴きで、アルテの手が将軍の血で染まることを防いでくれたのだ。
「……ありがとうウォル。マギウス、ゴーガイアム将軍を捕らえて、全軍に通達。
僕たちの勝利だ!!」
「ははっ!!」
「ゴーガイアム将軍を捕らえたぞー!!」
「ピースメイカー軍の勝利だー!!」
マギウスの兵たちが勝鬨を上げる。その声にゴーガイアム軍は最後の気力を失い、力なくその場にへたり込んでいく。
こうして、ピースメイカー軍とゴーガイアム軍との激突、サーザランドの戦いは幕を落としたのであった。




