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31話 仕掛けられた罠

 戦いはピースメイカー軍の勝利で終わった。

 そして、戦争である以上犠牲者は出る。

 アルテは戦没者達を丁寧に祀り哀悼の意を示す。


「……辛いね……やっぱり……」


 アルテは立つと決め、決意もしたつもりだったが、自分の取った行動によって人が死ぬことはつらかった。

 自分自身の手で敵兵を殺すことも、簡単に割り切れることではなかったし、自害した敵の幹部への怒りも完全には無くすことが出来なかった。

 アルテ自身はその心の痛みを生涯大切にしていたという。

 

 式典は滞りなく終わり、アルテは休む間もなく多くの貴族たちと面会をこなしていかなければならなかった。血と熱が入り混じる戦場とは、別の、知と思惑が入り混じる戦場に立たねばならなかった。


「その要望には応えられません。我々の目標はあくまでも偽皇帝から帝国を国民のために取り戻す事。

 貴族の身分を取り戻すために立ち上がったわけではありません。

 その後の身分保障を保障することは時期尚早ですし、そういったものがなければ帝国、いや人民のために立てないのならば、我らとともに歩むことは難しいと思います」


 アルテの能力は策略謀略渦巻く貴族の世界でもいかんなく発揮される。

 直感的な真贋の見極め、そして、青いと言われても仕方がないほどの理想論。

 この二つの柱によって支えられるアルテの言葉は、うわべだけすり寄り、自らの立場を守りたいだけの貴族たちをコテンパンにしていくのであった。

 もちろんペステが控えているのでいいように主導権を取られることは無いと皆思っていたが、アルテ自身の人の上に立つべき人物が持つ能力の高さは皆の予想の上をいっていた。

 ウォルとアルテはあいさつに訪れた貴族を一瞥するだけで、どういった手合いの者か理解していた。

 もちろん私利私欲から立ち上がった小物だけではなく、現帝国では冷遇されているが、持つべきものの義務をしっかりと理解している貴族の誇りを大事にしている素晴らしい人物とも出会うことが出来た。


「アルテ様、こうしてお会いできる日を楽しみにしておりました」


「アルテ様より贈られた書面をみて、年甲斐もなく奮い立ちましたぞ」


 アイスバーグ、ドラグガフト両家はその信念と能力でピースメイカー軍の国家運用に大きく寄与してくれた。逃亡者たちの集団が、国として機能し始めて来ていた。

 もちろん何もかもが順調なわけではない、帝国軍側もアルテたちの行動を黙って見ているわけではない。ペステの子飼いの精鋭がいなければ何度となく暗殺者がアルテたちを襲っていたし、輸送線を狙ってゲリラ的な襲撃を仕掛けてくる賊の中には明らかに帝国側の差し金である場合も多く、それらの警護兵を割かなければならなかったりと、日々忙しく政務に軍務に励んでいく。

 そんな中、大きな軍事行動の兆しがあることをペステ達がつかんだのであった。


「アルテ様、ヴァジル軍に動きがあった模様です。北部のアイスバーグ様の領土と、南部の中立を掲げているサーザランド辺境伯領を攻めるようです」


「中立の貴族を攻めて自分たちに引き込むつもりか?

 そんなことをすれば他の中立軍がこちらにつくだろうに……」


 マギウスの疑問も最もだった。中立の立場を表明している貴族たちにはアピースメイカー軍は武力による協力要請のような愚かなことはしなかった、あくまでも現状を訴え、協力をお願いする。たとえ協力を取り付けられなくとも経済的な協力は惜しまずに誠意だけを見せていた。

 そんな中での帝国の方法は下策も下策と言っていい。


「この行軍を無視すれば中立軍は我らに義なしとする可能性も、罠かと……」


 ファーンが口にするまでもなく、全員がそう考えていた。確信に近い想いで。


「アイスバーグ領はアイスバーグ様を中心に防衛隊を派遣することは当然として、南部をどう扱うか……」


「それぞれの兵数はどうなっておるのかのぉ?」


 ベリオンとヴァーゼルの問いにペステが地図の上に駒のようなものを置きながら説明する。


「北軍1万、南軍8000。サーザランド辺境伯の私兵は2000ですから、蹂躙されてしまうでしょうね。

 北軍を率いるのは冷将ケッサルバイク。南軍は……蛮族ゴーガイアム……」


「な、虐殺略奪将軍ゴーガイアム……帝国はサーザランド領を廃墟にするつもりか!」


「だから、なおのこと罠なんでしょうね」


「罠であることを強調させつつ、見過ごすわけにもいかない。なかなか厄介ですね」


「しかし、罠といってもどんな手を打つのか……」


「ペステ殿、なにか掴んでおられますか?」


「最近暗部からのちょっかいが多くて、広域の情報収集が難しくなってるの、たぶんこれもこの行動の一環になっていると思う。かなり大規模な、用意周到な罠が待っていると考えていいと思うわ」


「悩んでも仕方ないでしょ、アルテは行くんだから」


 ちょうど夕食を運んできたカイラが各将の悩みをあっさりと蹴っ飛ばしてしまう。

 アルテがこの南部の領を守らないという選択肢はないのだ。

 行くか行かないかの議論をしても無駄だ。そうカイラは結論づけた、そして実際にその通りだ。


「そうだね、カイラの言う通り。南部の民を守らなければ僕たちの存在意義が無くなってしまう」


「ウォフ」


「わかりました。兵の調整は私とヴァーゼル殿で話し合います。アルテ様、今回の戦いでは絶対に一人で先行などなさらぬように。マギウス、ファーン。両名にはアルテ様の護衛を受け持ってもらう。

 もし万が一アルテ様に何かあった場合己らの命を持って償ってもらうと知れ」


「はは!」


「ははー!」


「ベリオン殿も息子の扱い方を学びましたね」


 ペステの言葉にベリオンはにやりと笑う。

 どう言ってもアルテの突進癖はなかなか収められない。

 しかし、マギウス、ファーンの命がかかっていれば、アルテは突進はしない。

 自分自身の身の危険よりも、臣下の身を案じてしまう。アルテの性格をよく理解した命令であったと後の書にも記されるのであった。


 こうして、後にサーザランドの戦いと呼ばれる一大決戦の火ぶたが切って落とされたのであった。



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