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30話 決着と暗雲

 すでに民兵たちは後方の陣へと引いている。

 勝利に浮かれた正規兵およそ2000は現在ピースメイカー軍に完全に包囲されている。


「な、何が起きた!? なぜ兵が戻ってこない?」


「奴らは帰ってきませんよ、傭兵を信用なさるから……」


「わ、ワシらはヴァルゼン侯爵の兵なるぞ! 帝国に弓引くつもりか!?

 ヴァルトジーク様の甥だぞ!? わかっているのか?」


 敵将と思わしき人物はみっともなく慌ててべらべらと話している。


「アルテ様が開戦前に話したろ? 聞いていなかったのか?」


「お、おのれあのような世迷言……皆の者反撃じゃ!! 包囲を破って脱出ッ」


 ようやく絞り出した指令に兵士も勢いづかんとしたが、マギウスの大剣が上司を真っ二つにしたのを見て最後の気持ちがへし折れてしまう者も出る。


「アルテ様は寛大なご処置をされます。無益な抵抗をせずに降伏をお勧めしますが?」


「む、無理だ! ヴァルゼン様に殺される! やるしかないんだよ!!」


「無謀と勇敢は別なのだが……」


 ファーンの一突きが敵兵の胸板を貫く。

 音もなく抜かれる槍、崩れ落ちる兵。

 しかし、この兵のおかげで敵兵の反抗心に火がついてしまう。

 ヴァルゼンによる恐怖支配の火種と言ったほうが正しいのかもしれない。


「総員、かかれぇ!!」


 ベリオンの号令で一斉戦闘が開始される。

 包囲下という圧倒的不利な状況から、狂乱のような戦闘が開始される。

 ピースメイカー軍はゆっくりと、確実に包囲を縮めていく。

 

「ウォル! ヴァルゼンを探すよ!!」


「アルテ様!! また!! いけません!!」


 アルテが敵の集団にウォルにまたがり突撃してしまう。

 敵の総大将による一騎駆け、絶好の機会と敵兵が殺到する。

 しかし、アルテの持つ手甲は周囲の敵兵を蹴散らしていく。

 中央部にいる一段と豪勢な装備を身に着けた男にむかって真っすぐと突撃していく。

 誰も止めることは出来ない。そして、誰もついていけない……


「お前がウォルゼンか!?」


「くっくっく、ウォルゼン様がこんな戦に出てくるはずが無いだろう?

 貴様がアルテか、ふん……このような若造に我らは敗れたのか……」


 ウォルゼンが戦場に来ないことも織り込み済みだった。

 

「ヴァルトジーク様万歳!!」


 その男は懐から小瓶を取り出し飲み込む、すると突然業火が肉体を燃やしていく、同時にアルテを囲うように何人かの人間が同じように火柱に代わる。


「ウォフ!!」


「ちいっ!!」


 完全に周囲を火に囲まれてしまう。


「フハハハハ、先に逝っているぞ小僧!! フハハハハハハハ」


 アルテはウォルから降りると大地に向かい構えを取る。


「バカヤローーーー!!!!」


 ウォルはその場で空に飛び上がり、アルテは大地を叩きつける。

 大地は裂け、大量の土砂が爆発するようにアルテの前方に降り注ぐ、火柱の一端が土砂によって鎮火される。ウォルが着地するとアルテは再びまたがり、その火の切れ目から脱出する。

 火柱から銀狼にまたがった青年が脱出し、自らの敗北を悟った兵士たちは、皆、自害して果てた……


「……あまり気分のいい勝ち方ではないですな」


「うん……」


 その後、民兵たちの家族が無事に保護された知らせと共にペステが戻ってくる。

 陣に残っていた民兵や一部の兵士はその知らせを聞いて投降した。

 こうして、ウォルゼン軍とピースメイカー軍の戦闘は圧倒的勝利で終わることが出来た。

 この戦いは、帝国内に大いなる衝撃を与え、貴族の動向も激しくなっていく。


「ドラグガフト家、アイスバーグ家の支持表明で一気に流れが来ましたね。

 旧帝国派に加えて中立派だった者たちも協力、もしくは敵対しないことを約束してくれています」


「しかし、思ったよりも現皇帝につくものが多いのは意外でした……」


「威張り散らすことへの快感を知ってしまったから、じゃねーのかね」


「それも一理ある。それ以上に怖いんでしょうね皇帝がというより、ヴァルトジークが……」


「理ではなく。皇帝に仕えるのが貴族の務め。という方もいらっしゃいます。

 オーデラント公爵などはその口でしょう。大変な名君で帝国の片翼を担うと言っても過言ではないお方です。口うるさく陛下の施政に口出しして今は辺境に移動させられましたが、たぶん、最強の敵となるでしょう」


「あまり時間をかけると諸外国に目をつけられてしまうのも厳しいところですね。

 ヴァルトジークが台頭してからただでさえ外国への対応は悪手続きですから……」


「ヴァルトジーク公、実は私たちでもつかめない面が多い謎の多い人間なのよね……」


 歴史としては古い歴史を持つヴァルトジーク家、しかし、こんな表舞台に立つような家ではなく、ひっそりと地方を治めていた中堅貴族に過ぎなかったはずだった。

 それが近代になって急激に領土を成長させ、経済的、軍事的に台頭し始めて、ついには皇帝陛下の側室に入り込むほどになった。

 異常な出世ではあったが、その謎はペステ達でもつかむことが出来なかった。

 噂では他国からの支援を受けているなんて話もあったが、その尻尾の気配さえも見つけられなかったそうだ。


 こうして帝国を二分する内紛はアルテ率いるピースメイカー軍と現帝国軍とで完全な敵対状態になる。

 


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