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32話 統一規格

「なるほどな……アルテ様、敵の陣営の一部は犯罪奴隷で構成されています。

 しかも、戦闘になれば……狂戦士バーサーカー化される、使い捨てですね」


 ペステの手の者からの情報をマギウスが目を通していた。

 アルテ、マギウス、ファーンを中心とした部隊はすぐに編成され、南部の町サーザランドへ向けられた。

 その道中で先行している諜報部隊から情報が挙げられてきている。


「やつら、道中の町や村を文字通り蹂躙しながら進んでやがる……」


 その報告の内容は凄惨を極めていた。

 敵将ゴーガイアムは俗称略奪将軍の名に恥じない残虐の限りを尽くしながら侵攻している。

 その内容を聞きアルテは拳を震わせているが、これを防ぐ手立てはない。

 せめて最大の規模を誇るサーザランド防衛に急ぐしかない、多少の救いになったのは事前にペステの配下たちがゴーガイアム軍のルート上の村や町に声をかけており、一部の人民はピースメイカー軍の保護下に入って移動中であるということだった。


「せめてその人たちには十分な警護を回してあげよう」


「しかし、アルテ様敵軍は精強、これ以上本隊から割くわけには……」


「ファーン、それなら手は打ってある。傭兵時代のつてを使って、信用できる一団を雇い入れた。

 すでにペステ殿を通じて我らの後詰として寄せてきているようなので、そちらに協力を仰ぐよう使いを走らせている。きちんと筋を通す男が隊長で、信頼できる」


「ありがとうマギウス」


「アルテ様、このままいけばゴーガイアム軍到着の3日前に街へと到着できますが……

 街へ入らずに手前に布陣されたほうがいいと思います。

 確実に町の人々を犠牲にして敵は攻めてくるでしょうから、不完全な防備になりますが、それでも野戦を挑むべきと思います」


 正確な地図の上に両軍の位置と周囲の状況が石彫りの駒であらわされている。

 敵軍の足は襲撃略奪によって時間をかけているために、なんとか先行できそうな位置関係になっているが、時間的な余裕はなかった。

 本来なら数で劣るピースメイカー軍は、街を守る防壁などを利用しての籠城戦にした方が被害は少なく済むかもしれないが、敵の陣容を考えると町への被害が甚大になることは疑いようもなかった。


「陣地作成はうちらの得意とするところ!

 一晩でそれなりの物を作ってやるぜ!」


「アルテが日々コツコツ準備していたものが役に立つな、俺はせいぜい旨い物でも作ってみんなの英気を養うぜ!」


 カイラの言葉に外で会話に聞き耳を立てていた兵士達から歓声が上がる。

 カイラの作る食事は戦場にいることを忘れさせてくれるほど兵士たちにとっては楽しみだった。

 味だけではなく、代謝を高め、皆の英気を高めてくれる。

 こと食事に関してはピースメイカー軍はこの世界で一番と断言できる。


「とにかく、無理せず急ごう。それが最善だ」


 今回は厳しくとがめられているので猪突猛進は封印している。

 アルテが人の上に立つことの意味も考えさせられる戦いになっていた。

 その後、ピースメイカー軍は予定通りゴーガイアム軍より早く街の手前10キロほどの草原に陣を形成する。


 すでに加工され組み合わせるだけで作り上げられる建材は、この世界では画期的であり、短時間で驚く様な建造物を建てることが出来た。

 わずか二日という時間で作られたとは思えない砦と呼んで差支えのない防御の要が何もなかった草原に鎮座した。それを見たゴーガイアム軍の斥候はすぐに本隊にその事実を伝えたが、ゴーガイアム将軍はその目で見るまでその報告を信じなかったという……


「森で移動しながら生活しているときに楽だったからさ、皆と暮らすときにもたくさんの建物建てるのに便利で全部同じ形のものを組み合わせればいいようにすれば便利かなぁと思ってね」


「初めて見たときは度肝を抜かれましたぜ、家が数時間で建つし、しかも、その頑丈さは普通の作り方よりも高いと来ている」


「馬車で運べば瞬時に陣地が形成される。まさに魔法のようなシステムだと思います」


「真四角の建物しか作れないんだけどね、森に木材は山ほどあるからしばらくは人々の受け入れなんかにも役立ってくれるよ」


「これで少しはましに敵を迎え撃てますな。それに、アレもあるから……狂戦士だろうが互角以上に戦えるでしょう」


 狂戦士、呪印の力で意思を奪ってただ敵を破壊するだけの存在へと変える。

 力のリミッターも解除されるために自らを傷つけるような無茶苦茶な剛力を振るうことが出来る。

 その一歩で強大な力を無理やり引きずり出す反動は計り知れない、狂戦士の呪いから解き放たれた瞬間に絶命する者も少なくはない……

 痛覚の消失や恐怖心の消失によって、狂戦士と戦う者たちは腕を落とそうが致命傷を負っても向かってくる戦士たちの姿に、力以上に恐怖を感じてしまうことも問題だった。


「僕にもっと力があれば……」


 アルテの力でも狂戦士の呪印は解除できなかった。

 ペステはアルテの力を聞いてどこまでその力が及ぶのかを調べていた。

 もしもありとあらゆる呪印を無効にできるのなら、戦い方も変わってくるからである。

 結局は一般的に普通に用いられる奴隷紋の解除はアルテの意志で行うことが出来るようになったが、高度な複合式の奴隷紋や狂戦士化など、強い呪紋の解除は不可能だった。

 覚醒状態と仮に名付けた状態のアルテではどうか? それは再現不可能なためにそれは実証のしようがなかった……


 とうとう敵軍がピースメイカー軍からも目視できる位置に陣取っている。

 突然現れた砦に動揺もしたが、数で勝り、さらに狂戦士という使い捨ての武器があるゴーガイアム軍はそこまでの同様の広がりを見せなかった。

 生意気な反乱軍を蹂躙するだけの簡単な仕事、その程度に考えている。

 敵軍から流れてくる明らかにピースメイカー軍を馬鹿にした野次をアルテの鋭い聴覚が拾ってしまう。


 ……子供の夢に付き合わされて死ぬ大人が哀れだ……

 ……家族郎党すべて血祭りにあげてやる、俺たちが通ってきた街のようになぁ!……

 ……次の街はいい女はいるのかねぇ、壊れない新しい女を探さねぇとなぁ……


 聞くに堪えない罵詈雑言が嫌でもアルテの耳に入る。彼らの通った街での蛮行がアルテの心を切り刻んだ。

 自らの力の至らなさに握った拳をやさしくウォルが舐めてくれた。


「ありがとうウォル。そうだね、僕に出来ることをしよう。

 皆、一緒に戦ってくれ!」


 アルテの檄に兵士が歓声をもって答える。

 ここに、サーザランドの戦いが開戦する。




 




 

 


 

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